17
俺たちは応接室に通された。
職人は現在作業中であり、少し待ってほしいとのことだった。
急に来たのは俺たちなのだから、時間がかかってもいい旨を伝えておいた。
そういえば、ここの職人はその実績を買われて男爵位を叙勲したのだったな。
「そうです、主。たしか、ここの一人息子がオールテット学園にいたはずですよ」と、ローウェルが俺のつぶやきを拾った。
へー、そうなのか。側近とジルたち以外の一年生とは関りがなかったから、どんな人物か全く心当たりがないな。
「どのコースに所属しているんだ?」
「確か俺と同じ文官コースだったと思いますよ。話したことはありませんけどね。」
「そうなのか……。そういえば、みんなは他の一年生と話したりするのか? クラスとかでさ」と、皆の交友関係について聞いてみた。
「俺は話さないな。たまに、オーサックやウォーザットと話すくらいだ。オーサックはいつも勝負を仕掛けてくるから、ウザイな」と、キースがそっぽを向きながら言った。
おい、ウザイとかいうなよ、可哀そうだろ……。いや、でも、挨拶感覚で勝負を仕掛けてくるのは確かにやめてほしいな。
「私も、そうだね。騎士コースの女子学生はアーキウェル国では私しかいないから、他の女子生徒とは話が合わないんだよ」と、ミラルが肩をすくめながら言った。
なるほど、確かにミラルは他の女子生徒とキャッキャうふふしている姿が想像できないもんな。なんとか、騎士コースの女子生徒と仲良くなってほしいな
「自分は、その貴族同士のかかわり方とかがよくわからなくて……」と、アスタが申し訳なさそうな顔をしていった。
「そうか……、俺たちといてもわからないか?」
「……」と、俺の問いにアスタが沈黙してしまった。
なんで黙るんだろう? 何か答えにくいことでも言ったかな? と、俺が悩んでいると、ローウェルが俺の肩に手を置いた。
「主、俺たちは参考にはなりませんよ。「普通の貴族」では、ないんですからね。」
何ということだ、俺たちのせいでアスタの貴族としての教養が、身についていなかったとは……。俺は素直に、アスタに謝った。
「……いえ、お気になさらず……。」
おい、この空気どうしてくれるんだ? ……とにかく、アスタには他の貴族とかかわる機会を、設けてあげたいな。
「ローウェルはサイニードと結構しゃべっているよね。」と、空気を読んで、ミラルが話題を転換してくれた。よくできた、側近だ。
「あぁ、そうだね。同じ文官コースだし、それに……、変わっていないからな。」
確かに、サイニードはまじめで、しっかりしているイメージだ。さぞやジルに、振り回されていることだろう。
それにしても、変わっていないからか……。俺の周りには変人しかいないのか?
俺がそんなこと考えていると、応接室のドアが開いた。
ーー現れたのは、いかにも職人という感じの人物だった。
「お初にお目にかかります、アース・サンドールと申します。この度は、お仕事中にお時間を頂戴していただき誠にありがとうございました。」
「……あぁ、ショーク・ドーンロアだ。よろしく頼む」と、無表情に言った。
愛想がないな、見た目だけではなく、中身も職人気質のようだな。
「では、早速依頼の話を……。」
「その前に、俺は貴族の子供の道楽に、付き合う気はない。俺に依頼するだけの内容なのか?」と俺が話を切り出すと、ショーク様にさえぎられてしまった。
やはり、子供だからとなめられているのか? それに、この人は元平民だ。職人気質も相まって、貴族がなんだと興味がないのだろうな。
「失礼、その言い方はあまりにも……」とローウェルが口をはさんだその時、
コンコン
ドアがノックされた。
応接室に入ってきたのは、俺たちと同じくらいの少年だった。おそらく、先程話題に出た、ドーンロア家の一人息子だろう。それにしても、子の職人丸出しの親から、どうやったらこんな美少年が生まれるのだろうか?
「父上! お客様を相手にするときは、俺も同席させるようにと、言っているではないですか!」と、開口一番ショーク様に詰め寄った。
「うるさい、お前はまだ子供だ。その必要はない。」
「必要ないって……。父上の不愛想で口下手なところが原因で、今までトラブルが頻発しているではないですか!」
それはそうだろう。俺以外の貴族だったら、ぶちギレものだろうな。
「……、俺は職人だ、貴族なんて肩書だけだ。受けるに値する人物、案件は俺が決める。」
「だからって……。あ、申し訳ございません、ご挨拶もせずに……。え? もしかしてあなた方は……」と、俺たちに気が付くと同時に、少年の顔は青ざめていった。
俺たちの正体を聞かずに、ただどこかの客が応接室にいるとだけ知らされて入ってきたのだろうか?
俺たちの正体に気づくや否や、少年の顔色が変わった。
「ち、父上! この方々がどのような人物なのか、聞いていらっしゃいますよね?」
「あぁ、公爵を始め、高い身分の者たちだろ?」
「わかっているのなら、なぜ……」と、少年が項垂れた。
「だから、受ける仕事に相手の身分なんぞ関係ないと言っているだろう? それが例え、公爵の息子だろうとな」と、ショークが言うと、少年は震えだした。
「も、申し訳ございません、父上がこのような口をきいてしまって……。どうか、処罰だけは……」と、俺に頭を下げた。
たしかに、一般の貴族が、例え子供でも、公爵家相手にこの態度は不敬罪になるだろうな。ただ、感覚的にだが、こういう職人は信用できると思うんだ。だから……、俺は頭を上げるように促した。
「大丈夫ですよ、処罰なんかしたりしませんから。それよりもお互いに、自己紹介をしませんか? 私はアース・サンドールと申します。それから、側近のキース、ミラル、ローウェル、アスタです」と俺は簡単に自己紹介と側近の紹介を済ませた。
「は、はい……存じております。私は、エリック・ドーンロアと申します。あ、あの、処罰をしないとは本当なのでしょうか?」
「えぇ、私はここにアクセサリー作りを頼みに来たのですからね。処罰なんかしたら、ここに来た意味がなくなります。」
「あ、ありがとうございます」というと、エリックは泣き出しそうな顔をした。たしかに、一般的には、公爵家なんて王族の次に怖い存在だからな。
「アクセサリーだと? 子供用のおもちゃなんか作らないぞ?」と、俺の発言にショーク様が、あからさまに嫌な顔をした。
「ち、父上!!」
これじゃあ、少年の方がかわいそうだな。そろそろ、本題に入ろうか。
「子供用のおもちゃかどうかは、ご自身の目で見て判断してください。……お二人は、私が何の属性を持っているのかご存じですね?」
俺の問いに、目の前の親子は頷く。
「それは当然だ。この国の貴族で、あなたの名を知らない者はいない。」
「それは光栄ですね。では、こちらを見てください。ローウェル」と、俺が指示をすると、ローウェルが収納石をショーク様に手渡した。
「これは……」と、ドーンロア親子が目を見開く。
「空間属性を付与した、ルーン石です。」
「「ルーン石だと(ですか)!!」」
俺がルーン石だというと、二人はさらに、驚愕の顔を浮かべた。
「いくら公爵家とはいえ、個人でルーン石を所有しているとは……。」
「先日、陛下からいただきました。」
「へ、陛下からだと……?」
流石のショーンも、これには驚いたようだな。愛想のない顔が、崩れているぞ?
「そして、このルーン石にはある能力があります。そして、これから話すことは、他言無用でお願いします。もし、情報を漏らした場合は、命がありません。私があなた方の命を狙うのではなく、私の能力を狙う連中にですけどね。どうしますか、ここで話を聞くのをやめておきますか? 所詮は子供の道楽だと?」と、俺は挑戦的な笑みを浮かべながら言った。
すると、ショーク様が頭を下げた。
「……。先ほどの無礼は謝罪する、職人としてぜひその話をお受けしたい。」
「それはうれしいです。では、話を進めますね。私には、『取出』、こういう能力があります。空間属性の能力の一種ですね」と説明しながら、俺は、アイテムボックスからペンを一本取りだして見せた。
「それは……。これが、空間属性なのですね。」
「えぇ、エリック様。そして、この能力をこのルーン石に付与しました。そうすると、ローウェル。」
『取出』
ローウェルがペンを一本取り出した。
「なるほど、アース様以外でも空間属性の能力が使えるというわけですな」と、ショーク様が興味深そうな顔でルーン石を見つめながら言った。
「そういうことです。ただ、ルーン石に魔力を通して使用する必要があるため、できるだけ肌に触れさせておきたいのです。そのために、このルーン石をアクセサリーにしたく、お願いに参りました」と俺は、やっと本題を説明することに成功した。
「よくわかった、その仕事受けよう」と、ショーク様が即座に承諾してくれた。
「ありがとうございます。では、みんな各自のルーン石を提出してくれ。」
俺の指示で、全員が各自のルーン石を提出した。
「ルーン石が九個も……。うむ、わかった。では、具体的な依頼を聞こうか。」
「はい、かしこまりました。では……。エリック様、どうされましたか?」
先程から、エリック少年の視線がルーン石に固定されている。
「あ……い、いえ。ルーン石を加工できるなんて、ましてや目にできる機会なんて、一生に一度あるかないかのお話で……。」
なるほどな、エリック少年も父親と同じで職人なのだな。性格は似ていないようだが、彼も立派な跡取りなのだろう。
だとすると、彼の技量はどのくらいのものなのかな?




