13
少しの沈黙の後、ジルがようやく口を開いた。
「……アースらしいな。」
どういう意味なのだろうか? 俺は皆に尋ねようとしたが、遠くの方を見つめている人ばかりであったため、この話を終わらせて次の話に移ることにした。
「まぁ、それは置いておくとして、美術の工作ってみんなどっちを選んだんだ?」
俺がそう聞きと、全員が「アクセサリー」と答えた。よく、あんな意味の分からない問題を選んだものだな。
「意外に、簡単な問題だったな。」
は?
俺がどう簡単なのかと説明を求めると、ジルは目を瞬かせながらもこたえてくれた。
「成り上がりの貴族相手だから、相手がどれほどの人物か見極める必要があるだろ? だから、適当にアクセサリーを作って、相手の反応を見ればいいんだよ。価値がわからずに褒めちぎってくるか、それとも自作だと見破って、「いいご趣味をお持ちですね」などと、流してくるとかをな。」
まあいわれれば意味は分かるが、複雑過ぎないだろうか? 元庶民の俺には、なかなか理解するのに時間がかかる分野だ。
「じゃあ、唯アクセサリーをつくればよかったのか?」
「極論をいえばそうだ。出来栄えで点が動くと思うけどな。」
はー、貴族って本当に面倒くさいな……。
「アクセサリーを選んでないってことは、お前、問二を選んだのか?」
俺が頷くと、全員が目を見開いた。まあ確かに、材料ではなく解答用紙をとったのは俺だけだったから、皆がおどろくのも無理はないな。
「どんな玩具を考えたんですか、主?」
「リバーシというものだな。」
リーバㇱと言っても、通じるわけがないので、俺は軽くルールなどを説明しながら話した。
「よく、そんな玩具思いつくね。」
「それなら、工作で満点はとれそうだな。なんせ、絵画があれじゃ無理だもんな。」
本当にそうだな。俺は問題を見た瞬間、心臓が止まりかけたからな。俺がそういうと、他の皆も頷いた。
「俺は更に不敬罪のこととかも心配して……」と俺がおうと、ローウェルが大きくうなずいた。
「主、俺も思っていましたよ!」
「うれしそうに話すなよ。主の首がかかっているんだぞ?」
「王族の殿下が先程から笑っておられるので、大丈夫なのでは?」
ローウェルが肩をすくめながら言うので、ジルのほうを見てみると、なぜが腹を抱えて笑っていた。失礼な奴である。
「おい、ジル。何笑っているんだよ!」
「いやな、試験中もお前の画力で父上の顔を描いたらと考えると……はははははっ! そうだ、今描いてくれないか?」
「……。お前、もう帰れ!」
ーー
今日は合格発表の日である。オールテット学園に入学するためには、各国の国王または皇帝陛下の推薦が必要である。我が国では、総合点が高い順かつ下限を一教科でも下回っていない者が推薦権を得る。完全実力主義をとっている。
今は全受験生が王城へ登城し、陛下からの発表を待っている。とんでもなく緊張するな……。周りのみんなも、そわそわしているようだ。
「みな、待たせたな。これから、オールテット学園への入学権を得た二十名を発表する。なお、成績順に呼んでいく。」
遂に来たか。あとは、祈るしかない。
「首席、ジルベルト・アーキウェル。」
会場中から拍手が起きる。ジル流石だな。
ジルが起立し、陛下に礼をした。
「ジルベルトよ、すべての科目で平均、九十五点を超える好成績であった。流石、我が息子である。学園に行っても励みなさい。」
「ありがとうございます、陛下。」
再び会場中から拍手が沸き起こった。
平均九十五点以上か、すごいな。十教科だったから、総合点だと、九百五十点以上ということだな。
「次点、アース・サンドール。」
「はい!」
まじか、狙い通りだ! 美術以外で満点を取り、工作で満点を取る。おそらく、九百五十点ジャストだな。
会場が拍手に包まれる。
「アースよ、九科目満点、素晴らしい成績であった。歴代の中でも初だ。」
「恐れ入ります。」
「加えて、お主が提出した工作のアイデアだが、商品化しないかと学園から問い合わせが来ている。学園入学後に担当者と確認するように。」
「恐れ入ります。」
会場が驚嘆の声と拍手で包まれる。
それはそうだろう、天下のリバーシ様だぞ。
「しかし、美術は下限ぎりぎりの五十点であったぞ。絵画のテーマだが、余の肖像画だったそうだな。何を描いたら、採点不可になるのだ?」
採点不可だと? 零点すらくれなかったのか。
「どうやら、テーマを間違えてしまったようです。」
俺は無難に、返すことにした。言い訳が子供すぎるが、突然のことだったので、これくらいの言い訳しか思いつかなかった。
「……そうか。テーマを勘違いしてしまったならば、しょうがないな。お主は、美術のみ補修クラスとなる。励むように。」
「か、かしこまりました。」
補修クラスってなんだ? とても不穏な響きだ。まあそれは後で調べるとして、今は側近組が合格できているかが重要だな。
ーー
その他のみんなの結果は、第三席がキースとローウェル、第五席がミラル、第六席がウォーザット、第七席がサイニード、第八席がミント、オーサックが最後から二番目、アスタが最下位であったが、全員合格できた。
「全員合格おめでとう!」
「自分はアース様の側近なのに、最下位をとってしまいました……。」
「いや、アスタはかなりのハンデがあったのに、合格できているからすごいと思うぞ。」
「そうだな、成長率で言えばアスタが一番だな。」
と、他の側近たちも口々にアスタをほめた。最下位ではあったものの、かなりのハンデのなか本当によく頑張ったと思う。
「そうですね。俺はキースと同率なのが不服ですね。」
「別にいいだろ、同率でも。」
幼馴染コンビが喧嘩を始めそうな雰囲気を感じて、ミラルが話題の転換をした。ミラルは姉みたいな感じだ。
「それより、アースのアイデアが商品化なんてすごいね。」
「ありがとう、ミラル。でもまだ、「商品化しないか?」という提案だろ?」
「まぁ、そうだけど、その話が出るだけでもすごいよ。」
「まぁ、そうだな。それよりさ、補修クラスってなんだ?」
俺が押す尋ねると、ジルが微妙な顔をした。どうやら補修クラスは、各教科で著しく低い点数を取った生徒が入るクラスらしい。講義は、教養科目に関しては学年ごとに行われるが、その時にみんなとは別のクラスで講義を受けるのが補修クラスのようだ。
「え……、それってかなり目立つんじゃ……。」
「あぁ、そうだな。補修クラスなんて、めったに入るやつはいないからな。」
何ということだろう。補修クラスって、いわゆる落ちこぼれというやつなのではないだろうか? いや、まだあきらめるのは早い。俺は補修クラスがあると聞いて、疑問に思っていたことがあったのだ。
「オールテット学園は各国の優秀な生徒が集まるんだろ? 俺の美術は例外としても、そんな制度いらなくないか? 」
俺がそう聞くと、ジルが肩をすくめながら答えてくれた。
「いや、そうでもないぞ。我が国では完全実力主義で入学者を選んでいるが、他の国では試験結果に加え、寄付金の多さで誰を推薦するか決める国もある。だから、学力が足りない者もオールテット学園に入ってくる可能性があるのだ。」
そういう制度をとっている国もあるのか……。でもそんなことをして、オールテット学園の入学者の質は大丈夫なのだろうか?
「それは大丈夫だ。オールテット学園に送り出す生徒の出来によって、各国の評判が変わってくるからな。普通に考えたら、優秀な学生を送り出し、国の名を上げたいと考える国がほとんどだ。だから、特に対策をしなくとも学生の質は担保されている。他の国も大体が、実力主義で推薦者を決めている。」
なるほど。そんな事情に巻き込まれて、俺は目立つ補修クラスに行くのか……。俺が項垂れていると、ジル俺の肩をたたいてくれた。
「まぁ、美術だけだから大丈夫だ。多分。」
……。




