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14


入学まで、残り一週間。側近たちには、実家で挨拶と入学準備をしてくるようにと、暇を出す予定だ。





「全員、転移陣で移動の日の前日まで休暇を出す。親御さんたちに挨拶と、入寮及び入学の準備を済まして来いよ。ミラルの辺境伯領は遠いから、俺が送っていくな。」



「うん、ありがとう。」



本当は全員を送っていきたいところだが、辺境伯領以外の屋敷にはいったことがない。だから、ミラル以外の三人の実家への窓を開くことができなのだ。





「馬車での移動、嫌だな。」

「俺もですよ、主。何とかしてくださいよ!」




確かに、馬車の移動はめったにしない。というか、数年ぶりくらいではないだろうか? どこかに出かけるにしても、大体が王城であるため窓で移動をしていたのだ。慣れていないと、馬車での移動は相当きつい。




「がんばれ。俺も一緒に、頑張るからさ。」




「主、どこか行くんですか?」



「ああ、俺はアスタに付いて行こうと思っている。」



俺がそういうとアスタが立ち上がって、驚きの声を上げた。それもそのはずだ、事前に伝えていなかったからな。



「アース様、聞いてませんよ!?」



「今言ったからな。俺も白い砂浜の海がみてみたい。」




この世界に来てからというもの、まだ海を見たことがないのだ。社会見学の一環として、及びアスタの養父母への挨拶のために向かうのである。けして、砂浜見たさに行くのではない。




「……わかりました。自分もアース様とご一緒できるなら、うれしいです。」




アスタの了承を得て、俺とアスタで日程の確認やルートの確認を始めると、他の側近たちからの不満の声が上がった。





「ずるいぞ、俺も行く。」

「私も。」

「俺もですよ、主!」




「ダメだ。学園入学はご両親にとっては、お前らの一区切りだ。しっかり、元気な顔を見せて来い。長期休みになったら、みんなでいこうな。」






親にとって、こどもが学校に入学するというのは一つの区切りだ。それに、入寮するため簡単には会うことができなくなる。ここは、しっかりと挨拶をしていてもらいたい。







俺がそういうと、側近たちは渋々ながら納得したようで、頷いた。こうして、側近たちは実家へと帰省していった。











ーー











俺はアスタと共にリンハット男爵領へと向かったのだが、男爵領までは馬車で二日ほどかかった。





「今度、馬車移動を快適にする道具をつくるべきだな。」

「そうですね……。」





俺たちがそんな会話をしていると、どうやらリンハット邸へと着いたようだった。俺たちが馬車から降りると、そこにはリンハット夫妻が笑顔で待っていた。







「ようこそ、アース様。我が、リンハット男爵領へ。」



「お久しぶりです。リンハット男爵様。」



「はい、アース様。アスタもお帰り、元気だったか?」



「は、はい……。おじい様。」




なんというか、アスタの反応がまだたどたどしいような気がする。まあいきなり家族だと言われても、難しいよな。



その後俺たちは、男爵の案内を受けて客間へと向かった。道中俺は、アスタに話しかけてみた。





「照れているのか、アスタ?(小声)」


「て、照れてなどいませんよ……。(小声)」





まだ会うのは二回目だからな。あまり突っつくのもよくない。ここは、そっとしておこう。












ーー












「本当に久しぶりだな、アスタ。あれからあったことを、お前の口から是非聞きたいな。話してくれるか?」



「まぁ、私も聞きたいわ。アスタ君、お願いするわ。」





二人はお茶が入ると早速、アスタの話が聞きたいと申し出た。遠く離れた、養子のアスタをここまで気遣てくれるとは、本当にやさしい方たちだな。




「私の話なんかでよければ……。」





こうして三人は談笑し始めた。俺は時々相打ちを打ちながら、聞き役に徹している。三人の家族としての時間が動き出したばかりだ。ここで、俺がでしゃばることはない。








ーー









「アスタが楽しく、生活を送っているようで安心した。」


「えぇ、本当にね。ほとんどアース様のお話ばかりだったわね。本当にアース様のことを尊敬しているのね。」




「い、いや……!」




リンハット夫妻の言葉を受けて、アスタは慌てて立ち上がった。「尊敬しているのね」という言葉を否定したということは、俺のことは尊敬できないということなのだろうか? それは主として若干傷つくような気がする。




「え? 尊敬していないのか?」



「……尊敬しています。(小声)」



「冗談だよ。言わせたみたいになって、すまんな。」




実際、恩着せがましく尊敬してほしいだなんて思ってはいない。アスタたちには、笑顔で生活をしてほしいと思っているだけだ。




「いえ、本当に尊敬しています!」



「そうか、ありがとう。」




俺たちの掛け合いが終わると、リンハット男爵が何かを思い出したかのように話を切り出した。





「そうだ。アース様、我が領自慢の砂浜はご覧になられましたか?」



「いえ、まだです。お恥ずかしながら、私はいまだに海を見たことがなく、今日の訪問を楽しみにしておりました。」



「左様でございますか。では、今から参りましょう。ちょうど今の時間帯ならば、夕日と白い砂浜による美しい光景がみられるでしょう。」




いよいよ、楽しみにしていたこの世界の海を見ることができそうだ。非常に、楽しみである。白い砂浜もさぞや美しいだろうな。




「それは、是非見たいですね。よろしくお願いいたします。」












ーー












「こ、これは……。本当に見事ですね。」





赤い夕陽に、白い砂浜が絶妙にマッチしている。九月の下旬ということもあり、人もまばらだ。





「え、えぇ。本当に……美しいです。」




すると、アスタが突然涙を流した。





「ア、アスタどうしたんだ?」




俺はすぐにアスタの元へ駆け寄った。突然泣き出すなんて、何か辛いことを思い出したのだろうか?




「いえ、母上と見た夕日を思い出しまして……。申し訳ございません。」




そういうことか……。ただ、アスタが泣くのを見たのはこれが初めてだ。初めてであった頃も、涙を見せたことはなった。アスタは、どうやら自分の感情を抑え込む癖があるように思える。






「アスタ、泣きたいときは泣けばいいんだ。お前はたまに感情をおさえて、我慢するからな。もう、感情を抑え込む必要はないんだ。泣きたいときは泣いていい、そして笑いたいときは思いっきり笑っていいんだ。」








アスタは幼少の頃の経験から、色々なことを我慢する傾向がある。最近は、その傾向も薄れてきたが、泣くことは別のようだ。きっと、幼いころから、泣いてはいけないと自分に言い聞かせてきたのだろう。




俺がそういうと、リンハット夫妻も微笑みながらアスタへと近づいた。





「アース様の言うとおりだ、アスタ。」

「そうね、私たちがしっかりと受け止めるわ。」






「あ、ありがとうございます。おじい様、おばあ様……。」






そうして、リンハット夫妻がアスタを抱きしめた。











ーー








俺たちは夕陽を見た後に一泊してから、次の日には帰宅の準備をした。学園入学まで時間もないし、やっておきたいことがあるからだ。




「もう行ってしまわれるのですね。」


「はい、数日後には入学ですし、やっておかなければならないことがございます。」




俺がそういうと、アスタが首をかしげながら、何をやっておかなければならないのかを聞いてきた。




「アスタ、お前の母君の所へ挨拶に行きたい。場所を教えてくれるか?」



「いえ、でもあのようなところに……。」




「アスタも長い間、母君に挨拶できていないだろう? どんな場所でも構わないさ。」




俺がそういうと、アスタは少しためらった後にこたえてくれた。



「ス、スラム街の共同墓地におります……。」




共同墓地か……。その言葉を聞くだけでも、胸が痛む。アスタの許可を受けて、別の場所にお墓をつくってあげたい。




「わかった。行こう。初めて会った場所から近いのか?」


「はい。」





俺たちが帰宅しようとすると、リンハット夫妻が俺たちを止めた。




「どうされましたか、リンハット男爵様?」



「私たちも連れて行ってはもらえないでしょうか? アスタの親権を預かった者として、挨拶を申し上げたいと思った次第です。」




そういうことか。どこまでも優しく、義理堅い方たちだな。しかし、これから行こうとしている場所は貴族から疎まれている場所だ。一応、確認しなければならない。




「今から行く場所が、どのような場所かご存じですね?」



「はい、存じているつもりです。」



二人そろってここまで覚悟ができているなら、お連れするしかないだろう。




「わかりました、お連れいたしましょう。一度、サンド―公爵家により荷物を降ろしてから参ります。それでもよろしいでしょうか?」



「はい、構いません。」




俺は夫妻の了承を確認して、サンドール邸への窓を開いた。俺も、心の準備をしなければならないな。











ーー










屋敷につくと、訓練場から大きな音が聞こえてきた。あいつら、もう帰ってきているのか?


すると、俺たちが帰ってきたことに気づいたローウェルが駆け寄ってきた。



「お帰りなさい、主。そして、これはお久しぶりです、リンハット男爵夫妻様。」


「お久しぶりです、カーサード様。」


「主、どうされましたか?」



屋敷にリンハット夫妻を連れてきた理由を、ローウェルは暗に尋ねてきた。こういう時に、すぐに連絡ができないのは非常に不便だよな。



「今から、アスタの母君に挨拶しに行こうと思ってな。」




俺がそういうと、ローウェルは少し考え込んだようだった。何か、意見があるのだろうか?



「……わかりました。あいつらも呼んできます。」



「お前らも行くのか?」



「当然です。同僚の母君ですからね。」





……本当にいいやつばかりだ、俺の側近は。


こうして俺たちは、全員でアスタの母親の所へ向かうことになった。









ーー










ここに来るのも懐かしいな。俺たちは、アスタと初めて出会った路地裏まで大窓でやってきた。




「主が殿下に、叱られた場所ですね。」




俺が感慨にふけっているのに、なんてことを言い出すんだ? 俺はローウェルに最上級の貴族スマイルを送って、圧をかけておいた。




「まぁ、いい。アスタ案内を頼む。」





そうして俺たちは、薄暗い道を進んでいった。スラム街というだけあって、痩せている人が多く、全体的に薄汚れていた。







「着きました、こちらです。」





ここが……。


そこには雑に掘られた大きな穴があった。これは墓地というより……。





「酷いところですよね、ここは。まるで大きなゴミ捨て場みたいです。あの時は埋葬してあげられるお金や力もなく、母上が亡くなると、問答無用でここに投げ入れられました。衛生的な観点からだと、言われました。」







それは……。



それは何ともひどい話だ。その時のアスタの心情を思うと、胸が締め付けられる……。






「このことは、自分にあの時、何の力もなかったからだと納得しています。だから、今ある大切なものは、この手で守りたい、そう思っています。」





俺たちは無言でアスタの話を聞いた。というよりはむしろ、何もいうことができなかったの方が正解かもしれない……。









少しの沈黙の後、俺は言葉を発した。




「では皆さん、黙祷を。」






俺の言葉を皮切りに、全員が黙祷をささげた。アスタは今、母親に何を語りかけているのだろうか。








ーー








「皆さん、本当にありがとうございました。」




「また来たくなったら、声をかけてくれ。いつでも窓を出す。」




「ありがとうございます、アース様。」









俺たちはそうして、帰路へと着いた。






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