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二人はリバーシに興じているようだから、ジルと談笑しているか。
「そういえば、ジル。ハルの絵を見たことがあるか?」と、俺は前から疑問に思っていたことを、ジルに聞いてみた。俺の問いに対してジルは首を振って、さらになぜそんなことを聞くのかと、理由を尋ねてきた。
「そもそもなんでハルは補修クラスにいるのかと思ってさ。俺レベルで絵がまずいのかな?」と、俺が言うと、ジルは神妙そうな顔をした。
「お前のような才能の持ち主が他にいるとは考えにくいが……。普通に考えると、絵が下手なのだろうな。」
……、遠回しに馬鹿にされているようだが、俺は大人なので、聞かなかったことにしておこう。
後期で、ハルの絵を見せてもらおうか。第一皇子の腕前を知りたいしな……と、俺たちがハルについて話していると、リバーシに熱中していた、母上たちがこちらに振り返った。
「あら……、第一皇子ってもしかしてアイバーン帝国の第一皇子かしら?」と、フローラ様が少し間を置きながら、聞いてきた。
「はい、母上。ラインハルト殿下も、我々の娯楽同好会に所属しているのですよ。」
「まぁ、帝国の……。なぜ、帝国の第一王子殿下があなたたちの同好会に……?」と、フローラ様が驚いた表情で訪ねてきた。
確かに、よく考えれば当然の疑問だな。大国の帝国が、弱小国の俺たちのつくった同好会に、所属しているんだからな。
「それはですね、最初にアースがラインハルト殿下に気に入られまして、それで、アースの紹介で私も友人となり、ラインハルト殿下も同好会に所属するに至ったわけですよ。だよな、アース?」と、ジルが俺に同意を求めてきた。
「そうですね、ラインハルト殿下もたまに、食事をとりに私の部屋に遊びに来ますね」と、俺が答えると、二人は沈黙してしまった。
どうしたんだろう? 母上たちがフリーズしている。ジルのほうを見ると、どうやらジルも、困惑しているようだ。
「あの、お二人ともどうかされましたか……?」と、俺は恐る恐る聞いてみた。俺の言葉で、ようやく二人の意識が、こっち側に戻ってきたようだった。
「まさか、帝国の第一王子殿下と交流があるなんて……。ねぇ、マーガレット様?」
「そうですわね、国同士ではほとんど交流がないですからね……。」
と、二人は扇子で口元を隠しながら、言った。
なるほど、国同士ではほとんどかかわりがないのに、俺たち子供組に交流があったから驚いているのか。
「それだけではないですよ。アースは、グレートプレア王国の第二王子のシリル殿下とも交流があります」と、ジルが補足情報を入れた。正直、あまり入れてほしくはない補足だ。
「本当なの、アース君?」と、再び驚いた顔を浮かべたフローラ様が、俺に尋ねてきた。
「はい。シリル殿下とは同じ薬草研究会に所属しておりまして、そこで、親しくさせていただいております。あとはそうですね、シリル殿下の側近のお二人と同じ魔導士コースでして、その縁もあり、仲良くさせていただいております。」
「まぁ、グレートプレア王国まで……。でもシリル殿下って確か……」と、フローラ様が言いよどんだ。シリル殿下に何かあるのか? そんな話聞いたことがないけど……。
「あのフローラ様、シリル殿下がどうかされましたか?」と、ジルも疑問に思ったらしい。
「いえ、何でもないわ。それよりも、アイバーン帝国とグレートプレア王国との交流があるとは驚きだったわ。なにせ、国同士、そして大人同士では実現が難しい国々ですからね。学生のうちに築いた縁は将来の財産になります。二人とも、その縁を大切にしてくださいね」と、フローラ様が笑顔で言ってきた。
本当にそのとおりだな。アイバーン帝国はこの世界一の大国、グレートプレア王国は農業王国だから、この縁は大切にしたい。それ以上に、二人とも人柄もよく、一緒にいて楽しいからな。早く、学園で会いたいな……。
そうして、学園での授業のことやジルの部活動のことを話して、この日の茶会は終了した。
ーー
お茶会から二週間後。
一月も下旬、冬休みも残すところあと一か月ほどだ。今日は、サンドール家で、側近たちと訓練をしていた。
「主~、殿下から手紙です」と、ローウェルが駆け足で俺たちの方に向かってきた。
「あぁ、わかった。今汗をかいているから、代わりに読みあげてくれるか?」
「了解です。――「陛下からの呼び出しだ。ルーン石の準備ができたゆえ、一週間後王城へ来てほしい」、だそうです。」
ようやく来たか、ルーン石。魔力を付与できる貴重な金属だ。俺はこれで、前世では当たり前だった、「あるもの」を再現したいのだ。一週間後が楽しみだな。
楽しそうな俺に対して、側近たちが、「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? ルーン石で何をするのかを。」、「そうだね、そろそろ知りたいよ」と、聞いてきた。
うーん、そうだな。できるかわからない段階で、教えるのもあれだが……。別に引っ張ってもいいことはないし、焦らしてイライラさせてもしょうがないからな。ここは、簡単に説明しておこう。
「……、お前らは、手紙での連絡についてどう思う?」
「は? 便利だろ、直接行かなくてもいいんだからな」とキースが答え、アスタも「証拠が残ることや日数がかかることを加味してもなくてはならないものだと思います」と、答えた。
この世界の住人にとってはそうだろうな。だが、現代を知る俺にとっては、手紙の連絡ほどストレスになるものはない。何しろ、遅いからな。特に高位になればなるほど、チェックが厳しくなって、手間がかかるのだ。
「その連絡が、ノータイムで行えるとしたら? 俺の窓のように。馬車という当たり前の移動手段が、俺の窓によりあたりまでなくなったようにな」と、俺が言うと、ローウェルが反応した。
「それって、主。主の空間魔法で、ノータイムの連絡手段を確立するということですか?」
俺は、ローウェルの回答に対して頷いた。そう、俺が再現したいのはメールやラインのようにすぐに連絡が取れるものだ。ただ、文章にはせず、念話のようにしたいと考えている。
「なるほどね、それが出きたら確かに便利そうだけど……。なんで、魔刀みたいに自分で生み出さなかったの? わざわざルーン石にする必要はあるの?」と、ミラルが疑問を呈した。
当然の疑問だな。俺も最初はそうしようかと思ったが、他に知られたらどうだろうか? 実際に完成すれば、魔刀より需要があるのではないだろうか? 俺はもう一つ、アイテムボックスの能力も付与したルーン石も作りたいのだ。これは、万人にとって便利すぎる代物になるだろう。そんなものが俺の能力で作り出せると知られたら……。
魔刀よりも小さく、ルーン石と同じくらいの大きさ、アクセサリーにできるくらいのもでなくては、日常使いがしにくくなる。だから、「魔刀ほどの大きさのものがつくれるなら、そのルーン石もどきはたくさん作れるだろう?」と、指摘をされてもおかしくはない。だから、ほぼ全員が貴重で、数が少ないと認識しているルーン石を用いたかったのだ。
俺は、上記の考えをみんなに話した。
「確かにそうですね、これは完成したら、魔刀と違い非戦闘員にも需要があるでしょう。それをあえて主の能力ではなく、実際に存在し、かつ入手が難しいルーン石に付与を行うことで、制限をつけようというわけですね」と、ローウェルがみんなに分かりやすく、まとめてくれた。
「正解だ。ただ、意思伝達の方は言わなければわからないし、アイテムボックスも人前での使用を避ければ、気づかれることはないだろうから、魔刀同様注意するように。あと、内通者がどこにいるかわからない。だから、あまり話題には出さないように、いいな?」と俺が言うと、全員納得したらしく、「了解」と、頷いてくれた。
ーー
今日は、王城へと行く日の前日である。
「はー、早く明日が来ないかな。手紙などというまどろっこしい物から早く解放されたいな」と、俺がつぶやくと、ローウェルがため息をついた。
「主、今日までずっとそれを言い続けてますね。話題に出さないようにといったのは、主ですよね?」
「な、内容は言ってないからいいだろ?」
「……まぁ、そうですけど……」と、ローウェルが言う途中で、ノック音が聞こえてきた。
コンコン
誰だろう、こんな朝早くに? 兄上か? 俺はキースに頼んで、ドアを開けてもらった。すると、ドアを開いて入ってきたのは、サンドール家の執事だった。なんだろうか、こんな朝早くに? 俺が要件を聞くと、執事は言いにくそうにしながらも答えた。
「それが……、公爵様からアース様に、緊急の呼び出しがありました。「至急王の間に来る様に」と。それから、王の間に直接窓を開いてもいいそうです。」
は? これはいったい何事だ? 王の間に直接窓を出していいだと? いくら俺が自由に移動できるといっても、それは許されいない。ジルの部屋は例外としても、俺はいつも、王城の門の前に窓を開き、登城手続きを経て、王城に入っている。それに、父上からの呼び出しということは、王城で何かあったのか?
父上やカーサード卿のように、宰相、財務大臣などの役職持ちの貴族は、一足先に城へ戻ることになっている。ちょうど三が日が、終わったあたりに戻っている。今年は、父上とカーサード卿は事後処理のために領地に残っていたが……。
とにかく、緊急事態なのだろう。早くいかなければ。俺は側近たちとアイコンタクトを取り、大窓を開いた。




