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「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。サンドール公爵家三男、アース・サンドールです。陛下の御前に参上いたしました」と、俺は陛下に対して失礼のないように、無難な挨拶を行った。
「うむ。よく来たな、アース。お前のことは、フーラルやジルベルトからよく聞いておるぞ。今回、お主を呼び出したのは、オールテット学園でお前のことが噂となっている件についてだ」と、陛下が朗々とした声で語りだした。
やはりか。父上からの話で、なんとなく想像できていたが、実際そうなっているのか……。
「う、噂ですか?」
「そうだ。空間属性とはそれだけ、珍しく、価値のあるものだ。各国がこぞって狙っているという話だ。」
うわー、そんなに広まっているのか。だが、不思議ではないな。この国の貴族や、教会から漏れた可能性は充分にある。
「左様でございますか。それで……陛下、私に何かご命令があるのでしょうか?」
「そうだな、命令というよりはお願いがある。」
王族のお願いは実質的な命令だと、貴族の教科書には書いてありますけどね。
「私にできることでしたら、謹んでお受けいたします。」
「うむ、高尚な心掛けだ。それで、お主にお願いしたいのは、ここにいる各王子たちのいずれかの側近になること、そして我が国の利益となる婚約者を受け入れることである」と、俺が最も恐れていたことを提示された。
く、そうきたか。側近の件は前から考えていたからいい。だが、婚約者は……。ただでさえ、結婚に否定的なのに、相手を勝手に決められるのはなおさら嫌だ。「お前を政略結婚の道具として利用させろ」と、言っているもんだからな。
「余としても、友人の息子から自由を奪うことは本意ではない。だが、我が国としては他の国にお前を取られることを最優先に避けなければいけないのだ。それは理解してほしい」と、陛下が続けていった。
陛下のお人柄はおそらくいい方なのだろうと俺は思っている。父上とも友人同士だし、ジルのお忍びも許容しているようだからだ。だから、「本意ではない」というのは、おそらく本心だろう。けれども、国を背負う国王としての判断を今言っているんだろうな。
しかし俺は、婚約者の件は何としても回避したい。ここは、不敬だとはわかってはいるが、遠回しに断ることにする。
「側近の件はお受けいたします。しかし、婚約者については私にはまだ想像がつきません。」
俺がそういうと、陛下が難しい顔をした。
「想像ができないか、お主には縁談が舞い込んでいると思うが……。フーラルどうなのだ? 」と、俺の父上に話を振った。
「はい、縁談は確かにありますが……。ただ、アースには自分で自分の身知恵を選んでほしいと思っております。」
縁談があるなんて知らなかった。その可能性はあるとは思っていたが、実際にあったとはな……。それにしても、本当にいい父親だな。
「お主の気持ちは子を持つ父として理解はできる。しかし……わかるな?」
「……、はい」と、父上は、少し間をおいてから、返事をした。
それならばよいと、陛下は鷹揚に頷いた。
「アース、お主にはまだ想像がつかないだろうが、お主が学園に入学すればあらゆる方法でお前に取り入ろうとしてくるだろう。例えば、側近への加入や婚姻などな。その前に外堀を埋めたいのだ、理解してほしい」と、半ばお願いのような形で、陛下が言った。
俺も馬鹿ではない。だからこそ、頭では理解できる。しかし……気持ちが追い付かない。だが、俺にはどうにもできないな。これが貴族だからな。
「か、かしこまりました」、俺はこういうしかなかった……。
「うむ。お主の理解に感謝する。ではまず、ここで誰の側近になるのか、選んでもらおうか。」
「私がお選びしてもよろしいのですか?」
「もちろんだ。そこまで強要はしたくない。」
「ご配慮、感謝いたします。」
陛下は優しい方だな。最大限譲歩してくれていることがわかる。
陛下の合図を受けて、一人の少年が前に出た。
この方が第一王子だな。マクウェル兄上からも、聡明で優しいと聞いている。
「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。サンドール公爵家三男、アース・サンドールです。」
「初めまして、第一王子のベルハット・アーキウェルです。私はアースが、私の側近になってくれたらうれしい。それにマクウェルも喜ぶであろう。もちろん、手厚く保護をするつもりです。。私からは以上です、陛下」と、第一王子殿下は、軽く会釈をした。
次に前に出てきたのは、おそらく順番的に、第二王子殿下だな。何やら、妙に丁寧な礼をした。
この方が第二王子殿下か。ケルサス兄上が側近となっている。確か人柄を聞いたときに、なんとなく言いよどんでいたよな。今の態度もなんかわざとらしいし、俺のことを見てニヤついている。
「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。サンドール公爵家三男、アース・サンドールです。」
「あぁ。お前が空間属性持ちのやつか。噂は聞いているぞ。側近の件だが、俺の側近になれ。俺の母君は聖王国の出身であるから、俺もナハト教を信仰している。空間の女神の使途であるお前は、当然俺の側近になることが道理だ。俺の側近となれば、いい思いをたくさんさせてやる」と、強引な口調と顔で言ってきた。
すると、この部屋の温度が少し下がった。なんだ、こいつ。公然と教会派だと発言をしているな。かなりやばいし、言い方も傲慢で気分が悪い。最悪だ。
周囲を見ると、父上は苦虫を食い潰したような顔をしている。何より、俺の側近の我慢が持たなそうだ。これは、一度止めないとな。
「恐れ入ります、第二王子殿下。陛下、一度発言をお許しください。」
「許可する。」
俺は陛下の許可を受けて、側近たちの頭を冷やそうとした。
「キース、ミラル、ローウェル、アスタ、気分が悪いなら退室しろ。陛下の御前だ、そのような雰囲気を、出すものではない。」
ごめんな、こんな言い方しかできなくて。こんな時にテレパシーとか使えたら便利なんだけどな。みんな傷ついてなければいいけど……。
俺がそういうと、「失礼いたしました」と、側近たちが心を落ち着かせたようだった。
「お見苦し所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。」
「よい。では最後に、ジルベルト。何かあったら申してみよ。」
陛下の合図を受けて、ジルが前に出てきた。この状況でジルは、俺に何というのだろうか?
「アース、お前のすきにすればいい」と、ジルはただそれだけを言って、後は下がってしまった。
え、それだけ? さすがに冷たすぎないか? 何を考えているんだろう? 俺の理解が追い付いていないにもかかわらず、陛下が側近決めの話を勧めた。
「では、お主が決める番だ、アース。その後は、婚約者の話に移る。」
誰を選ぶかか……。そもそも俺に選ばせるのはなぜだ? 陛下は、そこまで強要したくない、と言っていたが……。俺はてっきり指定してくると思ったが、例えば王太子に一番近い王子の側近とかな。
俺が選ぶことに何かあるのか。単純に考えれば、お前は国王派と教会派のどちらにつくのか、という踏み絵だ。これはありそうだな。
加えて、三人から選ぶ理由か……。俺が選んだ王子が、王太子に一歩近づくとか、か? 流石に、自惚れかもしれないな。しかし、本当だったら……。
とにかく、選ばなければいけないな。まず、第二王子殿下はなしだな。態度も悪いし、何より俺は、教会にいい感情を抱いていない。とすると、ジルか、第一王子殿下だな。
気持ち的には、断然ジルだ。主としての人柄は、申し分ない。しかし、ジルの側近となれば俺たちは主従の関係となり、対等な友人ではいられなくなる。それはそれで辛いな。
それに対して、第一王子殿下も選択肢には入る。人柄は申し分ないだろうし、順調にいけば王太子になるだろう。
それにしても、ジルは王太子を目指しているのだろうか? そんな話聞いたことがないしな。こんなことになるのなら、聞いておけばよかったな、将来何したいとかさ……。まぁ、当の俺も、将来のこととか全く考えていないけど。ジルの真意がわからないのに、俺が側近の選択をしたら、王太子という役目を背負わせることになるかもしれないのか。それはやりたくないな。あ、そうか。だから、さっき冷たい言葉をかけてきたのか? 「俺はあまり選ばれたくはない」、と。
じゃあ、第一王子殿下かな。消去法になってしまって、申し訳ないけど。はー、そして次は婚約者の話か。本当に嫌だ。気持ちが追い付かないな……。
いや、むしろ息苦しいような……。まずいな。気持ちが乱れているのに、こんなにも長考したら……。
あ……、意識が遠く……。
みんなが何かを叫んでいるのが聞こえる……。
それにしても、皆の声が遠く聞こえるな……。こんなことろで、倒れるなんて、俺は情けないな……。




