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くそっ! 反空間結界なんて、まったく警戒していなかった。これはまたしても後手に回った。いや、それよりもかなりまずい。なぜなら最強の盾でもある、大窓を封じられたからだ。雷の上級魔法に対処する方法は……。
……俺の命にもかかわるが、やるしかないな。
『恣意雨 強』
俺は、大雨を展開した。
「水魔法の威力を上げる気か。あははははは! 馬鹿め、雷魔法の威力も上がることを知らないのか!」
そんなこと、知ってるさ。何せ俺が、デーブンたちを相手に使った手だからな。俺の狙いはそこではないんだよ!
『雷槍』
『氷壁 二重』
『氷弾』
「あははははは! どこを狙っているんだ? それに、ガードもやっとだな!」
『氷弾』
「おっと、だからどこに打っているんだ? 魔法のコントロールもろくにできないようだな! 運び屋風情には、荷が重かったか!」
『氷弾』
「はー、もういい。興が醒めた。もう、くたばれ。」
よし、準備は完了だ。しかし、あと少し時間を稼ぎたい。すると、ジーマン殿下が詠唱を始めた。
『雷の帝王に希う、俺様に御身の御力の一端を授け給え、
ついに来たか。まずいな……まだ時間が足りない。ここは……致命傷だけを避けるべきだな。
『氷壁 五重』
願わくはその御力で我が願いを叶え給え、轟雷降誕」
「ぐああああああ!!」
「あははははは! ガードしきれなかったようだな。その様子じゃ、まともに立てないだろう。あははははは!」
くそ、痛すぎて頭がおかしくなりそうだ。それに痺れていて足の感覚がない。やはり、完全にガードができなかったな。この右足は……もう使えない。
俺の右足はやけどに出血と、酷いけがを負い、骨が見えているところもある。
「アース(様)!」
「主!」
みんなの声が遠く聞こえるな、そうだよな。俺がこんなひどいけがを負うなんて、初めてだもんな。もう感覚がない。意識が……いや、あと少しだ、持たせろ。
『拘束しろ 水牢』
『氷鎧』
大きな水球が、ジーマンを包み込むと同時に俺は、氷鎧をまとった。
氷鎧。文字通り氷の鎧を体に纏う、氷の補助魔法だ。低温耐性と、物理耐性が付与される。
『嵐怒』
「き、貴様!! この俺様を水に閉じ込めるとは! もういい、終わりだ! 俺の魔力量は多い、もう一度上級魔法を放つなどたやすいからな!」
風で水牢を吹き飛ばしたか。水牢は水の中に対象を閉じ込める。それによって、対象は溺れるのだ。逆鱗に触れてもおかしくはない。
『雷の帝王に希う、俺様に御身の御力の一端を……
「おい、いいのか? そのまま詠唱しても?」
(ふん! はったりだ、もうこいつに打つ手なんてない。このまま上級魔法を放って終わりだ。それにしても、体が冷たいな……。)
「足元を見てみろよ。」
授け給え(足元だと……水が足首までたまっている……。いや、待てよ。このまま、雷魔法を放てば俺も……。)
よし、詠唱が止まったな。
「ようやく気付いたか、そうだ。轟雷降誕は、周囲に放電しながら対象を貫通する。その放電を行えば、水につかっているお前も感電するだろう。それでよければ、そのまま詠唱を続けろよ。」
「(ふざけるな。このバトルフィールドは、排水溝があり、水なんかたまらないはずだ。それなのにどうして……排水溝に氷が詰まっているだと! そうか、あのどこに打っていたかわからない氷弾は、排水溝を詰まらせるためだったのか! そして、この強い雨とさっきの水の球は、水を少しでも早く貯めるためか……。) ふん! ならば、風で攻撃するまでだ。調子に乗るのも……。」
『氷柱雨』
『風壁』
「は! お前の攻撃なんか届かないんだよ、風の上級……。」
『恣意雪』
俺が降らせた雨と雪とが混ざり合い、みぞれ雨となって降りそそいだ。ここだけ見ると、異常気象だよな………。
「ふん! 今度は雪か、こんな攻撃でも何でもないものなんか……(さ、寒い。体が、震えている。まぁ、いい。このまま上級魔法を放っておしまいだ。)」
『か、風の女王に希う、お、お、お、お、れれれれ、ささ、さ、ま、ままま……(ふざけるな! 震えで、口が回らない。)
「低体温症。生粋の王族、いや、この世界の住人には聞きなじみのない言葉か……。」
「お、お、ま、あ、……。(こいつは何を言っているんだ?)」
「お前は今、充分な体温を維持できなくなっているんだよ。簡単に言えば、生身のお前は今、生命の危機に立たされているんだ。」
そう。俺の狙いは、低体温症による戦闘不能だ。
「ほぼ戦闘開始時からの強い雨、そして俺の氷魔法により、周囲には氷の残骸が無数にある。そして、さっきの水牢でさらに全身を濡れさせ、加えてお前は自身の風魔法で冷気をまき散らした。そして、最後にこのみぞれ雨だ。低温に耐性のない人間は、この環境に耐えることはできない。俺は氷属性もちである上に、この氷鎧を纏っている。」
「は、は、は、(言っている意味は分かるが、いくら耐性があるとはいえ、あいつもこの寒さはきついはずだ。こんな捨て身の策を……。なぜなんだ!)」
『氷の女王に希う、
終わらせてやる。もうこいつを倒すことしか考えられない……。寒い、痛い……。
「ま、ままままま、ええええ、こおおおおお、ささ(ふざけるな、この状況に加えて、氷の上級魔法なんて放たれたら、俺様の命が!)!」
我に御身の御力の一端を授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え給え、白銀(世界)」
「そこまでじゃ!」
『拘束しろ 蔓の縛』
俺の口は蔓によって、閉ざされた。この声と、姿はロリババアもとい、学園長か。俺の詠唱が止まらないとみて、物理的に口を閉ざしてきたようだ。
「このままじゃと、両者の生命の危機じゃと判断して、止めさせてもらったのじゃ。モール先生、コールを。それから、お主。この天候を解除するのじゃ。」
「勝者 アース・サンドール!」
『解』
俺が詠唱すると天候がもとにもどった。よかった、俺の勝ちだな………。意識がそろそろ限界だ。
「すぐに温めないと、まずいのぅ。特にそちらの第二王子はまずい。」
『木漏れ日の朝』
そう学園長が詠唱すると、周囲が温かくなった。確かに、木漏れ日のような温かさだ。
「あとのことはわしが預かる。両者ともに学園長室にくるのじゃ。では、行くかのう。」
「は、はいわかりました。」
俺が一歩踏み出そうとすると、学園長に制された。
「待つのじゃ! お主のその右足の怪我は尋常ではない! さらに、魔力欠乏を起こしておる。わしの部屋に来る前に、治療室に行くのじゃ!」
俺は茫然とする頭で、一歩踏み出そうとした瞬間……倒れた。
~見学者side~
※ジルベルト視点
『恣意雨 強』
「アース、なぜ雨を展開するんだ! それだと雷魔法の威力が上がるぞ!」
オーサックの言うとおりだ。苦手な雷魔法を強化してどうするんだ? 水魔法の威力を上げる気か? いや、水魔法の威力を上げても……。
「水魔法の威力を上げる気なのでしょうか、殿下?」
「いいやウォーザット、それはないな。デメリットが大きすぎる。それに、ジーマン殿下相手に水魔法での攻撃はそれ程有効ではないしな。」
「では、なぜ雨を……。」
「俺にもわからないな、側近組はどうだ?」
俺はアースの側近たちに藩士を振ってみたが、俺たちと同じく、全員首を振っている。
『氷弾』
ここで氷の初級魔法だと? しかも、あてに行っていないな?
「主はどうして初級魔法を、しかも変な方向に飛ばしている。主の魔法制御って、完璧だったよな?」
「あぁ、あいつはオリジナル魔法も作り出すし、魔刀も作り出している。そんな奴が、初級魔法の制御を誤るはずがない。」
キースの言うとおりだ。俺自身も、アースとは何度も訓練しているが、アースの緻密な魔法制御にはいつも舌を巻いている。
『氷弾』
再びアースの初級魔法は変な方向に飛んでいった。これは………、やはり何かがおかしい。
「反空間結界以外に何かされているのではないでしょうか? アース様が、あれほど魔法を外すとは思えません。」
「それはありえるね。卑怯な手を使う相手だからね。ただ、なにもされていないのだとしたら、意図的に外しているとしか思えないよ。」
意図的か……。そういえば、アースが魔法を放った先には何が……。あれは排水溝か? それにあの強い雨……。水攻めでもするつもりか?
すると会場が一気に明るくなった。
『轟雷降誕』
「ぐああああああ!!」
「アース!」
あれは普通の怪我ではない。すぐに治療をしなければ間に合わない。側近たちも青ざめた顔をしている。アースがこれほどまでひどいけがを負うのは初めてだ。側近たちの動揺は計り知れない。何より、俺自身が我慢できそうにない。今すぐ、助けに行きたいが……。正式な決闘に理由なく乱入すれば、アースが失格になってしまう。
アースの側近たちが必死になって声をかけている。アースのやつ、ふらついているじゃないか! 無理もない、上級魔法を受けたのだ。
俺たちの声は、届いているのだろうか……。
『拘束しろ 水牢』
『氷鎧』
ここで水牢だと? しかも、あの鎧は何だ?
「キース、あの鎧は何だ?」
「私も初めて見ました。ただ、以前に空間が使えなくなった時のために、防御力を高めたいとおっしゃっていました。」
なるほど、それで鎧か。だが、今更防御力を高めてどうするんだ? 防御以外の理由があるのか?
「殿下、アースたちの足元を見てください。水が溜まっています。」
「あぁ、俺も水攻めかと思っていたところだ。あの当てるつもりのない氷弾は、排水溝を塞ぐためのものだったらしい。」
「殿下、この状況はあの時に似ていませんか?」
「なんだ、オーサック? あの時とは?」
「キースが、ベヒモスを倒したときですよ。雷の魔刀で。あの時も雨が降っていたような……。」
雨、水、雷……。
「そうか! あれで、ジーマン殿下に雷魔法を打たせないようにさせているのか!」
「なるほどですね。あのまま雷魔法、しかも上級のものを放つと、自身も感電する恐れがありますからね。防ぐのではなく、そもそも打たせないようにしたというわけですか。」
「シリル殿下の、おっしゃる通りだと私も思います。」
『恣意雪』
今度は雪だと? どのような狙いがあるんだ? 雨と雪とが混ざり合い、みぞれ雨となって降りそそいでいるな。
「やはり、殿下の言うとおりだったようですね。しかし、今度は雪ですか……。いったいなぜ……。」
ウォーザットが困るのも無理はない。ここで雪を降らせる意味は何だ? これだと、寒くなるだけ……。雨、風、氷、雪……。
「おい、みんなまずいぞ! このままだと、アースの命に関わるかもしれない!」
「「「「殿下、どういうことですか!」」」」
アースの側近たちが声をそろえて聞いてくる。
「アースは、バトルフィールドの気温を極端に下げようとしている。観客席からでも、伝わってくるこの冷気が証拠だ。」
「気温を下げるですか? どうして……。」
「人の体温は一定の温度を下回ると、死に至る。流石にジーマン殿下を道連れに死のうとしているわけではないと思うが、その前段階。震えや思考力の低下による、降参を狙っているのではないかと思う。」
「それだと、アースも同じような症状になるのではないですか?」
「そうだな、文字通り捨て身の作戦だ。しかし、あいつも考え無しではない。あの氷の鎧には低温耐性があるのではないか? しかし、いくら耐性があっても、まったく寒くないわけではないだろう。」
「「「「そんな……。」」」」
側近たちが悲痛な顔を浮かべる。俺だって、こんな作戦……。しかし、これしかないというほど、見事な作戦ではある。ただ、捨て身の作戦など……。
『氷の女王に希う、
ここで氷の上級魔法だと! あいつ死ぬ気か?
「アース、それはやめろ! お前まで死んでしまう!」
俺たちは必死に叫んだ。しかし、アースが詠唱をやめる気配はない。
「ダメです、殿下。声が届いていません! おそらく寒さと負傷で意識が……。」
くそ! このまま、見ていることしかできなのか!
我に御身の御力の一端を授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え給え、白銀(世界)』
俺たちが飛び出そうとすると、アースの詠唱が止まった。あれは、学園長か! そして、あの魔法は……植物魔法か。
「勝者 アース・サンドール!」
立会人のコールが聞こえた。
「アースの勝ちだな。みんな勝負はもう終わった、下に降りよう。」
俺たちが下へ降りようとしたその時、アースの体が傾いた。
「アース!」
『轟け 青天の霹靂』
『韋駄天』
俺たちが叫ぶと同時に、キースが一瞬にしてアースのもとへ向かった。
一話が長くなってしまい、申し訳ございません。
最初は、分けようかとも思ったのですが、一気に楽しんでいただきたいと考え、そのまま投稿することにしました。
よろしくお願いいたします。




