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ミラルが必死に話を聞いてほしいと頼み込むが、ダンカ―辺境伯は聞く気配が全くない。これじゃあ、平行線だな。俺がそう思っていると、父上が口をはさんだ。
「まぁまぁ、ダンカー辺境伯様。ご息女が一員として、魔物討伐に貢献しました。ここは私の顔を立てると思って、どうかご息女の話を聞いて差し上げてください。」
すると、辺境伯は渋々ながら頷いた。公爵にそこまで言われたら、首を縦に振らざるを得ないよな……。
「サンドール公爵様がそこまでおっしゃるのであれば……。ミラル、話してみろ。」
よかった、これで話が先へ進みそうだな。
「はい。私は、魔物討伐に参加してダンカ―辺境伯家の役目を果たしたいと考えております。そして、お母様のような強い女性になりたいと考えております。どうか、私に剣を握ることをお許しください。」
……。
ミラルの言葉を聞いてなお、辺境伯は沈黙したままだった。
ミラルだけでは、まだあと一押しが足りないかな。ここは、俺が発言させていいただくとするか。
「ダンカ―辺境伯様、私に発言の許可をいただけますか。」
「アース様……。どうぞ。」
辺境伯は、ぎょっと顔をしたが俺に発言の許可をくれた。ここで、子供の俺が発言するとは思っていなかったのだろう。
「ありがとうございます。ダンカ―辺境伯様は、昨年の魔物大量発生で亡くなられたダンカ―辺境伯夫人とミラル様を重ね合わせておられるのではないでしょうか? ミラル様を戦いの場に出せば、夫人のようにミラル様もいなくなってしまうのではないかと考えて、ミラル様に自宅待機を命じているのではないですか?」
「……。」
その沈黙は、肯定の意と受け取ってもいいのか?
「そうなのですか、お父様?」
と、ミラルが辺境伯に詰め寄った。
「最初からミラル様を戦いの場に立たせる気がないのであれば、そもそも剣術をミラル様に教えることはなかったと考えます。」
「……。お父様! お願いです、本心をお聞かせください!」
ミラル様の必死の願いに、ダンカ―辺境伯は渋々ながら口を開いた。
「わ、私は妻を心の底から愛していた。あの魔物の大量発生の時もいつものように妻は戦場を舞い、生きて私の元に戻ってくると信じていた……。しかし、戻ってきたのは冷たくなった妻の体だけであった。私は、アース様の言うとおり、愛した妻によく似たお前に、何かあることが怖いのだ。だから、お前を戦いから遠ざけるため、この屋敷に閉じ込めた。」
やはり、そうだったか。
「そ、そうだったのですか……。私はてっきり、私を政略結婚の駒とするために花嫁修業を課されていたのだと思っておりました。」
「ま、まさか! そんなことは断じてない! 私は、お前が将来添い遂げたい相手と、一緒になることを望んでいる。」
「お、お父様、私は剣をとって戦いたいのです!」
ダンカ―辺境伯は現在のミラル様の実力を測りかねている。それならば、ミラル様の今の実力を、ダンカ―辺境伯に示す機会が必要であるだろう。
「ダンカ―辺境伯様、ミラル様との稽古はしばらく行っていないのですよね?」
「はい、行っておりません。」
「では、今のミラル様の実力を知らないということですね?」
辺境伯は訝しみながらも、ゆっくりと頷いた。
「ならば、ミラル様の実力をお確かめになってから、今後の進退を決めるというのはどうでしょうか?」
俺がそういうと、辺境伯はしばらく黙り込んでしまった。俺は、辺境伯の返答を待つことにした。
すると、ようやく辺境伯が顔を上げた。
「実力を確かめるだけならば……。わかりました。ただしミラルの相手は、アース様、あなたにお願いしたい。」
「わ、私がですが……? わかりました。私が提案したことです、私が責任をもってお相手を務めましょう。」
「サンドール公爵様もよろしいでしょうか?」
「うむ、構わないぞ。それならば私が立会人を務めよう。」
「お願いいたします。ミラル、お前の力を示してみろ!」
これで準備は整ったな。あとはミラルが、どれだけ自分の思いを示せるかだ。俺は、その手伝いに全力を注ごう。
ーー
「アース様、お相手感謝します! 本気で、手加減なしでお願いします!」
「わかりました。私が持つすべての力でお相手いたしましょう。」
『それでは、始め!』
父上のコールと同時に、ミラルは身体強化を始めた。
『水よ、我が身を強化せよ』
流石のセンスだ。先ほどの戦いで魔刀に水の属性を付与した経験を生かして、水の身体強化を行っている。ここは水には水を……。いや、白薔薇姫で叩きのめすことにしよう。何しろ相手は全力をご所望だからな。
『咲け 白薔薇姫』
俺は先ほどの戦いで、四割ほどの魔力を使ってしまった。だからノータイムの【凍える世界】は使えない。ここは、時間短縮は使わずに戦おう。薔薇の花弁は十枚。一枚散るのに三十秒ほどかかるから、発動まで約五分だな。それまではうまく時間を稼ごう。
「参ります。」
キンッ! キンッ!
なるほど、ミラルの水属性の特性は回避と受け流しだな。キースほどのスピードはない。しかし回避能力が高く、俺の攻撃もうまくいなされている。持久戦に持ち込むつもりか。それは、こっちにとってもありがたい。
『氷柱雨』
これもうまくかわされているな。なんか、嫌な感じだな。反撃のすきを窺っているような……。カウンター狙いか?
キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!
あと一枚。
キンッ! キンッ!
よし、すべて散ったな。
『凍える世界』
『小窓』
よし、首元もらった! ……。 うん? あまり、やった手応えがないな……。
こ、これは!! 首に水壁を集中して展開し、勢いを殺したのか。
「やりますね、ミラル様。」
「先ほどの戦いで、アース様の戦いを拝見しましたからね。空間の使い方を予測していました。」
(そして、この空間はアース様の近くにつながっている。もらいました!)
『氷壁』
俺は小窓から出現した剣を、氷壁で防いだ。いいカウンターだ。俺が知っていなければだけどな。
「防がれた……。なぜ、私の狙いがわかったのですか!」
「運が良かっただけですよ。」
実はこの戦法は、以前再選を望んできたジルがとった戦法なのだ。その時に今、ミラルがやったように、小窓への反撃を仕掛けてきたのだ。
俺はジルのおかげで、安易に小窓を出すと自分がカウンターを食らう可能性があることに気づかされた。
「そ、そんな……。でも、まだ終わりじゃないです! これであなたの実動きを封じる魔法は攻略できました。まだまだこれからです! いきます!」
ーー
~見学人side~
※フーラル(父)視点
アースの初めての側近のキースは、私の息子のことをどう思っているのだろうか? いい機会だから、少し聞いてみようか。
「キース、お前から見てアースはどうだ?」
「は、はい……。非常に明るく努力家で……。」
頑張って取り繕ってはいるが、そういうことが聞きたいわけではない。私は率直に言うように伝えてみた。すると、キースは苦笑いしながら、答えてくれた。
「貴族らしくない、もっと言えば地位の高い公爵家の子息とは思えないですね。それでいて、少し抜けていると思います。」
私もそう思うな。あの子は貴族らしくないと思う。さらに聞くと、キースはアースについて、次のようなことをたくさん話してくれた。
『アース様はこのままでいいと私は考えます。誰に対しても平等で、分け隔てなく接するお方です。そして、勉学や訓練を決して怠らず……美術は少しお嫌いなようですが。あとはそうですね、アース様のそばにいるのは非常に心地よく、何より楽しく、そして仕える私にも敬意を払ってくださいます。私は、あの方にお仕えしようと思った私の判断は、正しかったと断言できます。』
私もアースにはこのまま成長してほしいと思っている。そして、アースには人を引き付ける才があると考えている。これには、良い者も悪い者も含まれるが……。心配ではあるが、キースのような側近がいるなら安心だな。
「これからもアースによく仕えてくれ。」
「かしこまりました。」
私とキースの会話が一段すると、ダンカ―辺境伯様が神妙な面持ちで、私に問いかけてきた。
「……サンドール公爵様、私は間違えたのでしょうか? 私はただ、娘を危険から遠ざけたい一心で……。」
間違えたかどうかは私にもわからない。ただその前に、息子が人様の家庭の事情に口出ししたことは、親として謝らなければならないな。
「ダンカ―辺境伯様、まずは私の息子が人様の家の事情に口出しをしてしまって、申し訳ございませんでした。」
「いいえ、頭をお上げください!」
私はダンカ―辺境伯様の言葉に従って、頭を上げた。そして私は、ダンカ―辺境伯様に次のような言葉を送った。私自身も何が正解かはわからない。しかし、子を持つ親の一人として、何とか力になりたいのだ。
『私にもあなたの行ったことが、間違っているかはわかりません。なぜなら、私もあなたの気持ちが全部とは言いませんが、理解できるからです。子を危険から遠ざけたいと思うのが、親という生き物でしょう。しかし、子供とは急速に成長するものです。今戦っているご息女を見て、そう思いませんか? 親は時には断腸の思いで、子を冒険させなければならないときがあるともうのです。ダンカ―辺境伯様は、どう思われますか?』
私がそう問いかけると、ダンカ―辺境伯様は口を閉ざして、考え込んでしまった。
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