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「やぁ、アース。もう体調はいいのかい?」
「はい、大丈夫です。ご挨拶が遅くなってしまいましたが、あの時は庇ってくださって、ありがとうございました。それから、応援もしていただいたそうで。」
「友人として当然のことをしたまでだよ。それに、アースの魔法戦はすごかったしね。俺にとっても勉強になったよ。」
俺とシリル殿下の話がひと段落した後、ウルノ先輩薬草園へ行こうと言ってくれた。俺たちはがウルノ先輩の言葉に従い、薬草園へ行こうとすると、ローウェルに止められた。珍しいな、ローウェルが俺たちを止めるなんて。
「恐れながら、シリル殿下にお尋ねしたいことがございます。」
俺ではなくて、シリル殿下にだと? いったいどういうことだろう? それよりも、他国の王族相手にこれはまずいのではないだろうか? 俺が止めようとすると、意外にもシリル殿下から、了解の言葉が出た。そして、ウルノ先輩に先に薬草園へいってもらえるように願い出た。ウルノ先輩が心配そうにこちらを見ながら部室を後にした。
ーー
「おい、ローウェルどうしたんだ? そんな厳しい表情をして?」
「主、下がってください。」
「主って、お前……。」
「あの決闘の時、シリル殿下は我々と一緒に観客席におられました。その時のご様子から、シリル殿下は主が空間属性持ちであることを知っているように思えました。ですから主、お下がりください。」
な!
これはまずい。王族に空間属性のことが知られているなんて。どこから漏れたんだ? まさか、シリル殿下とジーマン殿下がつながって……。
「はははははは!」
へ? すると、シリル殿下が笑い出した。なぜこの場面で笑うんだ?
「すまない、すまない。まぁ、そう警戒はしないでくれ。どこからか、情報を仕入れてきたわけじゃないからね。俺自身が、そうではないかと思っただけだよ。俺は、アーキウェル王国に空間属性持ちがいることは知っていた。だが、それが誰だかは全く知らなかった。しかし、アースとその友人たちを見て、アースが空間属性持ちではないかと思っただけだよ。」
ローウェルたちを見て、俺が空間属性持ちであると思ったのか? それはどういうことだろう?
「不思議そうな顔だね。アースと、ローウェルたちは学園内では友人を演じているようだけど、実際はアースの側近だろう? 俺はそれに気づいただけだよ。何せ、俺も側近を抱える身だからね。普通の貴族だったら、友人同士に見えるかもしれないが、側近を抱える王族の中には、気づく者がいても不思議ではないよ。そして、王族ではないアースが側近を抱える理由を考えたら……。あとはわかるかな?」
なるほど、よくわかった。同じ側近持ちである、シリル殿下の目はごまかせなかったわけだな。そうすると、他の王族にも……。俺が心配をしていると、ローウェルが自分たちの力不足ですみませんと謝ってきた。俺がすかさずフォローを入れようとすると、シリル殿下からの補足が入った。
「ローウェル、そう悲観することはないよ。さっきも言ったけど、一部の者以外には友人に見えるほど、完璧に近い演技だったよ。しかし、優秀な側近ほど随所で主のための気遣いが出てしまうものだよ。立ち位置であったり、会話、そして食事などであったりね。ローウェルはいつもアースが会話をするのを待ってから発言していただろう? あとは、立ち位置も傍目には横に並んでいるように見えたが、実際はいつでもアースを庇えるような位置に立っていただろう? まぁ、先程からいっている通り、一部の者にしか気づけないほどの差だ。ローウェルたちが、優秀な側近であるということには変わりはないよ。」
「私たちへのご説明感謝いたします、シリル殿下。重ねて、この度の私の側近の無礼をお許しいただけますか?」
「構わないよ。俺も言わずにいて、すまなかったね。アースたちが隠しているようだったから、言ってもいいかわからなくてさ。」
俺たちは重ねて感謝の意を述べた。
「さぁ、この話は終わりでいいかな? アースの件は誰にも話さないと約束するよ。」
度重なる配慮に感謝しないとな。俺は重ねて、魔法実技の授業で私の空間属性を開示する必要があると思っており、後期からは、開示していきたいと考えていることを話した。
シリル殿下はそれまでは黙っていてくれることを約束してくれた。話が落ち着くと、薬草園に行こうということになった。ウルノ先輩が心配しながら待っているだろうしな。
それにしても、シリル殿下が優しい方で本当によかったな。しかし、王族の中には気づいてる人もいるかもしれないな。例えば美術組のお二人とかな……あ、だからラインハルト殿下は俺をチラチラ見ていたのかな?
ーー
水の日の放課後。
昨日は薬草研究会に顔を出し、シリル殿下に挨拶がしたかったので、学園長室訪問を本日に伸ばしてもらったのである。
学園長室に入るのなんて、緊張するな。だが、あの事をしっかり片付けないとな。俺はノックして、扉を開いた。
俺たちが中に入ると、そこには椅子に腰かけたロリ……学園長がいた。俺が第一声で、止めてくれたことにお礼を言うと、学園長は気にする必要はないと首を横に振った。
「学生を守るのは教師の役目じゃ。気にするでない。では、本題じゃ。まず、ジーマン・サンテリアについてじゃが、大勢の人数の前での侮辱発言が処罰の対象となり、前期の間寮での謹慎処分となったのじゃ。」
まぁ、妥当な判断だろう。処罰の対象と言えば、俺たちへの侮辱発言くらいしかないからな。
「それから、ジーマン・サンテリアからの手紙を預かっている。」
俺は受け取って手紙を読んでみた。
内容は、決闘の時に書面で残した「二度とアース・サンドールの周囲の人間を侮辱しないことを誓約するもの、そして今回の件に関する謝罪」が、主なものだった。
そして要約すると、遠回しな謝罪に加えて、俺自身が誓約の範囲に含まれていないから覚悟しておけ、という感じか。
よし、破ろう。
「お待ちください、アース様! お気持ちはわかりますが、さすがにそれはまずいです!」
俺の行動を止めてくれたのアスタだった。あぁ、危なかった。衝動的に破るところだったぞ。止めてくれてありがとう、アスタ。
「俺(私)も破っていいと思う。」
「俺もです、主。」
やっぱり、そうだよな? 他の三人も、俺と同じことを考えていたらしいな。じゃあ、早速……。そして、再びアスタに止められた。
俺たちがそんなやり取りをしていると、あきれた声で学園長が口をはさんできた。
「お主ら、元気じゃのぅ。だが、それは公式なものじゃ。破るのはなしで、頼むのじゃ。」
「は、はい。申し訳ございませんでした。」
俺たちはその後、学園長からの退室の合図を受けて学園長室を後にした。それから、手紙の保管はアスタに任せた。俺たちが持っていると、破いてしまいそうになるからだ。
それから、ジルのおかげで木の日も乗り切ることができた。しかし、本日金の日は魔法実技の授業があり、俺はボッチである。格好のねらい目だ。
こればかりは、しょうがないな。今はクラスメイトのことよりも、サンテリアの第一王子を警戒した方がよさそうだしな。そうして、俺は教室へと足を踏み入れた。
『サンドール様、お待ちしておりましたわ!』
『サンドール様、あの魔法戦は本当にすごかったです!』
『サンドール様、是非とも魔法のコツを教えてください!』
『サンドール様は、どの部活に所属しているのですか?』
『サンドール様、体調はもうよろしいのですか?』
あーーーー、俺は白目になりそうなのをぐっと我慢して、貴族スマイルを張り付けて無難に対応した。
わかっている、クラスメイトに悪意のないことは……ただ、面倒くさい!




