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【魔物の各階級の強さの想定一覧】
C級 一般人でも倒せるレベル
B級 騎士一人がなんとか倒せるレベル
A級 騎士十人と魔導士の援護ありで倒せるレベル
S級 騎士百人と魔導士数十名の援護ありで倒せるレベル
「お前は……司教!」と、俺が叫ぶと、もうひとりが気味の悪い笑みを浮かべて、現れた。
「私もおりますよ。」
「き、貴様! なぜここにいる!」
司教とともに現れたのは、地下牢にいるはずのデーブン・シンカーだった。
「はははははっ! 復讐しに来たのですよ……、このクソ餓鬼ども!!」
「く、くそっっ!」と、アスタが冷静さを失った。
「アスタ、ダメだ。今は冷静になれ!」
それでもアスタは、冷静さを取り戻さない。くそっ、アスタ、今は落ち着け!
「アスタ・リンハット!」
俺がアスタの名前を呼ぶと、ようやくアスタが冷静さを取り戻した。
「は……。失礼しました。」
それにしても、二人の実力が未知数すぎる。あのデブはどうやって脱獄した? 地下牢は王城の地下にある。そう簡単に脱獄はできないはずだ。司教が転移陣で助けたのか、いや見張りがいたはずだ。それに、転移陣をあらかじめ地下牢にセットしておかなければならない。それだと内通者がいることに……。いや、今はいい。それよりこの状況がまずい。
デブは一応元貴族だから、属性は何かしら持っているとして、司教は……そもそも戦えるのか? それに加えて、あの魔物たちもやばい。
「あの魔物たちを知っているものはいるか?」と、俺は情報を求めた。
「あれは、ベヒモスとキマイラです。どちらも、S級の魔物です!」
S級が二体だと。俺でも前、世の知識で知っているモンスターだ。これはかなりまずい、だとすると。
「いいか、俺が窓を出したら、全員引け。撤退する。」
俺の指示に、全員が頷いた。
『大窓』
……。
は? 空間が開かない。それよりも、空間属性が感じられない。
俺が困惑していると、あいつらが笑い出した。
「はははははっ! アース様、我々が何の対策もなしに来るはずがないでしょう。我々教会の者は、転移陣を管理しています。この転移というものは厄介でして、逃げに徹されると追跡が困難になります。そこで、その対策として反空間結界を所有しているのですよ。これであなたはこの場では空間魔法が使えないですね。はははははっ!」と、気色の悪い高笑いをした。
やられた……。これでは、戦略的撤退ができない。それより一番まずいのは、最強の盾が使えないことだ。
俺の防御は基本的に、水壁と氷壁だ。しかし、窓を使った防御ももちろん考えてある。それは、相手の魔法攻撃の通り道に窓を展開し、出口を相手につなげることで、疑似的な魔法反射を可能にするという防御だ。これは、あらゆる魔法攻撃を跳ね返すことができるという意味で、俺の奥の手だ。
しかし、相手の攻撃を確実に反射するためには、大窓を出す必要がある。この大窓は、俺の魔力総量の一割を使う。だから、連発はできないのだ。だからこその、奥の手なのである。実践向きなのは、水壁と氷壁であるため、普段はこれらの防御を用いている。
……奥の手を封じられたのはかなりまずいな。
「全員よく聞け。俺が空間魔法を使えないのは事実だ。そして相手もかなりの強敵なうえに、対象も四人だ。これは、今までで一番の窮地だ。俺たちがとる行動は、主に三つだ。一つは応援が来るまで耐える。二つ目は反空間結界とやらの効果範囲外まで逃げる。三つ目は、俺たちで倒す、だ」と、俺が言うと、すぐさまキースが反応した。
「二つ目は現実的でない。効果範囲がどこまでかわからないし、第一奴らが逃がしてくれないだろう。」
「キースの言うとおりだね。応援を呼びつつ耐える、という作戦が一番よさそう。」
「主、応援を呼ぶ方法はどうします?」
「……アスタの影移動で最速で情報伝達を頼むというのが一番理想だが……。そうすると、こちらの人数が減り、さらに不利になってしまう。そこで、ローウェルの土人形で方々へと伝達を頼みたい。いいか?」
俺がそう聞くと、ローウェルは大きくうなずいた。そして俺は、アスタにローウェルの護衛を任せた。
ローウェル・カーサード。属性は土。補助魔法が得意。その中でも、土人形操術の使い手である。一度に操れる土人形は五体。大きさは、虫サイズから人間大の大きさまで、自由に変えることができる。そして、その土人形と感覚を共有でき、様々な情報を集めることができる。また、土人形に一定の伝言を付与することができる。人間大にすれば一応戦うことはできるが、無論戦闘向きの人物ではない。
なお、土人形を操っている間は他の魔法の使用ができないため、無防備になってしまうというデメリットがある。だから、安全な場所か、仲間の守りがあるところでしか使えないのだ。
「キースとミラル。お前らが攻めだ、しかし撃破は狙わなくていい。相手の能力と強さをはかるだけでいい。」
俺がそういうと、二人は頷いた。
「俺は、水壁と氷壁によるガードに入る。このパーティーには、土の身体強化もちがいないからな。俺が盾役になる。」
土の身体強化魔法。身体の防御力を大幅に上昇させることができる。それによって、パーティー内での盾役を担うことができる。
「それでは、各自連携を大切にし、自分の役割を全うしろ。生きてここを突破するぞ!」
ーー
「作戦会議は終わったか、餓鬼ども? じゃあ、蹂躙開始だ! お前ら、こいつらを殺せ!」
グオオオオオオーーーー!
二体の魔物が咆哮を上げ、こちらに向かってくる。
このデブの属性は何だ。アスタの父親だから、闇の可能性が高いが……。それにしても、S級の魔物をどうやって使役しているんだ? 従魔契約は、一体しかできないはずだ。それなら、デブと司教で一体ずつを使役しているのか? いや、あの二体の魔物はデブの指示を聞いていた。一体どういうことだ?
すると、ベヒモスが強力な火魔法を放ってきた。
ちっ、考える隙がないな。
『水壁』
俺はセオリー通り、火魔法に対して、水壁を展開した。
次にキマイラが鋭い牙と爪で攻撃を仕掛けてくる。
それに対して、こちらはキースとミラルが攻撃を受け止める。
キマイラは、あいつらに任せておけば大丈夫だ。ベヒモスも、俺が対応できる。あとは後ろの二人が、何を仕掛けてくるかだな。
『身体呪い 嘆』
デーブンの詠唱が聞こえた瞬間に、急に体が重くなり、身体能力が下がった。
こ、これは……。
「まさか、お前の属性は「呪」か?」
「ご名答。俺の属性は、闇の派生系の呪だ。これは相手の能力に、負の影響を与えることができる能力だ。また、強力な呪いも使うことができる。ここにいる魔物どもは、多くのものの命を代償に呪いをかけて使役している」と、得意そうにデーブンが答えた。
「命を代償にだと? いったいどれだけの人を、犠牲にしたんだ!」
俺がそういうと、デーブンは高笑いをして、叫んだ。
「はははははははは!! 領地には人がごみのようにいるだろう? それに女はたっぷりと楽しんでから、呪いを施してやったよ。そう、お前の母親にもなぁ、アスター!」
何だと? それじゃあ、アスタの母親が亡くなったのって……。
「は、母上は急に体調を崩して亡くなった。それを……、お前がやったのかっーーー!!」
「はははははっ! そうだよ、有効利用してやったんだよ! ありがたく思え!」
「く、くそっーーー!!」
アスタが、デーブンに切りかかろうと走り出した。まずい!
「アスタ、落ち着け! 今はこらえてくれ、頼む。俺もあいつを今すぐ地獄に叩き落してやりたいが、状況が悪すぎる。今、ローウェルに攻撃が当たれば応援を呼べなくなる。だから、お前の守りに俺たちの命がかかっていることを忘れるな。信じてるぞ、アスタ」と、俺が叫ぶと、アスタが苦い顔をしながらも止まった。
「くっ! も、申し訳ございませんでした。自分の役割を果たします。」
悪いな、止めてしまって。必ずやつを倒す
状況を整理しよう。キマイラが近距離担当。ベヒモスが今のところ火属性で遠距離担当。デーブンがデバフと魔物の使役。そして、司教が静観だな。
司教が不気味すぎるが、今のところは放置でいいだろう。
俺が状況を整理していると、ミラルとキースが負傷したようで、声を上げた。
「くそっ!」
「くっ!」
キース、ミラル!
まずい、デバフで近距離組の均衡が崩れている。俺は魔法で戦っているが、騎士には身体能力のデバフの影響が大きすぎる。
一度下がらせるべきだな。
『水牢』
「身体呪い 嘆」
デバフ系は四段階に分かれている。
嘆(30%) 恨(50%) 怨 (80%) 死 (100%)
%は、デバフの割合。上記なら、身体能力30%ダウンとなる。
強い効果にはそれ相応の魔力と代償が必要である。




