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翌日、俺はキース、ミラル、そしてローウェルを送り届けた。残りは、アスタだけだ。
「アスタ、帰る前に話がある。」
「どうしましたか、アース様?」
「アスタの魔刀についてだ。能力や名はそろそろ付けられそうか?」
アスタは未だに、魔刀の能力を決めきれないでいる。まあ、焦って決めるものではないが、アスタの状況だけは把握しておきたいからな。俺は定期的にアスタに確認している。
「そうですね……。イメージはできてきました。自分はやはり、影を駆使することが多いので、影を自由に使えるような能力がいいとは思っています。ただ、その先のイメージがまだできていなくて……。しかし、冬休み中には、アース様に名づけを、お願いしたいと思っております!」
「俺がつけるということで、いいんだな?」
俺がそういうと、アスタはふっと笑った。
「むしろ、つけてもらいたいです。他のみんながアース様に名付けをしてもらっているのに、自分だけつけてもらわないなんて耐えられません。」
なるほど、俺はいい側近をもったな。
その後、俺はアスタをリンハット邸へと送り届けた。それにしても、影か……。厨二くさい名前しか、思いつかないな……。
ーー
そんなこんなで、俺は元日までゆっくりと過ごした。
そして、今日は元日である。さてと、キースたちを迎えに行くか。それから、俺はキースたちを迎えに行きながら、各家庭への新年の挨拶を済ませて、サンドール家へと帰ってきた。ちなみにキースの家には、学園の休日を使って事前に訪れていたのである。
俺はカーサード邸へと向かう前の、ちょっとした空き時間に、キースとローウェルの昔話に思いをはせていた。
「キースはよく、ローウェルの家に遊びに行っていたのか?」
「そうだな。あいつは、土人形でよく俺のところに、伝言を届けに来ていたな。「今から遊びに行く」ってな。」
なるほど、幼馴染だもんな。そりゃあ、よく遊んでいたわけだ。俺がそう思っていると、ミラルがオーロラについての質問をした。
「キースは、オーロラを見たことがあるの?」
「あぁ、ローウェルのお気に入りの場所があってな。そこで、ローウェルと見たんだよ。」
「二人は普段から仲がいいですからね、自分も幼馴染が欲しかったです。
俺も欲しかったな、幼馴染。なんか、こう安心感があるよな。俺がそういうと、ミラルから指摘がはいった。
「ジルベルト殿下とは、幼馴染じゃないの?」
「そうだな。六歳のころから友人なんだろ?」
「幼馴染って、もっと小さいころからの付き合いをいうんじゃなかったか?」
「そうだったと……あれ? 幼馴染って何歳からの付き合いをいうのでしたっけ?」
「厳密な定義とかなかった気がするけど……。」
と、ミラルやアスタもうろ覚えの様だった。
「まぁ、いいだろう。アース、そろそろ行く時間だ。」
と、キースがこの話を打ち切った。まあ、これ以上、幼馴染について話していても、しょうがないからな。
「あ、あぁ、そうだな。兄上たちを呼んでこようか。」
ーー
俺は兄上たちに声をかけて、さあ出発しようとなったのだが、依然としてケルサス兄上の顔色が悪い。
「ケルサス兄上、まだお顔の色がすぐれないようですけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、すまない。今日は少し寝不足でな、それで少し顔色が悪いようだ。だが、大丈夫だ。せっかくの機会だしな。」
「……ケルサス兄上が大丈夫というなら、一緒に参りましょう。もし、具合が悪くなりましたら、いつでも言ってください。俺が、送りますので。」
「あぁ、頼む。」
そういって、ケルサス兄上は引かなかった。まあ、今回の訪問を楽しみにしているのだろうな。
ーー
俺たちがカーサード邸へと到着すると、カーサード卿とローウェル、そしてローウェルよりも少し大きい子供が出迎えてくれた。おそらく彼が、ローウェルの兄のホルード様だろうな。
「ようこそ、お越しくださいました。マクウェル様、ケルサス様、そして、アース様と側近の皆様。ごゆっくりとお過ごしください。
「お出迎えありがとうございます、カーサード卿。私たちも、カーサード邸を訪れることを楽しみにしておりました。この度は、どうぞよろしくお願いいたします」
と、マクウェル兄上が、代表してあいさつをする。
「私どもも楽しみにしておりましよ。そうだアース様、長男のホルードとは今日が初対面ですよね? ホルード、アース様に挨拶を。」
「はい、父上。」
今ぶっきらぼうに返事ををしたこの少年が、ローウェルの兄のホルード・カーサードだな。ローウェルと髪色などはそっくりだが、ローウェルよりもキリっとした顔つきだ。
「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなるこの出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。カーサード侯爵家長男、ホルード・カーサードです。そうぞ、ごゆっくりとお過ごしください。」
定型文を不愛想に言ってきたな。そうだよな、第二王子の側近だもんな。俺のことが気に入らないのはわかるが、態度に出すぎだぞ? それは貴族としてどうなんだ? ほら、カーサード卿を見てみなさい。君のことをものすごい目で見ているぞ?
「お初にお目にかかります、アース・サンドールです。この度はよろしくお願いします。」
俺は、完璧な貴族スマイルをうかべて、定型文を返してやった。
この場に微妙な空気が流れたが、「で、では、屋敷で夕食にいたしましょう。外は寒いですからね」という、カーサード卿の気の利いた提案をしてくれたおかげで、誰も反対することもなく、全員屋敷へと入った。俺が大人げなかったかな?
夕食にはカーサード侯爵夫人の、ポポア様の姿が見えた。
夕食はつつがなく終了し、今はお茶を飲んでいる。すると、ケルサス兄上が体調不良を訴えた。
「申し訳ございません、カーサード卿。私は気分がすぐれないので、仮眠をとらせていただいてもよろしいでしょうか? 夜にはオーロラを見に行きたいので。」
やはり、ケルサス兄上は具合が悪かったのか。ここは、俺が送るべきかな。オーロラだったら、来年も見に来られるのにな……。
「ケルサス、体調が悪いのなら、帰らせてもらった方が良いのではないか? 」
すると、マクウェル兄上が提案した。俺もそう思うのだが、しかし、ケルサス兄上は引かないようだった。
「御心配には及びません。寝不足気味でしたので少し仮眠をとれば回復すると思います。」
俺とマクウェル兄上がなんと返したものかと悩んでいると、意外な人から妥協案が提案された。
「なら、俺の部屋で休むか? 俺の部屋が、一番気が休まるだろう」と、ホルード様が提案したのだ。
「ありがとう、そうさせてもうよ。俺もオーロラが見たいからな。」と、ケルサス兄上はこの提案に乗った。
そんなにも、オーロラが見たいのか。まぁ、ケルサス兄上も俺と一つしか変わらない少年だからな。元日にテンションが上がるのは、わかる。
そういうと、ケルサス兄上とホルード様は、応接室を去っていった。
ーー
ケルサス兄上たちが部屋を去った後、俺とローウェルのご家族との歓談が始まった。
「アース様、改めましてローウェルを側近にしていただきまして、誠にありがとうございます。」
「私からも、お礼を申し上げますわ。昔のこの子はなまじ何でもできる子供でしたから、やる気がどんどんなくなっていってしまい……。私も非常に心配していたのですが、キースからアース様のお話を聞いてからというもの、この子は張り切りだして……。」
「母上!!」
ん? この流れはどこかで見たような……、ローウェルにもそういう場面があったのか。面白そうだから、会話を広げてみようかな?
「私もその話は、ローウェルと最初にあった時に聞きましたね。何やら、「くさっていたキースを立ち直らせた私がどんな人か気になった」、らしいですね。」
俺がそういうと、ポポア様が驚いた顔をした。
「まぁ、気になったなんて、とんでもありませんわ。口をひらけば、「アース様にあってみたい」と、「絶対すごい方だから」と懇願されまして……。」
「母上!!」と、ローウェルが勢いよく席を立つ。
へー、そんなに前評判高かったのか。最初にあった時は、もっと飄々としてる感じだった気がするけどな……。猫被ってたのかな? とりあえず、いつものように温かい目を送っておこう。
「な、なんですか主!!」
「いや、別に。そんなに、前評判が高かったなんて知らなかったからな。キースは知っていたか?」と、今度はキースに話を振ってみた。
「いいや、「キースを立ち直らせてくれた、お礼が言いたい」とは言っていたな。」
「へー、なるほど。その件については、まだお礼をしてもらってないな?」
「あ、主……もう、俺泣きますよ?」とローウェルが項垂れてしまった。
ご両親の前で、黒歴史を暴露されているようなもんだもんな。かわいそうだから、このくらいにしておこう。
「すまんすまん。冗談はさておき……カーサード卿、そしてポポア様。ローウェルは文官としても優れていますし、索敵、情報取集にも長けています。私たちに足りないものをカバーし、私たちを陰から支えてくれる大切な仲間です。私にローウェルを任せていただきまして、本当にありがとうございました。」
「お礼を言いたいのはこちらの方ですよ。これからも、ローウェルのことをよろしくお願いします。」
「私からもお願いいたします。」
本当にいいご両親だな。ローウェルもいい奴だから、ご両親の教育の賜物ということだろうな。そういえばそろそろ、オーロラを見に行く時間かな? いじけているローウェルに確認してみようか。
「さて、そこでいじけているローウェル。オーロラを見に行くのは何時ごろだ?」
「……午前零時です。一番きれいに見えますから……」、とローウェルが項垂れながら答えた。
「そうか、わかった。キースに聞いたが、お前のおすすめスポットに連れて行ってくれるのか?」
俺がそういうと、ローウェルは少しうれしそうな顔をした。自分のおすすめなものに、相手が興味を持ってくれると嬉しいもんな。俺もその気持ちは、充分にわかるぞ!
「……少し歩きますよ?」
「行きは大変かもしれないが、帰りは窓で帰るから大丈夫だ。それに、お前のおすすめなら間違いないだろうからな。」
俺がそういうと、ローウェルは天を仰いで、ふっと笑った。
「……はー、もう主にはかないませんね。わかりましたよ。」
「そうか、ならよかった。時間が少しあるし、俺たちも仮眠をとるか。騎士組も交代じゃなくていいから、しっかり仮眠をとれよ? 」
俺がそういうと、騎士組三人が元気よく返事をした。
「よし。では、マクウェル兄上はどうしますか?」
「私は、カーサード卿とお話がしたいからね。ここに残るよ。」
なるほど、マクウェル兄上の目的は、本当にカーサード卿と話すことだったらしい。あんなに目を輝かせている、マクウェル兄上を初めて見たな。
俺たちはカーサード卿とポポア様に退室の許可を得てから、仮眠室へと向かった。




