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俺たちの話が一段落すると、ジルが側近を呼ぶために呼び鈴を鳴らした。ジルが呼び鈴を鳴らすと、側近一同が部屋へと入ってくる。
よし、じゃあ帰ろうか。俺が窓を出そうとすると、声がかかった。
「ちょっと待ってくれ。」
なんだ? いきなり、タメ口か? 声のした方を見ると、そこには挑戦的な笑みを浮かべたオーサックがいた。なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「俺と剣の勝負をしてくれ。」
どうやら俺の嫌な予感は的中したらしいな。強気な奴がこういう笑みを浮かべれば、危険だという証明だな。
「は、はぁ。お断りします。」
「なぜだ!」
なぜだといわれても勝負をする理由も必要もないからだ。それにこいつは、戦うことが好きなのだろう。一度構えば、何度でも勝負を挑まれるおそれがある。
俺が、勝負をする理由も、必要もないからだと伝えると、オーサックは食い下がってきた。
「お前は、強者と戦いたくはないのか?」
まるで、自分が強者であるかのような口ぶりだな。それだけ自分の実力に自信があるのだろうか? そもそも俺が戦う理由は自分の身と、私の周りの者を守るためなんだけどな。
しかし、自分の実力を試したい気持ちが全くないかといわれると、否定はできないよな? 俺の最後のつぶやきが聞こえたのか、オーサックが反応してきた。
「なら俺と勝負をして、自分の実力を試せばいいだろう?」
「ですから、今は試す必要もないですし、あと一人の側近探しに忙しいのです。」
「だが、俺はお前と勝負がしたい。」
……。こいつとは話し合いができそうもないな。それにしても、なぜジルは黙っているのだろうか? 俺がそう思っていると、意外なことに弟の方から助け舟が出た。
「兄さん、アース様が、勝負に乗ってくださるような誘い方を考えてって、言ったじゃないか。それなのに……直球すぎるよ!」
「なぜだ? 誰でも強い奴と、戦いたいものだろう?」
「それは、兄さんみたいな戦闘狂だけだよ。本当に、脳が筋肉でできてるんだから。」
「あ? お前が俺と戦うか?」
強い奴と戦いたいなら別に俺じゃなくてもいいだろうに、それに俺とはあまりかかわらないように、父親から言われているんじゃないだろうか? 一応、双子はジルの側近だし、これからも何かとかかわる機会が多いだろう。気になるし、いい機会だから聞いてみるか。
「オーサック様、ウォーザット様、私とはあまりかかわらないように家の方からいわれているのではないのですか?」
「いいや、別に何も言われていないぞ。」
と、オーサックはあっけらかんとして答えた。え、本当か? じゃあ、なぜあんなにもにらんでいたのだろうか?
「では、なぜたびたび私を睨んでいたのですか?」
「俺は四属性持ちと戦ってみたかったから、見ていただけだ。」
なるほど、肉食獣が、獲物を見つけたときみたいな感じか。
「私は昔から目が悪く、ただ見ているだけのときでも、睨んでいるように見えていたようです。昔はメガネが嫌いだったのですが、ジルベルト殿下の護衛をするにあたっては必要であると思い、今は仕方なくつけています。」
紛らわしいな、どっちも。俺の勘違いだったわけか……。それじゃあ、なんで父親同士は疎遠になったのだろうか? なんとなく会わない期間が続いて気まずくなっているだけなのかもしれまいな。何か、話すきっかけがあれば、昔みたいな仲に戻るだろう。
「私の勘違いだったようです、申し訳ございませんでした。」
俺が謝ると、ウォーザットは笑ってお互い様だと言って、許してくれた。是非とも、弟のウォーザットとは仲良くしたいものだ。問題は、こっちの方だな。
「それより、勝負の件はどうなった?」
「だからお断りすると……。ジル、なぜさっきから黙っているんだ? お前の部下だ、どうにかしろよ。」
俺がジルに話題を振ると、ジルは笑いをこらえているようだった。本当にこいつは……。
「いいや、面白い会話だと思って、つい傍観してた。すまん。」
「……。さっきの件、報告するぞ? いいのか?」
「あの件はお前も承諾した、つまりお前も共犯だ。それでもいいなら、俺は構わんぞ?」
俺が何も言えずに黙っているのを見て、ジルは満足そうにうなずいた。くそっ、勝ち誇った顔をしやがって!
「そういえば俺も、お前が側近探しにいそしんでいたから、お前と訓練ができていないな。よし、じゃあこうしよう。互いの側近もそろったことだし、後日合同訓練をしよう。お前らも同じ相手だけと訓練していても、ためにならないだろう?」
まぁ、それには一理あるが……。俺があきらめて、肯定の意を示すと、オーサックから喜びの声が飛び出した。
「よっしゃ! ありがとうございます、殿下。」
うれしそうだな、オーサック。だけど、ぎらぎらとした目つきで、俺のほうを見てくるな!
ーー
「主~、「あの件」とは何の話です?」
悪いなローウェル、それは話すことはできないんだ。俺が首を振って、答えることができないことを伝える。
ローウェルは普段も俺に丁寧語を使うが、ラフな感じと相まって絶妙な雰囲気があるから、そのままにしている。
「アース、側近は主の予定を把握して護衛の計画などを立てるものだ。何か予定があるのなら、事前に話してもらわないと困る。」
「別に何もないよ。ただの世間話だ。」
……。側近たちが、冷たい目で俺のことを見てきた。
「なんだよ、その目は! 主に対して失礼だぞ!」
ーー
遂に王都の市場に繰り出す、金の日である。俺が側近たちに、「今から出かけるから準備をしてくれ」というと、側近たちから非難の声が相次いだ。
「は? 今から? どこへだ?」
「アース、そういうことは、事前にといったよね?」
「王族から口止めされれば、俺だってしゃべれないだろう?」
「……。何か殿下とこそこそしていると思ったら、そういうことか。で、どこに行くんだ?」
「王都の市場だよ。あ、もう決定事項だから反論はなしな。殿下との約束を無下にはできないだろ?」
俺がそういうと、側近たちはあきらめたようにうなずいた。王族パワーはやはり恐ろしいな。
今回はお忍びで行くわけだから、人数は最小限にしたい方が良いよな? それで、護衛騎士はさすがに連れて行かないとまずいから、ローウェルには留守番をしてもらおうか。俺がローウェルにそう伝えると、必死の剣幕で反対された。
「それはあんまりですよ、主! 俺だったこんな楽しそうなこと、参加したいに決まってます! 主、俺を連れていくメリットがあります。」
ほー、それは面白いな。俺は続きを促した。
「土人形で偵察ができます。殿下も来るわけですから、偵察は行く先々で必要だと思います。」
「確かに、一理あるな。よし、採用だ。」
「流石、主~。話が分かる!」
ーー
よし時間だな、全員の準備もよさそうだ。俺は大窓を開いて、約束の場所へとやってきた。
「よー! アース、時間通りだな!」
おー、ジルたちの変装は完璧だな。庶民に見える、顔以外は。俺たちは、ギリギリ及第点だろう。
「おう、ジル。今日はよろしくな。そっちは双子だけか。」
「お前らは全員か、しかし仲がいいな。」
「最初はローウェルを、おいてくる予定だったけど、土人形で偵察ができるから、安全にお忍びできるかなと思って連れてきたんだよ。」
「なるほど。確かにそれだと危険は減るな。よろしく頼む、ローウェル。」
ローウェルはうれしそうに、返事をした。
「それじゃあ、今は六時で、オークションは七時からだ。何か買いたいものはあるか?」
「それじゃあ、野菜や果物を見た後に、苗や種を買えるところを紹介してくれ。」
「苗や種? 何に使うんだ?」
「何に使うって、植えるに決まっているだろう。家庭菜園をやろうと思っていたんだよ。」
「はー? お前がやるのか? 誰かにやらせるのではなく?」
そんなに驚くことだろうか? 学校でやっていたミニトマトづくりなど、俺は結構好きだったんだけどな。
「もちろん、手伝いは頼むが、俺自身も参加するぞ。」
俺がジルにそういうと、側近たちからの非難の声が上がた。最近俺、非難されたばかりな気がするが……。
「アース様、その話は我々も聞いてはおりません。」
「話してないからな。」
俺がそういうと、側近たちは唖然とした表情を浮かべた。確かに、言わなかったことは謝るが……。
俺は美味しい料理を考えることが好きだ。そして、食は生活の基本だ。だからその食材を作り育てる農業も、大切だと、俺は思う。俺は考えを話したが、貴族がやることではないと反対されてしまった。
貴族だろうが平民だろうが、食べることが必要なことに変わりはないと思うんだけどな。何も一生やるとは言っていないし、学園に通うようになったら、庭師に引き継ぐ予定だ。俺が再び食い下がると、側近たちは渋々ながら折れてくれたようだ。
「お気持ちは理解しました。ただ、お一人ではなさらないようにしてください。側近の誰かに声をかけてから、行ってください。」
「あぁ、それでいい。」
実際は色々いったが、この世界の植物に興味があるだけだ。それにもとは一般人だからな、家庭菜園に抵抗はない。
「ははははははっ! やっぱり、アースは面白いな。俺にも後でやらせてくれ。」
「あぁ、いいぞ?」
「殿下もやられるのですか……?」
ジルがそういうと、ウォーザットは微妙な表情を浮かべた。
「それにしても、アースの側近は大変だな。苦労が絶えないだろう。」
「それはお前だろ? お忍びで深夜徘徊するような主を持つ、お前の側近のほうが苦労しているだろう。」
「深夜には徘徊していない!」
「深夜には……? 俺も定期的に連れて行けよ?」
ジルはそっぽを向きながら、頷いた。
( 側近一同「どっちももう少し、自重してくれ!」 )




