夜会で婚約破棄をするならば
■主人公である女性が婚約破棄したわけではありません。
■婚約破棄された女性に対して全く優しくありません。
■人によっては不愉快に感じられる言動が多々あると思いますので、そのように感じられたら速やかに脳内から削除し別の作品を閲覧して脳内リフレッシュを行ってください。
国中の誰もが魔力を持つその国では、魔導具も発達しており、強大な力を持つ攻撃用魔導具から日常生活に使うような魔導具まで広く行き渡っている。夜も遅くになると真っ暗になっていた町中は魔導灯によって明かりが確保されているし、室内用魔導ランプは火を使う事によって火事を起こす危険のあった蝋燭から代わって室内を照らすようになった。
魔導具が浸透するまで、シャンデリアに乗せられていたのは蝋燭で、それも明かりは極めて不鮮明。故に夜会は秘匿性の高い仮面舞踏会を除いて滅多に開催されることは無かったのだが、魔導具によりシャンデリアの明かりが魔力によって確保され、しかも明るさも昼間と変わらぬほどのものとなれば一気に変化が起きた。
日常的に便利になった世の中で、今日もまた夜会が開催されていた。
アビルダ=マルチネスは目の前の光景をうんざりとした表情で見ていた。
公爵家で行われている夜会は中々趣向を凝らしたもので、本日のテーマは「新緑」であった。壁に飾られている垂れ布は白で、そこには観賞用の植物が美しく絡んでいる。テーブルも同じように白の掛け布をした上で可愛らしい硝子の器に緑が主体となった植物が彩を添えていると思えば、緑の掛け布のテーブルには白のお菓子が並んでいる。
ドレスコードも原則として「新緑」を思わせるものなので、白や緑で満ち溢れていた。偶に可愛らしい黄色のドレスを着た令嬢がいるが、ドレスの柄は今が盛りの花でありそれをイメージしていると分かるので彩となっている。
鮮やかな緑色のドレスを着用しているアビルダはホールの中央ではなく壁際で繰り広げられていた見世物を強制的に見せつけられていた。何せ、目の前でいきなり起きたので。
婚約関係にある男女の内、男の方が女に婚約破棄の宣言をした。その男は別の女性を連れているという状況。誰もがわかる、男の不貞現場なのだが、男は何故か自信満々に自ら婚約の破棄を宣言していた。
女の方は悲哀に涙を零して、だが直ぐには頷かない。当然である。婚約というのは子の意思など関係なく家と家との間に結ばれた契約である。それを身勝手に了承や破棄など出来るはずもない。
騒ぎが大きくなりついには当事者の親が出てきた。男の方の家から申し込んだ婚約を身勝手に破棄するなど言語道断。女の家の方がこの場を借りて破棄をさせていただくと言って周囲の人間を証人に認めさせたのは、まあ許容範囲内だろう。
そして男は連れ出され、残された女だが、その女の元に新たなる男が接近した。どうやら女の事を以前より好いていたようである。その男は社交界でも中々評判が良く、見目もよく、何なら嫡男という立場の高位貴族の令息である。その男に好かれている女だったが、ほろほろと涙を流しながら弱弱しく首を振っていた。
「わ、私は、貴方に相応しくありません」
「そんなことは無い!」
「それに、見た目もこの様に愛らしさも美しさもございませんもの」
「いいや。君はとても可愛らしい女性だ」
「そんなこと……あなたに相応しい方は他にいらっしゃいますわ」
泣きながらそのようなことを言い募る女に、アビルダはいい加減にうんざりしていた。
アビルダの存在に気付いていた令嬢などはちらりとアビルダに視線を向ける。好奇心を大量に含んだ眼差し。内心で大きな溜息を吐いたアビルダは、さっさとこの茶番を終わらせようと決意して一歩踏み出した。
「では、貴方基準でどなたならアレンハウザー侯爵子息に相応しいと思われるのかしら」
「ア……アビルダ様」
「速やかにお答えくださる?」
「それ、は……イヴリン=カストリア様や、ジョアンナ=ポートゲルト様のように、美しく聡明な御令嬢ではないかと」
「まあ!まさかそのお二人の名前をお出しするなど……処罰されたいのかしら?」
「え?」
女が必死に出した名前だが、それは悪手以外の何者でもない。この場どころか社交界でたとえ話とは言えども軽率に出してはいけない名前であると理解していないようだ。
「イヴリン様は第二王子殿下と婚約中。ジョアンナ様は隣国の王弟殿下の元に輿入れされることがお決まりですわ。求婚中の男性のお相手として名前を出すというのは、現在の婚約を破棄してでもアレンハウザー侯爵子息と婚姻するほうが良い、という事ですわよ?」
「そ、そのようなつもりは!」
「ええ、そうでしょうね。貴方はただ、比較されたとしても絶対にアレンハウザー侯爵子息と婚姻出来ないような相手の名前を出しただけですものね。ただそれだけの話。お二人の名前を出したとしても既に他の方と婚約している以上、その方をアレンハウザー侯爵子息が選ぶことはありませんものね」
「っ……」
「それに、外見を自ら貶める言動。本当に不愉快ですわ。貴方、相手が自分を好いている事を利用して、自分の事を可愛らしいとか美しいとか言ってもらって自己肯定感を無意識に高め、承認欲求を満たそうとしているのでしょう?別に悪いとは言わないわ。でもね、卑屈というのは行き過ぎると鬱陶しいのよ」
アビルダは現在苛立っている。さっさとこの茶番を終わらせたい。だが、言いたいことを言いつくしたいという気持ちもある。大体こういう婚約破棄が起きると、被害に遭った女というのはいくつかのパターンでの行動を起こす。
この女の場合は、自分を貶める言動をするが、相手の男に否定してもらった上で自分を褒める言葉を言わせるという、卑屈を利用したタイプであった。おそらくは無意識、無自覚の。厄介なのは、意識せずに悲劇の主役のような立ち振る舞いをする事だ。哀れな姿を見せて庇護欲をそそる。
いっそ先ほどまでいた不貞相手の方が図々しく逞しい精神力をしていた。貴族の女性、特に当主夫人になるにはあのくらいの逞しい根性は必要だろう。
「それに、いい加減にして欲しいのよね。先ほどのあの愚か者もそうだけれども、何故この騒動が終わり次第、早急に主催者に謝罪に向かわずにさめざめ泣いていたの?自分を慰めてくれる人が現れるのを知っていて待っていたの?ここはモーリンゲン公爵家の主催している夜会ですのよ?騒動を起こしたならば何はなくとも一番に謝罪に赴くのが常識。それすらもせずに、周囲の目がある中で新たなる婚約者を確保しようとするその根性が気に食わないわ」
切捨てるような言葉。
アビルダが怒るのももっともである、と彼女を知る者は思っている。何故ならば、彼女が今年に入ってこのような婚約破棄の現場に立ち会うのは既に六回目なのだ。鬱屈が溜まっている所に、よりにもよってモーリンゲン公爵家での夜会で騒動を起こした者に容赦などするつもりはない、というのが明白である。
「アレンハウザー侯爵子息、貴方がすべきだったのは彼女に婚約の申し込みをするのではなく、モーリンゲン公爵の元へ速やかに彼女と伯爵を連れて謝罪に赴く事でしたわ。それを、揃いも揃ってこんな茶番劇。わたくしの婚約者とわたくしが公爵様の指示の下で必死に整えた夜会を潰したという意味を、お分かりでないのかしら!?」
最後は怒りに塗れた声が出る。ただの観客になっている周囲はアビルダの怒りを理解する。アビルダはこの屋敷の主であるモーリンゲン公爵家の嫡男ローレンスの婚約者である。この度の夜会にはローレンスと共に関与する事で社交界での地位を確立させる目的があった。婚約しているのは周知の事実であるが、間もなく結婚するという事もあり、関係は良好で今後ともよろしくお願いしますね、という意味合いが強い夜会であったのに、騒動のせいで台無しにされた感は否めない。
だからこそ、アビルダがまずは前面に出ている。もしもここで公爵が出てしまえば婚約破棄騒動の被害者である伯爵令嬢と伯爵に罰を与えなければならない。被害者であっても、騒動の原因だからだ。勿論加害者である侯爵家には既に使いが出ている。
速やかに謝罪に赴けばよかったのだ。夜会を主催する公爵家の顔を潰した事は許されない。アビルダはこの夜会に深くかかわっている為、彼女が怒るのは正当な理由がある。だからこそアビルダが先に動いて叱責している。アビルダには彼らを明確に処断出来る権限はない。精々怒りを持っていると周囲に知らしめる程度で、その後に彼らが公爵の元へ行って謝罪すれば何とか取り繕えるのだが。
「ア……アビルダ様は私の事がお嫌いなのですか?」
「これでもわたくし、マルチネス侯爵家の人間でして、貴方に名前を呼ぶ許しを与えたつもりはございませんわよ」
「し、失礼いたしました」
「そして、嫌いも何も、貴方の事を好悪で評価できるほど人間性を知っているわけではありませんわ。ですが、ほんの僅かな時間で推測できるほどに、貴方の言動はあまりにも謙虚に見せかけた卑屈で、尚且つ相手に負の言動を否定させて自分を肯定してもらいたいというのがわかるのが見えているから不愉快なのよ」
アビルダの美しい赤銅色の髪の毛が揺れる。鮮やかでありながら目に優しい少しくすみを入れる事で柔らかさを生み出している絶妙な緑で作られたドレスが葉であるならば、赤銅色の髪の毛は見事な花を思わせ、後ろから見れば一輪の花が咲き誇ってるように見えると評された。
そのアビルダの吐き捨てるような言葉に、件の令嬢は涙をほろほろと流す。慌てたように侯爵令息が肩を支えアビルダを睨もうとしたが、周囲の目が非常に冷めたもので彼らを見ている事に気付いて動きが止まる。
嫌いだとかそう言う質問をする前にすべきは謝罪、それだけだったのだ。それをすればいいとアビルダは示唆していたのに、伯爵令嬢はそれをしなかった。
これを本当に侯爵夫人にするのか、という試すような眼差しが侯爵子息に注がれていた。
「伯爵」
「は、はい」
「既に遅いですが、まあまだ間に合うでしょう。動くなら今でしてよ」
「感謝申し上げます、マルチネス侯爵令嬢。御前失礼する」
「ええ」
絶妙な緊張が漂っているせいで動けなかった伯爵にアビルダは救いの手を差し出す。彼はこの娘をどうするのか、という視線が一部から投げられているがアビルダは気にしない。
「これが他の夜会であるならばわたくしもここまでは言わなかったわ。でも、場所が悪かったわね。貴方は被害者かもしれない。でもそんなの、わたくしやわたくしの婚約者、ましてや公爵家には関係ないのよ。騒動を起こした人間が悪い。問題が起きた後の対処が出来ていない貴方が悪い。この公爵家の顔を潰した貴方達が悪い。そうとしか思えないのよ。わかるわね?貴方がすべきだったのは私に好悪を聞く事ではない。速やかにわたくしに謝罪し、公爵に謝罪をすること、それだけだった。なのに貴方はそれも出来なかった。つまり、貴族社会で生きていくには不十分だということ。ましてや侯爵夫人になる?御冗談はよして。公爵家や侯爵家の夫人は何かあればただ泣いていればいいだけの立場じゃないのよ。己に降りかかる火の粉を払いのけ、害を与えて来るならば報復を与え、益を齎す者に慈悲を与える存在なの。貴方のように謙虚に見せかけた卑屈で謝罪も出来ない、貴族としての立ち振る舞いも出来ない、泣けば何とかなると思うような女が侯爵家の夫人になれるとは思えないわ」
彼女の視点で見ればきっと、碌でもない婚約者とまともな関係を築けず、婚約の解消も破棄も出来ない状況の中でここまで来てしまったのだろう。そしてその間に自分に想いを寄せてくれている男性が現れて、でもそれまでに押さえつけられた自尊心や自己肯定感。卑屈にならざるを得なかったのかもしれない。
漸く相手の瑕疵により婚約の破棄がなされ、思いを寄せてくれていた男性が告白してくれた。でも何時心変わりするかわからない。だから確かな言葉が欲しかったのかもしれない。
でも、そんなのは自分の屋敷でやればいい事だった。
わざわざ公爵家の夜会でやるべきことではない。謝罪してさっさと帰宅して、双方でやり取りしていれば良かっただけの話だ。それを周りに見せつけて証人にさせようと無意識に計算したのが誤り。
「不愉快極まりない茶番劇だったわ。アレンハウザー侯爵子息、貴方がその女性に婚姻を申し込もうと自由だわ。わたくし達にそれをどのようにする権利などありませんもの。結婚は家と家との関わりですしね。ですが、夫人になれば必然的に社交をしなければならないわ。避けては通れないものよ?」
「っ……ご忠告、胸に留めておく」
「ええ、そうなさって」
伯爵令嬢は傷付いたという顔でアビルダを見ているが、結局彼女は一度も謝罪をしていない。そんな彼女がこれから先、社交界で受け入れられると思っているのか。そんな彼女を本当に隣に置くのか。そう言う視線がアレンハウザー侯爵子息に向けられたまま。
アビルダは、小さく吐息を漏らすとそれではごきげんよう、とその場を後にして己の婚約者の元に向かった。
アビルダは幼い頃から自分に対して誇りがあった。五つ上の兄や三つ上の姉が優秀だからこそ、劣っている自分が嫌で改善しようと必死だった。要求される物は多く、時に理不尽ともいえるべきものもあったが、アビルダは決して弱音を吐かなかった。わからない所があれば必死に食らいつき、出来るまで繰り返し、兄や姉程とは言わないまでも及第点を貰える程度には己を高めた。
アビルダは卑屈な人間がいるのも謙虚すぎる人間がいるのも別に許さないという傲慢な性格ではない。人間には多くの性格があり、アビルダのように自信を常に持つ者もいれば、自信を喪失している者だっている事くらいわかっている。環境が人の性格を作り出す以上、自分と正反対の人間がいて当たり前だと思っている。
ただ、アビルダは「貴族として生まれた」以上は「貴族らしい振舞い」「貴族らしい行動」はやって当然であると思っている。「貴族」には責任がある。例えどれだけ虐げられていようとも、平民にそんなことは関係ない。平民から納められている税で生きている「貴族」は汗水流しながら労働するという行為を免除される代わりに「貴族」としての責務を果たさなければならない。
領地を発展させ、領民に平穏を与えること。豊かさを与えること。魔獣が襲ってくることがあれば貴族が平民を守る為に戦うのは当然。領地に災害が起これば対処するのも貴族である。ドレスを作り、宝石を身に纏い、毎日食事を食べることが出来るという環境は全て平民が納める税があってこそ。
婚約の破棄、解消などは貴族社会ではよくあること。だから不貞が原因で破棄するのは各家の問題でしかない。
この度の問題は、騒動を起こした上で謝罪を速やかに行わなかった事により、無関係な公爵家の顔を潰した事である。貴族らしくきちんと対処していれば大事にはならなかった。だが、貴族としての振る舞いが出来ていなかった令嬢は自分自身を追い込んでいった。それだけの話だ。
「お疲れ、アビー」
「ありがとう、ローレンス。疲れましたわ」
「ごめんね、君を矢面に立たせてしまって」
「よろしいのよ。公爵様が出てしまえばもっと大事になったわ」
婚約者であるローレンスが果実酒の注がれたグラスを手に待っていた。軽く詫びる彼にアビルダは少しだけ肩を竦めると、細く繊細なステムに指を添える。
「場所が違えば彼女はきっと物語のような主人公になれたのでしょうね。でも、場所が悪すぎたわ」
「運が悪かったね。でも、対処の仕方はどこでも同じだと思うけど?」
「ええ。主催に誠心誠意謝罪をする。そして速やかに撤退する。これだけですわ。なのに彼女は図々しくも居座ろうとした。自分の哀れな姿を人に見せて同情を寄せられようとした。本人は自覚していないようでしたけれども、だからこそ性質が悪いわ」
「アレンハウザー侯爵子息がどうするか見物だね」
「本当ね。それでも愛を貫くか、己の立ち位置を揺るがさないようにするか……とはいえ、既に婚約を口頭ではあるけれども申し込んでいるという事実は周囲も確認しているもの。可哀想なのは誰かしらねぇ」
グラスに口を付ける。爽やかな酸味と仄かなベリーの甘味が感じられる果実酒。スパイシーさを感じるのは異国の香辛料を含んでいるからだろうか。
「ああ、結局彼女は謝罪しなかったみたいだね」
「ふふ。今後社交界に出るのは難しくなると理解してないのかしら。社交の出来ない侯爵夫人なんていないのに」
下位貴族の夫人であれば社交はそこまで求められない。伯爵夫人であれば半々。だが、侯爵夫人や公爵夫人になると社交をする事で女性を取りまとめる必要がある。女性の社交は全て夫の為にあるのだ。酸いも甘いも嚙み分けて生きている貴族である以上、貴族特有の暗黙のルールに従う必要はある。
噂話を嫌悪する者もいるが、真偽混じりの噂の中から真実だけを選別する才能を見極められ、偽りに踊らされず、そして噂を利用して自分に有利な立場を生み出していくのだって貴族に求められる技術の一つ。故に、今宵の事も噂として広がっていくだろう。
「ローレンス、わたくしは決して貴方をその地位から貶めるような事はしないわ」
「うん、知っているよ。君は何時だって君自身とついでに僕の為に全力で頑張ってくれているからね」
「ふふ。ねえ、ローレンス。わたくしは貴方の事を愛しているわ」
艶やかな赤銅色の髪の毛が揺れている。室内用魔導ランプの美しく幻想的な明かりがホール内を照らしていく。先ほどまでは一色だったのが、今では複数の色が煌めくように灯されている。きらきらと木漏れ日のように光が溢れる中、グラスを給仕に渡したローレンスとアビルダが手を重ね合いホールの中央、ダンスをする為に歩み出る。
長い間婚約者をしている。何度も踊ってきている。お互いの息はぴったりで、アビルダは信頼を以ってローレンスに身を委ねる。ステップは慣れ親しんだもの。
ターンをするたびにフリルを付けた裾がひらひらと舞っていく。
「ところで、来週はオリベラール侯爵家の夜会に招かれているけれど、また婚約破棄騒動に巻き込まれるのかな、アビルダは」
「冗談はやめて下さる?もう結構よ」
「毎回君がその場に出くわす事に気付いた令嬢達が期待しているのに気付いているくせに」
「多少は苦言を呈しますけれども、今夜ほどじゃありませんわよ。今回はモーリンゲン公爵家の夜会ですもの。見過ごすわけには行きませんわ」
「そうだね。じゃあ、賭けようか。来週の夜会で君が婚約破棄騒動に巻き込まれるに僕は賭けるよ」
「まあ!ではわたくしは巻き込まれないに賭けますわ。そうですわね……シャドリン地方のワインの出来が良かったそうですわよ。是非飲んでみたいわ」
「いいね。じゃあ僕はそうだな……愛らしい婚約者からの口づけを。君から」
「っ……破廉恥ですわ」
「滅多にしてくれないからね。ああ、来週が楽しみだな」
囁くような会話をしている間も乱れぬステップ。美しいダンスに周囲は笑みを浮かべながら見守っている。先ほどの騒動などなかったように空気が一新している。
かくして翌週。
アビルダは顔を真っ赤にして己の婚約者に口づけを送った、という賭けの結果だけお知らせしておく。
■7/15の活動報告に裏話あり
■矛盾点が沢山あると思うのですが、軽く読み流していただけると幸いです。
■毎度誤字脱字報告ありがとうございます。感謝しかないです。