21
「キース、上着を脱いでくれ。一人で脱げそうか?」
「あぁ、問題ない」と、キースは時間をかけて上着を脱いだ。……、キースの体は、全身がやけどを負っていた。
これは、傷が生々しいな。このやけどを、断続的に負うなんて……。いくら治せるとはいえ、これは……。
『癒せ 清流の衣』
『清流の祝福』
しばらくすると、傷は回復した。……だが、精神の疲労は残ったままだ。
「キース君、治ったようなら続き行くわよ」と、先生が容赦なく続行を宣言した。
ーー
「ぐあああああぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
それから五回以上、繰り返した。
そして……、キースは遂に膝をついた。
ダメだ、もう見てられない。俺がこんなことを、提案したばっかりに……。
「キース、もういい! 先生今日の所は……」と、止めに入った俺の腕を、ローウェルが強い力で引いた。
「主、あなたが口を出すべきではない! これはキースの問題です。」
「は? 何を言っているんだよ! お前は、キースがあんな姿をしているのに……、耐えられるのか!」
俺はつい、感情的になってしまい、ローウェルに食って掛かってしまった。
「……、耐えられるわけがないだろ! 幼馴染のこんな姿、耐えられるわけがない!」
そうすると、ローウェルが怒鳴って言い返してきた。
……。ローウェルがここまで感情を荒げるなんて、それも、俺に対して……。
「なら、どうして俺を止めるんだ?」と、俺は少し怒気を孕んで聞き返した。
「……俺たち側近は、アース様の側近としての矜持を、各自持っています。キースにとってのそれは、最後まであなたの前に立ち、戦い続けることです。その力を得ようと今、必死にもがいています。そんな時に、一番やられたくないことは、主、あなたに止められることです。俺たちが最優先することは、あなたを守ることなんです。その守るべき主から、止められたら……、その時のキースの気持ちを考えていますか? 俺は幼馴染としては、今すぐキースを止めたい。しかし、側近としてキースの気持ちは、痛いほどわかります。だから、俺は、いえ、俺もミラル譲もアスタも、キースから目を逸らさないんです。主、あなたがするべきことは、キースをただ、止めることですか? 違いますよね? キースを信じて見守り、サポートすることではないですか? あなたなら、その判断ができると信じています」というと、ローウェルもミラルも、そしてアスタもキースへと視線を向けた。
……くそっ、俺はいつも失敗してばかりだな……。本当、自分が嫌になる。くそっ……。側近たちは、こんなに立派なのに、俺ときたら……。
俺の目から、自然と涙が零れ落ちた……。
ダメだ、泣いている場合ではない。俺にできることを考えなければ。俺にできることは……、回復だけではないはずだ。何か……、ないか? アフターケア的なものがいいな。キースの好きなもの……、料理に風呂に……。
風呂か、そういえばこの世界には入浴剤がなかったよな。入浴剤に解毒(痺れ)草を調合して、身体の痺れをとれるようにしようか。幸い、簡単な調合ならば、薬草研究会で教えてもらった。さらに前世で、バスボムづくりをしたことがある。
材料は、クエン酸に重曹それに解毒(痺れ)草、それから確か、変な色のゆずみたいな匂いのした果物が売っていたな。あれが、この世界のゆずなんだろうな。よし、入浴剤をつくって、キースには身体を癒してもらいたい。
俺はアスタに声をかけて、少し席を外した。
「悪いが、王都の市場に行ってくれるか?」
「は、はい、もちろんいいですけど、何を買うんですか?」
「あぁ。重曹とクエン酸……あー、掃除に使うやつを頼む。痺れ用の解毒草と前に俺が、いい香りだといった果物は覚えているか?」と、突然買い物を要求する俺の言葉を、アスタは真剣に聞いてくれる。
「はい覚えています。それらを買ってくればいいんですね?」
「あぁ、頼む。それと……さっきは、情けない姿を見せてしまってすまなかった。」
「……情けなくなんてありませんよ。自分も止めたいと思ってましたからね。ただ、キースのことを信じてあげてください、我々側近にとってはそれだけで励みになりますから」と、アスタは笑った。
「あぁ、ありがとう」、本当にありがとう……。
「それと、ローウェルにも「ありがとう」と言ってあげてください。アース様に対して声を荒げてしまって、ローウェルも傷ついているでしょうからね。」
そういうと、アスタは俺が展開した大窓から市場へと向かった。
……ローウェルに、辛い役目をさせてしまったな。
ーー
それから、キースは十回以上も訓練を繰り返した。
途中で、アスタが買い物を終えて帰ってくるまでの長い時間、ずっとだ……。
「今日はここまでね。私の魔力もつきかけているし、キース君も限界だわ。」
「は、はい……。あ、ありが、とうございました……。」
キースはお礼を言うとその場に倒れ込んだ。
「キース!!」と、俺たち四人は、キースのもとへと駆け寄った。
「キース、立てそうか?」
「す、すまん、もう少し待ってくれ」というキースは、本当に立てないようだった。
「わかった、じゃあ、俺が背負って帰るから。」
「いや、それは……」と、キースは首を振る。
「戦った部下を労うのは、主の役目だからな。」
「……そのセリフ、どこかで聞いた覚えがあるぞ?」
「俺の尊敬する主の受けおりだ、観念して背負われろ。」
俺がそういうと、キースは肩をすくめ、そして脱力し、俺に身を任せてくれた。
「キース君、来週も非番の日が一日あるけど、続ける? それとも、やめる?」と、先生が不敵な笑みを浮かべながら尋ねた。
「続けます! よろしくお願いします!」と、キースは即答した。
「えぇ、もちろんよ。それから……アース君、あなたがするべきことをしっかり考えなさい。この素晴らしい側近たちの主として何ができるのかをね。」
「はい、情けない姿をさらしてしまい、申し訳ありませんでした」と、俺は素直に謝罪した。本当にその通りだ、俺はこいつらの主としてもっと……。
「あなたたちは、まだ若いわ。たくさん間違えて成長しなさい。それから、主を諫めてくれる側近も、大切にしなさいね。」
はい、一生大切にします……。
ーー
俺たちは、窓で俺の自室へと帰ってきた。
「キース、今日はこのまま休め。夕食の時間にまた様子を見に来るからな。」
「あぁ、そうさせてもらうというと、キースはすぐに眠りに落ちた。やはり、精神的な疲労がピークに達していたのだろう。
『癒せ 清流の衣』
『清流の祝福』
俺は、キースの外傷を、一つ残らずに治療した。
治療をしている間、何やら他の三人がそわそわしていた。そして、治療が完了したと同時に、ミラルからアスタに提案があった。
「アスタ、私たちも夕食の時間まで訓練しよう。付き合ってくれる?」
「自分もそう思っていました。こちらこそよろしくお願いします」というと、二人は訓練場へと向かった。
ミラルが去り際に俺に小声で話しかけてきた。
「アース、しっかり仲直りしなさいね。ローウェルも、すごく気にしているみたいだし。」
「あぁ、この後話すよ。アスタにも言われたしな。……気を使わせて、悪いな。」
「これくらい全然。じゃあ、訓練に行ってくるね。」
俺は気を遣わせてばかりだな……。
ーー
「ローウェル、この後、解毒草の薬効抽出を手伝ってくれるか?」
「……はい」と、ローウェルはうつむきながら答えた。
やはり、暗いな……。相当、気に病んでいるんだろうな。
「ローウェルは、解毒草の薬効抽出を頼むな。俺は他のものを、混ぜ合わせるからさ。」
「……わかりました。」
ーー調合室には、二人の作業をする音だけが響き渡る。
ガチギレした後って、気まずいよな……。だけど、気まずいとか言っている場合ではないな、ローウェルは俺が情けないから、怒ってくれたんだからな。よし……。
「ローウェル、さっきは諫めてくれてありがとうな。それから、情けない姿を見せてしまって、すまなかった。」
俺がそういうと、ローウェルは頭を下げた。
「情けないなんて、とんでもないです。俺も我慢できなくて……。それから、怒鳴ってしまい申し訳ありませんでした。俺、感情の制御ができなくて……」と、照れとも後悔ともつかない表情を見せた。
「それは全然かまわないよ。幼馴染のあんな姿を間近で見ていたんだ、感情がコントロールできなくてもしょうがないよ。それに……、俺たちは友人同士でもあるんだ。たまに喧嘩するくらいが、健全じゃないか?」と、俺は笑って見せた。
俺がそう返すと、ローウェルは笑った。そして、それまでの暗い空気が払拭された。




