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4

最初に俺とキースが打ち合うことになった。訓練ということで、ここからはキースにいつも通りの口調にしてもらった。




「ミラル様は、最初はご見学でお願いします。」



「は、はい。……。キース様は、アース様の側近なのですよね?」




うん? 今更どうしたのだろうかと思ったが、おそらくキースの口調がラフなことについて、気になったのであろうな。



「キースの口調のことでしょうか? 私は自分の側近には対等を求めていますので、このようになっております。まあ今は、キースしかいませんけれど。」




俺がそう説明すると、キースが肩をすくめたあとに、俺の肩をたたいた。



「ミラル様、こいつは見かけよりラフなんですよ!」



「見かけよりってどういうことだ?」



「見かけ上は、いかにも貴族って感じってことだよ。」




よくわからないが、俺の見かけはいかにも貴族という感じらしい。うれしいのか嬉しくないのかがわからないので、早速訓練を始めようと思う。













ーー











「はー、やっぱり体を動かすのはいいな。ミラル様、見ているだけではお暇だと思いますので、キースと打ち合いしてみませんか?」




「えぇ、喜んで。」



俺がそういうと、ミラルはうれしそうに笑った。本当に剣術が好きなんだな。それを取り上げられて、無理やり花嫁修業をさせられているとは……。






「では、お願いいたします、キース様。」

「こちらこそよろしくお願いします。」










二人はそういうと、剣の打ち合いを始めた。




なるほど、これはすごいな。

身体強化なしの剣技だけなら互角だな。ミラルは何というか水が流れるような、しなやかで綺麗な動きだな。これほどの使い手を、家に閉じ込めておくなんてもったいないな。 





ダンカ―辺境伯はおそらく、ミラル様と辺境伯夫人を重ねて、ミラル様に何か起こることを恐れているのだろうな。




だから危険から遠ざけるために、家に閉じ込めているわけだ。辺境伯はミラル様の実力を長い間、確認していないのではないだろうか。ミラル様は家に閉じ込められている間も、こっそり訓練を続けていたと言っていたな。動きからもわかる。ここでなにか、ミラル様の実力を示すきっかけがあれば……。








俺がそんなことを思っていると、一人の男性がこちらに駆け寄ってきた。







「た、大変です!お嬢様!早く、お逃げください!」



おそらく、ダンカ―家の執事だな。



「何があった、爺?」



と、ミラルがすぐさま事情を確認した。


執事によると、屋敷の前に急に大型の魔物が現れたらしい。現在主戦力は魔物討伐に向かっており、応戦できるものがいないということで、避難を伝えに来たようだ。






というか、急に大型の魔物だと? どういうことだ? 空を飛んできたのか? いや、それなら接近にもっと早く気付けるはずだ。まさか、転移か? いや、そんな訳はないはずだ。







「どうする、アース?」



と、側近のキースは俺の指示を待っている。ここは迅速に、行動を考えなければならない。



「魔物のもとへ行こう。俺とキースなら、大概の相手ならば問題ないはずだ。それに、無理そうなら俺の窓で逃げる。ミラル様は執事の方と、お逃げください。」




俺がそういうと、ミラル様は首を横に振った。




「いいえ、私も参ります。」



「お嬢様! 何をおっしゃっているのですか!」



執事は、血相を変えてミラルに詰め寄った。ダンカ―家の人間からしたら、大変な非常事態であろう。しかし、ミラルは引く気配がない。俺はミラルが理由を話すまで、待つことにした。







「……私はダンカ―辺境伯家の長女です。この地で起こったことを他の方にお任せして逃げるなんて、そんな恥ずかしい真似はできません! ですので、どうか私も連れて行ってください、アース様!」








……同い年の少女に、ここまで言われたんだ。一人の貴族として、ここは連れていくしかないだろう。





「その心意気、確かに受け取りました。執事の方、案内を!」




俺がそういうと、執事はためらいを見せながらも魔物の元へと案内してくれた。執事も、今のミラルの現状に思うとこがあるのだろう。










ーー












 ……あのでかいネコ科の魔獣は、なんだ?




「アース、あれはブラックパンサーだ。A級の魔物に分類される。」





A級なら、時間はかかるが俺達で対処可能だな。なんとか、ミラル様に自信をつけさせてあげたいけど……。





「キース、警戒を。ミラル様、一緒に戦いますか? それとも下がっていますか?」




俺の指示で、キースが前に出て、ブラックパンサ―の攻撃に備えた。




「わ、私がA級の魔物となんて……。足でまといになるかと……。」





確かに今のままではそうかもしれない。A級の魔物は、騎士十人と魔導士の援護ありで倒せるレベルの強さだ。しかし先ほどの打ち合いを見た限り、魔刀を使えば、ミラルもあの魔物と渡り合えるだけの実力は持っているはずだ。





「ミラル様、このまま屋敷に閉じ込められるだけの人生でいいのですか? あなたがやりたいこと、そして将来なりたい姿は……。」



俺がそう問いかけている最中に、キースが叫び声をあげた。




「アース、来るぞ! 早くしろ!」






くそっ、時間がない。俺が焦った声で再び問いかけると、意を決した表情でミラルが答えた。







「私はこの領地に貢献し、戦場で凛と立たずんでいた、お母様のような強い女性になりたいです!」






いい答えだ。彼女の願いに、俺も答えてあげたい。




「わかりました、一緒に戦いましょう。この刀を使ってください。」




「刀……。先ほどから気になっていたのですが、この透明な剣はいったい……。」



「説明は後で。この魔刀にあなたがどう戦いたいか、何を成したいのかを強くイメージしながら、魔力をまとわせてみてください。準備ができたら声をかけてください。」





俺がそういうと、ミラル様は刀を受け取り、そして集中し始めた。



俺はミラルが大丈夫そうだと判断すると、キースに合流した。魔刀がない状態でどこまでもたせられるかわからないが、俺は魔導士でもある。ここは、キースと連携して持たせてみせる!





「待たせたな、キース。お前が前衛、俺が後衛に回る。行くぞ!」




俺の言葉にキースは頷き、そして剣を構えなおした。


『雷よ、我が身を強化せよ』



キースが魔物に向かって、勢いよく飛び出す。



『氷弾』




俺はサポートに回ろう。ここは屋敷の近くだ。上級魔法なんか放ったら、被害が大きくなってしまう。






「キース、周りにあまり被害を出したくない。俺はサポートに回る。できるだけ、剣で仕留めろ!」







ブラックパンサー、見かけ通り素早いな。キースの速さについていっている。




キースの剣とブラックパンサ―の鋭い爪がぶつかり合う。ここはいったん、仕切り直しが必要だな。キースには、いったん下がってもらおうか。





「下がれ、キース!」


『氷柱雨』




無数の氷柱が相手に降り注ぐ。同時に小窓を展開し、ブラックパンサーの側面へとつなげ、上と側面からの攻撃を仕掛ける。






よし、ブラックパンサーは回避に専念しているな。












(私がなりたい姿……。水が流れるようにどんな攻撃を受け流し、戦場を美しく舞う。そして、カウンターによる一撃を与える。このイメージを刀に魔力として流し込んで……。よし、あと少しでできそうね。)







「行け、キース! 足を狙え!」


「わかった。 オラッ!」




キースが前足に一撃をたたき込んだ。これで機動力を奪えたな。






しかし、機動力は奪えたが決定的な一打が足りなかった。

俺たちのブラックパンサーとの戦闘が膠着していると、ミラル様から声がかかった。






「アース様、準備できました!」




いいタイミングだ。うん、うまく属性付与できている。ミラル様は、母君と同じ水属性なのか。




「私が合図したら、奴にとどめを!」


『拘束しろ 水牢』





大きな水の球が、ブラックパンサーを包み込む。これは俺のオリジナル魔法の『水牢』である。大きな水球で相手を包み込み、拘束する。息を奪うことで、相手のダウンを狙うことができる。俺の拘束兼、小手調べ魔法である。




「今です、ミラル様!」


「はい! はーーーーせいっ!」




俺が合図をすると、水属性の強烈な一撃がブラックパンサーの首を切断した。










「お見事です、ミラル様。」

「素晴らしい一撃でした。」




俺たちがそういうと、ミラルはうれしそうに笑った。

そうだ、ミラル。お前には、それほどの実力があるんだ。



「ありがとうございます、アース様、キース様。お二人のサポートのおかげです。」







俺たちが互いの健闘をたたえ合っていると、遠くの方から声が聞こえてきた。

どうやら、父上とダンカ―辺境伯が、急いで帰ってきたようだな。







「無事か、アース? そして、ミラル様も?」


「えぇ。父上、無事ですよ。出現した魔物は、三人で協力して討伐いたしました。」



俺は、ブラックパンサ―の死骸を見やりながら、父上に現状報告をした。




「そうか、流石は我が息子だ。屋敷に大型の魔物が現れたと聞いたときは、肝が冷えたぞ。」





俺と父上が話していると、ダンカ―辺境伯が少し怒気を含ませた声で、ミラル様に声をかけた。



「ミラルも戦闘に参加したのか……?」



「は、はい……。お父様、言いつけを破ってしまい申し訳ございませんでした。」




すると、辺境伯がミラルに詰め寄って。怒鳴り声をあげた。




「な、なぜこんな危険なことをしたんだ! あれほど戦ってはいけないと、言ったではないか!」




「お父様、私はお母様のように……。」




「うるさい! 女のお前は家でおとなしく、花嫁修業でもしていればいいのだ!」






今の発言はカチンと来たぞ。女性に対してあまりにも失礼だ。しかし、俺の考えが間違っていなければ、辺境伯はミラルの身を案じすぎているだけな気がするけどな……。






「ダンカ―辺境伯様、少し中で休憩にしませんか? 子供たちも疲れているでしょう。」




父上ナイスだ! 父上が空気を読んで、休憩を申し出た。さて、ダンカ―辺境伯の本音を聞きたいところだが……。



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