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ジルの案内のもと、俺たちは人気のない裏路地を目指していた。あの店にあるものは、なんだろう? 俺がジルに尋ねようとした瞬間、角から何かが飛び出してきた。
「お下がりください!」と、護衛騎士たちが一斉に剣を抜き、前へと出る。
な、なんだ? 子供か? だけど、平民にしても、やけに薄汚れて、そして痩せているな。
すると、飛び出してきた子供が泣き出した。
「お前ら剣を収めろ、相手は子供だ。怖がっている。」と、俺が言うと、最初は側近たちは拒否した。しかし俺が再度頼むと、キースとミラルは、渋々剣を収めた。
ジルが俺に続いて、剣を収めるように言うと、双子も剣を収めたようだ。
側近たちが剣を収めた直後、飛び出してきた子供よりも、大きな子供が駆けつけてきた。
「も、申し訳ございませんでした! ど、どうか私の首だけで許してください! 他の奴らは勘弁してください、貴族様!」
貴族とバレているな。まぁ剣を抜いたし、俺たちの間に主従関係があったもんな。
「謝らなくていいよ。それに、誰も咎めるつもりはないよ。」と、俺はできるだけ優しい口調で話しかけた。
「ほ、本当ですか……?」
「うん。」
「あ、ありがとうございます。」
「いえいえ。俺も前を見ていなかったしね、お互い様だよ。」
すると一人の女の子が近づいてきて、
「リーダー! マルクが倒れた!」と、慌てて言った。
「わかった、今行く。申し訳ございません、仲間が倒れたようです。行ってもよろしいでしょうか。」
後ろの方に数人子供がいて、そのうちの一人が倒れたようだ。
「俺たちも行ってもいいか? 何か力になれるかもしれない。決して危害は加えないことを約束する。」
「「「アース(主)!」」」
「すまん、みんな。見過ごすことができない。ジルたちは先に帰ってくれ。送ってやれなくてすまん。」と、俺が平謝りをした。
すると、
「この国の王族として、見届ける義務がある。」
といって、ジルたちも残った。 まぁ、ジルならそういうだろうな。
ジルが王族だと分かり、子供たちは、口をパクパクさせて、身震いしていたが、ジルはなんちゃって王子だから大丈夫だと伝えた。そうすると、「お前はなんちゃって公爵だろ!」と、返された。まったく、失礼な話である。
ーー
俺たちが子供たちの後についていくと、そこには、ガリガリに痩せている男の子が倒れていた。
「ローウェル、病気か?」
「いいえ、これは空腹や栄養失調で倒れたのでしょう。」
こんな小さな子が、空腹に栄養失調か……。心が締め付けられるようだ。周りの子供たちも、立っていることが不思議なくらい、瘦せている。
「じゃあ、何か食べ物を……。キース、近くの屋台で何か食べ物を……。」と俺が指示する途中で、「アース様、それはできません」と、断られてしまった。
「なぜだ?」
「それは……。」と、キースが言い淀んでいると、ジルから説明が入った。
「アース、孤児たちに対して一時の施しをするよりは、やらない方がましだ。今を凌いだとしても、この先どうする? お前が一生こいつらの面倒を見るのか?」
ジルたちの言うとおりだ、頭ではわかっている。しかし……。
「じゃあお前ら全員、ここで見て見ぬふりをしろというのか?」
俺がそういうと、全員が下を向いて俯いた。
自分がしようとしていることはいけないことだとわかっている。しかし、先程の奴隷といいい、この孤児といい、もう我慢をすることはできない。
「そこのリーダー、お前の仲間は全員で何人いる?」
「ご、五人です……。」
「ジル、一時の施しじゃなければいいか?」
「おまえ、何を……。」
俺がミラルに向き直って、質問をした。
「ミラル、俺は今日買った苗や種を植えるための畑をつくる予定だ。その作業や世話に係る人数はどれくらいだ?」
「作業は、人が多ければ多いほどいいです。世話自体は水撒きや雑草抜きくらいだから、五人ほどいれば充分かと。」
「五人ほどだな? お前たち、サンドール公爵家のアース家庭菜園場で働く気はあるか? 三食家付きで、給料も出すぞ。」
俺は、子供たちにそう語りかけた。しかし、側近たちからの非難の声が上がった。
「アース様! 勝手に決められては、困ります!」
「みんなすまない。俺は今わがままを言っていることはわかっている。しかし、手が届くなら助けてあげたい。偽善だと罵ってくれても構わない。父上には俺から説明する。だから、この通りだ」と言いながら、俺は皆に頭を下げる。
これは貴族の、公爵家の者として、最もやってはいけないことだと、理解はしている。しかし、先程自分の首を差し出してまで仲間を守ろうとした、このリーダーと呼ばれる男の子には手を差し伸べたかった。偽善は十分承知だ。
「アース様、頭をお上げください!」、「そうです、孤児のために頭を下げるべきではありません。」、「主、それはいけません!」と、側近たちが各々、俺を非難してくる。
だが、俺は……。俺が頭を下げ続けていると、ジルが低い声で言葉を発した。
「……。アース、貴族が、公爵家ともあろう者が簡単に頭を下げるとは感心しないな。頭を上げろ。」
「は、はい……。」
ジルはずるいな。いつもはバカをやれる友人なのに、こういう時はしっかり叱ってくる。ジルが、貴族として、王族としての矜持をしっかりと持っていることも知っている。
「アース、もう一度言う。簡単に頭を下げるな。お前が簡単に頭を垂れれば、お前だけではなく、周りの者たちも下に見られるぞ。俺はそれを望まない。わかったな?」
「は、はい……。申し訳ございませんでした。」
俺は謝ることしかできなかった。
「謝る相手が違うだろう?」
「キース、ミラル、ローウェル、すまなかった」、俺は側近たちに謝罪をした。
俺が謝ると、側近たちはふっと笑った。
「いいですよ。私もアース様には助けられましたしね。」
「まぁ、主らしいと言えば主らしいですけどね。」
「アース様、私もあなたに助けられたうちの一人です。ですので、今回は許します。ただ、あなたの周りにいる人はあなたが思っている以上に、あなたのことを大切に思っています。そのことをぜひ、覚えておいてください。」
「あぁ、キース。みんな、ありがとう。」
俺はいい友人、いい部下に恵まれたな。
「さて、お前ら、どうする? 今、こいつをみんなで叱りつけたが、いいやつだし、信頼もできる。後は、お前らが選べ」と、ジルが子供たちに問いかける。
「私は行きたいです。みんなもいいか?」と、リーダーと呼ばれていた男の子が、子供たちに賛同を求めた。
そうすると、子どもたち全員が頷いた。
「よし、決まりだな。あとはお前に任せるぞ、アース。」
「あぁ、ありがとう。その倒れている子は俺が抱えるよ。」
「いえ、さすがにそこまではさせられません。私がリーダーとして、責任をもって運びます。」
「そうか。なら、頼むな。ジル、ここで解散でいいか?」
「あぁ、いいぞ。」
俺はジルの部屋へと続く、大窓を出してジルたちを見送った。その際、子どもたちは、窓を呆然と見つめていた。まあ、最初に窓を見たら、みんなそういう風な反応になるけどだな。
「それじゃあ、みんな、帰ろうか。」
俺は屋敷へと続く大窓を出して、帰路に就いた。
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