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「アース!!! 無事だったか? 私は心配で夜も眠れず……」と、俺たちが窓から現れた瞬間父上が駆け寄ってきた。本当だ、クマがひどすぎて美形が台無しだ。あと、近い。
「ち、父上、ご心配をおかけしました。あと、近いです」と、俺が言うと、なんとも寂しげな表情をしながらも、離れてくれた。
その後、マクウェルとケルサス兄上は父上の書斎で報告をし、俺はジルの相手をするように言われた。
ーー
俺たちは、現在俺の自室にいる。
「それでアース、茶会にはこれそうか? 無理そうなら俺から母上に進言してもいいが……」と、ジルが遠慮しがちに、聞いてきた。
「うん? 大丈夫だよ。体の方も問題ないしな。いつ、開催するんだ?」と、俺はできるだけ、明るく振舞った。実際、俺自身はダメージというダメージは、なかったのだからな。
「……。今週の土の日だ」と、ジルが俯きながら答えた。
うん? 何だろう、ジルがあまりうれしそうではないな……。あぁ、確か茶会でジルの学園の様子を詳細に、フローラ様にお伝えすると転移陣の前で約束したっけな。それで、微妙な感じなのか。
あの時はああ言ったが、ジルは俺を心配して、カーサード領まで来てくれたんだ。少しは、手加減をしよう。
「ジル、少しは加減するから安心しておけよ。風呂で泳いでいるだとか、商業エリアを練り歩いてるだとか、先輩の女子生徒から人気だとかは話さないからさ」と、俺がジルの肩をたたきながら言うと、ジルは「……よろしく頼む」と、そっぽを向きながら答えた。
ーー
ついに、今日は土の日です。
俺は母上と一緒に王、城の一室へとやってきた。
「ごきげんよう。来てくれてうれしいわ、マーガレット様そして、アース君」と、フローラ様が笑顔で出迎えてくれた。
「ごきげんよう、フローラ様、ジルベルト殿下。招待していただき、ありがとうございます。本日のお茶会を楽しみにしてまいりました」と、母上が代表してあいさつをした。
「うふふ、そう言っていただけると嬉しいわ。それでは、堅苦しい挨拶は終わりにして、お茶会を始めましょう。」
「そうですわね。お言葉に甘えさせていただきますわ? あら、アース? そんな暗い顔をして、どうしたのかしら?」
「ジル君もよ、さっきから黙ってどうしたのかしら?」と、二人の母親が、息子の不機嫌を悟ったらしい。
考えてみてほしい、友人とその母、そして自分の母親と同じ空間でお茶会をする姿を……。前世の俺でも耐えられないぞ。そんな、うっきうきなテンションではいられない。きっと、ジルも同じ気持ちだろうな。しかし、俺たちは貴族だ。貴族スマイルを忘れてはいけないのだ。
「「私も楽しみですよ」」……、ジルとハモってしまった……。
ーー
そんなこんなで、楽しい?お茶会はスタートした。
「アース君、大変だったみたいね。怪我はなかったかしら?」と、フローラ様が最初の話題で、俺の心配をしてくれた。
「はい、ご心配ありがとうございます。側近たちのおかげで、何とか切り抜けることができました。」
「まあ、そうなのね。アース君の側近は、優秀だと聞いているわ。」
「いえ、ジルベルト殿下の側近ほどではございませんよ。」
「まぁ、謙虚よね、アース君は。私もジル君の側近の方々と、一緒にお話ししてみたいと思っているのですが、アース君はジル君の側近とよくお話をするのですか?」
「えぇ、そうですね。ドンターラ公爵家の双子とはよく話しますね。サイニードとはあまり会う機会がないのですが、会った時には挨拶をするくらいですね。ミントは……話したことがないですね」と、俺は素直に答えた。
ミント・ニーカット、ジルの側仕えである。彼女がしゃべっているのをほとんど見たことがないし、いることにも気づかないときがある。どういう人物なのだろうか? この際、ジルに聞いてみるか?
「まぁ、そうなのね。今度、側近の皆さんもお誘いしようかしら?」と、フローラ様が素晴らしい提案をしてくれた。
「……、楽しみにしております。ところでジル、ミントはどういう人物なんだ? あまり話している姿を見かけないが……」と、俺は、華麗なる話題転換を試みた。
「彼女はニーカット外務卿大臣の養娘だ。あとはそうだな、俺たちの前ではよくしゃべるぞ。ただ、極度の人見知りでな。人に慣れるのに時間がかかるんだ。だから、お前たちから話しかけてやってほしい。アースともしゃべってみたいと言っていたからな」と、ジルも俺の意図をくみ取ったのか、話題転換に乗ってくれたようだ。
なるほど、人見知りを極めすぎていて、何も話さなかったのか。今度、話しかけてみようか。
それにしても、外務大臣の養女だったのか。外務大臣とはかかわりがなかったから、名前を聞いただけでは気付かなかったな……。
「わかった。今度、料理の感想を聞いてみるよ」と、俺が言うと、母上が俺の返事に反応した。
「あら、アースは、寮でもお料理をしているの?」
「はい、母上。寮の料理が口に合わなかったので、自分の部屋で自炊をしています。」
「まぁ、そうだったのね。でも確かにそうね、あの味に慣れてしまったら、他の料理なんて食べられそうもないわね」と、母上が、納得の表情を浮かべて言ってくれた。
「確かに、そうね。アース君のお料理は一度味わったことがあるけど、とてもおいしかったものね。ジル君も、アース君のお料理を食べているのかしら?」
「そうですね。ジルベルト殿下は毎週のように食べに来られますね」と、俺は素直にジルの様子を報告した。
「まぁ、そうなのね。ジル君は、どのような料理が好物なのかしら?」と、フローラ様がさらにこの話題を広げた。ジルの好みか……、俺は大体わかっているぞ?
「ジルベルト殿下は基本的に何でもお好きですが……。特にお好きなのは、カレーですかね? あってるよな、ジル?」
「……あぁ、そうだな。初めて食べたときは、感動したな」と、ジルが少し照れながら答えた。
「まぁ、それはどういうお料理なのかしら?」、「私も知りたいわ、屋敷で作ったことのないお料理よね?」と、二人の母親が反応した。女性の貴族は、常に最新のものに敏感だからな……。
「何分匂いがすごい料理でして、屋敷で作るのは控えていましたからね。味はそうですね……、比較的辛い料理ですね。女性には少し辛すぎるかもしれません。ただ、ミラル用に甘いものも用意していますのでそちらでよければ、次回ご用意いたします」と俺が言うと、二人の母親はたいそう喜んだ。
御婦人方も目新しい料理には目がないようだ。ただ、屋敷でもカレーが食べられるなら、全然かまわないけどな。
「アース、俺もたまに行ってもいいか? 後期の開始まで、お前の料理が食べられないのは正直辛い」と、二人の母親を横目に、ジルが小声で聞いてきた。この少年も同様の様だな。
「あぁ、もちろんいいぞ。合同訓練を頻繁に行おうか、その時に料理を作るよ(小声)。」
俺たちがひそひそと話していると、二人の母親が話題の転換を図ってっきた。
「料理のお話も楽しいけど、二人の学園での様子も知りたいわ。」
「そうね、是非聞かせてちょうだい。」
学園での様子と聞かれてもな……。授業を受け、料理をし、訓練をし、後は……部活か。
「そうですね、私はジルたちと一緒に娯楽同好会という部活動を立ち上げました」と、なんとなく無難そうな話題を提示してみた。
「まぁ、そこでは何をしているのかしら。」
「はい、母上。主に、アースが考えた遊びをしたり、後は訓練をしたりと楽しいことを行う部活動ですね」と、フローラ様の疑問に、ジルが答える
「まぁ、アース君が考えた遊びですか? どういうものがあるのかしら?」
「そうですね、例えばリバーシという卓上のゲームがあります。以前アースが入試で出したアイデアが、学園から商品化の提案があったことは母上たちもご存じですよね? それを工作の教師が再現してくださり、それで遊んでおります。だよな、アース?」と、ジルが俺に、同意を求めてきた。
「そうですね、夏の文化祭で展示してから、実際に商品として売り出すそうですよ。女性の方にもお楽しみいただけると思います。今、持っていますのでお二人もやってみますか?」と、俺が提案すると、二人の母親はたいそう乗り気だった。そこで、最初に俺とジルでやってみせることにした。
それから、俺とジルでプレーしながら、ルールの説明などを行った。
「まぁ、これは……。トランプのようにルールや仕様はシンプルですが、置き方やタイミングなど、奥が深いゲームの様ですわね。これなら、商品化の話が出たのも納得ですわ」と、フローラ様が納得の表情を浮かべながら言った。
「えぇ、本当にそうですわね。フローラ様、私たちもやってみましょう!」
そういうと、二人は夢中になってリバーシをし始めた。
娯楽の乏しい世界だ。リバーシに夢中になるのも無理はないな。それに卓上でもできるから、女性も楽しむことができる。




