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アーキウェル国へと帰る転移陣の前まで来ました。
よし、帰りますか。久々のアーキウェル王国だな。俺は側近たちと、忘れ物がないかを確認してから、転移陣へと乗った。
久しぶりの王城だな。すると、俺たちを待っていたのは、予想外の人物であった。
「待っていたわ、アースちゃん。ジル君から聞いたわよね? また、お茶会に参加してくれるなんて、嬉しいわ。」
俺のことを、「アースちゃん」呼びしている、この目の前の美人は、ジルの母親、つまりこの国の第一王妃のフローラ・アーキウェル様である。
あ、ジルがひっそりと側に控えているな。帰ってそうそう、俺のことを報告して、ここで待機していたのだろう。なるほどな、「逃がさない」というわけだな。
「お久しぶりです、フローラ様。あ、あのおそれながら、もう私は「アースちゃん」と呼ばれるような年齢ではないのですが……。」
「まあ! そうね。学園に入学したのだから、ちゃん付けは失礼ね。わかったわ、これからはアース君と呼ぶことにするわね」と、驚いた顔をしながらも、笑顔で了承してくれた。助かった……。俺が一安心していると、俺に攻撃をしかけてくる者がいた。
「母上、アースは恥ずかしがっているだけなので、もう少しの間、ちゃん付けでもよろしいのではないでしょうか?」
は? 何を言っているんだこいつは。ジルのほうを見ると、笑いながらこちらを見ていた。そうか、ジルがそういうつもりなら、俺にだって考えがあるぞ?
「フローラ様、これからは、アース君でお願いいたします。その代わりに、ジルベルト殿下の学園での様子を詳しくお伝えしたいと思います。ジルベルト殿下はずいぶんと、人気があるようですから。」
「まぁ、そんなに人気があるのですか? それは楽しみね」と、ジルのほうを見ながら、フローラ様は大いに喜んだ。
「ア、アース! お前!」
先に仕掛けてきたのはジルのほうだ。これくらいの仕返しは当然だろう。思春期だと、母親といることを恥ずかしいと思う男子が多い。そんな母親に学園での様子を根掘り葉掘り話されたら、羞恥以外の何物でもないだろう。
「フローラ様、お茶会をとても楽しみにしております。いつ頃開催する予定でしょうか?」
「今回は私たちとアース君のお母様のマーガレット様を加えた、四人でのお茶会を企画しています。新春に行う予定でして、他の御婦人方は領地に帰ってしまっていますからね。人数が少ないかわり、ジル君のお話をたくさん聞けそうですね。私も楽しみです。」
今回は、お母さま方のおもちゃにされずに済みそうだな。これは、一安心だな。
「わかりました。お茶会を楽しみにしております。ジルベルト殿下、フローラ様、よいお年を。」
「えぇ、アース君。よいお年。」
「……よいお年を」と、ジルが恨めしそうな顔でこちらを見てきた。
そんな顔して、見てこなくたっていいじゃないか……。別に普段の様子を話すだけだよ?
ーー
俺たちが窓で屋敷へと帰ると、父上と母上が出迎えてくれた。どうやら、兄上たちはまだ帰ってきていないようだな。俺に迎えの指示が来ていないからな。
「父上、母上。兄上たちは、まだ帰ってきていないのですか?」
「うむ。準備に時間がかかると言っていたが、夕食までには帰ってくるだろう。」
「わかりました。では、部屋に荷物を置いてきますね。みんな、行こうか」と、俺が言うと、側近たちは荷物を持って移動し始めた。
ーー
今は俺の部屋にて、夕食の時間をみんなで待っている。
「今日は二十六日だから明日、みんなを窓で送るな。それから、元日に迎えに行く。こんな感じでいいか?」
俺がそう皆に問いかけると、全員から了承の返事がきた。
「それで、ローウェルの領地には一泊二日くらいで滞在しようかと考えているが……、元日は避けた方が良いか?」と俺がローウェルに問いかけると、ローウェルは笑って手を振った。
「大丈夫ですよ、主。いつも、同じような年始を過ごしますからね。たまには、客人がいた方が両親も喜ぶでしょう。」
「わかった。じゃあ、元日に一泊させてもらおうか。他の三人はどうする、来るか?」と他の三人に確認すると、三人とも食い気味に「行く」と答えた。
三人とも、実家に帰るのは、本当に少しでいいみたいだな……。そういえば、カーサード領は何が有名なんだろうか? 俺は、ローウェルに尋ねてみた。
「冬の観光地として人気ですね。冬になると、オーロラが見れますよ。」
オーロラか、前世ではテレビでしか見たことがないからな。生で見てみたいな。
「オーロラか、それは見てみたいな。よし、案内してくれな。」
そういえば、アスタ以外は兄弟がいるよな。どういう話をするんだろうか? 俺は兄上たちとは学園ではあまり会わないが、倒れたときなどは心配してきてくれるからな。みんなはどうなんだろ?俺は三人に、兄弟とは普段、どのような話をするかを聞いてみた。
「俺は特には何も話さないな。俺が雷属性だとわかってから、兄上と姉上の俺に対する興味が無くなったようだ。」
「私もだね。成長してからは、あまり話さなくなったね。」
「俺もですね。俺が主の側近になってから、無視されるようになりました。」
……なんか、聞いてごめんな? それにしても、ローウェルの言ったことはどういう意味なんだ?
「俺の兄は、サーカス第二王子殿下の側近なんですよ」と、ローウェルが冷たい目で応えた。
……なんとなくわかった。
俺が、第二王子殿下の側近にならなかったからか。まったく、うちのケルサス兄上を見習ってほしいものだな。
ーー
夕食の時間になりました。
どうやら、兄上たちも夕食の時間に間に合ったようで、俺が迎えに行ったのだ。今は、久しぶりの一家団欒だ。
「アース、お前が右足に重傷を負い倒れたとマクウェルとケルサスから報告が上がった時は、肝が冷えたぞ。危うく、仕事を放り出して駆けつけるとこだったぞ!」
この国の宰相が、仕事を放り出すのはまずい。これからは、父上たちに心配をかけないようにしなければな。
「そうよ、アース。お母様も、とても心配したのよ。もう危険なことは、しないで頂戴ね?」
「ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。これからは、おとなしく過ごしたいと思います。」
「……アースがおとなしく? それは無理じゃないかな?」と、マクウェル兄上が、不安げに言った。
「そうだな。アースに限ってそれはないな。学園でも注目の的だしな」と、ケルサス兄上が続いた。
何とも失礼な兄たちである。こういう時は、話題を変えるに限るな。
「……それよりも、年始の過ごし方ですが、私は側近たちと一緒にカーサード領へ行こうと思っております。以前、ランド様にお会いした時に是非領地に来てほしいと言っていただけたので。加えて、ローウェルの側近の件でご挨拶も兼ねたいと思っております」と俺は貴族スマイルを浮かべて、話題の転換を図った。
「財務大臣の所か。あの方はよくできたお人だからな。しっかり、ご挨拶をしてきなさい。」
反対はされなかったな。子供だけで行くなと、言われるかと思ったが……、今更それは言わないか。
「確か、カーサード領はオーロラが見れたはずよね? アースも見てくるのかしら?」
「はい、その予定です。」
母上たちは、デートとかで、見たことがあるのかな? 俺がそんなことを考えていると、マクウェル兄上から意外な提案があった。
「オーロラか……私も見たことがないな。アース、私も行ってもいいか?」
「マクウェル兄上もですか?」
「うん。私は将来のために、財政関係のことも学んでおきたいからね。カーサード卿に是非お話を聞きたいんだよ。」
「私はいいですけど……」と言いながら、ローウェルの方を見ると、笑顔でうなずいている。
「ローウェルがいいと言っておりますので、かしこまりました。是非、一緒に行きましょう!」
「ありがとう、アース、そしてローウェル。」
すると、ケルサス兄上も続いた。兄上たちも、思春期患いで、家にいたくないのかな?
「俺も行ってもいいか? ホルードもいるだろうしな。」
ホルード? 聞いたことがない名前だな。でも、カーサード家にいるということは……。
「ホルード様とは、ローウェルのお兄様のことでしょうか?」
「あぁ、そうだ。ホルードとは、側近仲間だからな。」
「そういうことでしたか、わかりました。ただ、お顔の色がすぐれないようですけど大丈夫ですか?」と、俺は聞いてみた。何しろ、ケルサス兄上の顔が青白いのだ。貴族は隠すのがうまいが、さすがに顔に出すぎている。
「本当ね。ケルサス、体調が悪いのかしら?」と、母上も気づいていたようだった。
「いいえ、母上。少し、移動疲れをしてしまったようです。アース、元日には治っているだろうから、頼む。体調が戻らなかったら、おとなしく家で寝ているから。」
まあ、そこまで言われたら断る理由もないよな。俺は、了承しておいた。
それにしても、ケルサス兄上は第二王子殿下のことをどう思っているんだろうか? 俺は、第二王子殿下とその母親は、色々と怪しいと思っている。しかし、ケルサス兄上が何も言ってこないということは、気のせいなのかもしれないな。この分だと、内通者探しが面倒くさくなるな。




