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先生が教室を出ていった後、俺は教室に一人きりとなった。すると、側近たちが教室の中へと入ってきた。どうだ? 俺はしっかりと、待っていたぞ?
「アース、遅かったな。先生と、何を話していたんだ?」
「あー、これだ。補修クラスの要綱を受け取っていた。」
俺は先ほど配布された、補修コースの要綱を側近たちに見せた。側近たちは、興味津々そうにプリントを眺めていた。しかし、側近たちははっとした表情を浮かべた。何か問題があったのだろうか?
「主、まずいことになりました。聖王国の第一王子がこの階の転移陣のもとで、誰かを待っているようです。」
誰かって、俺しかこの教室にはいないが……。他の学年の誰かという可能性は……。まあ、ないだろうな。
「あいつや、あの時の司教が聖王国に、アース様の情報を流していたのでしょう。」
あいつとは、デーブンのことだ。あとは内通者も絡んでいそうだが……。まぁ、今はいいか。とりあえず、今、どうするかだ。
俺には窓があるから、それで逃げるのが現実的だな。学園内には結界が張られていないから、普通に魔法が使える。しかし、魔法で他人を攻撃することや相手に干渉する魔法を使うことは禁じられている。これをすれば、一発退学だ。その点、俺の窓とアイテムボックスは、攻撃するわけでも、他人に影響を与えるわけではない。
「窓しかないな。ただいきなり、寮に向かう転移陣の前に窓を開くと、誰かに見つかる可能性がある。そこでローウェル、偵察を頼む。
俺の指示でローウェルは、魔短刀を取り出した。
『開け 窓遊』
『矢庭の空』
そうすると、ローウェルは俺の小窓よりさらに小さな窓を出し、虫ほどの土人形を送り出した。
「やはり、お前の能力は恐ろしいな。」
「恐ろしくしたのは、主でしょ?」
……まあ確かに、能力を考えたのは俺だけどな。
「今なら、近くに人はいませんね。」
「わかった。次は、アスタ頼む。」
俺は、大窓を出し、隠密に長けたアスタを最初に送り出した。アスタは、『気配遮断』と『影移動』を使うことができる。そして、最後のダメ押しの確認を行った。
「誰もいません。」
よし、では今がチャンスだ。誰もいないうちに、聖王国の第一皇子を巻こうではないか!
ーー
そうして、俺たちは寮へと無事に帰ってきた。
「じゃあ、昼飯を食べて、俺とキースとミラルは買い出し、ローウェルとアスタは入学記念パーティーに行こうか。ローウェル、アスタ、気をつけろよな。無理だと思ったら引け、いいな?」
二人はしっかりと頷くと、自分の部屋へと戻っていった。二人の優秀さなら大丈夫だとは思うが、無事に帰ってきてほしい。
ーー
学園都市の商業エリアへ向かう転移陣は、寮内に設置されている。俺たちは買い出しのために、その転移陣に乗った。
おー、これは! すごい店と人の数だな!
アーキウェル王国の市場よりも、さらに活気づいている。どうやら、学園都市だからと言って、手を抜いているわけではなさそうだ。
「貴族が集まる学園だから、おしゃれな店が多いね。」
「そうだな。ガラの悪そうなやつはいなそうだ。」
「まずは散策を……と言いたいところだが、アスタとローウェルも一緒がいいよな? だから、明日からの休日に散策しようか。今日はとりあえず、食料の調達だけしような。」
働いてくれている二人を差し置いて、散策するのは気が引ける。ここにはいつでも来られるようだし、何より全員の方が楽しそうである。
「じゃあ、食料売り場を探すか。どこにあるかな?」
「情報部隊がいないから、歩いて探すしかないね。」
「近くの料理屋とかも覗いてみるか?」
「うーん、どうだろうな。寮の料理人も学園から派遣されているようだし、あの料理と大差ないんじゃないか?」
俺がそういうと二人は頷いて、食料売り場探しを始めた。ノーヒントで店を探すのは、なかなか骨が折れた。
ーー
鶏ガラと野菜はコンソメに使うから、絶対に確保だな。それで、シチューとかも作ってみるか。あとは肉だな。俺たちも十歳で、これから訓練も激しくなるだろう。みんなにはいっぱい食べてもらいたい。幸い公爵家だから、お金は割とある。しかしこういう風な生活を、生粋の貴族の皆さんは満喫しているのだろうか? 特に買い出しとか億劫ではないのだろうか?
「そういえばさ、他の貴族もこういう風に自分で買い出ししているのか? 従者の同行は、許可されていなかったよな? 王族や皇族は、側近に任せているだろうけど……。」
「ここに買い出しに来ているのは、身分の低い貴族が多いよ。」
どういうことだろうか? 身分の上下は関係なく、買い出しは必要だと思うのだが……。俺がそう考えていると、キースがまじめな顔をして口を開いた。
「大概の貴族は、アースのようにどんな身分のものでも対等に接するわけじゃない。子供でも、貴族であることには変わりはないからな。お金に苦労をしている下級貴族が、駄賃と引き替えに上級貴族の買い出しを引き受ける、というのが一般的だ。それにこれはまだましな方で、中には身分を盾に強制して使い走りをさせるような奴もいる。」
……そういうことか。
生粋の上級貴族がそう簡単に自活はしないよな。下級貴族を使っても何ら不思議ではない。金に苦労しているか……。側近のみんなは大丈夫だろうか? そういえば給料とかの話って、最初のころからあまりしてないよな。主としてこれはまずい、聞かないと。
「あのさ、二人は給料は足りているか? その、最初頃にしただけで、定期的に聞かなくてすまなかった。何か不満があったら言ってほしい。」
俺がそう言うと、二人は驚いた顔をして見つめ合い笑った。
「お前はつくづく面白いな。安心しろ、大丈夫だ。同年代のやつらと比べてもかなりの好待遇だ。飯代もアースが持っているし、住むところも提供してもらっているからな。それに、家からの仕送りもある。それに、騎士は剣の手入れに金がかかるものだが、魔刀は偶に磨くだけでいいからな。金が全くかからない。むしろ、使い道がなさ過ぎて、貯まる一方だ。なぁ、ミラル?」
「そうだね。私も日用品を買うくらいだから、まったく困っていないよ。」
「それは遊ぶ暇がないほど、忙しいという意味か?」
「本当にアホだな。俺たちは好きでやっているんだ。そんなことは気にしなくていい。それに休みをもらったところで、特にやりたいこともないしな。お前を見ている方が面白い。」
「そうだね。アースと一緒にいた方が面白いよ。」
……それはそれで、言いたいところがあるが、まぁ、いいか。何かあったら言ってくれるだろう。
あ、そうだ。お金を稼ぐ方法を考えないとな。欲しいものというか、依頼料が欲しいのだ。
「何を依頼するの?」
「それは、お楽しみだ。まだ材料が整っていない。」
「そうか、楽しみにしてる。それなら、俺の金を使ってくれ。余っているからな。」
「私のも。」
「いや、それはお前らの将来のために取っておけよ! ……お前ら、将来路頭に迷っても知らないからな!」
こいつら、将来家庭を持つとこととか考えてないのか? しっかり貯蓄をするタイプだろうが……。
「俺の主なら、そうはならない。」
「そうだね。そんな未来は想像できないね。」
本当にこいつらは……。
「……今日はうまいものいっぱい作ってやる。」
「あぁ、楽しみにしてる。」
「私も手伝うよ。」




