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「ショーク様、エリック様も何か作っておられるのですか?」と、俺はエリック様の技量について、やんわりと尋ねてみた。
「あぁ、俺がみっちり仕込んでいる。細工の美しさなら、俺レベルだ。」
俺はアクセサリーを作ってもらいたいから、細工が美しければ問題ないよな……。
「でしたら、提案なのですが、このアクセサリー作りをエリック様に依頼してもよろしいでしょうか?」
「な!!」と、俺の発言に二人の親子は驚愕の表情を浮かべた。……、反応はよく似ているな、この親子。
「アース様、それはできない相談だ。こいつはまだ子供です。依頼なんて、引き受けるべきではない。」
「そうですよ、アース様! 失敗なんてしたら……。」
……先程から、「子供だから」という理由で何でも決めすぎではないか? それに、先程から言っていることは、エリックの方が正しいと思うな。このままだと、貴族関係で苦労するのはエリックだ。エリックが後を継いだ後のことなど、しっかり考えているのだろうか? 自分の代で、貴族からにらまれていたら、エリックの代になっても苦労するだろうに。
それに、エリックは目を輝かせて、このルーン石を見ていた。きっと、自分でもやってみたいと思っていたのだろう。しかし、この頑固な父親の手前、いつも遠慮しているのだろうな。だけど、エリックの技量は、あの頑固な父親が、「自分と同じレベルだ」と認めるほどなんだ。信頼はできるだろう。
「そうですか……。私はただ、アクセサリー作りを、同い年同士で楽しくやれたらいいなと思いましてね。あと、私はオールテット学園に通う一年生とあまりかかわりがなかったので、エリック様とお話がしてみたかったのですよ。それに……、エリック様が子供だというのは、反対事由にはなり得ませんね。なぜなら、先程「子供だから」と私の依頼を聞きもせずに、失敗をしたのはショーク様、あなたですよね?」と、俺は挑戦的な笑みを浮かべていった。
「それは……」と、ショーク様は苦い顔をする。
「それから、エリック様は、ショーク様にとって大事な後継者なのですよね? その大切な後継者に、貴重な経験をさせるチャンスではないですか? それにエリック様、先程から、このルーン石を自分の手で加工したいと思っていたのではないですか?」と、今度はエリックに話を振ってみた。
「そ、そんなことは……。」
「別に失敗しても構いませんよ。最悪、ひもでくくって首から下げればいいですからね。だから、大丈夫です。私の依頼を引き受けてくださいますか?」
俺がそういうと、二人とも驚愕の表情を浮かべた。確かに、ひもでくくって首から下げるは、少々言い過ぎたかな……。ただ、俺には他の目的もできたんだよ……。
エリックは、俺の言葉を反芻するかのように、少しの時間悩んでいたようだった。そして、エリックはまっすぐに父親を見た。
「……ち、父上。私がやってみてもいいですか?」
よし、エリックはやる気になってくれたみたいだな。さて、この頑固な父親はどう出るかな? 今の状況なら、少しは認めてくれる可能性が高いと思うのだが……。
すると俺の心配をよそに、ショーク様は「……やってみろ」と、ゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます、父上! アース様、必ずやご希望のものをつくって見せます!!」
「えぇ、よろしくお願いいたします。これで、別の依頼をショーク様にできますね。」
「……まだ、あるのか?」と、ショーク様はあきれとも期待とも、判別の付かない表情で、俺のことを見てくる。
『取出 結晶』
「……、はーーーー!? なんだ、このでかいルーン石は!?」
おそらく人生で一番びっくりしているな。口があんぐりと開いているぞ。エリックは、立ったまま、気絶しているようだな。
これは正確には、ルーン石ではない。俺が作り出したものだ、魔刀をつくった時と同じようにな。俺たちは今まで、魔刀を収める鞘は市販のものを使っていた。俺がつくってもよかったが、どうせ作るならかっこいいものが良かった。だから、いい職人に出合った時のために、鞘の元を作っておいたのだ。先ほど店頭に売られていた、鞘は素晴らしかった。……、だから、この人に任せたい。
「正確にはルーン石ではないですが、似たようなものですね。素材は……、知らない方が良いですよ。命がいくつあっても、足りませんからね」と、俺はいい笑顔で言った。
「あ、あぁ、そうか……」と、ショーク様は身を引いてくれた。こういう判断ができるところは、流石貴族になっただけのことはあるな。
「これで、こちらの魔刀を収める鞘をつくっていただけますか? 店頭に並んでいた鞘は、本当に素晴らしかったです。是非、ショーク様にお願いしたいです。」
「この剣は何だ? まさか、魔法剣か……?」
「まぁ、似たようなものですね」と、俺は笑顔でごまかした。ショーク様も、俺の事情に踏み込んではいけないということを、なんとなく理解したのだろう。すぐに、次の話へと移った。
「……、わかった、これも知らない方が良いんだな。まぁ、いい。最高の鞘をつくってやる。それで、デザインはどうする?」
デザインか……、ショーク様の腕なら、俺が具体的に指示するよりも、なんとなくのイメージを伝えて任せてしまった方が良いだろうな。
「俺は、氷と水のイメージでお願いします。それ以外は、お任せします。みんなはどうする?」と、俺は皆にもイメージをいうようにと促した。
『俺は、雷のイメージで、あとは、アース同様お任せします。』
『私は水のイメージで、同じく後はお任せします。』
『俺は、土人形の模様を入れてください! あとは、お任せします。』
『自分は影のイメージでお願いします。あとは、お任せします。』
「わかった。納期はそうだな、再来週でどうだ?」
残り一週間で後期が始まるくらいか……。キースとミラルの能力開発も、一週間もあれば少しはできそうだな。
「わかりました、それでお願いします。」
「たしかに、承った。それじゃあ、俺は早速作業に入る。エリック、しっかりやれよ。」
そう言うと、ショークは、塊をもって早々に出ていった。
「では、俺の工房に案内します。ついてきてください」と、エリックは自分の工房に案内してくれた。
ーー
エリックの工房……、それはまさに、異世界という感じの工房だった。これは……、男子なら全員が好きそうだな。
鍛冶屋とかいいよな、テンションが上がる。
「汚いですけど、どうぞ中へ」と、少々ためらいながらもエリックは中へと入れてくれた。
「汚くなんてないですよ、俺は好きですよ。」
「……、そういっていただけると、嬉しいです!」と、エリックは本当にうれしそうに笑った。
「お前らも側近モードは解除してくれていいぞ、自由にしゃべってくれ」と俺がいうと、一気に空気が緩くなった。
「まさか、あんなでかい塊を用意していたとはな。」
「本当にね、いつの間に用意していたの?」
「あぁ、それは魔刀をつくった時と同じくらいの時だよ。作った魔刀を収める鞘がないことに気づいてさ、自分で作っても、かっこいいのができそうになかったからさ。専門家に任せようと思って、準備してたんだよ」と、俺もあたかも事前に準備していたかのようにふるまった。
「じゃあ、三年以上もあの塊を持っていたってことですか?」
「まぁ、そうなるな。」
実際、アイテムボックスに入れていたことをすっかり忘れてしまっていた。なにしろ、いっぱい入っているからな。さっき思い出せてよかったな……。
「そういえば、アスタの影のイメージってなんだ? 難しくないか?」と、俺は話題を転換することにした。
「そ、そうですね……。模様で、影をデザインするんですかね? 闇属性って言った方が、良かったですかね……?」
「まぁ、ショーク様が何とかしてくれるだろう。」
「そ、そうですね! 楽しみにしておきます!」と、アスタは笑った。
すると、「おい、アース、そろそろ本題に入れよ」と、キースが肩を押してきた。
「あ、あぁ。申し訳ございません、エリック様。それでは、デザインですが……。」
なんだ? 固まっているな?
「あの、エリック様。どうかされましたか?」
「え、いや、その……。なんというか、主従関係に見えないというか……」と、エリックは言いにくそうに、言葉を濁した。
ああ、そういうことか。初めて見る人は、大体いつも、こういう反応をするからな。
「あぁ、そうですね。俺が対等をみんなに求めてるからですね。いつも、こんな感じですよ。」
「そうですね、主は大抵のことでは怒らないので、エリック様ももう少し気を緩めてください。」と、ローウェルがエリックにも気を遣って補足した。
「わ、わかりました……。」
まぁ、いきなり緩めろと言われても無理だろうから、気長に行こうか。
「では、どのようなアクセサリーにしますか? リングとか、ネックレスとかですね。」
俺もそれは考えた、しかし、もう決めてある。そう、ピアスだ。これが一番邪魔にならないアクセサリーだと思うんだよな。俺は、エリックにピアスがいいと伝えた。
「……、あの、サンドール様……、ピアスとは何でしょうか?」
え? ピアスってないの? 確かにこの世界では、見たことがなかったが……。まじかよ、一から説明した方が良いな。
「あー、えっと、それはですね、耳につけるアクセサリーですね。こう、耳たぶに穴をあけて、そこに差し込む感じですね」と、俺は精一杯説明してみた。しかし、周りのみんなの反応があまりよくないな。わかりにくかったかな……?
「耳に穴をあけるですか……」と、エリックは苦笑いしながら言った。
遂には、「アース、気は確かか?」と、キースに言われてしまった。
は? 気づくと、ここにいる全員がドン引きしていた。




