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2


俺が風呂場へと側近たちを案内すると、側近たちは驚嘆の声を上げた。



「主、俺たちも使っていいんですか?」



「もちろん。ローウェルには世話になるな。俺の側仕えだから、毎日ここに湯を張らなければならないからな。まぁ、片手間にできるから大丈夫か。」




俺がそういうと、ローウェルは半目で俺のことを見てきた。まったく、側近とずいぶんと距離が近くなったらしい。




「まだ、根に持ってたんですね、主。やりますよ、やればいいんでしょ?」



「冗談だよ、俺も手伝うからさ。」




「はー、本当に貴族らしくない人ですね。」



「それが売りだからな。」








……。俺がそういうと、全員が沈黙して俺のことを見てきた。



そんな目をして、見てこなくたっていいじゃないか……。俺は一応、主なんだからな? まあ、これは俺が望んだ関係だからいいんだけどな?






「冗談だよ。」



俺は遅いとは思うが、一応言ってみた。




「まったく冗談には聞こえないが、まあいい。夕食までに、側近部屋のローテーションを決めよう。」



キースは俺のことを放り出して、側近たちのローテーションの話し合いを始めた。まったく、頼りがいのある側近である。





「はい! 俺は、でかい風呂に入りたいから毎日ここを使います。いいですよね、主?」




「それはどうかと思うが……。まぁ、どのみちローウェルは唯一の文官だから毎日この部屋を使うことになるかな。」




「ありがとうございます、主!」




「俺は何もしてないよ。じゃあ、他の三人が日替わりで側近部屋ということになるな。」



俺がそういうと、騎士組は少し不安そうな表情を浮かべた。うん? 何か不安をあおるような発言をしてしまったのだろうか?




「……ミラルとアスタは、護衛騎士が一人だけでいいと思うか?」



「うーん、そうだね。学園では何があるかわからないから、二人体制の方が良いと思うけど。」



「自分もそう思います。もしもの時を想定すると、二人の方が良いですね。」





そういうことか。寮内で何かあるとは考えにくいが、側近たちの気が休まらないのは避けたい。二人体制でキースたちが安心できるのなら、そうするべきだな。





「確かに安全面からいったら、二人の方が良いと思う。その方がみんなも安心できるだろ? 寮内は魔法が使用できないように結界が張られているが、念には念を入れておこう。」





「それだと、一部屋足りないですよ? どうします、主?」





寝るだけなら、俺の部屋の中にもう一つベッドを入れればいいのではないだろうか?俺は、側近たちが同じ部屋で寝ても気にならないし。





俺がそういうと、側近たちは渋々ながら頷いた。



「主がそれでいいなら、そうしましょうか。寮監に言って、もう一つベッドを用意してもらいましょう。」




寮監の所に行くなら、道順を覚えがてら俺が行こうとしたが、キースが先に名乗り出た。




「俺が行く。荷物をまだ自室においてないから、そのついでに行ってくる。あと、他人をこの部屋に入れたくないから、俺たちでベッドを運ぼう。みんなは少ししたら、ロビーに集まってくれ。アースはこの部屋に……、一人で残しておくのもまずいか。」





「俺も運ぶよ。人数は多い方が良いだろ?」





こんな時こそ、アイテムボックスを使えたらな……。寮内は魔法の使用ができないため、アイテムボックスを開くことができないのだ。






「公爵家の人間がベッドを運びながら歩いていたら、みんな、唖然とするでしょうね。」





確かに、兄上たちやジルに見られると面倒だな……。気を付けて運ぼう。だけどこっちには、偵察のエキスパートがいるんだからな。










ーー










そうして俺たちは、おそらく誰にも見られることなく、ベッドを運び終えた。俺の今日の運勢は、大変良かったようだ。




そして、待ちに待った夕食の時間がやってきた。食堂に行くとどうやら、自分でお盆をもって並ぶスタイルのようだった。こういう感じ、懐かしいな。





「みんな、お盆に食事を乗せて運んだことはあるか?」





俺がそう聞くと、側近たちは当然のように首を振った。

まぁ、生粋の貴族だから仕方がないか。ここは先輩として、アドバイスをしなければ。





「お盆にのせるときに、バランスを意識して乗せろよ。片側だけにのせたりすると、滑って落ちちゃうからな。あとは、移動中はよそ見するなよ。」






「アースは、やったことがあるのか?」



ぎくっ。まあ、当然の疑問ではある。ここは、さらりと流すことにしようか。俺の処世術はマスター級である。




「まぁ、たまに料理するからな。生粋の貴族にとって、お盆で食事を運ぶなんて経験ないだろうから、一応アドバイスをと思ってさ。」




「もう、自分が普通の貴族じゃないって認めてるね。」



ミラルはいつも、的確に痛いところをついてくる。流石、俺たちの姉のような存在である。



「まぁ、それに関しては少しは自覚あるからさ。さぁ、俺たちの番だ。受け取って、早速食べてみよう!」









ーー









俺たちは期待を込めて、一口食べた。しかし……。これは……おいしくないな。最初にこの世界の料理を食べたときの、がっかり感の再来である。



「サンドール公爵家の料理になれているからな。」


「そうだね。こういう料理が、普通だってことを忘れていたよ。」


「俺はこの、砂糖でがちがちに固めたデザートが嫌です。」


「自分もですね。あのころと違って、今ではおいしいものを自然と求めてしまいますね。」






これはこちらの世界に来て、初めて料理を食べたときの衝撃の再来だ。サンドール公爵家が、特別なだけだったのだな。寮の料理人は、学園に雇われているからあまり口出しできないんだろうな。関係性もあるだろうし、下手にしゃべると技術の流失にもなるだろうからな。




あぁ、そういえば、兄上たちが学園から帰ってきた後、サンドール家での食事をいつも以上に噛みしめながら食べていたな……。その気持ちが今では痛いほどわかる……。





「俺さ、明日からもこのような固いパンを食べ続けるのは嫌だぞ。」




俺がそういうと、側近たちは首を激しく振った。これはあれだな、俺が主夫になるときが来たようだ。




「提案だが、明日からは俺の部屋で作って食べようか。昼は……学園の学食だよな。これもあまり期待できそうにないから、弁当をつくろうか。」




「アース一人でやると大変だから、俺たちも手伝おう。この中で料理経験者は?」




キースがそう問いかけると、ミラルが手を上げた。




「私は少しあるよ。花嫁修業してた時に、軽いお菓子作りとかしたよ。」





「他の男性陣はないみたいだな。でも、大丈夫だ。みんなで、少しずつ覚えていこうな。」




「ああ。とすると結局、寝るとき以外は全員、アースの部屋にいることになりそうだな。」


 


確かにその通りだな。でも今までもそうだったし、その方が自然な気がする。まあ俺たちは主従関係だから、離れて生活するわけにはいかないだろうけど。それに一緒の方が、絶対に楽しい。



「それで主、材料はどこで買うんです?」



「学園都市だから、店屋とかあるんじゃないか?」



「確か、色々な店があったと思いますよ。」



「じゃあ、休みの日に大量に買い出ししようか。俺にはアイテムボックスが……。寮内だとアイテムボックス使えないじゃん!」




安全面を考えると、魔法が使えない仕組みは安心できるが、日常生活を考えると結構不便な気がする。




「寮に転移する前に、全部手に持てば大丈夫だ。」





それもそうか。キースの頭は軟らかいようだ。それにしても、学園都市内を散策するのも楽しみだな。




俺たちは一応完食を迎えたため、、部屋に帰って明日の打ち合わせをすることになった。








ーー






俺たちは打合せしながら、明日の朝食の用意をすることにした。俺は荷物の中から食材を取り出した。




「それにしても、アースは用意がいいよね。一応、食料もってきたんだ。」




「部屋で小腹がすいたとき様にな。」




「なるほどな。だけどこの保冷庫に、五人分の食糧が保管できるか?」





保冷庫とは、日本でいう冷蔵庫・冷凍庫が両立した魔道具のことである。魔石で動く。魔石とは魔力がこもった石のことで、魔物を倒せば手に入る。ルーン石は魔石の上位互換で、魔石と違って属性付与が行える金属である。






学園都市でもっと大きい保冷庫を、買った方が良いだろうか? 俺が財布の中身を確認しようとすると、ローウェルが手を上げた。





「少し面倒ですけど、主のアイテムボックスの中に入れておいて、学園から寮に帰って来るときに、必要な分をアイテムボックスから出して、それから転移してこの保冷庫に保管すれば買わなくてもいけますよ?」






なるほど、その手があったか。俺のアイテムボックスは時間停止もついているし、そうすることにしよう。



「そうしようか。学園から帰るときは、一声かけてくれよ。五人もいれば誰かは、食料のこと覚えているだろうからな。あ、アスタ。生地はもうこねなくてもいいぞ、このまま寝かしておこう。」




俺たちは朝食やこれからの食事の段取りを終えたため、明日の打ち合わせに入ることにした。





「明日の話だが明日は入学式のみで、それぞれのコースがクラスの単位になる。そこで、軽いホームルームがあって、明日は終わりだ。何か話したいことのある者はいるか?」




俺がそう問いかけると、キースが手を上げた。




「アースについてだが、アースは絶対に一人で学園内を移動しないように。護衛騎士を最低一人はつけて移動するように。そして、教室の移動は全て俺らが付き従うから、勝手に移動しないように。いいな?」






俺は幼稚園児かなにかなのだろうか?






「……はい。ていうか、俺のことばかりじゃないかよ。」




「俺らはお前の側近なんだから、そうなるだろ。」



キースがそういうと、他のみんなも当然のようにうなずいた。側近というよりは、保護者のような気がするけど……。





「わかったよ。ただ、お前らの学園生活も、一生に一回しかないからな。何かやりたいことが見つかったら、遠慮なく相談してくれよ。じゃあ、とりあえず風呂にはいろうか。護衛騎士の分担はどうなった?」





「ミラル、俺、アスタの順で各々の部屋に戻るという分担だ。」





いつの間にか、既に決まっていたようだな。いつ話し合ったのかはわからないが、仕事が早くて助かる。



「じゃあ、今日はミラルが自分の部屋に戻る日だな。もう遅いし、自分の準備もあるだろうから、もう部屋に戻っていいぞ。」





「わかった、じゃあまた朝食でね。」







俺たちがそうして挨拶を済ませると、ミラルが部屋を後にした。


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