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「アース様、ご歓談中失礼いたします。御挨拶させていただいても、よろしいでしょうか。」
この人物は知っているぞ、ローウェルの父親で、財務大臣だ。俺も一度、挨拶したいと思っていた。
「はい。あなたは、カーサード侯爵ですね?」
「はい。アーキウェル王国にて、財務大臣の任を授かっております。改めまして、ランド・カーサードと申します。この度は愚息を側近に加えていただきまして、誠にありがとうございました。」
「ご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。お初にお目にかかります、アース・サンドールと申します。ローウェルは、私によく仕えてくれていますよ。文官もさながら、最近は私の側仕えの仕事にも、「心を込めて」取り組んでいるそうですよ。そうだよな、ローウェル?」
俺が「心を込めて」の部分を強調してローウェルに尋ねると、ローウェルは渋々ながら頷いた。
「愚息が、アース様のお役に立てているようで何よりです。それに、アース様には感謝しているのですよ。」
「わ、私にですか?」
カーサード侯爵とは初対面だ。何か、感謝されるようなことをしただろうか? 全く心当たりがないが……。
「はい。ローウェルは能力に恵まれており、昔から人よりも良い成績を収めていました。しかしそれが続くと、段々と無気力になってしまいまして、このままでは……と、将来のことを心配していたのですよ。しかし、アース様の側近になってからというもの、毎日が楽しいようでして、生き生きしていることが見ていて感じられます。この前も屋敷に戻ってきたとき、私や妻にアース様のことを……。」
カーサード侯爵がそこまで言うと、ローウェルが慌てながら声を上げた。どうやら先まで話してほしくないらしい。若干聞こえたから、想像できるけど……。
「ち、父上! その話はしないでください!」
なんかこの展開、キースの時にも似たようなことあったような……。とりあえず、温かい目をみんなで送っておこう。
「あ、主! もう、時間ですよ!」
「あぁ、確かにそうだな。カーサード侯爵様、できればその話を詳しく聞きたいところですが、時間が来たようですね。残念です。」
俺がそういうと、カーサード侯爵は大きな声で笑った。
「はははははっ! 本当に楽しそうで、何よりです。そうですね、この話の続きは我が領地へと足を運んでいただいた時に存分に。」
「それは楽しみですね。是非、お邪魔させていただきます。」
ーー
俺たちは、重役たちとの挨拶を終えていよいよ学園に出発することになった。そして俺たちは、学園へと向かう転移陣へと乗った。
どうやら、学園に着いたようだ。
こ、これはすごい……! 中世ヨーロッパ風の建物で、とてつもなく大きい。アーキウェル王国の王城の大きさの倍以上はある。これだよ、これ! 学園というからには、いかにも学校って感じの日本の学校を想像していたが……。これは期待以上だ!!
「どうした、アース? そんなに、目をキラキラさせて。」
「ジル、この学園すごいな。ワクワクするな!」
「あぁ、そうだな。だが、中はもっとすごいぞ?」
ほ、本当か? 早く行きたい! 俺が意気揚々と一歩踏み出すと、キースが俺の側に来て耳打ちをした。
ただ一言低い声で、「任務」と。
俺は空気の読める男だ。ここは、素直に謝って、任務に集中しよう。
すみませんでした。
ーー
うわっ! すげーーーー!! ジルの言った通り、中も期待以上だった。いかにも、ファンタジーの学園という感じだ。
だが、俺はポーカーフェイスが得意な男だ。さっきみたいに、喜びはしない。
「アース様、ガッツポーズをしないでください。」
しまった、顔に意識を集中させすぎて、体での喜び表現を抑えることを忘れていたようだ。
「すみませんでした。」
「まあ、今は別にいいぞ。お前がこういう雰囲気を、好きなのは知っているからな。」
「……ご配慮痛み入ります。」
そうして、俺たちはアーキウェル王国の指定座席へと向かった。
俺がジルの左斜め後ろに控え、前と右斜め後ろを双子が、その俺たちの周りを俺の護衛騎士が固めるという陣形だ。他と比べても、かなりの仰々しさだ。
少し歩くと、アーキウェル王国の座席が見えてきた。
「座席の確認をいたしますので少々お待ちください。アスタ。」
俺が指示を出すと、アスタが座席の確認を始めた。一応、座席付近に危険物がないか調べる。こういう時は、影出身のアスタの出番だ。
「異常はありません。」
どうやら、異常はなかったらしい。入学初日から異常があったら、たまったものではないけどな。
ーー
そうして、新入生が全員着席したようで、式が始まった。最初は、楽団による演奏が行われた。
すごい演奏だった。しかしな……。この世界に来てからというもの、クラシックしか聞いていないな。前世ではイヤホンをつけて、Jpopやアニソンを通勤や移動の時毎に、聞いていた。ベースやギター、ドラムの効いた、アップテンポな曲が聞きたい。だけど、ギターとかはみかけたことがない……。
などと考えているうちに、学園長のお話が終わろうとしていた。
な、なんだ、あのロリッ娘は!!
壇上に立っていたのは、ロリッ娘だった。しかし、語尾が「じゃ」だった。これは俗に言うあれか、ロリババアってやつか。しかし、俺にはその属性はない。できるだけ関わらないでおこう。
次はどうやら、新入生代表あいさつのようだ。俺たちの代表ということだから、どのような人物か大変気になるところだ。
「新入生代表挨拶、ラインハルト・アイバーン。」
「はい!」
それにしても代表挨拶か、どういう選考基準なんだろう。アイバーンということは、アイバーン帝国の皇族だな。身分順なのかな? ジルが選ばれていないことからすると、国力の差か。
それにしても、燃えるような赤い髪に、燃えるような赤い瞳のイケメンだ。というか、赤すぎる! 外見の主張が激しすぎるな。でも、はつらつとした声だ。まさに、皇族といったような人を引き付ける声だ。
ラインハルトの挨拶が終わると、会場が盛大な拍手で包まれた。
「これで、入学式を終わります。各自、各コースの教室に移動してください。」
すると、国別に移動が始まる。これも国力の順か……。俺たちは何番目だろうか?
ーー
最後でした。
うん、そんな気はしていた。
「じゃあ、移動しようか。アースは、どうする? 俺についてきてから、魔導士コースに行くか?」
「そうですね。学園ではあまりお供する機会がないと思いますので、最初ですし付いて行かせていただきたいと思います。」
「わかった。じゃあ、行こうか。最初に、国主コースの教室だな。」
国主コースの教室とは、メンツの濃そうな教室だな。俺はあまり、足を踏み入れたくない。
それから、俺たちは転移陣で移動した。
どうやら、一階には食堂やらサロンがあるようだ。二階が騎士コース、三階が魔導士コース、四階が文官コース、五階が側仕えコース、六階が領主コース、七階が国主コース、それ以上の階に教師陣の研究部屋があるそうだ。
そして、俺たちは今、国主コースのある七階の廊下を歩いている。
「そういえば、この後の入学記念パーティーには出るのか、アース?」
「へ?」
入学記念パーティー……? あっ、すっかり忘れていた。何しろ出る気がなくて、まったく興味がなかったからな。俺たち貴族は、学園入学と同時に社交界デビューを果たす。つまり、この入学記念パーティーが初めての社交界なのだ。
「おい、お前ら! なんで、昨日言ってくれなかったんだ?」
俺が側近たちに話を振ると、キースが肩をすくめながら答えた。
「アース様が入学記念パーティーのお話をされなかったので、あえて行く気がないから話題に出さないのだと思っておりました。」
た、確かにまったく興味がなく、記憶の底に沈んでいたが……。
俺はジルの側近だ。側近としては、同行した方が良いだろう。ジルは王族だから、欠席はしないだろうからな。
俺がそう考えていると、ジルが首を振った。
「アース、お前は来ない方が良いと思うぞ。」
「なぜでしょうか? 私は、殿下の側近ですので同行した方が良いと思いますが……。」
「お前は空間属性持ちとして、注目が集まっている。顔はまだ認識されていないだろうが、内通者から聖王国に何かしらの情報が洩れている可能性がる。それにほかの国も、お前のことをどれだけ知っているかわからない。だから、今日は行かない方が良いだろうな。代わりに俺が、色々と調べておくよ。」
確かに言うことはわかるが、側近としての役割を果たせなくて申し訳ないな。しかしジルがここまで言うなら、行くと言っても聞かないだろうな……。俺は渋々ながら、頷いた。
「自由に行動していいといったのは俺だ。必要な時にいてくれればいい。それに護衛なら双子で間に合っているし、俺にはこの魔刀もあるからな。」
ジルはそう言い残すと、国主コースの教室へと入っていった。こういうところが、ジルの優しいところだ。




