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「例えば、キースの青天の霹靂に、雷の身体強化を高める能力を付与するとかはどうだ?」と、俺は一番危険の少ない強化を提案した。
「あぁ、それがあれば助かるな。だが……、他にも何か考えているんじゃないか?」と、キースが訝しむ。
……確かに、避雷針の案はある。しかし、雷に慣れる訓練をしなければならない。身体的にも心理的にも、相当ダメージが入るはずだ。
「アース、何かあるなら言ってくれ、頼む。」
そこまで必死にお願いされたら……。ここでごまかすこともできるが、キースがここまで焦っているのは俺のせいでもある。だから、提案するだけなら……。
「……避雷針。相手の雷魔法を自身へ誘導し、誘導した雷魔法を鞘へと流し、雷の魔力として、溜めることができる能力を考え付いた。だが、これにはキース自信が雷魔法に耐える訓練をしなければならない。いくら雷の身体強化を施して、耐性があるとはいえ、かなり辛いはずだ」と、俺が正直に言うと、キースはすぐに了承した。
「わかった、頼む。」
「おい、だから……。かなり辛いんだぞ!」
「雷魔法を誘導できるってことは、アースに向かった強力な雷魔法を、アースからそらすことができるんだろ? お前が苦手な雷魔法を、俺が引き受けることができる。それに、相手の雷魔法を利用するから、俺自身の「魔力が少ない」という弱点をカバーすることができる。これ以上ない能力だ。だから、大丈夫だ」と、絶対に引かないとでも言いたげな目で、キースは言い切った。
こうなったら、意地でもやるだろうな……。提案した時点で、俺の負けだ。それなら俺は……、キースがいくら傷ついたとしても、必ず治すことに全力を注ぐしかない。
「……わかった。じゃあ、魔刀に魔力を流してくれ。今のイメージを込めてな。」
俺は、雷の身体強化のイメージと、避雷針のイメージの付与を行った。
「ありがとう、アース。それで、雷魔法を使える人に心あたりはあるか?」
「……一人だけいる。俺の魔法の家庭教師だった、ヘンゲーナ先生だ。魔導士団のエースだよ。」
「わかった。その人と連絡はとれるか?」
「魔導士団本部に行けば、会えると思う。俺が窓で行ってくるよ」と、俺が出かけようとすると、キースに止められた。
「俺も一緒に行く、俺がお願いする側だからな。」
「……わかった。じゃあ、今すぐ行ってみようか。ミラル、俺とキースで行ってくるからローウェルとアスタによろしく伝えておいてくれ」と、ミラルに伝言を託し、俺とキースは窓で魔導士団本部へと向かった。
ーー
俺は、魔導士団の団員を捕まえて声をかけた。
「うん? 珍しいな、こんなところに、子供が来るなんて。」
「えぇ、少し会いたい方がいまして」と、俺はにこやかに答えた。
「いいぜ、誰を呼べばいい?」
「ヘンゲーナ・アクター先生をお願いします。」
「先生? 教え子かなにかか?」と、団員は興味深そうな顔をした。ヘンゲーナ先生は、俺の家庭教師しか受け持ったことがないらしい。この人も、その事情を知っているのかもな。
「はい、ヘンゲーナ先生は私が学園に入学するまでの間、私の家庭教師を務めていただきました。」
「そうなのか、わかった。呼んでくるからちょっと待ってろ。それで、お前の名前は?」
「申し遅れました、アース・サンドールと申します。」
「さ、サンドール公爵家……。しかも、アースってことは空間属性の……」と、俺の身分と空間属性を知り驚愕したようだ。だが、そんなことよりも、早く先生に会いたい。
「まぁ、そうですね。とにかく、ヘンゲーナ先生をお願いしますね?」
「か、かしこまりました!」というと、男性はこけそうになりながら走っていった。
「こういう反応、よく見るよな」と、キースが肩をすくめる。
……そうだな、もう慣れたよ。
ーー
しばらく待つと、ヘンゲーナ先生が現れた。相変わらず、お美しいな。
「アース君、久しぶり! 学園生活は充実している?」
「お久しぶりです、ヘンゲーナ先生。はい、とても楽しいですよ。」
「アース君だったら、変な人とかに絡まれたりしてるんじゃないの?」と先生は、なぜか嬉しそうに笑いながら聞いてきた。
はい、そうですね。聖王国のやつらとかハルとか……、あとはオーガスト先生とかのことですね。だけども、貴族スマイルを浮かべるに限るよな……。聖王国のことを考えると、むかつくからな。
「いいえ、大丈夫ですよ」と、俺は有無を言わせない、貴族スマイルを浮かべた。
「……そ、そう。それで、今日はどうしたの?」と、先生も何かを悟ったようだ。
「先生の雷魔法を、ここにいる俺の側近のキースに打ち込んでほしいのですが、よろしいでしょうか?」
「……、よろしいわけがないでしょ!? 何を言っているの!!」
やばい、端折りすぎたな……。これでは、キースが物好きなドMになってしまうな……。俺は、隣にいるキースの顔を横目で見た。そうすると、キースの笑顔が見えてしまった。……。そう、これはマジ怒りだ。
「アース、いいからお前は少し静かにしていろ。俺が説明するから。」
「……はい。」
くそ、聖王国め。お前らのことが、頭に浮かんだせいだ……。
ーーそれからキースは、避雷針のこと等を先生に説明し始めた。
「なるほどね、つまりキース君の身体を雷魔法に慣れさせたいというわけね。」
「はい、お願いできますか?」
「技術的には可能よ、ただ……、拷問に近いわ。もちろん最初は、威力を弱めるけどね……。」
電気椅子とかがあるくらいだ、拷問レベルだと言われても不思議ではない。
「やっぱりキース、やめておこう」と、俺はキースに考え直すように言った。しかし、キースはなおも引かないようだ。
「いや、俺はやる。ヘンゲーナ様、傷ならアースが治してくれます。ですので、どうか……」と、キースがお願いするが、先生によって制された。
「心の傷はどうするの? 体は治せても、心の傷まではアース君は治せないわよ?」
その通りだ、心が壊れてもおかしくない。だから……、と、俺が再びやめるように言おうとしたところで、キースが話し始めた。
「……確かにそうですね。ただ、俺は、俺の知らないところで主を失う方がよっぽど怖い。だから、大丈夫です。護衛騎士魔導士団のエースであるヘンゲーナ様ならば、私の気持ちを理解していただけると思います。ですのでどうか、お願いします。」というと、キースは頭を下げた。
……側近が、友人がここまで強い意志でお願いをしているんだ。俺も、突っ立っているわけにはいかないな。
「俺からも、お願いします。」
俺はキースと一緒に、頭を下げた。
「……わかったわ。二人とも、頭を上げてちょうだい。私も、「主を失いたくない」というキース君の気持ちは、十分に理解できるわ。キース君の忠誠心があれば、心理的にも耐えられるかもしれないわね。私も、できるだけ時間をとるわ。もちろん、時間はかかると思うわ。上級魔法まで耐えられるようになるには、学園卒業までかかるかもしれないわね。とりあえず、冬休み中は、初級魔法を目標にしましょう」と、先生は了承してくれた。
「「よろしくお願いします!」」
「じゃあ、早速明日が非番の日だから、明日から訓練を行いましょうか。どこでやろうかしら、あまり人目につかないところがいいと思うのだけど……。」
人目につかない場所か……、それなら俺のとっておきがある。
「でしたら、うってつけの場所があります。魔女の森です。あそこなら、人目に付くことは、まずありません。」
俺がそう提案すると、先生は一瞬迷ったようだったが、最後には了承してくれた。
ーー
次の日、俺たちは魔女の森へと移動した。ミラルたちも、念のために連れてきた。
「……、魔女の森ね、あの事件の調査以来だわ」と、先生がデーブンたちの事件を懐かしむかのように、森全体を見渡した。
「もう、とっくの昔に感じられますね……。では、早速ですが先生、よろしくお願いします。」
「えぇ、キース君、準備をしてくれる?」と、先生は魔杖を構えた。俺が学園に入学したから、もう魔杖の存在を隠す必要はなくなったわけだ。
「はい、よろしくお願いします」、そういうとキースは準備を始めた。
『雷よ、我が身を強化せよ』
『轟け 青天の霹靂』
うん、しっかりと強化されているようだな。頼むから、無茶はしないでくれよ。
「キース、今回は鞘がない。だから、避雷針で受けた雷は地面に誘導しろ。いいな?」と俺が言うと、キースは無言でうなずいた。
「では、初級雷魔法からいくわね。」
『雷刃』
『避雷針』
キースがそう詠唱すると、雷刃がキースの魔刀へと引き寄せられていく。
ひきつけられた雷がキースの全身を伝い、地面へと流れる。
「ぐあああああぁぁぁぁぁ!!」
「キース!」と、キースの絶叫と共に、俺たちは駆け寄った。
やはり、初級魔法でも他人の魔力を受けるのは痛いんだ。これは、見てられない……。
「キース君、大丈夫?」と、ヘンゲーナ先生も、キースの近くに寄ってきた。
「……は、はい、大丈夫です。続けてください、お願いします。」
ーー
『ぐあああああぁぁぁぁぁ!!』
『ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
それからキースは、十回以上もこの訓練を続けた。
「はぁ、はぁはぁ……」と、キースが肩を上下に揺らしながら息をしている。もうキースは、倒れる寸前だ。
「キース君、休憩よ。アース君に傷を治してもらいなさい。それから、再開するわ。」
「わ、わかり、ま、ました。」
体がマヒしているようだ。それも当然だ、初級とはいえ、魔導士団のエースの攻撃魔法だ。威力は抑えているだろうが、普通のレベルではない。
このまま耐えられるのか? もう止めた方が……。




