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4


それから俺は数日の間、訓練や勉学、家庭菜園などいつも通りの日々を過ごした。




やはり、体を動かすとすっきりするな。俺は訓練に付き合ってくれた三人に、お礼を述べた。








『いつも通りのことを、したまでだよ。』

『うん、いつでも相手するよ。』

『私はアース様とこうして訓練できるだけで幸せです!』




と、三者三様の反応で、嬉しそうに答えてくれえた。




俺たちが休憩していると、ローウェルがやってきた。






「お疲れさまです、主。今日もジルベルト殿下から、お見舞いが届いていますよ。」






「またか? もう回復しているのに……。俺がすでに訓練も普通にしていること、ちゃんと手紙に書いたよな?」




俺がそういうと、ローウェルは少し困ったような顔をしながらも、笑って答えてくれた。




「……主のことが心配なんですよ。」



「そうか……。わかった、ジルにあの約束を取り付け……」と、俺がジルとの面会の指示をしようとしたところに、執事が急いでやってきた。






何だろう? 執事がこんなに慌ててやってくるなんて、珍しいな。






「アース様、お話し中の所を失礼いたします。公爵様がお呼びです。」



「父上が? わかった。」




何だろう、訓練途中に呼び出すなんてめったにないぞ。











ーー










「アース、来たか。早速だが、お前に面会希望の者が来ているぞ」と、父上が無表情に言った。






俺に面会? 俺の接待部隊ならばいつも、父上がはじいているから、今回はその手合いではないのだろう。


それに父上のこの反応……、碌な相手ではないな。




俺は深呼吸をしてから、相手について尋ねた。




「面会相手は、シンカー伯爵だ。」




……遂に来たか。シンカー伯爵は、アスタとその母親を放り出し、また黒いうわさもある最低な奴だ。




俺が対策を考えていると、「なっ!」という大きな声が、部屋に響いた。




声のした方を見ると、アスタが青ざめた顔をしている。





「それで、どうする? 会うか? 追い返してもいいが、これから先も接触を図ってくると思うぞ。」




んー、今断っても、父上の言う通りで、何度も付きまとわれそうだな。であれば、ここでたたくのがいいだろう。





「会いましょう。こちらもただ、黙って待っていたわけではありませんからね。父上も一緒に来ていただけますか? 何しろ私はまだ学園にすら通っていない、か弱い子供ですので。……あの件は父上に頼みます」と、俺は貴族スマイルで言った。




俺がそういうと、




「うむ、わかった。か弱い息子を、一人で行かせるのは心配だな。私も行こう」と、父上も貴族スマイルを浮かべて乗ってきた。





後は、アスタだな。



「アスタ、辛いならお前は来なくてもいい。」





「……いいえ、行かせてください。私には、あいつに会う義務があります。」





「わかった。一言、言ってやれ。」




と、俺が言うと、アスタは覚悟を決めたような表情でうなずいた。






こちらもただ黙って待っていたわけではない。アスタとしっかり縁を切らせるために、準備をしてきたのだ。うちの情報部隊を甘く見るなよ。










ーー












 コンコン









部屋に入ると、そこには体脂肪率がえげつなさそうで、さらに宝石をふんだんにつけている、豚……シンカー伯爵の姿があった。




豚に真珠とはまさにこのことだな。一瞬父上を見て、嫌そうな顔を浮かべたな。俺が一人で来るとでも思ったのか?











「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。デーブン・シンカーと申します。お会いしたいと常々思っておりました」と、わざとらしい態度でデーブンが挨拶してきた。






デーブン? ぴったりな名前じゃないか。名が体を表すとはこのことだな。




それにしても、わざとらしい態度だな。そして、性根の腐り具合が顔に出ている。







「初めまして、アース・サンドールです。この場に父が同席することをお許しください。何分私は、学園にすら通っていないほどか弱い子供ですので、難しいことはよくわからないのです」と俺は、か弱い子供のふりをしながら、挨拶をした。





俺のか弱い演技に対して、デーブンは喜んだように、鷹揚に頷いた。





「それはもちろん構いませんよ。ですが、安心してください。難しい話をするつもりはございませんよ。」





「それはよかったです! それで、お話とは何でしょうか?」





「はい。それがですね、アース様が何やら孤児を側近としたという噂を聞きましてね。その話に私は感銘を受けまして、少し調べさせていただいたのですよ。そうするとなんと、私が以前、かわいがっていた女の子供だとわかりましてね。それで、ご挨拶をと思いまして」と、下種い笑みを浮かべながら言った





やはりか。それにしても、茶色の髪色に灰色の目、確かにアスタと親子だといわれても何ら不思議ではない。デーブンも今は太ましいが、瘦せればそれなりの美形だろう。





「そうだったのですね。挨拶だけなら、もう用は済んだのではないですか?」と、俺は帰宅を促した。







まあ、軽いジャブだな。


さあ、デーブンはどうするかな?










「……いえね、久しぶりに顔を見たら懐かしい気持ちになりましてね。それで、アスタ。我が屋敷に、帰ってきてはどうだ? それに、アース様も我が屋敷に招待したいですしね。」





直球だな。俺を屋敷に引き込んで何をするつもりだ?それに、アスタが懐かしいだと? ふざけるのも大概にしろよ?


 






「残念ながらその申し出には、お答えすることはできません。なぜなら、アスタはすでに養子に入っていますので。」






俺がそういうと、デーブンは少しムッとした表情を浮かべた後に、再び気味の悪い笑みを浮かべた。






「それは残念ですね。どこの家でしょうか、ご挨拶しなければ。」





このデーブンの言葉を聞き、アスタが我慢できずに前に出た。






「き、貴様! あの方達に何かしたら許さな……。」





「アスタ落ち着け。もう済んだ話ですので、挨拶は不要かと。もうお話は済みましたか? では、お引き取りを」と、俺はアスタを制しながら、デーブンに暗に「帰れ」といった。






アスタは俺の言葉を受けて、「申し訳ございませんでした」と言い、身を引いた。






すると、デーブンが顔を紅潮させながら、立ち上がった。公爵家でその態度は不敬ではないか?






「……。こちらが下手に出ていれば、偉そうに……。アスタ戻ってこい! お前は私のものだ!」






「……戻るつもりはない!」






「ふん! お前も、あの女のように面倒だな。あの女、少し優しくしてやっただけで、股を開きやがったくせに……。もう不要だから出て行けと言ったのに、何度も食い下がりやがって……。本当に、母子そろって忌々しい」と、アスタを睨みつけながら言った。




こいつ子どもの前でなんてこと言ってんだ。それに子供がいようがいまいが、言っていることが最低すぎる。





「シンカー伯爵言っていいことと、悪いことの分別も……。」






と、俺が言う途中で、再びアスタが前に出た。






「貴様! 母上がどれだけ、どれだけ苦労したと思てるんだ! お前に捨てられてから母上は……。」






「はははははっ! それがどうした? 俺にとって女など、吐いて捨てるほどいる……。」








俺はさすがに看過できずに、デーブンを黙らせようと立ち上がったが、隣から絶対零度が放たれた。






「デーブン・シンカー伯爵、少し黙れ。子供に聞かせる話ではない。」






今まで静観を決めていた父上が、底冷えのするような声で言い放った。








「も、申し訳ございません……。公爵様。しかし、もとは私の子供だ。私に所有権がある。屋敷に来ないというなら、アスタが孤児であることを周囲に言いふらすぞ! そうしたら、孤児を側近に加えていると、周囲の者に嘲笑されるでしょうね。はははははっ!」と、デーブンは開きなおったかのように、再び気色の悪い笑みを浮かべた。








こいつ、本当にクズ過ぎる。


もう、か弱い子供は演じなくてもいいか。







「……シンカー伯爵様、最近金回りがいいそうですね。私にもぜひ、紹介していただきたい。」




俺がそういうと、デーブンはぎょっとした表情を浮かべて、あからさまに狼狽えだした。





「え、えぇ。まぁ、それなりに……。」





デーブンのやつ、「こいつ、いきなりどうした?」とか、思ってそうだな。





「私、欲しいものがありまして、そのためにお金が必要なのですよ。」




「なるほど、アース様が欲しい物とは、私も気になりますね。何をお望みなのですか?」




と、デーブンは食いついてきた。俺を、金づるにでもするつもりなのだろうか? 笑っていられるのも、今の内だぞ。





「ルーン石という金属が欲しいのですよ。少し、実験したいことがございまして。」




「な、なるほど。ルーン石は高価ですからな。さぞや大金が必要なことでしょう。」




「おっしゃる通りです。そういえば、前に一度オークション会場で、ルーン石を見掛けましたよ。その時は持ち合わせがなくて、買えなかったのですよ。」





……。


俺がそういうと、デーブンは急に黙りこくった。もう少し、押してみようか。








「そういえば、シンカー伯爵領にはルーン石の採掘場がありましたよね?」





「は、はい。ございますね。」





「どれほどのルーン石がとれるのですか?」



「えぇ、量は決して多くはとれませんね。どの採掘場でも、一キログラムとれればいい方だといいますし……」と、目を泳がせながら、デーブンはいった。




そんな分かりやすい反応をしていて、よくこれまで貴族としてやってこられたな?








「そうなのですね。私たちの国は、世界でも有数のルーン石の産地ですからね。その採掘量の良しあしは、世界の国々も目を光らせていることでしょう。そんな貴重なルーン石を横流しなどしたら……、さぞや羽振りが良くなるのでしょうね」と、俺は笑顔で圧をかけながら言った。




「……。何が言いたいのです?」と、デーブンは怒りを孕ませながら聞いてきた。






お前はもう、詰んでいるんだよ。






「そうですね、オークション会場のルーン石は誰かが横流ししたものだという噂話聞きましてね。それがあなただと言いたいのですよ。」


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