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「どうしたんだ、三人とも困った顔をして?」と俺が聞くと、三人が互いに顔を見合わせた。
「それがですね、主。俺たちの間では、思念伝達ができないみたいです。主とキースは、できましたか?」と、ローウェルが事情を話してくれた。
「俺たちはできたが……。ちょっと待ってくれ」と、俺は他のみんなとの伝達を試してみることにした。
(「ミラル、聞こえるか?」)
(「うん、聞こえるよ。」)
ミラルとも、問題なくできているみたいだな。
「今のミラルとの会話は聞こえたか?」と、俺がみんなに確認すると、皆は首を振った。そうすると、おそらく……。
「個人間のやり取りは、アースと誰かしかできないみたいだな」と、キースが俺の後を引き継いだ。
これが限界なのだろうな。
俺のルーン石が親機で、側近のルーン石が子機みたいなものだろうな。親機と子機は思念伝達が可能だが、子機同士ではできない。
しかし、親機を中継すれば、子機同士でも会話ができるのか。グループ通話みたいなものだな。
ということは、子機同士での会話が必要な時には、一度俺を通す必要があるのか。少し不便だが、しょうがない。手紙での連絡よりも数倍ましだし、なにより相手に聞かれたくない会話を、自然に行うことができるからな。
「ということで、側近同士で何か会話をするときには俺を通す必要があるということだな。何かあったら、声をかけてくれよな。それから、普段は声で会話をするようにしような。魔力も会話を続ければ結構使うし、何より傍目からは、会話を一切しない集団に見えてしまうからな」と、俺が提案するとみんな納得して、頷いた。
よし、早速明日、陛下の紹介状をもって職人のもとへ行こうか。この石をただ持っているだけだと、なくしてしまうからな。それに、空間属性を付与すると、ルーン石はこんな色になるんだな。
ルーン石は、空間属性を付与すると虹色に輝くようだ。アクセサリー向けの輝きだよな。
職人は、王都に店を構えているらしい。楽しみだな、何のアクセサリーにしようかな? リングだと魔刀を握るときに邪魔になるし、ブレスレットは……俺、腕時計をするのとか苦手だったんだよな……。だとすると……。俺がそんなことを考えていると、ローウェルから声がかかった。
「主、このルーン石なんですけど、いつまでも「空間属性を付与したルーン石」だとか、「この石」とか呼んでいると不便じゃないですか? 何か名前を付けません?」、と。
たしかに、そうだな。二つのルーン石は同じ空間属性を付与したものではあるが、役割が明確に違うからな。名前は必要だろう。
「そうだな、何か案がいる奴はいるか?」と、俺は皆に聞いてみた。
「アース石とかはどうでしょう?」と、アスタが言った。
嫌だ、恥ずかしい。自分の名前を冠する石を持ち歩くなんて、いやだろ?
「空間石とかはどうだ?」と、今度はキースが提案した。
「キース、それだと二つを区別できないよ。どっちも空間属性が付与されているんだからね」と、ミラルが的確な指摘を入れた。
確かにその通りだな。だけど、シンプルな名前で、俺は好きだな。
「いつも通り主が決めてくださいよ、その方が良いと思います」と、ローウェルが降参とでも言いたげに、手を上げながら言った。どうやら、他の側近たちも同意しているようだ。
まあ、そこまで言われたら……、考えてみるか。
名前は、わかりやすいものでいいと思うな。思念伝達の方を「伝達石」、アイテムボックスの方を「収納石」とかでいいんじゃないか?
「思念伝達の方を「伝達石」、アイテムボックスの方を「収納石」でどうだ?」
俺がそういうと、全員嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、これで決定な。明日職人のもとへ行くから、各自、どんなアクセサリーにしたいか考えておくように。」
ーー
翌日、俺たちは大窓で王都までやってきた。
えーと、工房の名前は「ドーンロア工房」か、一応道案内の紙を陛下が付けてくれているから迷いはしないだろう。
「では、自分が先行して、工房の場所を確認してきます」と、アスタが言ってくれた。
「あぁ、頼む。店に着いたら、伝達席で連絡を頼むな。ローウェルは一応、索敵を。」
俺の指示で、ローウェルとアスタが動き出した。
ーー数分後。
(「アース様、工房の前まで来ました。特に異常はありません。」)
(「わかった、ありがとう。そのまま待っていてくれ。」)
(「了解。」)
「アスタが工房の前まで着いたそうだ、ローウェルは問題なさそうか?」と、俺が確認すると、ローウェルの方も問題ないようだ。
さて、行くとするか。
ーー
ここが、ドーンロア工房か……。国で一の名店だけあって、格式が高そうだ。アスタも合流したし、入ろうか。
俺たちは、豪華な扉を開けた。
……これは、すごいな……。見事なアクセサリーや、食器、それから武器までもが置いてあった。ここの職人は、何でも作れるのか……。
このレベルなら、国のお墨付きがついていても、何ら不思議ではないな。
「いらっしゃいませ……ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
声をかけてきたのは、きっちりと礼服を着こなし、身なりの整った男性だった。いかにも、高級店の店員という感じだな。
だからこそ、子供だけでこんな場所に来て、訝しんでいるのだろう。
「こちらで、アクセサリーのオーダーメイドをお願いしたく参りました。」
「オーダーメイドですか……あいにく予約はいっぱいでして、それに……。」
子どもだから金がないとでも言いたいのか? あいにく、陛下から代金はすべて国が持つという、ありがたい話をもらっているのだ。流石に気が引けるので断ったが、「第一王妃の命を救った礼が、これでは足りないから受け取ってくれ」と、半ば強引に押し切られてしまった。まぁ、今回はお言葉に甘えようか。お金には困ってはいないが、あいにくお金を稼ぐ手段をもってはいないからな。散財はできないのだ。
「あの、先程から態度が少々失礼ではないでしょうか? いくら子供とはいえ……」と、ローウェルが前に出た。
「ローウェル、大丈夫だ。俺は気にしていないから、ありがとう。」
そういうと、ローウェルは引き下がった。まぁ、確かに子供には不釣り合いな店だがな……。そうだ、自己紹介をしていなかったな。
「私の部下の非礼をお許しください」と、俺は平謝りした。
「いえ、お気になさらず」と、すました顔で店員が謝罪を受けいれた。
「ありがとうございます。申し訳ございません、名乗るのが遅れてしまいましたね。お初にお目にかかります、アース・サンドールと申します。みんなも、自己紹介をして差し上げて?」と、俺はみんなに先を促した。
これくらいの仕返しは許容範囲だろう。俺がそういうと、皆は貴族スマイルを浮かべて、頷いた。
……どうやら、みんなにも、意図は伝わったようだな。
『お初にお目にかかります、キース・ツーベルクと申します。以後、お見知りおきを。』
『お初にお目にかかります、ミラル・ダンカーと申します。以後、以後、お見知りおきを。』
『お初にお目にかかります、ローウェル・カーサードと申します。以後、お見知りおきを。』
『お初にお目にかかります、アスタ・リンハットと申します。以後、お見知りおきを。』
こうして俺たちが、自己紹介をするたびに、店員の顔が真っ青になっていった。
「サンドール公爵家に、ツーベルク護衛騎士団団長、ダンカ―辺境伯、それにカーサード財務大臣、そして南のリンハット男爵の……。大変失礼いたしました!」
「あ、それと紹介状を持っているのですが、見ていただけますか?」
「は、はい……」と言いながら、店員は手紙を受け取った。
満身創痍の男性にさらに追い打ちをかけるようで悪いが、初対面の印象というのは、ものすごく重要だからな。
「こ、これは陛下の直筆のサイン……。あなた方は……。」
「いえ、私たちはただの「子供」ですよ。ただ先日、陛下に職人を紹介してほしいとお願いしたところ、こちらの工房を紹介されましてね。そちらの紹介状に、問題はないですか?」
「も、問題など……。すぐに、ご案内致します!」
「ありがとうございます! この工房に来ることを楽しみにしておりました!」と、俺は目を輝かせながら言ってみた。
「こ、光栄です……」と、店員が萎れていく。
少しやりすぎたか? もう半泣きじゃないか……。と、すると側近たちからお小言を言われた。
(「やりすぎだ。」)
(「そうですよ、主。」)
(「流石に可哀そうだったね……。」)
(「自分だったら、倒れますね。」)
悪かったよ……。だけど、お前らもノリノリだったじゃないかよ!




