8
今日は兄上がオールテット学園に出発する日である。オールテット学園はアーキウェル王国の北に位置し、この世界の中ほどに位置している。どうやら転移陣で移動するようで、その転移陣はあの教会が管理しているらしい。俺たちは今、家族全員で、マクウェル兄上の見送りに来ている。
俺は、マクウェル兄上と再会したときには学園の話をしてもらうことを約束した。
「では、行って参ります。」
王城に用意されている転移陣から、兄上が一瞬で姿を消した。
ーー
「では父上、母上、私はジルベルト殿下とある約束をしておりますので、これにて失礼いたします。」
俺は父上たちに見送られて、ジルの部屋へと向かった。
ーー
ジルと会うのも久しぶりだな。
俺たちは久しぶりの再会を喜び、少し談笑した。今日ジルを訪ねた理由は、以前お互いの側近がある程度揃ったら、お互いの側近を紹介しようという約束をしていたからである。
先日、ジルから、側近が大体そろったようだから一度お互いの側近の紹介をしたいといわれたのである。ただな、さっきから視界に、例の双子が入ってくるんだよ。よかったな、狙い通りジルの側近になれて。
「じゃあ、先に俺からだな。まずはオーサック・ドンターラ、護衛騎士だ。次に、その双子の弟のウォーザット・ドンターラ、護衛騎士だ。そして、サイニード・リーウェル、文官兼側仕えだ。最後にミント・ニーカット、文官だ。」
ジルの紹介に合わせて、それぞれが一礼をする。それにしても双子たちが俺を睨んで来なくなったな。ジルの側近になれたから、俺を牽制する必要がなくなったからかな。
ジルは自分の側近の紹介が終わると、次は俺の側近を紹介するように促してきた。
俺の紹介に合わせて、側近たちがそれぞれが同じように礼をする。
「なるほど、面白い者たちをそろえたな。護衛騎士団団長の息子に、魔物討伐の最前線を張るダンカ―辺境伯の娘、そして財務大臣の息子か。どうやってこれほどの人材を集めたのだ?」
「どうやってって、たまたまかな? それよりもジルだって、公爵家の息子と法務大臣の息子をそろえているじゃないか!」
ミント・ニーカットという女の子については知らないけど……。
「あ、あぁ。たまたまだ。」
「……。」
「まぁ、いい。せっかくだ、側近も含めて、自由にしゃべってくれて構わない。ここでの発言を咎めたりしないことをここに約束する。」
しかし、そうはいってもワイワイ皆で会話が盛り上がるわけもないよな。ジルにそう言われても、話し辛いと思う。一応、王族がいるわけだからな。ここは、俺が何か話題を提供するべきか。俺がそんなことを考えていると、一人の勇者が手を挙げた。
「では、私からひとつよろしいでしょうか。」
お、ローウェルか。こいつの軽さはこういう場で役に立つな。よくやったという意味を込めて、グッドサインを送っておこう。
「おい、アース。なんだその「よく一応王族がいる中で発言したぞ。よくやった!」とでも、いいたげなグッドサインは。失礼だぞ?」
よくわかったな、ジル。仮にも王族相手に、何か言おうとするなんて、すごいじゃないか。俺がそういうと、すぐにツッコまれた。
「誰が一応王族だ!」
「まぁ、落ち着けって。それでどうした、ローウェル?」
ローウェルは目を瞬かせながらも、話してくれた。
「はい。私は今回、初めて殿下とアース様の語らいの場に出席させていただいたのですが……。その何と言いますか、お二人がこんなにも仲がよろしいとは思っていませんでしたので、驚きました。」
なるほど、そういうことか。
「あぁ、ジルが王族らしくないって話か? 見ての通り、まったく王族らしくないな。それにしても、ローウェルは、このことを見ていなかったのか?」
「王城の中を見るなんて、そこまで私は愚かではないですよ。」
ローウェルは以外にも常識人らしいな。王城の中をのぞき見するような馬鹿な奴ではなくて、本当によかった。
「……。いろいろ言いたいことはあるが、俺だってアースにしかこの態度は許していないぞ? アースは色々と特別だからな。出会った頃にいろいろあったんだ。な、アース?」
「そうだな、懐かしい。といっても、そんなに時間たっていないだろう? 二か月前くらいか?」
「たしかに、そうだな。時間が早く経った気がする。そういえば、お前に話があったんだ。」
どうしたのだろうか、俺が続きを促すと、どうやら側近たちは聞かれたくはない話らしい。ジルが側近に退出を命じると、ジルの側近が食い下がったが、相手が俺ということもあって、渋々ながら退出をした。
俺もジルのあとを受けて、自分の側近たちにも退出を命じた。側近同士で、有意義な情報交換が行われるといいけどな……。
ーー
側近たちが全員出ていくと、ジルは話をし始めた。
「アースは、王都の市場に行ったことはあるか?」
「……。そういえば、ないな。」
この世界にきて、市場の類に行ったことがない。むしろ、自分で買い物をしたことがない!
「だったら、一緒に行ってみないか? 前に城を脱走……王都へ視察に出たときに、近々オークションが開催されると聞いた。それに行きたい。」
「いま、脱走って言いかけたか? お前本当に何してるんだよ……。」
「本当にごくたまにだ。俺だって息抜きしたいときはある。護衛はしっかりついてくるぞ!」
「連れて行っているんじゃなくて、付いてくるんだな? あいつらも苦労してるんだな……。」
「もう、この話はいいだろ! それでどうする?」
どうするって言われても……。大窓で移動自体は簡単にできるが、正規ルートで許可をとっていくのはダメなのだろうか? 俺がそういうと、ジルは即反対してきた。
「許可なんて下りないだろ。オークションに行くって、この年齢で許されると思うか? それに仮に許可が出ても、多数の護衛をつけられ、行動制限をかけられるだろうな。」
まあたしかに、そうだな。実際俺も、この世界の市場に行ってみたいし、オークションも面白そうだ。何か欲しいものがあったかな? あ、そうだ。家庭菜園をやりたいと思っていたんだ。この世界で売られている野菜を見て、気に入ったのがあったら苗や種を買ってみるか。
「ジル、本当に行きたそうだな。でも、俺も興味がある。行くか!」
「お前ならそう言ってくれると思ってたぞ! 変装をしっかりな。」
ジルは必要だろうけど、俺も必要なのだろうか? 俺の疑問が顔に出ていたらしく、ジルにため息交じりに言い聞かされた。
「……。お前自分が有名人だって、自覚がないのか?」
「……。変装します。」
「それでいい。じゃあ、今度の金の日の夜六時に俺の部屋……。場所はどこがいいかな?」
「王都の市場の近くだと……。爽風亭はどうだ? たしか、裏手にスペースがあったよな。そこから市場に行くってのは。俺も滞在したことがあるから、窓を出せる。」
「それでいこう! 楽しみにしてる!」




