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~sideアスタ~
俺は、アスタ・リンハット。アース様の側近だ。
俺は、アース様から学園入学前に魔刀をいただいた。人から何かをもらうというのは、こんなにもうれしいことなんだと初めて知った。だからこそ、大切にしたいと思った。そして、この魔刀でアース様のお役に立ちたいと思った。
しかし、俺にはこの魔刀で戦っている自分を、イメージすることができない。何もできずに母上を失った自分、孤児ゆえに殴られ、ひもじい思いをした自分、そんな過去の自分の姿が、俺のイメージを覆ってしまうんだ。
そんな自分ではだめだ……。アース様や側近仲間たちが、俺に温かい気持ちを教えてくれた。そんな人たちを、俺は守りたい……。
俺は魔刀を授かった時から、少しずつ自分が成功する姿のイメージを、積み重ねていった。今は、なんとなく影を自在に操りたいと思っている。俺のアイデンティティは、影だからな。この影で、みんなの役に立ってみせると思っていたんだ。
ーー
そして、現在。
仲間のキースは凍死寸前で、そのキースをローウェルが土人形で運んでいる。ミラルは、空を自在に舞い、敵を食い止めている。アース様は泡を展開して、キースたちが逃げる時間を稼ごうとしている。
……そんな時に俺は、いったい何をやっているんだ?
アース様は敵と戦うとき、俺を決して前衛には出さない。大抵が、ローウェルの護衛だ。これも重要な役割だと、認識はしている。しかし、ミラルやキース、そしてアース様が戦っているのを、俺はいつも後ろから見ているだけだ。
……理由はわかっているんだ、それは、俺が魔刀の能力を開放していないからだ。つまり、俺が弱いからだ。それは、わかっているんだ……。
だけど、この状況ではそうはいっていられない。
このままだとキースが……それにキースが抜けたことによって、戦力が大幅にダウンしている。このままいくと、ミラルやアース様まで……。
俺はまた、大切なものを失うのか? それは怖い……大事なものが目の前で失われるのは……。
……いや、違うだろ! 俺は大切なものを守るために魔刀を受け取り、そして日々訓練してきたんだろ?
俺はもう、この大切な時間を失いたくないんだ!! だから頼む、魔刀! 俺の願いに、応えてくれ!
ーー
くそっ、あと少し、時間が必要なのに……。
うん? 何か光って……。アスタの魔刀か! あれは……属性付与か、だとすると……。
「アスタ!! お前なら大丈夫だ、そのままお前のイメージを言ってみろ! 」
俺の声に気づいたアスタが、はっと顔を上げて叫んだ。
「俺は……影を自在に操りたい、そしてもう二度と大切ものを失いたくない! だからアース様、俺の魔刀に名を!!」
アスタが感情を荒げて、ここまで言っているんだ。アスタが自分のことを、「俺」なんて言ったの初めてだからな。ここで任せないのは、主失格だな。
俺の残りの魔力でサポートしてやるよ!!
『咲け 白薔薇姫』
『全てを凍てつくし、止めろ 白薔薇の世界』
今は幸か不幸か、雪が降っている。この雪がカムフラージュとなり、花弁にすぐには気づかれないだろう。
「ミラル、俺たちの前に出て、遠距離攻撃と伏兵の奇襲に警戒してくれ。」
俺に指示で、ミラルが俺と敵の間に立つ。
「な、なんだよ、これはぁぁぁぁぁぁぁ!!! 動けないぞ!!」
「黙れ、何かからくりがあるはずだ。この様な強力な能力、時間制限があるはずだ。とりあえず、魔法は使えるみたいだから、防御に集中するぞ。」
やはり、氷の方は鋭いな。だけど、時間制限ではなく、花弁が当たっている限りだよ。
「アスタ、そのまま強いイメージをもって、魔力を流し続けろ。あとは、俺が補助に入る。」
俺に指示で、アスタは集中し始めた。
前にアスタから聞いていたときに、イメージはしていた。名は、影……暗くする感じで、【逢魔時】、呼音は【暮れろ】がいいな。少し、厨二くさいが勘弁してほしい。能力は、【百鬼夜行】。暗闇を展開して、真っ暗にする。その中で、アスタは補助魔法を、他人にも付与することができるようになる。影使いだから、周りがすべて影だと、鬼に金棒だろう。二つ目が、【影法師】。自身の影を自在に操ることができる。拘束や、自身の分身としても運用することができる。
アスタには今まで前に出て戦う機会を与えてやれなかった。それは決してアスタが弱いからでも、自分に自信がなさそうだからではない。
アスタは昔の経験から、自己犠牲を厭わない性質がある。初めて会った時に仲間の孤児を庇って首を差し出そうとしたことや、生身であるにもかかわらず、危険な情報収集を進んで買って出ることからもうかがえる。ただ、最近はその傾向が薄れてきたように思える。俺のことを『命の恩人』ではなく、主として、一人の友人としてみてくれるようになったと思う。最近は、「勝手にしてください」などと、冷たい言葉をかけられることもある。アスタは、過去を払拭したに違いない。アスタはもう大丈夫だ。俺は、アスタを信じたい。
『名は【逢魔時】、呼音は【暮れろ】だ。能力一つ目は、【百鬼夜行】。暗闇を展開して、真っ暗にする。その中で、アスタは補助魔法を他人にも付与することができるようになる能力だ。二つ目は、【影法師】。自身の影を自在に操ることができる。さぁ、呼べ、アスタ! お前の力を信じてるぞ!』
俺がそう叫ぶと、アスタは「必ずや」と言い、目を瞑って深呼吸をした。
『暮れろ 逢魔時』
アスタがそう呼ぶと、魔刀が真っ黒になった。闇の中に溶け込むようなイメージなのだろう。
『百鬼夜行』
アスタがそう詠唱すると、周囲に闇が展開され、月明かりすらなくなった、まさに黒い世界が訪れた。
俺は何も見えなくなり、そして、ここにはあの二人組の声だけが響いていた。
「な、なんだよっぉぉぉ!! 身動きできない次は、何も見えなくなったぞ!!」
「落ち着け、音を聞け。それから、お前の大波で辺りを一掃しろ。」
「なるほどな!! 大(波) ……うううーーーうううううーううう!!!」
(ふざけるな!! 口が空かなくなった……何かに縛られているのか?)
「どうした、トゥエルブ!! (くそっ!! まずは、自分の身の安全の確保だな。)」
『氷壁』
『暗視付与』
あいつらの声だけがしていて、状況が全く分からなかったが、アスタの声が聞こえてからは、周りの様子が見えるようになった。
これは……。俺が状況の理解に努めていると、アスタから説明が入った。
「闇属性の補助魔法、『暗視』です。」
「なるほどな、これがお前の見ている世界なんだな。」
「はい、我々が影の中で自由に動けるのはこの補助魔法のおかげです。」
そういうことだったか、前世にも暗視ゴーグルとかあったからな。実際につけたことはないが、テレビとかでは見たことがある。それにしても、あの二人組が急に静かになったな。魔法をぶっ放されてもおかしくはないと思っていたが……、アスタが何かしているのか?俺はアスタに聞いてみた。
「はい、影で口を縛っています。これで、魔法の詠唱ができません。」
えげつないな……。とりあえず、次の指示を出さなければならないな。
「わかった。ミラル、お前はキースたちを追ってくれ。もしも、二人とも倒れてたら大変だからな。ミラルの能力ならば、追いつけるだろう。そして、ミラルも一緒に下山しろ。もう寒さが限界だろう? あいつの冷気を、至近距離で浴びていたんだからな。」
「いや、でも……」とミラルが残ろうとしたが、それをアスタが制した。
「ミラル、自分に任せてください! アース様は、自分が守ります!」
「アスタもこういっているんだ、自分の身を大切にしてくれ。キースたちを頼む。」
俺たちの説得が功を奏したのか、「……わ、わかったよ」といい、ミラルは空をかけていった。
ーー
ここからどうするか、このまま拘束して、人を待つか? いや、こいつらは危険だ。魔力を奪っておきたいな。ついでに、魔力の回復もしたい。
「さて、決着をつけようか。まずは、あいつらの魔力を奪い、失った量を補填する。アスタはそのまま抑えておけ。」
アスタがうなずいたのを確認して、俺は次の行動に出た。
『泡沫よ、儚く散らせ 泡沫の夢』
俺がそう詠唱すると、黒い泡が展開した。この黒い泡は、触れた対象の魔力を奪うことができるのだ。
こ、これは……。アスタの闇と合わせると感知不可のチート技になるな。俺の泡も黒いからまったく見えないな。俺とアスタの合技だな。これは、ほかの場面でも使えそうだな。よし、『深淵の夢』とでも名付けようか。
俺はアスタに、合技のことを話した。そするとアスタは、「はい! うれしいです!!」といい、笑った。よかった、今まで抱えていたものが、少しは軽くなったみたいだな。
(「ううううううーーーううううう!!!(魔力がどんどんなくなっていく!!)」)
(「くそっ……。氷壁の維持ができない……。おい、トゥエルブ!! お前には、何が起こっているんだ!!」)
二人は、状況の把握ができていない。それに、俺の魔力も半分ほど回復し、あいつらの魔力も、もうほとんどないだろう。
「アスタ、この空間を解除してくれ。あいつらにはもう魔力がほとんどないからな。」
「かしこまりました。」
『解』
アスタがそういうと、暗闇はきれいに消え去り、月明かりが戻った。
「さて、うるさいトゥエルブとやらには用がないから、イレブンといったか? お前から、話を聞く。まずは……。」
うん? 戦闘に集中していたため、気づかなかったがあいつらの首についているものは……。




