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転移陣が光るのと同時に俺たちは、アーキウェル寮へと転移した。
うわっ! すげーー!!
寮ときいて、前世の感覚から、ぼろくて狭い建物を想像していたが、とんでもない。一流のホテルみたいに、豪華絢爛だ。そして、広い! テンションが上がるな!
前世のころも、例えば遠征とか、出張とかで偶にホテルに泊まるときって、ものすごくテンション上がるよな。そんな感じだ。
「ようこそ、アーキウェル寮へ。アース。」
「すごく嬉しそうだな、アース。」
先に転移陣にて学園に来ていた兄上たちが、子供を見るような目でこちらにやってきた。今は子どもと思われようが、このワクワクを止めることはできそうもない。
「嬉しいです! 想像以上の豪華さでワクワクしています! なぁ、みんな?」
「あぁ、そうだな。」
「私もです。あまり外泊をしたことがないので、新鮮ですね。」
「俺は主が喜んでくれて何よりです。」
「自分は少し気が引けますね……。でも、楽しみです!」
四者四様の反応をしてはいるが、全員の目が輝いていることがわかる。側近たちもまだ、十歳の少年少女なのだ。
「アース、ここで止まっていると次に来る人たちの迷惑になるから、先に進もう。」
「あっ! そうですね! 申し訳ございません、マクウェル兄上。」
「アースは、まだまだ子供だな。」
先程は子供と思われようが構わないとは言ったが、実際言われると心に来るものがある。俺はいつも通りに、貴族スマイルを兄上たちに浮かべておいた。
「はははははっ! すまんすまん! 俺たちが、寮内を案内してやるから許してくれ。」
「お願いします!」
そう言われれば、兄上たちを許そうではないか。とてつもなく早い手のひら返しではあるが、寮の設備の方が重要である。さぁ、どんな設備があるのかな?
ーー
「ここが食堂だ。」
流石に広いな。ホテルに備わっている、レストランのような雰囲気だ。さぞや食事もおいしいのだろうな。一応兄上たちに聞いてみようか。
「ここの食事は美味しいですか?」
「……食べてみてからのお楽しみだ。」
何だろう歯切れが悪いな。まぁ、夕食を楽しみにしておこう。
次はマクウェル兄上が案内してくれた。
「アース、ここが談話室だね。いくつも用意されているよ。寮生同士の交流の場として使うことが多いね。」
ここでお茶や談笑をするみたいだ。俺は部屋で過ごすことが多そうなので、ここはあまり使う機会はなさそうだな。
「そしてこっちが応接室だね。ここでは主に、他国の寮生をもてなす場合に使うね。」
「そうなのですね。よく、使われるのですか?」
「うーん、あまり使わないかな。何しろ、アーキウェル王国は小国だからね。わざわざ、訪ねてくる方はめったにいないよ。」
なるほど、この世界には六国ほどあるが一番国力がないのだろうか? それとも、二番目くらいか……。
とりあえず、弱小だということを認識しておこう。他国の人に、「弱小国のくせに調子に乗ってんじゃねーよ」、とか言われそうだしな。あまり派手なことはしないようにしよう。
「共有スペースはこれくらいかな。あとは個室だけど、たしかアースは側近がいるから、特別室を利用するんだよね?」
「そう聞いております。」
「どこの部屋が割り当てられているのかわかっているのか?」
個室のことなんて、まったく話題に出なかったな。それに、誰が教えてくれるのかもわからない有様だ。
「じゃあ、俺が寮監に確認してくるよ。」
「いいのですか、ケルサス兄上? 私が……。」
俺がそう名乗り出ると、ケルサス兄上が俺の肩をたたいて笑った。
「何を言っているんだ、お前場所知らないだろ? すぐだから、俺が行ってくるよ。」
確かに場所も知らずにさまようところだった。ここじゃ兄上のお言葉に甘えてお願いすることにしようか。
ーー
しばらくすると、ケルサス兄上が駆け足で戻ってきた。
「待たせたな。アースの部屋は六階だそうだ。」
「わかりました。ケルサス兄上、ありがとうございます。」
「ああ。側近たちの部屋は一階だな。アースの部屋にも、側近部屋が用意されているが二人用だ。交代で勤務することになるだろう。」
俺が六階で、側近たちが一階か。ずいぶんと離れているようだ。側近達一年生が、まとめて一階というのは、何か意味があるのだろうか。俺は兄上たちに、部屋割りについて尋ねてみた。
「この寮は七階建てで。学年順に一階から五階のフロアが割り当てられて、そのフロアの部屋が割り当てられる感じだね。」
「なるほど。キースたちは第一学年なので、一階というわけですね?」
「そうだね。そして、七階が王族のフロアで、六階がお客用と王族の数が多い時のための、空部屋だね。」
ということは、六階に住むのは俺だけということなのだろうか? なかなかのビップ待遇である。
これはうれしい。静かで快適な空間になりそうだな。
「じゃあ、移動しようか。移動には転移陣を使うよ。間違えて別の階の転移陣に乗らないように、気を付けて。あとは、学園に移動するための転移陣だけど、それは明日の入学式でわかると思うから、今は説明を省くね。」
「わかりました、ありがとうございます。じゃあ、先に各自荷物を部屋に置きに行ってくれ。とりあえず、キースは俺の護衛として残って、一緒に六階に向かおう。あとの三人は荷物を置き次第、六階に来るように。」
俺は側近たちに指示を出してから、兄上たちにお礼を述べた。そして俺とキースは、六階行きの転移陣に乗った。
ーー
本当にホテルみたいだな。ここのフロアには俺しかいないのか。部屋は……ここみたいだな。
キースが、一応警戒しながら部屋を開けた。
広っ!!!
めちゃくちゃ広いな。どれくらいだろう? とにかく……広いな。流石、お客様用のお部屋である。
「キース、何があるか確認しよう!」
「あぁ、うれしそうだな。」
まるで俺だけがはしゃいでいるかのようにキースは言っているが、顔は取り繕えていても、その楽しそうな雰囲気は隠せていないからな?
「お前も、うれしそうだぞ?」
「そ、そんなことはない……。」
「隠さなくてもいいだろう。この部屋を見て、ワクワクしないはずがないからな。よし、まずは風呂の確認だな。」
日本人の俺は毎日風呂に入らなければ、生きていけないのだ。よって、風呂のクオリティーによって、QOLが左右されるのである。
俺たちは早速、風呂場へと向かった。
こ、これは、温泉だと!! 十人くらいは入れそうだ。だけど、準備するローウェルが大変そうだな……。
俺がそういうと、キースは肩をすくめながら笑った。
「お湯を張るだけで、掃除は寮の使用人に……と言いたいところだが、できるだけ人を入れたくないな。俺たちでやるか。それに、あいつは、お前の世話を片手間でやるらしいから問題ないだろう。」
問題はあるだろうが、ここは優秀なローウェルに頑張ってもらうとするか。まあ掃除とかは、俺も手伝うようにするけどな。
「そ、そうだな……。俺も掃除とか手伝うよ。俺たちは、自活できる貴族になろう! それにしても、一般生徒の風呂も、こんなに広いんだろうか?」
「流石にそれはないだろう。客と王族用だ。(本当に貴族らしくないな……。)」
「なるほど。こんなにでかい風呂を使えるなんて、俺たちはラッキーだな。」
俺がそんな暢気なことを口走って浮かれていると、キースが急に真面目な顔で語りかけてきた。
「それ程の価値がお前にはあるということだ。だが、それは逆に狙われる対象となり得るということだ。俺たちも最大限気を付けるが、お前も自衛をしっかりしろよ。」
……そういう風に考えることもできるのか。俺は浮かれてばかりで、本当に恥ずかしいな。
「……苦労を掛けるな。」
「好きでやっていることだ。」
ここで、「仕事だから」とか、「任務だから」とか言わないところが、キースのいいところだな。
ーー
俺たちは次に、側近部屋を見に来た。
二部屋あって、トイレ浴室、洗面所に机……。生活に必要なものがコンパクトにそろっているな。しかし、風呂がやや小さいな。
「お前らも、あっちの大きい風呂使っていいからな? 俺だけで使うのも、なんか悪いし。」
「あぁ、そうするよ。」
俺は断られるかと思っていった見たが、案外素直に受け入れてくれたな。そういえば、キースって結構風呂好きなような気がするけど……。
「キースって、結構風呂好きだよな?」
「あぁ、好きだな。」
(「黒髪黒目で、風呂好きって日本人かよ。(小声)」)
「なんか言ったか? 」
「いや、何でもない。次、行こうぜ。」
ーー
キッチンもでかいな。それにしても、食堂があるのにこんなに立派なキッチンいるのだろうか?
「ここは、王族や客が使用されていることを想定しているからな。護衛の観点から、部屋で専用の料理人が料理を作るんだろ。」
「確かにな。俺も暇なとき何か作れるな。」
コンコン
キースと話していると、部屋のドアがノックされた。
ミラルたちかな? 俺はキースに頼んで、ドアを開けてもらうことにした。
「わかった、一応下がっていろ。」
キースが警戒した様子でドアをゆっくりと開けた。すると、聞きなれた声が室内に響き渡った。
「主~、来ましたよって、広っ!」
「本当に広いね、私たちの部屋の倍以上はあるね。」
「そうですね。この部屋ならアース様も生活がしやすそうですね。」
やはり、荷物の整理を終えた側近たちだったようだ。俺は一般生徒の部屋がどんな感字なのかを聞くと同時に、部屋の側近部屋へと案内した。
「あー、一階の部屋と同じような感じですね。」
こんな感じの部屋なのか。まあ、日本のホテル基準で行くとビジネスホテルに滞在する感じだな。それでも俺は満足できるのだが、せっかくだからこの広い部屋を満喫したい。
早速俺は、側近たちを風呂へと案内した。




