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「じゃあ、三人ともまたあとでな。行くぞ、ローウェル。」
「は、主。」
昼食の後、俺 とローウェルは、キースたちに薬草研究会の部室の前まで送ってきてもらったのだ。
ガラガラ
「すみません、見学希望なのですが……。」
「おや、君も見学かい?」
そこにいたのは、濃い緑の髪に茶色の目をしたさっぱりとした美少年だった。あれ、既視感があるな……。
(「主、シリル・グレートプレア殿下です。(小声)」)
……。やっぱり、そう来たか。
シリル・グレートプレア。グレートプレア王国第二王子だ。グレートプレア王国は農業大国である。
「お初にお目にかかります、アース・サンドールと申します。私も友人と一緒に見学に来ました。」
俺は、ローウェルに目配せをする。
「お初にお目にかかります、ローウェル・カーサードと申します。」
「見学者が他にもきてくれてうれしいよ。はじめまして、シリル・グレートプレアです。しばらく待っていても誰も来なかったからね、本当にうれしいよ。なんで、薬草研究会の見学に来たんだい?」
「私は以前、回復魔法に助けられまして、それで回復薬に興味を持ちました。」
「私は、文官としての知識を磨きたいと思い、参りました。」
俺たちがそういうと、シリル殿下は目を輝かせた。どうやら結構いい感じの王子様のようだ。
「そうなのですね。私は植物が好きでして、薬草も育ててみたいと思ったのですよ。」
「グレートプレア王国は農業大国ですものね。シリル殿下も、植物がお好きなのですね。」
「えぇ。それで、期待してきたのですが……。誰も来ませんね。先輩方もいないようですし。」
「そのようですね。どこか別の場所に……。」
ガラガラ
俺たちが話していると、扉が開かれ、一人の女子生徒が現れた。この女子生徒も見学者だろうか?
「あ、よかった! 見学希望の方々ですか?」
どうやら見学希望ではなく、薬草研究会の先輩のようだ。俺たちは薬草研究会の見学に来たことを伝えた。
「やったー! うれしい! 実は、先輩方が卒業された結果、今年から部員は私だけだったのよね。 」
「あ、あのまだ入部するとは……。」
「早速、薬草園を見に行きましょう! さぁ、早く!」
ダメだ、興奮しすぎて話を聞いてもらえない。どうやら、先輩から見て俺たちはすでに、入部を決めている様に見えているようだ。
ーー
「ここが薬草園よ。」
うわ、広! よくわからない草がいっぱい生えてるな。これを今まで、一人で管理していたのか?
「この広い薬草園を先輩が一人で管理されていたのですか?」
「えぇ、そうよ。といっても、先輩が卒業されてからだから……二か月くらいね。」
「二か月もお一人で、素晴らしいですね。」
「うふふふ、ありがとう。あ、ごめんね。まだ三人のお名前を聞いていなかったよね。お願いしてもいい?」
すると、殿下が前に出て礼をした。
「はい。お初にお目にかかります、シリル・グレートプレアと申します。植物が好きで、薬草も育ててみたいいと思い、見学に参りました。」
「グ、グレートプレアということは、お、王族の方でしょうか……。」
まあ、そういう風な反応になるよな。学生の内から、王族にかかわる機会なんてめったにないからな。もしかすると、王族と話すことが自体が、初めての可能性もある。
「はい。私は、グレートプレア王国の第二王子です。」
「お、王族の方……。」
あー、先輩フリーズしちゃったな。
王族と分かって膠着したのもありそうだし、それにさっきからため口で、しかも薬草園に引っ張って来たからな。
「申し訳ございません、それほど困らせてしまうとは……。やはり私は入部をやめたほうがよろしいですね。」
これは、王族としての宿命だな。他の貴族にとって、王族はうまくすり寄りたいと思う一方で、不敬を働けば処罰される危険物なのだ。それことがを、殿下もわかっているのだろう。
その点、他人に迷惑はかけまいと自ら身を引くことができるシリル殿下は、優しい方なのだろう。それなのに、学園で好きなことができないのはあんまりだな。
「先輩、大事な新入部員です。逃してしまってもよろしいのですか?」
「はっ! あ、あなたは?」
「お初にお目にかかります、アース・サンドールと申します。こちらは友人のローウェルです。」
ローウェルが俺の紹介に合わせて礼をする。
「シリル殿下は、大事な新入部員なのではないですか? 先輩、私たちを見たとき、すごくうれしそうだったではないですか。それに、殿下はただ植物がお好きで、薬草を育ててみたいという純粋な気持ち、ただそれだけの理由でこの研究会に足をお運びになったのだと思います。それに、先輩は二か月もの間この広い薬草園を一人で管理なさるほどの薬草好きですよね? 植物がお好きな殿下と話が合うのではないですか?」
「大切な新入部員……。それに、植物好き……。そうね、あなたの言うとおりね。申し訳ございません、殿下。殿下がよろしければ、この研究会に入部してくださいませんか?」
「よろしいのですか?」
「はい、是非!」
「ありがとうございます、うれしいです! これからはそうかしこまらずに、一後輩として接していただけると、ありがたいのですが……。」
「敬称は難しいですけど、それ以外ならば善処いたします。」
「それで構いせん。これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。それで、殿下、どのような植物がすきですか? それに好きな栽培方法は?」
ああ、これはあれだな。植物オタクだな。好きな栽培方法なんて聞く人初めて見た。俺とローウェルは空気に溶け込むことにした。
「私が好きなのは……。」
ーー
それから、二人は植物談義を始めた。どうやら殿下も、植物オタクだったようだ。俺は二人の話を理解できるように努めたが半分も理解できない。
「よかったんですか、主。引き留めてしまって。」
「我慢している王族の姿が、誰かさんと重なっただけだよ。」
「なるほど。主らしくて、俺はいいと思いますよ。」
俺たちがそう話していると、二人が会話をやめて、こちらに振り返ってきた。どうやら、空気に溶け込んでいた俺たちの存在に気づいたようだ。
「あ、そっちの二人ともごめんね。二人をそっちのけで話してしまって……。」
「いえ、構いませんよ。内容はわからないところもありましたが、非常に興味深かったです。私たちにもこれから、色々と教えてください。」
「もちろんよ。えーと、サンドール君?」
「アースで構いません。」
「私も、ローウェルと。」
「わかったわ。アースとローウェルはなぜ、薬草に興味を?」
「私は文官なので、見分を深めようと思いまして。」
「たしかに、調合の授業があるわね。私も文官で四年生だから、わからないことがあったらいつでも質問してね。」
なるほど、先輩は四年生で文官コースなのか。四年生ということは、卒業まであと一年しかないのか………。
「私は、回復魔法がなければ大切な友人を失ってしまうという場面に出くわしました。それから、回復薬の備えもしたいと思い、参りました。」
「その後友人は……。」
「大丈夫ですよ、今は元気です。傷跡もありません。」
「よかったわ! それで、その後友人はどうやって助かったの?」
「回復魔法が間に合いまして……。」
「まさか、アースがかけたの?」
「は、はい……。」
回復魔法の使い手は希少な存在だ。それに俺の水回復魔法は希少どころの話ではない。できればうやむやにしたかったが、そうも言ってはいられなかった。
「すごいわ! 光属性なうえに、回復魔法が使えるなんて珍しいのに! それに、回復魔法の使い手が薬草を育てると、薬草の品質が良くなるのよ!」
「本当ですか?」
「ええ。薬草には、上・中・下と三種類の品質に分類されて、回復魔法の使い手が育てた薬草は上の品質である場合が多いのよ。」
「そうなのですね。教えていただきありがとうございます。ところで、先輩のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ごめんね! すっかり忘れてたよ。私の名前はウルノ・キーベン、文官コースの四年生よ。ウルノって呼んでね。みんな、これからよろしくね。」
ウルノ先輩か………。先輩という響きって懐かしいよな。俺もいつか、アース先輩と呼ばれてみたい。
「じゃあ、今日はもう時間ね。私はほぼ毎日、薬草園か部室にいるからいつでも来てね。」
「はい、私たちは火の日と水か木の日に参りますね。」
「私は、時間の許す限り来ますね。」
どうやらシリル殿下は、薬草研究会にほぼ毎日通うらしい。俺たちは同好会もあるため毎日は通うことができないが、楽しい部活動になりそうだ。




