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9

ジルによる現状報告のもと、事後処理が行われた。




地下牢に収容されたいたはずのデーブンが現場にいたことは、大きな衝撃を与えたようだ。地下牢の調査を行うと、デーブンの見張りが死体となって発見されたらしい。どうやって脱出したのかだが、やはり司教が転移陣でデーブンを連れ出したらしい。


しかし、司教一人で地下牢まで行くのには無理がある。地下牢に転移陣が設置された痕跡がなかったからだ。転移陣による転移は、転移陣が設置されているところにしか行けないのである。つまり、王城内に協力者が司教を地下牢まで導いたことになる。怪しいのは第二王子殿下やその母親だな。






捕らえられた司教は尋問の前に仕込んでいた毒で自殺したようで、何の情報も引き出せなかった。デーブンはただ利用されていただけの様で、何も知らなかった。自領での悪事はべらべらとしゃべったようだけどな。




加えて、「呪」を使った魔物の使役をこっそりとダンカ―辺境伯領で試していたらしい。だから、魔物が狂暴化していたのだ。ミラルと初めて会った時に現れた魔物は、どうやら司教が転移陣で差し向けたものだった。「呪」の実験をするために、ダンカ―辺境伯へもこっそりと転移陣を仕掛けていたらしい。




こうして、内通者という疑問は残るが、一応解決したのである。




 


そして、俺は今回、教会派の膿を出したことや、ジルの命を救ったことが評価され、陛下から何やら褒美が与えられるらしい。俺は他のみんなの力がなければ不可能だったと食い下がったが、側近の功績は主の功績となるのだと、押し切られてしまった。


キースたちにそれでいいのかと聞いたが、「アースの功績となるならば、何の不満もありません。」と笑顔で、言い切られてしまった。あとで、個人的にお礼がしたい。











ーー













 そして今は、王の間にいる。





「アース、面を上げよ。今回の働き、見事であった。」




「恐れ入ります。私の側近や、ジルベルト殿下の助けがあってはこそです。」





「お主は、本当に謙虚だな。まぁ、よい。お主の働きには変わりはあるまい。そこで、アースよ。そなたに、二つほど褒美をやりたいと考えている、何か望みはあるか?」




「いえ、私は陛下からお褒めいただくだけで十分でありますので。」





形式上一度は断った。しかし、今回ばかりは何としても欲しい褒美があるのだ。今回が最初で最後のチャンスかもしれないから、逃すわけにはいかない。




「遠慮しなくてよい。何か申してみよ。」




「はい。では、恐れながら申し上げます。一つ目としまして、ルーン石を少しばかり融通していただけると幸いです。」




「ルーン石か。あれは、各国の重要な魔道具を稼働させるための貴重なものだ。数にも限りがある。しかし、お主の功績を称え、デーブン宅から押収したルーン石でよければ、少し融通することができる。それでも良いか?」と、陛下が賛成の意を示してくれた。



あんな奴の押収品でも、品質に問題がなければ全然かまわない。むしろ、とても欲しいまである。



俺が頷くと、陛下は満足そうにうなずいた。



「うむ。では、もう一つ申してみよ。」




ここからが本題だな……。この願いは何としても、通って欲しいが……。



「はい、それでは……。私の婚約者の話ですが、そのお話の取消しをお願い申し上げます。私が結婚するか否か、また仮に結婚するにしても相手は、自分で選びたいと愚考いたします。もう一つの願いとしまして、私の婚姻に関することへの不干渉をお願い申し上げます」と、俺ははっきりと望みを告げた。


こういうものを曖昧にしては、貴族には上げ足を取られてしまう。言うべき時には、きっちり言った方が良いのだ。





「なるほど。前にも言ったとおり、各国の者がお前をあらゆる手段で狙ってくるだろう。婚姻もその一つだ。それでも、婚約者を持たずに学園に行くというのか?」





「はい。私は自分の道は自分で選びたいと考えます。例え、どのような結果になったとしても。」





俺がそう言い切ると、しばらくの沈黙となった。どうか、通ってくれよ……。



しばらくすると、陛下が口を開いた。



「うむ。了解した。余もできるだけ力を貸そう。ただ、これからも我が国に居続けてくれることは、約束してくれるか?」




「はい、お約束いたします。仮に旅に出たとしても、必ずやこの国に帰ってまいります。」



「うむ。確かに、承ったぞ。それでは次の話に移るが、誰の側近になるのかはもう決めたのか?」





それはもう決めてある。というか、最初から分かり切っていたことだよな。それなのに、あんなにうじうじと悩んでいた自分が愚かしい。ただ学園に不合格の場合、俺の主になる方にも迷惑をかけることになるため、今は伏せておこうか。




「はい、決めさせていただきました。ただ、私が正式にオールテット学園への入学を、決めるまではお待ちいただけますか?」




「うむ、よかろう。しかし、お主は優秀だと聞いておるが何か懸念点があるのか?」




これはあの事を言わなければいけないのか? 王族や国の幹部が集合しているこの場でか?



ふと、ジルのほうを見ると笑いをこらえているようだった。よし、




「……。はい、私の描く絵は独特の感性があるようで、万人からは評価されないようです。以前ジルベルト殿下のお顔を描かせていただいた際に、お叱りを受けました。私の絵がどれほど独創性があるのか、実際にジルベルト殿下のお顔をこの場で描かせていただけるならば、その証明ができます」と、俺は貴族スマイルを浮かべていった。





そうすると、ジルが笑いをこらえることをやめて真顔になった。




「……ジルベルト、アースがこのように申しておるが、どうする?」



「いいえ、その必要はないかと考えます。アースは紛れもなく絵の試験ではよくて一桁台を、いつも通りならば零点をとるでしょう。証明をするまでもなく、独創的です。」




ジルがそういうと、陛下や重役たちが唖然として頭を抱えた。これで俺も、問題児の仲間入りを果たしたようだ。




「う、うむ。それほど、酷いのか。アースよ、その……励みなさい。」



「……お気を使わせてしまい、申し訳ございませんでした。」




俺って今日褒められに来たんだよね? 何で、公開処刑されてんの?









ーー










 九月になりました。約二週間後には試験があります。息抜きを兼ねて、今日は家庭菜園の収穫を行っています。






「今年も豊作そうだな。みんなが心を込めてお世話してくれたおかげだな。よし、じゃあ収穫しようか!」





俺は子供たちを率いて、畑と乗り出した。やはり、疲れた心をいやすためには、自然と戯れるのが一番だからな。




作業をしていると、子供たちから嬉しい発言が飛び出した。


「私たちここでのお仕事大好きですし、アース様のためならばなんだって頑張れます!」



「それならよかった! みんな、俺たちが学園に行っている間、この家庭菜園場を頼んだぞ!」





俺がそういうと、子供たちは大きな声で返事をしてくれた。これで心置きなく、学園へと旅立つことができるな。受かればだけど……。











ーー








※キース視点




ようやく一息付けるな。今は勉強の息抜きのために、畑へときている。アースは早速畑へと繰り出していったが、俺たち側近は端で集まっている。


俺がアースの方を眺めていると、ローウェルが話しかけてきた。




「それにしても、キース。あの時の一撃かっこよかったな。」


「あぁ。俺もまさか、自分があそこまで力を出せるとは思ってもいなかった。」



実際あの時はアースに言われたとおりに力をふるっただけだから、あまりあの時のことは覚えていない。アースの助けがなければ……。




「自分も、キースのような攻撃をしてみたいのですが……。まだ、自分には無理ですね……。」




アスタは最近自信を回復したと思っていたが、色々とあったせいで最近少し不安定になってきた。アースばかりに負担をかけたくないから、俺たち側近組もアスタのケアに注意を払っている。




「そんなことはないと思うぞ、アスタ。お前の能力だって、唯一無二だ。これから訓練すればおまえにも、お前なりの力が使えるようになるさ。」




「ありがとうございます、キース。」






すると、空気を読んだローウェルが話の転換をしてくれた。こういうとこは、流石だよな。




「なぁなぁ。それにしても、あの時の主、とんでもなく怖かったよな。」

「そうだね。アースは普段から全く怒らないもんね。」





そうだな。普段怒らない人がいざ起こると怖いというが、まさにアースはそれだよな。あの時は俺も、素直に返事をすることしかできなかった。




「仕方ないですよ。あの男の最低な発言に加えて、ご友人の殿下が瀕死にまで追い込まれたのですから……。普段怒らないアース様でも、流石に我慢できなかったのでしょう。」




確かに、そうだな。それに加えて、あの時の水回復魔法もすごかった。水属性の回復魔法なんて今まで聞いたことがない。これも、アースのオリジナルの魔法だろう。まったく、アースの才能は恐ろしい。



俺がそうつぶやくと、ミラルが難しい顔をした。



「そうだね。この事が広まれば、唯一の水属性の回復魔法の使い手としても注目がさらに集まるね。」



「そうですね。我々ももっと、訓練しなければですね。まずは一人でS級の魔物を倒せるように頑張ります。」



俺も今度は、アースの助けを借りずにS級の魔物を討伐してみせる。そうでなければ、アースを守りぬくことは不可能であろう。



俺たち騎士組がそう話していると、ローウェルがため息をついた。



「はー、将来的には主の周りは化け物だらけになりそうだな。水回復魔法もすごかったが、俺は白薔薇の世界が印象に残っているな。前までは個人にしか身動き封じが使えなかったが、複数人相手でも身動き封じが使えるようになった。能力もすごいが、白薔薇の花弁が舞い散るあの光景も幻想的だった。」




こいつのことは昔から知っているが、花をめでる趣味があったとは初めて知ったな。なんというか、ムカつく。



「お前、意外とロマンチストなんだな。」




と、俺はからかいの気持ちを含めて言ってみた。




「そう見えないか?」






「「見えない。」」

「見えません。」




まさか、俺以外の二人もこんなにはっきり言うとは思っていなかった。ローウェルもそう思っていたらしく、少し傷ついたようだった。いい気味だ。




「……。俺のことよりも、主の美術の試験は大丈夫なのか?」



「それはもう運に任せるしかない。」



俺がそういうと、他の二人も頷いた。



「……。主がオールテット学園に落ちたらどうする?」




それは……。











ーー












 また、側近連中がこそこそ話をしているな。一体何を話しているんだか……。








「おーい、お前らも収穫手伝えよ! 今年も豊作だぞ! あと、話があるなら俺も混ぜろ!」







何だろう、何やら心配げな目で俺のことを見ているな……。


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