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「アイバーン帝国第一皇子殿下、このような大事なお話を他国の私などに話してもよろしいのですか?」
「お前は信頼できる、だからいいんだ。」
「お話しするのは、今日が初めてですよね?」
「そうだな。しかし、俺はお前を観察し、アイザックにも調べさせた。それによると、お前は側近と、さらに主のジルベルト殿下とも友人関係、もとい対等な関係を築いているようだな。」
まあ、おっしゃる通りだな。それにしても、観察する意味も含めて、俺のことを見ていたのか。それに、俺のことを調べただと? 全くそんな気配を感じなかった。あとで、アスタやローウェルに聞いてみよう。
「俺とアイザックの関係に似ていると思い、信頼できると判断した」、そう言いながらラインハルトは笑った。
「そ、そのような理由でですか? それは上辺だけのもので、他人をだます演技だったかもしれないのですよ?」
「そうだな。しかし、あの魔法戦でお前らが見せた行動で確信した。主や仲間のために、体を張って戦ったアース、主のもとへ迷わず飛びこんで言ったお前の側近、そして、泥だらけ、血だらけの部下を迷わず背負ったジルベルト殿下。この行動を見ても、これが上辺だけの信頼関係だと言い切れるか? もし嘘だったら、自分の選択眼を恥じよう。」
「……わかりました。それで、アイバーン帝国第一皇子殿下、私に何をお望みなのでしょうか? 側近が一人だという秘密を打ち明けたかった、それだけではないのでしょう?」
「あぁ、そうだな。俺がこの学園に入学した目的の一つは、信頼できる友人を探すためだ。国内の貴族は、色々と面倒くさいのだ。対等な友人関係なんて、築くことができない。この先、俺は順調にいけば皇帝になるだろう。そんなとき、せめて国外に信頼できる友人がいてくれたらと思ってな。情けない話だろう? 俺はお前のような人物と、友人になりたいと思ったのだ。たしか、アースはあの第二王子に「私の欲しいものはあなたに用意できない」と断言したな? お前が欲しい物とは、今俺が欲しているものと近しいのではないか?」
そう言うとラインハルトはお茶を飲み、そして窓の側へと移動した。
ラインハルトは今まで、アイザックがいるとはいえ、ほとんど一人で戦ってきたのだろう。国内の貴族はラインハルトに対して、敵対なり、取り入るなりで、まともな友人関係なんて築けなかったのだろうな。そこで、国外にそれを求めた。
俺の欲しいものと近しいか……。それは、そうかもしれない。俺は、この異世界生活を一緒に満喫できる仲間が、時に助け合い、笑い合い、そして間違えたときには叱ってくれる、そんな仲間が欲しいのだ。
アイバーン帝国の第一皇子がここまで言ってくれているんだ、俺と話しをするまでに散々調べ、悩んだのだろう。ここで断るなんて、そんなひどいことはしない。
「光栄です、アイバーン帝国第一皇子殿下。私が欲しいものと確かに近しいと思います。私でよければ是非、よろしくお願いします。」
「そうか! ありがとう! なら、まずはその堅苦しい呼び方をやめて、好きに呼んでくれ。」
「では、ラインハルト殿下と呼ばせていただきます。」
「ハルでもいいんだぞ?」
「いえ、流石に帝国の第一皇子殿下をそのような……。」
「頼む。」
「……時と場合によります。」
「あははははははは! それでいい、いい返事だな!」
「その反応、私の友人とそっくりですね。今度紹介しましょうか?」、と俺が言うとハルはふっと笑った。
「お前の友人か、それなら信頼できそうだな。」
国主コースでほぼ毎回、会っていると思いますよ。それも含めても、ジルとラインハルトは結構気が合うと思うんだよな。なんというか、ノリが似てると思う。
「あ、そうだ。アース、どうやら放課後に面白いことをしているようだな?」
何のことでしょうかと、俺が素知らぬ顔をすれば、ハルは俺に詰め寄ってきた。
「お前がつくった、同好会だよ! 俺も今度、連れて行ってくれ。」
まあ、そうだろうとは思ったけどな。別に拒む理由は無いし、ジルには事後承諾となってしまうので、申し訳ないけどな……。
「……わかりました。明日御都合はどうですか?」
「明日か、いいぞ。楽しみにしている!」
同好会のメンバーが豪華になってきているな。メンツが濃すぎて、倒れそうだ。
ーー
その夜、ジルたちが今日の茶会の報告を聞くために俺の部屋へとやってきた。
俺は、第三者視点で話してもらった方がうまく説明できるだろうと考え、ローウェルに今日の出来事を説明をしてもらった。
「なるほどな、ラインハルト殿下と友人にか……。お前は、王族・皇族を引き寄せる才能でもあるのか? 」
俺の方が聞きたいよ……。それよりも、ジルもラインハルト殿下とは気が合うと思うということを伝えてみた。
「どうしてだ?」と、ジルが怪訝そうに尋ねる。そんなに警戒しなくてもいいんじゃないだろうか?
「俺が、「時と場合によります」って言った時の反応が、そっくりだったからだよ。ジルにとっても、国外の皇族と友人になれるのは、悪い話じゃないだろう? 明日の同好会で、少し話してみないか?」
「そうだな。俺も、話してみたいな。アースが気が合うと言っているんだ、多分そうに違いないからな。」
それならよかった。俺たちは明日に備えて解散した。
ーー
木の日の放課後になりました。今日は、部室でリバーシを行う。
「では、自己紹介……は必要ですか? 二人とも?」と、俺は二人の殿下に尋ねてみた。
「いいや、前に済ませているから大丈夫だ。ラインハルト殿下はどうですか?」
「俺も大丈夫だ。」
「……そうですか。では、リバーシをしましょうか。」
……なんというか空気が重いな。やはり、二人とも貴族モードでいるのだろう。いきなり仲良く話してくれ、といってもそうはいかないだろうからな。この空気に引っ張られて、側近たちも緊張しているようだ。ここはいったん、ばらすか。
「みんな、ちょっといいか? 少し、間を置こうか。ジルとラインハルト殿下はここに残ってください。側近たちは、部室前で待機するなり、訓練場で訓練するなり自由に過ごしてきてくれ。ローウェルとアスタは、アイザックと情報収集ついて情報交換をしておくんだぞ。俺たちが気付けなかったんだからな。」
俺の提案に、側近達はみんな同意してくれた。側近一同も息がつまっていたのだろうな。早速、体を動かしてきてもらいたい。二人の殿下も、渋々了承してくれたようだ。
ーー
それから、部室には三人きりとなった。
「さぁ、この部屋には三人だけだ。そろそろ貴族モードを解け、二人とも。側近たちも、気を張ってしまうからさ。」
俺がそういうと、若干ではあるが、空気が和らいだ。でもまだ、空気が張り詰めているな。何とかしなければ。
「王族・皇族同士で、色々あるのはわかるが、少し素で話してみないか? それとも、俺も退席しようか?」
「いや、そのままでいいアース。ラインハルト殿下、少しお話しましょうか。ラインハルト殿下は普段どのような音楽を……」と、ジルがつまらない話を始めようとした。
「おい、ジル。素のお前は、音楽の話なんかしないだろう? もっと、お前の好きな料理でも魔法でも剣術でもいいから、そういう話をしろよな。」
「音楽の話はいつもしているぞ!」
よし、この調子でいつものジルを引き出せるように頑張ろう。
「それは、お母さま方や先輩の女子生徒とだろ? 無駄にモテるから、そんなつまらない話題がいざというときに出てしまうんだぞ?」
「無駄にモテるとは、どういうことだよ! 俺だって好きでモテているわけでは……。」
俺とジルがいつものようにい合いをしていると、ハルが急に笑い出した。
「あははははははは! いつも、こんな会話をしているのか、二人は! 実際見ると、本当に仲がいいんだな。」
「そ、それは……」と、ジルが下を向いてしまった。
「いつもこんな感じですよ、ジルは。カレーが好きで、剣と魔法の訓練が好きな、普通の少年です。」
「おい、アース! 少し黙ってろよ!」
「別にいいだろう? ジルもラインハルト殿下も、こういう会話を望んでいますよね?」
「お、俺は……」と、再びジルが下を向いてしまった。そんなジルに対してハルが語りかけた。
「ジルベルト殿下、いや、ジルと呼んでもいいか? 俺は、こういう風に会話をしたいと思っている。どうだろうか?」
ハルの言葉を受けて、ジルは少し考え込んだ。そして、ゆっくりと顔を上げた。どうやらジルも覚悟が決まったようだな。
「俺も、アースから話を聞いて、殿下とお話ししたいと思っておりました。是非、ジルと呼んでください。」
「そうか、ありがとう。なら、俺のこともハルと呼んでくれ。」
「わかった、ハル。」
それから、二人は色々な話をし始めた。最初はたどたどしかったが、時間がたつにつれてお互い、笑顔が増えたようだ。
「ジル! そのカレーという食べ物は何だ? 聞いたことがないぞ!」
「あぁ、それはアースが作った料理だよ。こいつの料理より、うまいものを俺は知らないな。」
「は? アースが料理をするのか? 公爵家なのにか?」
「そうだぞ。アースは料理もするし、家庭菜園もしていたな。」
「は? こいつは本当に貴族か?」
「一応はな、なんちゃって貴族だがな。」
「なんちゃってはお前だろう? 城から脱走して、毎日視察に行っていただろう?」
「毎日はいっていいない!」
「それは、視察に行っていることをほとんど認めているぞ。」
「そ、それは……。」
「あははははははは! やはり、お前たちは面白な! アース、今度俺にも料理を作ってくれ!」
「あー、じゃあ、今週ラインハルト殿下も一緒に俺の部屋で食事をとりますか? ジルは毎週のように来るんですよ。」
……。
「あの、ラインハルト殿下?」
どうしたのだろうか、急に不機嫌になったぞ。
「あの、俺の部屋はまずかったでしょうか? でしたら、ラインハルト殿下のお部屋でも……。」
「呼び方。」
はい? 呼び方がどうしたのだろうか?
「いつまで、俺のことを、「ラインハルト殿下」と呼ぶんだ?」
そ、それは……。やはり、皇族の方ですし……と、俺がやんわりと断ると、ハルが俺に詰め寄ってきた。
「ジルベルトのことは、ジルと呼ぶのにか? それに、その丁寧な口調もやめろ。」
(「チッ!」)
面倒臭いな、本当に。人前では気を付けるにしても、他にも優秀な諜報員がいるかもしれないのだ、アイザックのようにな。だから、気を付けようと思っていたのに、この皇子は……。
「おい、アース! 俺は生まれて初めて舌打ちをされたぞ? 」
おっと、聞こえていたようだな。
「あははははははは! ハル、あきらめろ。アースは、こういうやつだ。誰に対しても平等に接するが、裏を返せば王族・皇族にもこういうことをする奴だ。」
「な、なるほどな……。」
「俺がいろいろ考えているのを知らずに……。はぁー、わかったよ。ハル、これでいいか?」
「それでいい!」
「で、今週来るのか? 俺の部屋に。」
「いくぞ、もう腹が減ってきた!」
「ハルも、年相応に少年だな。」
「お前、なんかバカにしているな?」
「してないよ。苦手な食べ物はあるか?」と、俺が尋ねると、ハルは一言、「ピーマン」とだけ答えた。
「あははははははは! やはり少年だな! 安心しろ、ピーマンは入っていない……夏野菜カレーなら入るっけか?」
「お前、やっぱり馬鹿にしているだろ!」
こうして、今週は俺の部屋でカレーパーティーを開催した。ハルもアイザックも、満足そうに帰っていった。




