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俺はキマイラを、水牢で包み込んだ。
「今だ、お前らいったん下がれ!」
俺の合図で二人が下がったが、それと同時にベヒモスの火魔法が飛んできた。
『水壁』
「お前ら大丈夫か?」と、俺は攻撃を防いでいるうちに、二人の状態を確認した。
「こんなのかすり傷だ。」
「私もまだ戦えるよ。」
二人とも、戦闘不能ではないが、いたるところから出血している。
くそっ! こんな時、俺に回復魔法が使えたら……。
……できないことを嘆いても仕方がない。
しかし、どうする? 俺が攻撃に出られればいいが、それだとガードが甘くなってしまう。
白薔薇姫の第二の能力を使うか? いいや、魔力消費量が多いうえに対象が多すぎる。それに範囲魔法攻撃を使えるやつを先に落としておかないと、魔法で吹き飛ばされる可能性がある。現状で言うと、ベヒモスだ。先に、ベヒモスを落としたいが、近づけない。キマイラが邪魔だ。S級の魔物としての十分な攻撃力に加えて、スピードを持っている。やつをかいくぐって、ベヒモスに接近するのは骨が折れる。それに、後ろの二人も黙ってみてはいないだろう。
『魔力呪い 嘆』
くそっ!
今度は、魔力に対してデバフをしてきやがった。
俺がデーブン睨みつけると、デーブンは俺たちを嘲るように笑ってきた。
「はははははっ! これで魔法も身体強化も、時間制限がついたな! はははははっ!」
やられた。魔力がおよそ三十パーセントカットされたな。呪属性、厄介すぎる。後方職として、有能なのに……。
「魔物ども、一気にとどめを!」
デーブンの指示で、キマイラが超速攻を仕掛けてきた。
まずい、キースもミラルも反応できていない。ここは俺が、ガードするしかない。
『氷壁』
しかし、ベヒモスも一段強力な魔法を放ってきた。
まずい、水壁を出したらキマイラの攻撃がまた来る……。 もう打つ手が……。
すると、
『炎壁』
燃え盛る炎が、ベヒモスの火魔法を押し返した。
火魔法……? まさか!
「大丈夫か、アース!」
声のした方を振り向くと、そこにはジルと双子がいた。
「どうしてここが? ローウェルか!」
俺がローウェルの方を向くと、ローウェルは首を振った。
「え? じゃあ、なんでここが?」
「サンドール公爵家に行って、執事に聞いた。詳しいことは後だ。状況は?」
「わ、わかった。敵は転移陣にて、出現した。近距離のキマイラに、遠距離火魔法のベヒモス。呪属性のデーブンはデバフを行ってくる。今は身体と魔力に呪いがかけられて、力が発揮できない。司教は謎だ。こちらは見てのとおり、騎士二人が負傷、ローウェルは土人形で情報伝達、アスタはその護衛だ」と、俺は早口で説明をした。
「S級の魔物が二体に、呪属性だと? それに司教まで……。いいや、今は敵に集中しよう。まずは、呪いの解呪だな。」
『聖域』
ジルが詠唱すると、俺たちの周りが、優しい光につつまれた。
光補助魔法、聖域。闇属性の力を打ち消す。
「すごい。身体が軽くなった、というか、戻ったな。魔力も復活している。流石だ、ジル。」
「あぁ。これで、全力で戦えるな。アース作戦を。」
「わかった。人数が増えたことによって撃破が狙えるようになった。ただ依然として、盾役がいないため、俺とジルの壁で盾役を担う。ミラルとウォーザットは、キマイラを頼む。お前らは近距離相手に強い。キースとオーサックは、ベヒモスだ。あいつを第一に落としたい、頼んだ」と、俺はそれぞれに指示を出した。
「では、行くぞ!」
俺の合図で全員が、動き出した。
しかし、敵の二人はなぜか笑っていた。
「これは僥倖。アース様を手にできるうえに、邪魔な第三王子も始末できるとは。」
「させるわけがないだろう、このクソ司教!」
ーー
そこから戦いは拮抗した。デーブンが呪いを放ってきても、ジルが聖域で相殺。ベヒモスの攻撃も俺とジルの壁で対処。騎士組を遅れはとってはいないが、攻めあぐねているという状況が続いた。
「アース、このままでは騎士の魔力が尽きてもおかしくないぞ!」
「わかってる! 俺の魔刀が使えないのが痛いな。」
「お前が攻めに、回れないのか?」
「この人数の防御を、お前ひとりで担うのは無理だろう? キマイラの物理攻撃には、俺の氷壁が必要だ。お前の壁は、風と火だからな。」
俺の言葉に、ジルは渋々ながら頷いた。
このままではいけないことは、俺も充分にわかっている。こちらには、攻めの一手が足りない。相手はS級の魔物だから、こちらよりも長く戦い続けることができるだろう。持久戦では勝てない。だから、この均衡を崩す必要がある。そのためには、相手の一角を落とす必要があるが、それには俺の魔刀が必要だ。
『氷壁』
『風壁』
ただ、俺は防御で手一杯。だから、俺は魔刀が使えない……。俺は使えない? 俺以外が使えば、いけるか? 少し時間がかかるが……、できれば逆転の一手になり得る。だれに託す? ミラル、ジル……。
魔刀への属性付与でセンスを見せた、あいつしかいないな。
「全員に連絡。時間を稼げ、少しの間でいい。俺が雨を降らせたら、キース、お前は下がれ。ジルはオーサックのサポートを。」
俺は全員が頷いたことを確認してから、詠唱した。
『恣意雨』
恣意雨。水の補助魔法。水の威力を高め、火を弱める。雨の強弱や範囲を調節可能。
「来い、キース。みんな頼むぞ。」
俺の合図で、キースが一直線に俺のもとへと駆け付ける。
「何か策があるのか?」
「あぁ。お前に俺の魔刀を託す。いまから、お前専用の、雷の魔刀を生み出す。」
「……。わかった、やろう。どうすればいい?」
「俺が補助に入る。お前は、この魔刀でどう戦いたいか、どんな能力を扱いたいかを言葉に出して、魔力を流せ。そのイメージを俺が新しい形へと変換する。いいか?」
俺の問いに対して、キースは、そくうなずいた。
こういうところから、俺への信頼が否応なく伝わってくるな……。
「魔法はイメージだ、強くイメージしろ。」
俺は、魔刀をキースに渡した。そして刃先に手を当て、イメージに集中した。
「俺がこの魔刀に願うことは、何にも負けない速さと、貫通力。そして、雷のように戦場をかけたい。この刀で、すべての敵を置き去りにしたい!」
雷鳴のようにとどろき、雷の様に早く、そしてすべてを貫通するイメージで……。そういえば前世には雷関係でかっこいい言葉があったな。そう、あれは……。
俺たちが何かをたくんでいることに気づいたのか、デーブンが声を上げた。
「あの二人が何かしておるぞ! 魔物たちあいつらを狙え!」
それに対してジルが対処する。
「させるか!」
『嵐怒』
と、迎え撃った。
「アースの邪魔はさせない! はーーーーせいっ!」と、ミラルが切り込んでいった。
皆耐えてくれ……あと少しだ。
よし、イメージは固まった。あとは名と呼音だ。これは、さっき思いついたもので行く。キースに許可を取らず、俺が勝手に決めてしまって悪いが、今は緊急事態だ。気に入らないと言われたら、作り直そう。
「名は『青天の霹靂』、呼音は「轟け」、能力は【韋駄天】。キース、呼音そして名の順で呼べ。そして、ベヒモスを葬れ。」
俺がそういうと、キースは集中しだした。
『轟け 青天の霹靂』
すると、魔刀が雷を帯び、刃先が鋭くとがった形へと変形した。
『韋駄天』
キースは目にもとまらぬ速さで、一瞬にして視界から消えた。
そして、ベヒモスの首が飛んだ。
すご……。
韋駄天。雷のような目にも止まらぬ速さで、対象を一撃で貫く、最強の矛。キースの魔力量では、一度の使用が限界。
「ふざけるな! S級の魔物だぞ! それを一撃で……。」
「小さいころに親に言われなかったか? 濡れた手でコンセントに触らないように、と。」
「お、お前何を言って……。」
「常識だぞ?」と、俺はデーブンのことを鼻で笑った。
……。
水は電気を通しやすい。だから、俺は雨を降らせて、キースの雷の威力強化を図った。
「キース、流石のセンスだ」と、俺が褒めると、他の側近たちもキースに詰め寄った。
『キース、流石俺の幼馴染だな。』
『キース、同じアースの騎士として誇らしいよ。』
『キース、今の一撃見事でした!』
「アースのおかげだ。俺も早すぎて、何が起こったのか理解できなかったよ」と、キースは照れ臭そうにしながら笑った。
「よし。キースのおかげで、戦況はかなり好転した。あとは、あいつらだけだ。作戦は……。」
ーー
その時の俺たちは、ベヒモスの撃破により少し気を緩めてしまった。




