表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/193

8

『聖槍』





気が付くと光の槍がジルの腹を貫いていた。俺たちは油断していたんだ……。




「グァッ!!」



ジルは大量の血を流し、そして……、倒れた。





「応急手当を、早く!」



俺がそう叫ぶと、ウォーザットがすぐにジルへと駆け寄った。



「俺がやります。王族の護衛として叩き込まれましたから。」



応急手当はできるとしても、この出血量は素人目にもまずそうだ。一刻も早く、回復魔導士を呼ばなければいけない。



「ローウェル、連絡はどうなっている?」



「今、伝えている途中です。」



「ジルのことも伝えろ!」と、俺が叫ぶとローウェルは集中しながら頷いた。




「かなりの魔力を使いますが、緊急事態です。土人形に字を書かせましょう。」




遠隔で、しかも、字を書くという細かい動きを土人形に行わせるんだ。かなりの魔力と集中を要するだろう。しかし、早く回復魔導士を呼ばなければならない。





「ジルの様態はどうだ?」



俺が応急手当てをしているウォーザットにそう聞くと、ウォーザットは苦い顔をしながら首を振った。



「かなり……まずい。早く回復魔法をかけなければ、もちそうもない……。」






くそっ、俺が回復魔法を使えないばかりに……。光属性のくせに……。






「はははははっ! 邪魔な第三王子を始末で来たぞ! 私が魔法を使えないとでも思ったか? 馬鹿どもめ! 司教クラスの人間が魔法を使えないわけがないだろう?はははははっ!」




「流石だ、司教。見ろ。あの、絶望に染まったクソ餓鬼どもの顔を!! はははははっ!」





ジルはお前らなんかに、殺されていい人間じゃない。俺は、お前らを許さない。邪魔なベヒモスはいなくなった。今なら使えるな。俺は怒りで自我を失いかけていた。




「キース、魔刀をよこせ。」





すると、今までに出したことのないような、低い声が出た。そういえば、この世界に来てからキレたことないか。前世でも、怒ることはほとんどなかったな。





「……は、はい。」




皆を怖がらせたな、後で謝ろう。




「アスタ、キースと役割を交換だ。影にひそめ。ミラル、オーサック。合図をしたら、ミラルがキマイラを、オーサックが司教にとどめを刺せ。アスタはデーブンだ。」




俺がそういうと、全員が戸惑いながらも頷いた。俺は皆の頷きを確認してから、魔刀に魔力を込めた。




『咲け 白薔薇姫』


『すべてを凍てつくし、止めろ 白薔薇の世界』






白薔薇姫第二の能力、【白薔薇の世界】。雪のように白い薔薇の花弁を断続的に、そして高密度で降らす。花弁が触れている者でかつ、俺が敵であると認識した対象の身動きを封じる。


複数の対象に作用し、強力な能力であるため、六割ほど魔力を使う。 


ただ対象は魔法の発動ができるため、広範囲の魔法で吹き飛ばされることが弱点だ。しかし今はベヒモスを葬ったし、光魔法は上級魔法くらいしか範囲攻撃がないため、司教は放っておいてもいい。




「はははははっ! なんだ、この雪は。なぁ、司教?」


「そうだな。こんな雪で何ができる? うん? 雪ではなく、花弁だな……。なっ! 動けない!」



「なんだ、これは! 身動きが取れないぞ! おい、キマイラ! ……キマイラも動けないのか? クソ餓鬼、何をした!!」





白薔薇の花弁を最初に見たときは余裕ぶっていたが、身動きできないことに気が付いたとたんに二人が焦りだした。身動きが取れない今が仕留めるチャンスだ。




「お前らやれ。」



俺がそういうと、全員が素早く行動し始めた。手始めに、ミラルがキマイラの首をはねる。つぎに、オーサックが司教を気絶させる。そして……





「ま、待て! 俺はお前の父親だぞ! 父親に対して、なぜ剣を向けるのだ!?」




「なぜだと? 俺はお前を父親だと思ったことは一度もない! 母君の敵を討ちたいところだが、お前には償わなければいけない罪がある。死ぬまで懺悔しろ。」



「このクソ餓……!」




「それはもう、聞き飽きた。」




ドンッ!








ーー







……終わったな。


俺が敵の撃破に安堵していると、ウォーザットの叫び声が聞こえてきた。




「アース! ジルの流血が止まらない! 本当にこのままだと……!」




くそっ、敵を倒してもジルを回復させる手段があるわけではない。急いで、回復魔導士を呼ばないと、 今はどういう状況なんだ!


「ローウェル、どうなっている!」



「今こちらに向かってはいますが、時間がかかっているようです。あいつらが倒れたのなら、空間魔法が使えるのではないですか、主?」



「……小窓は出せる。しかし、大窓を出せる魔力がもう残っていない。」





白薔薇の世界でほとんど魔力を使ってしまった。残りは一割弱だな。なぜ俺は、回復魔法が使えないのだろう。空間属性がなきゃ、俺は本当に凡人だな。




すると、ジルがうっすらと目を開けて俺の名を呼んだ。



「しゃべるな、ジル。」


「いや、聞け。」



「黙れと言っているのが聞こえないのか!」





俺がそう言い返すと、キースが俺を制した。



「……アース、聞くべきだ。」



……。俺は黙って、ジルのほうへと向き直った。




「俺があの時、王の間でお前の好きにしろといったのは、本当に自分のためになる選択をしてほしかったからだ。決して突き放そうとしたわけじゃないことはわかってくれ……。」




……。





「主を選ぶということは本当に重大なことだ。どの王子を選ぶかによって、お前の将来は大きく違ってくるだろう。そんな選択の際に、俺とお前の友人関係はお前の選択の足かせとなると判断したんだ。だから、冷たく突き放すような言葉をいい、友人関係を無視して、主選びをしてほしかったんだ。すまなかった。」





なら、最初からそういえよ。本当に馬鹿だな……。



……馬鹿なのは俺のほうだ。ジルが王太子なりたくないからとか、くだらないことばかり考えていた俺の方が馬鹿だ。











ジルはそう言い終えると、意識を失った。




ここで、ジルという大切な友人を失うのか? いいや、ジルはこんなところで死んでいい人間じゃない。何かあるはずだ、考えろ。




そもそも、なぜ光魔法しか回復魔法がないんだ? 確かに、土や雷で回復するイメージは……。


イメージ? そうだ、「魔法はイメージ」だ。前世ではどうだった? 確かに聖女とか聖獣とか、回復魔法は光属性を持つものが使っていた。しかし、稀にいたではないか、「水回復魔法」の使い手が。




よし、水魔力で回復するイメージを。回復、治療……。やはり、地球出身の俺には治療と言ったら病院のイメージが強い。病院、手術、注射、看護師、医者……白衣。白い白衣を見ると、清潔で安心できるイメージが浮かぶよな。白衣か……。頼む! 魔刀、俺の願いに応えてくれ! 




『癒せ 清流の衣』




魔刀が俺の周囲に展開し、水の衣となった。





「アース?」

「主?」

「アース様?」




側近たちが俺を見て驚いているが、今は説明している時間がない。俺は側近たちに頷いた後に、集中した。




患部をよく見ないとだめだな。どの臓器が損傷しているのかをしっかり把握しなければならない。俺には医療の知識はない。だからこそ、どこを治したいかを具体的にイメージしなければならない。


腹を切り開くわけにはいかない。お腹の中を透視できればいいが、そうモニターみたいな感じで……。





『水鏡』




俺がそう詠唱すると、ジルの上に平らで、まるで鏡のような水が展開した。その水を上からのぞくと、腹部を透視できた。




あそこは確か一番大きいから、肝臓だな。肝臓を治療し、そして皮膚を縫合するイメージで……。




『清流の祝福』




すると、透き通った水がジルを覆った。



そして……、見る見るうちに傷が治っていく。






「うっ……。」


「殿下!」

「ジル!」



俺たちがそう叫ぶと、ジルが眩しそうにしながら目を開いた。



「……お前には助けられてばかりだな。」



「それはお互い様だ。」




よ、よかった。本当に、よかった……。










ーー









「みな、無事か――――!! 急いで、ジルベルト殿下治療を……!」




ジルが起き上がろうとするのに俺が手を貸していると、遠くの方から俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。見ると、父上が馬を一心不乱には知らせてくるのが見えた。








父上は俺たちのそばまでくると、馬を飛び降りて俺の体を隅々まで点検し始めた。




「ち、父上!? シンカー伯爵領にいらっしゃったのでは?」



「あぁ。朝早くに、執事から報告が上がってな。魔女の森へと向かったと聞いて、何か嫌な予感がしてたんだ。それで急いで切り上げて屋敷へと向かっている途中に、ローウェルの土人形からの伝言があったのだ。馬車では遅いと思い、馬にて全速力で向かってきたのだ。それよりも、殿下を……。服が血で染まっておられるが、傷はどこにあるんだ?」と、父上はジルの体を点検しながら聞いてきた。





「私が治しました。急いできていただいてありがとうございました。」




俺がそういうと、父上は驚いた表情で俺を見てきた。まあ、光魔法が使えないと知っている父上にとっては、衝撃の内容だろうな。



「お前が治したのか? 確か光魔法は使えなかったはずだよな?」



「その件はまた後で報告します。それよりも、事後処理をお願いしいたします。」



「あぁ、そうだな。それは彼らに任せよう。」




「彼らとは……?」




俺がそう聞き返すと同時に、見覚えのある顔がさっそうと登場した。



「アース、無事のようだな。」



グ、グートン先生?



「父上!」と、キースが驚きの声を上げた。



「キース、しっかり主を守り切ったようだな。」



「えぇ、グートン先生。キースは、単独でベヒモスを撃破しましたよ。」




「本当か? S級の魔物を一人でか! さすがは我が息子だ!」




「アース様のおかげです」と、キースはそっぽを向きながら答えた。




キース、先生に褒められてうれしそうだな。実際すごかったしな。









ーー









「何があったのか聞いてもいいか?」と、グートン先生もとい護衛騎士団長が現状報告を求めてきた。



俺が答えようとすると、ジルに制されてしまった。




「ジル。傷は治ったが、失った血は戻っていないんだ。まだ、おとなしく寝ていた方が……。」



「これは王族としての義務だ、俺がやらなければならない。」





と、俺が言う途中でジルに断言されてしまった。ここは、ジルに任せようか。俺は素直に身を引き、ジルに現状報告の役を頼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ