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それから俺たちはジルの側近たちと別れて、三階へと向かった。ほとんどの生徒はすでに教室に入っており、さらにアーキウェル王国の魔導士コースは俺だけであるため、廊下には人がほとんどいない。俺たちは順調に、魔導士コースの教室の前までたどり着いた。
「いいか、俺たちが迎えに来るまで、教室から出るなよ。」
キースの一言を皮切りに、側近たちが口々に注意を述べてくる。俺はどうやら、初登園の、幼稚園児に見えているらしい。
「……わかったよ。」
それにしても一人か……。魔導士コースは、俺だけだ。魔導士の護衛騎士を募集しようかな?
俺が教室に入ろうとすると、ローウェルから待ったがかかった。
「主、俺とアスタは記念パーティーに出席してきてもいいですか?」
「ん? 行きたいなら、全然行ってきてもいいぞ。」
「いいえそうではなく、アース様の情報がどれほど広まっているのか確認するためです。」
なるほど、情報部隊の仕事というわけか。どうやら、遊びにいきたかったわけではないらしい。どこまでもまじめな、側近たちである。そういうことなら、一学年の王族と皇族の情報も頼もうかな。
俺は二人に、主要な王族たちの情報収集も頼んだ。それにしても……。
「それにしてもお前ら、その制服でよかったのか?」
オールテット学園の制服。黒を基調としていれば、後は自由である。俺は、水と氷を意識した刺繍を金の糸で施し、それから右腕に魔刀の刺繡を三本施してもらった。俺が使える魔刀三本と、ジルの第三王子の側近であるという意味を込めてある。
それを見て側近一同は、俺と同じく右腕に魔刀の刺繍を一本施した。
俺がそう聞くと、皆は当然だと言わんばかりに、大きくうなずいた。まあ、みんながそれでいいなら、俺に異存はないけどな。
俺は側近たちに見送られて、教室へと入った。
ーー
俺が教室に入ると、ざわめきが一瞬止み俺へと視線が集まったが、再びざわめきが戻った。
よかった、まだ俺が空間属性持ちだと認識されていないようだ。だけど、それも時間の問題だ。何しろ、アーキウェル王国で魔導士コースに合格しているのは俺だけだ。つまり、空間属性持ちが魔導士コースを選択しているのではないかと、あたりをつけてくる者がいるかもしれないのだ。それに、授業でも空間魔法を使う羽目になるかもしれない。
でも、この力には幾度も助けられている。隠すような恥ずかしい力ではないから、堂々としていよう。
それにしても、ボッチはきつい。
俺がボッチの回避策を考えていると、一人の男性が教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。私が卒業まで君たちの担任を務める、モールだ。よろしく。担当は、魔法実技だ。」
あー、何というかさわやかな人だな。
この学園では、教師は基本的に、姓は名乗らない。姓がわかると出身国がわかるため、色々な問題を避けるためにとそうしているらしい。
「では、最初に時間割と授業の概要が書かれたプリントを配るから、目を通してくれ。」
俺は配られたプリントに目を通した。
なるほど、教養科目は試験の時に行った教科で九つか。そして、専門科目は魔法実技Ⅰが二コマの計十一コマか。五日間で計十一コマだから、一日当たり二コマか。大学みたいな感じだな。午後は結構暇そうだ。なにをするんだろ? それに、異世界あるあるの飛び級とかは、ないみたいだな。久しぶりの学生だし、寝ないように注意しよう。
「大体読み終わったようだな。今日は金の日だから、次の月の日から授業開始だ。教養科目は一学年全体で受けることになる。ただし、実技の音楽と美術は二つの教室に分かれる。人数が多すぎて、教師陣の成績管理が大変だからだ。最初の時間は、どの授業もオリエンテーションが行われる。」
なるほど、来週は結構暇そうだな。
「なお、補修クラスに行く者は別途プリントを渡すから、このあと残るように。」
あー、公開処刑が来たな。俺が周りに気づかれないように、白目で天を仰いでいると、周りから囁き声が聞こえてきた。
『えー、補修クラスに行く人って、本当にいるんだ?』
『補修クラスとかありえないよな。普通に勉強してたら、そんなこといはないだろ。』
ここにいるんですが? 勉強してどうにかなる問題じゃないっつうの!
「はいはい、静かに。次は部活動や研究会の紹介が書かれている用紙を配る。午後は空き時間になると思うから、部活動や研究会に入ることを勧める。だが、強制ではない。この学園では、生徒の自主性を重んじているから検討してみてくれ。」
なるほど、大量にあるな。しかも、どれもこれも学生っぽくていいな。俺は学生時代、サッカー部とバレーボール部に所属していた。さて、どれに入ろうかな。
剣術部に、馬術部、それに料理部か……。どれも面白そうだ。
あ……嫌なものを見つけてしまった。ナハト教研究会。これはダメだ。絶対近寄らない方が良いな。それに、俺が空間属性持ちだとわかれば、「お前は、空間と女神の使途だから研究会に入れ」とか言われそうだしな。要警戒だ。
「それじゃあ、教科書類を渡していく。」
大量すぎる。隙を見て、アイテムボックスに入れよう。
「配布物はこれで全部だ。では最後に自己紹介をして、今日は終わろうか。名前と趣味、それから魔導士コースらしく、得意な属性を言ってもらおうか。」
俺は国力的に、最後だからどうやらトリを飾るらしい。ここは気合を入れて、自己紹介しなければならない。
ーー
「では最後に、そこの銀髪の子。」
「はい。アース・サンドールと申します。趣味はそうですね、料理と家庭菜園です。得意属性は氷です。これから、宜しくお願い致します。」
俺の自己紹介が終わると、再び囁き声が聞こえてきた。どうやら、俺は弱小国の落ちこぼれに見えているらしい。
『貴族が家庭菜園?』
『料理なんてするのね。』
『弱小国だから仕方ありませんわ。』
『氷属性だけは珍しいな。』
お前ら、うるさいな。飯食わせてやろうか?
「はいはい、静かに。多趣味でいいじゃないか。そういえば、サンドールと言うとアーキウェル王国の公爵家だな? お兄さんのマクウェル君は優秀だと専らの噂だ。だから、君にも期待している。」
「恐れ入ります。」
先生がそういうと、再び囁き声が大きくなった。
『え? 公爵家?』
『まずい……。』
そうだぞ、お前ら。俺は公爵家の人間だ。いくら小国だろうと、公爵家は公爵家だからな。そうそう、表立って悪口をいえる身分の者は少ないだろう。弱小国の公爵家の姓など、知る必要もないって感じの反応だったな。名乗った時点で気づいてもよさそうだけど……。
「では、今日はこれで解散とする。各自、気をつけて帰るように。」
俺はこの後、補修クラスの要綱を受け取る必要がある。だから、この席に座っていなければならないのだ。
これは公開処刑だ。しかし、俯いていれば、より馬鹿にされるだろう。俺は公爵家だ。堂々と足を組んで、座っていよう。
俺の凛と座っている様子に、クラスの連中は何かを察したようで、ちらちらと視線を送りながら、帰っていった。
「サンドール君、これが補修クラスの要綱だ。しかし……不憫だな。美術以外は、全科目満点なんだが……。九科目満点なんて、歴代で初だぞ。」
「恐れ入ります。」
アーキウェル王国だけではなくて、この学園でも歴代初なのか。
「俺から皆に言うこともできるが……。」
「いいえ、それには及びません。補修クラスに行くことは事実なのですから。それに、他人に何と言われようとも、私の周りの者が私を理解してくれれば、それだけで幸せですから。」
「そうか、わかった。では、帰っていいぞ。」
「いえ、友人が迎えに来てくれるまで待ちます。私酷い方向音痴でして、最初の内は、友人に寮まで同行をお願いしているのですよ。」
おそらくキースたちは、もう教室の前まで来ているだろう。
「そうなのか。では、俺は先に帰るからな。気を付けて帰れよ。」
「ありがとうございます、さようなら。」




