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八月になりました。入学試験まで、残り僅かです。




なんとか、アスタも間に合いそうだな。アスタは他の貴族と比べてもかなり勉強が遅れていたが、俺と側近の集中講義により、何とかオールテット学園にぎりぎりは入れるだけの力はついたと思う。本人の勉強意欲も素晴らしく、学ぶことが楽しそうだ。



そういえば、ジルたちも全員で合格を狙っているんだよな? 俺が思うに、オーサックって勉強できるのかな? 俺は側近たちに聞いてみることにした。



「ウォーザットがきっと、何とかしているでしょ」と、ミラルが言った。




確かにそうだな、情景が目に浮かぶようだ。それじゃあ、確認がてら、息抜きに遊びに行きますか!










ーー








俺たちは久しぶりに、ジルの部屋に遊びに来た。



「久しぶり、ジル。順調か?」



「久しぶり、アース。俺は大丈夫だ……。しかし……。」




ジルが見つめた先の部屋の奥には、教科書にまみれたオーサックの姿と、不機嫌なウォーザットの姿があった。


 

あー、やっぱりまずそうか。




「算術と歴史類にどうにも苦戦しているようだ。他は及第点なんだがな。」



そうなのか、実技には苦労していないんだな。脳筋なのに、芸術は人並みにできるんだな。世の中はいつでも、不条理である。



俺がそんな失礼なことを考えていると、ジルがなにやら、小声で話しかけてきた。





(「なぁ、アースから何かやる気を引き出させるようなことを言ってくれないか?(小声)」)




(「いや、無理だよ。主人のお前が何とかしろよ。(小声)」)




(「あいつはお前をライバル視している、だからお前が発破をかければ行けると思うんだ。だから、頼む!(小声)」)




(「そこまで言うなら……あんまり期待するなよ。(小声)」)




(「あぁ、頼んだ(小声)」)






相手は脳筋で単純な、戦闘狂だ。だから、わかりやすく煽って、やる気を引き出そう。




「オーサック、順調か?」と、見るからに順調そうに見えないオーサックに、俺は空気の読めない男として話しかけた。




「いいや、俺はもうやりたくない。」



これは重傷だな、よし。




「ウォーザット、オールテット学園は世界一の学校だよな? そしたら、とんでもなく強い奴もいっぱい集まるんだろ?」




「う、うん。そうだね。」




「例えば、一番強い奴を決める大会とかあるのか?」




「あるよ! 騎士コース全員が参加する、学年別のトーナメントがあるよ。」



よし、ウォーザットも俺の意図に気が付いたようだな。オーサックが前のめりになってきた。






「トーナメントか! 俺もぜひ参加したいな。それに、騎士コースだと、たくさん訓練できるんだろうな! オールテット学園にいけば、さらに強くなれそうだな。」




俺が大げさな動作と声でそう言うと、オーサックが勢いよく立ち上がった。




「ウォーザット! 俺はオールテット学園に行くぞ! 早くこの問題の続きだ!」




「う、うん。わかったよ、兄さん!」





よし、これでやる気だけは十分だろう。あとは頑張れよ、ウォーザット。


 ジルがグッドサインを送ってくる。







「それにしても、ジル。苦手科目の一つや二つあっても、他の科目でカバーすればいいだろう? 総合点の勝負なんだからさ。」



「確かに総合点で学園が決まるが……。オールテット学園に入るためには総合点で上位になることと、各科目で下限を上回ることが必要だぞ? つまり、一つでも下限の点数を下回ったら、落ちるぞ?」と、あきれた声で俺に言ってきた。






……。はーーーー!?




これは、まずいことになった……。俺には、美術というジョーカーがある。てっきり、総合点の勝負だと思っていた。しっかり確認していなかった、俺のミスだ。





「全員集合だ、緊急会議を開く。双子は勉強を続けてくれ。」














ーー












「議題は「アース・サンドール、美術の試験で下限を下回りオールテット学園に落ちる件」についてである。みんなで、対策を話し合いたい。何か意見はあるか?」と、俺は皆に必死に問いかけた。





『今更かよ。対策も何も、お前の絵がこれから上達するとは思えん。』


『俺も、アースがそうするのかと思っていたぞ。』


『私も。』


『俺も。』






なんとも、薄情な奴らだな。というか……。




「まて、お前ら。下限のことを知っていたのか?」






『あぁ、まぁな。』


『うん、現実を突きつけるのは酷だと思って、みんな黙っていたんだよ。』


『俺は主なら、急に才能が開花すると期待していたんですが、こればかりは……。』


などと、側近たちが必死で弁解してくる。そんな中、俺たちの話題についてこれない人物が一人いた。




「あの、自分はアース様の絵をまだ拝見したことがないのですが、それほどまずいのですか?」



あーそういえば、アスタは俺の絵を、まだ見たことがなかったな。


これにいち早く反応したのはジルだった。




「あぁ、酷いぞ。小さい子供に書かせた方が、まだましだ。そういえば、お前が前に描いた俺の肖像画があったな。……あったぞ、みんな見てみろ。」




お前ら、見るなーー!!









「これは……感性が独特ですね。」



「アスタ、こういう時ははっきり言ってやった方が良い。」と、キースがアスタを諭す。



「酷いです。」




アスタ? いや、茶番をしている場合ではない。どうしよう、下限は何点なんだろうか? 俺は、ジルに下限の点数を聞いてみた。




「だいたい四十点くらいだろうな。ちなみに、オールテット学園に入学する者は、平均各科目、八十五点以上はとるぞ。」




「ちなみに俺の絵は何点くらいだと思う?」




「ゼロだ(です)(だね)。」と、皆がキレイナハモリを見せた。





俺、終わったじゃん……。


まて、これはやばいぞ。まったく笑えない。魔力とか身体能力とか、関係ないしな。どうにもできない。




俺が絶望に浸っていると、


「まて、あきらめるのはまだ早いぞ」と、ジルが待ったをかけた。






「なにか、あるのか?」




ジルの話によると、美術の試験は二つあって、一つは、毎年与えられるお題の絵を描くこと。もう一つは、工作らしい。工作は年によって、何か作ることを課されたり、アイデアを考えたりすることのどちらかが課される。絵と工作がそれぞれ五十点ずつだから、工作で満点を取れば下限はクリアできるとのことだ。




工作か……絵よりはましだが、実際に手で作るとなるとあまり自信はない。なら、これからは工作の対策に特化する。他の科目はもう対策しなくても充分だ。そして後は、アイデアが出ることを願う。もうこれしかない!


これは運の勝負だな。異世界の神様、頼みます!




話がひと段落すると、ジルが何かを思い出したようだ。




「そういえば、父上から伝言を預かっている。」



陛下から伝言……? なんだろう、こんな事初めてだな。



「「次の木の日、王城に来てほしい」、だそうだ。」



「内容はわからないか?」



「俺にも伝えられていないな。」





 何だろう、すごく不穏だな……。











ーー










俺たちが帰宅すると、早速父上に呼ばれた。




「アース、ジルベルト殿下から話があったと思うが、私も一緒に行くからな。」



「父上は何かご存じなのですか?」



「う、うむ。マクウェルやケルサスから話を聞いている限りではあるが、予想はついている。だが、あくまで予想だ。今、言うべきではないな。……アース、一つアドバイスだ。自分が思った通りにしなさい」と、父上は神妙な面持ちで言ってきた。





兄上たちから聞いている限り……? 学園でそれに関係する何かがあったのか? まぁ、空間属性がらみだろうな。











ーー











今日は木の日である。


さて、何が起こるかな。予想では、学園で空間属性持ちがアーキウェル王国にいる、ということが知れ渡っているから用心しろ、とかかな。でも、わざわざ城に呼びつけているわけだしな。





俺は案内係に、王の間へと通された。そこには陛下を始め、王妃様方、そして各王子様がそろっていた。




 こ、これはいったい何事だろう?


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