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その後、授業では氷属性を選択して、モール先生とのマンツーマン指導により、静かな時間を過ごした。
「そうだ、ようやくお前らの同好会の部室が用意されたぞ。これがカギだ、なくすなよ。」
これはうれしい。いい避難場所になるし、ボードゲームなども落ち着いてプレーすることができる。それに、昼食もとることができるしな。
ーー
そうして授業が終わり、教室でのホームルームも終わった。
「サンドール様、これからご予定はございますか? よろしければ、私たちと昼食をご一緒しませんか?」
俺の目の前に、魔導士コースの女子が四人ほど現れた。なるほど、これは考えていなかったな。たしかに、金の日は俺のガードが緩くなるから、昼食にも誘いやすいのか。ただ、一度でも引き受けると面倒くさそうだな。
「サンドール様、私たちとご一緒しませんか? 男性同士だと、お話もしやすいかと思います。」
次に現れたのは男子の二人組だ。まぁ、確かに女子四人組と昼食をとるよりは、こちらの方がましだが……。
「申し訳ございません、私は友人と昼食をとる約束をしておりますので。」
これが無難な解答だろうな。
「その友人とは、いつも教室前で待っておられる四人の方々ですか? もしよろしければ、そのご友人方も一緒で構いません。」
「私たちも同じですわ! ぜひ私たちとご一緒しましょう!」
なかなか食い下がるな。では次に、『俺たちは弁当だから』作戦に出るか。弁当を持っていないであろう人は、これで引き下がるに違いない。
「私たちは弁当を持参しているのですが、皆さんはどこで食事をとっておられるのですか?」
俺がそう二組に問いかけると、どちらとも食堂だと答えた。食堂で彼らが食事をとってる中、俺たちが弁当を食べるのは少し気が引けるよな。俺はまた、後日ご一緒しましょうと伝えた。
「ならば、アース様たちも食堂でお弁当をお食べになりませんか? 私たちは構いません!」
「私たちも、構いませんわ!」
うん、これはどうしてもひかないようだな。これ以上断るのも悪いし、それに俺も魔導士コースの友人をつくるべきだな。
「わかりました。では、今回と来週の昼食をご一緒しましょう。本日はどちらになさいますか?」
俺がそういうと、女性たちが、自分たちも来週にはお弁当を用意すると言って、男子二人組に譲った。えーと、この二人の名前は確か……。俺が言い淀んでいるのに気付いたのか、二人が自己紹介をしてくれた。
『クリス・ミーナイトです。こちらは、友人のジョン・シャンベルです。』
『ジョン・シャンベルです。よろしくお願いします。』
そうだ、確かクリス様は初日の授業で、モール先生の質問に答えていたっけな。その後お互いの自己紹介をしてから、俺たちは教室を出た。俺は側近に目でアイコンタクトを取り、食堂へと向かった。幸い、サンテリアの第一王子は待ち構えてはいなかった。第二王子がやらかしたから、少しは自重してくれているのかな?
ーー
食堂って何気に初めて来たな。俺が側近たちを紹介しようとすると、キースに制された。
「失礼。お二人は以前、私たちとどこかでお会いしましたか?」
「本当か、キース?」
「あぁ、アースも以前に見かけているのではないか? 薬草研究会の部室前で。」
薬草研究会の部室前であったことがある? それだと、シリル殿下かウルノ先輩の関係者か……。
あ、思い出した。俺が思い出したと同時に、二人がふっと笑った。
「はい、以前お会いしていますね。私たちはシリル殿下の側近を拝命しています。」
そうだ、あのとき一回すれ違っただけだから、思い出すのに時間がかかってしまった。ということは、俺と昼食をともにしたかったのは、シリル殿下の側近の件からなのだろうか? 俺はそう尋ねてみた。
「それもあります。殿下と友人になって頂いたことには大変感謝しております。ただ、それ以上に魔導士としてサンドール様のお話を聞きたいと思い、この度声をかけさせていただきました。特にこちらのジョンが、大変感動したようで……。」
クリスに話を振られると、ジョンが勢いよく立ち上がった。
「お、俺すごく感動しました! 魔法の種類の豊富さや威力にも感動しましたが、それ以上に戦略に心を打たれました。天候や気温、バトルフィールドまでをも利用する戦いぶりに、興奮が抑えれませんでした。自分と同じ一学年の魔法戦には思えず、自分の努力が足りないなと思い知らされました。サンドール様と是非、魔法談義や訓練のお話がしたいと思いました。……いきなりこのようなことを、長文で話してしまい、申し訳ありませんでした!」
こういう、まっすぐな好意はやはり悪い気はしない。シリル殿下の側近ということで、信用もできるしな。
「いいえ、構いませんよ。ぞれほどまでに感動していただけたなんて嬉しいです。私自身は、大勢の前であのようなボロボロな姿をさらしてしまい、大変お恥ずかしいと思っていたのです。」
「恥ずかしいなんてとんでもないです! 主や側近のために、あそこまで戦えるなんてすばらしいと思います。私も主を持つ従者の身として、見習わなければならないと感じています。」
「そう言っていただけると、嬉しいです。そういえば、こちらの紹介がまだでしたね。」
それから俺は側近たちを友人として紹介しようとしたが、シリル殿下には空間属性のことが知られてしまっているので、友人設定は必要ないと考えた。そこで俺は普通に、俺の側近としてキースたちを紹介した。側近同士、仲良くしてくれるとうれしいな。
「そうだ。お二人とも、私たちはクラスメイトなので、是非私をアースとお呼びください。」
「ではお言葉に甘えまして、私もクリスとお呼びください。」
「俺のことも、ジョンと呼んでください!」
「これからよろしくお願いします、クリス、そしてジョン。」
それからしばらく、俺たちは会話を楽しんだ。
ーー
月の日である。今日は久しぶりの美術の授業がある。
オーガスト先生にもご心配をおかけしたかな? まあ、あの先生の狙いは俺の昼食と工作のアイデアだからな。一応、心配してくれてると嬉しいけど……。
俺がいろいろと考えていると、教室の前に着いた。側近たちに見送られて、俺が教室に入ると、二人の殿下たちと目が合った。しかし、何事もなかったかのように、俺は一番後ろの席に着いた。
すると、すぐに先生が教室に入ってきた。
「こんにち……アース君!! 大丈夫だったかい? 私はアース君に何かあったらと思うと工作をする手を止められず……。」
「オーガスト先生、その話はまた後でにしましょう。授業時間が過ぎています。
「そ、そうですね。では、授業を始めます。」
オーガスト先生は、まだ話し足りないという顔をしながらも、渋々授業を始めた。この人は本当に教師なのだろうか?
ーー
オーガスト先生は、授業終了と同時に、俺の方へと駆け寄ってきた。切り替えが早すぎるな?
「昼食ですか? すぐに用意させ……。」
俺が昼食を用意しようと先生に声をかけている途中で、話が遮られてしまった。視界に移るこの真っ赤な髪は……。
「アース・サンドール様、俺と話す時間を少々いただけないだろうか?」
遂にこの時が来たようだ。
声がかけられた方向を向くと、そこには案の定、真っ赤に燃える髪と瞳があった。




