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「これは実際に見てもらった方が早いな。俺の属性は水だから、アース。前に来てくれ。」
俺か。どうやら自分と同じ水属性持ちが必要のようだ。教室ではボッチだから多少緊張するが、しっかりと期待に応えよう。
「いいか。前方に向けて、同時に水弾を放つ。わかったか? じゃあ、行くぞ。」
『水弾』
すると、前方の岩に先生の水弾の方が先に届いた。詠唱は同時に終わったが、確かに先生の方が早く打ち出されたようだ。
「アースの方が俺よりも魔力の潜在量は高い。しかし、このように魔法の発動速度が異なれば、魔力量のハンデを埋めることが可能だ。よって、これから一年間で源から魔力を引き出す感覚を培い、速度は一生かけて速くしていけ。わかったな?」
「はい!(一同)」
「今までの手から放っていたイメージを捨てて、源から引き出すイメージをつくり出すのは、そう簡単な話ではない。お前らはもう何年も手から魔法を放っていたのだからな。そこで、それを補助するのがこの魔杖だ。いまは、学園から簡易なものを支給するが、ゆくゆくは自ら素材を調達して、自分に合った魔杖をつくってほしい。素材採集は例年、三学年の時に騎士コースの護衛をつけて行っている。それまでに各自、技術を磨くように。」
聞いたか? 素材採集だってよ。しかも騎士コースが同行するから、騎士組といっしょに行けるな。ものすごく、楽しみだ。
「では、これから訓練を行う。先ほども言ったが、源から魔力を引き出す行為は、大変な危険を伴うものだ。したがって、属性別に、さらに複数の先生方の協力を得て訓練していく。派生属性などの稀有な属性は俺が個別的に見る。そして、複数属性持ちは授業ごとに、属性を換えて訓練するように。」
そうモール先生が言うと、複数人の先生が入ってきた。この学園はいったい何人の先生が在籍しているんだろうか?
「では、各先生のもとへ移動しろ。最初は単属性の生徒から。」
そういうと、俺ともう一人の女子生徒以外の生徒が移動した。ということは、複数属性持ちは俺を含めて二人だけということになる。
「アース、お前は最初どちらにする?」
「氷で願いします。」
「わかった。俺がみよう。」
先生には、俺の光属性のことを話している。話してからというもの先生は、俺を水と氷の二属性持ちとして扱ってくれている。これから先、空間属性のことも話して、訓練に付き合ってもらうべきだな。
「アイリーンはどうする?」
「私は、何でもいいわ。そうね、水にしようかしら。」
俺は最初のオリエンテーションの時の自己紹介で衝撃を受けていた。
この女子生徒の名は、アイリーン・ガナハット。ピンクの髪に、金色の目をしている美少女だ。世界史を習っている者で、「ガナハット」という姓を知らない者はいないだろう。それは、帝国が北の大陸を統一したときの英雄、「アールデック・ガナハット」と同じ姓だからだ。アールデック・ガナハットは、賢者の称号を与えられていた前賢者である。賢者とは、その時代に最も優れた魔導士に送られる称号である。アールデック・ガナハットは、全属性を持ち、さらに全属性で攻撃・防御・補助魔法のすべてを扱えた。戦場に出れば一騎当千の活躍をし、負け知らずであった。そんな彼も寿命には勝てず、最近亡くなってしまったのだ。
そんな英雄の孫にあたるのが、彼女だ。話したことはないが、プライドが高く、気の強い性格をしているようだ。正直、こういうタイプは苦手だ。彼女も、前賢者の孫らしく、全属性を保有しているらしい。正直、怖い。
「わかった。では、アイリーンは水担当の先生のもとへ行ってくれ。」
「この私に教えられるといいですわね?」
「まあ、そういわずに。」
「はー、しょうがないわね。」
やはり、彼女とは性格が合わなそうだな。「この私に」とは、たいそうな自信家だな。流石前賢者の孫とでも言うべきかな?
「とりあえず、アースやってみるか。」
「はい、よろしくお願いします。」
ーー
くそ、先生が言っていた通り難しすぎる。
俺は、「魔法は手から放つもの」というイメージが出来上がってしまっている。このイメージを拭い去るのは難しい。魔法はイメージだ。このイメージを変えられなければ、源から直接魔法を放つことは難しいだろう。この魔杖を使っても、難しいからな。一年間、じっくりやるしかないだろう。
「どうだ、難しいだろう?」
「はい、とても難しいです。」
「一朝一夕には無理だ。戦闘経験が豊富な者や、訓練をたくさん行ってきた者はなおさら難しいだろう。今までの手で魔法を放つイメージが、強く残っているからだ。」
「たしかに、そうみたいです。地道に頑張っていきます。それにしても、この発想に至った人はすごいですね。頭が柔らかいのでしょうね。」
「そりゃあ、すごいさ。なにしろこの方法を発表したのは、アールデック・ガナハット様だからな。」
は? それはすごいわけだ。
「前賢者様が……。それなら、納得ですね。」
「生前に「魔導士の発展のために」と、秘匿していたこの技術を発表してくださったんだよ。だから、この方法が広まり始めてまだ日が浅い。」
「そうだったのですね。前賢者様のご遺志に応えるためにも、必ず習得して見せます。」
「そうだな、頑張れよ。」
ーー
そんなこんなで、二コマのお時間が過ぎ、教室へと戻ってきた。
「最後に連絡だ。けして、一人ではこの方法で魔法を放たないように。理由は先ほど話したからわかるな? イメージ練習だけならば構わない。それから、他のコースの者や外部にはこの情報は伝えないこと。理由は独断でやると危険だからだ。周りの者の命を守るためにも、けしてしゃべらないように。では、解散。」
確かにその通りだな。毎朝のイメージトレーニングの時間を少し伸ばすことにしよう。
それにしても、また来てるのかな? ナハト教研究会の方々は。最後まで教室に残ることにしよう。俺が教室に一人になると、側近たちが教室へと入ってきた。
「主、また転移陣の前にやつらがいます。」
「はー、やっぱり来たか。また窓で逃げるぞ。」
『大窓』
ーー
「いつ、あきらめるんだろうか?」
「ナハト研究会に入るまでだろ。それで、同好会の申請はしたのか?」
「朝にした。」
「では申請が通るのを待っていれば、大丈夫そうですね。」
「まぁ、一応はそうだな。はー、もうあいつらの話はやめようぜ。腹減った。」
ーー
それから残りの教養の授業を受けて俺たちは寮に帰った。そして休日が終わり、また月の日がやってきた。
「よし、月の日は一番つらい日だ。気合を入れなければ。それで、オーガスト先生の調査結果はどうだった?」
「変人でした、主。」
「変人です。」
なるほど、工作好きな変人ってだけで、悪い人ではないようだ。しかし、生徒に変人と断言されてしまうあの先生は可哀そうすぎる。
「主と会うのが待ち遠しいみたいですね。それに、いいことがあったみたいですしね。」
「いいことってなんだ?」
俺がそう聞くと、二人は肩をすくめた。どうやら、俺たちにとってはいいことではないようだ。何だろう、ものすごく不安だ。
ーー
「この扉を開けるのには、勇気がいるな。」
「魔の扉ですからね。」
「おい、早く行け。ただでさえ授業前に、殿下たちに話しかけられないように遅く来てるわけだから、俺たちの方が遅れてしまう。」
確かにその通りだ。俺は側近たちを見送った後、深呼吸をしてから扉を開けて、急いで後ろの席へと座った。
やはり、ラインハルトがこっちを見ているようだな。この分だと、話しかけてくのも時間の問題だな。
ーー
そして、授業後。
「アース君! みてください! 作り出したら止まらなくなってしまって、こんなに作ってしましました!」
授業が終わると同時に、オーガスト先生が突撃してきた。それにしても、リバーシが二十セット以上あるぞ。こんなにどうするんだろう?
「……ありがとうございます。それにしても、すごい数ですね。」
「すべて差し上げますよ! 何しろ私は、つくるのが好きなだけですからね。あー、ただ、最近は作って、遊ぶことが好きですね。」
授業の準備をしろよ。
「な、なるほど。あの……友人たちを呼んできますね。」
「はい、お昼ごはん楽しみしています。」
そっちが本命だろ? そんなこんなで、俺たちは一緒に昼食をとり、その後何回も勝負に付き合わされた。
「あ、そうだ。アース君、これから娯楽同好会ですか? 」
「はい、その予定です。」
「では、私も挨拶に行きます。」
「なぜでしょうか。」
「私が顧問を引き受けたからです。」
はーーー?
この変人と同好会も共にしなければいけないのか? うーんでも、モール先生の話だと、他の先生方に引き受けてもらえそうもないしな。背に腹は代えられない、というやつか。
「モール先生から提案があり、名簿を見て、アース君の名前があるとわかった瞬間に立候補しました。アース君がいれば、面白そうなものがつくれると思いまして。」
「面白いものといわれても……。」
そうだ! バレーボールのコートやボールをつくってもらえばいいのではないか? この先生も作りたいようだしな。ギブアンドテイクってやつだ。
「わかりました。では、作っていただきたいものがあるので早速行きましょうか。」
「本当ですか! 楽しみです!」
そうして俺たちはジルと合流し、先生にバレーボールをやっている姿を見せた。欲しい道具などをいったら、「今すぐ作り始めます!」と言い、帰っていった。
「変な先生に捕まったな。」
「悪い先生じゃないんだ、ただその……変人なだけなんだ。」
俺がそういうと、なんとなく雰囲気を察してくれたようでジルは俺の肩をたたいてくれた。
「……リバーシやってみるか。」
「そうだな、無心でやろう。」




