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最初に俺とキースが打ち合うことになった。訓練ということで、ここからはキースにいつも通りの口調にしてもらった。
「ミラル様は、最初はご見学でお願いします。」
「は、はい。……。キース様は、アース様の側近なのですよね?」
うん? 今更どうしたのだろうかと思ったが、おそらくキースの口調がラフなことについて、気になったのであろうな。
「キースの口調のことでしょうか? 私は自分の側近には対等を求めていますので、このようになっております。まあ今は、キースしかいませんけれど。」
俺がそう説明すると、キースが肩をすくめたあとに、俺の肩をたたいた。
「ミラル様、こいつは見かけよりラフなんですよ!」
「見かけよりってどういうことだ?」
「見かけ上は、いかにも貴族って感じってことだよ。」
よくわからないが、俺の見かけはいかにも貴族という感じらしい。うれしいのか嬉しくないのかがわからないので、早速訓練を始めようと思う。
ーー
「はー、やっぱり体を動かすのはいいな。ミラル様、見ているだけではお暇だと思いますので、キースと打ち合いしてみませんか?」
「えぇ、喜んで。」
俺がそういうと、ミラルはうれしそうに笑った。本当に剣術が好きなんだな。それを取り上げられて、無理やり花嫁修業をさせられているとは……。
「では、お願いいたします、キース様。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
二人はそういうと、剣の打ち合いを始めた。
なるほど、これはすごいな。
身体強化なしの剣技だけなら互角だな。ミラルは何というか水が流れるような、しなやかで綺麗な動きだな。これほどの使い手を、家に閉じ込めておくなんてもったいないな。
ダンカ―辺境伯はおそらく、ミラル様と辺境伯夫人を重ねて、ミラル様に何か起こることを恐れているのだろうな。
だから危険から遠ざけるために、家に閉じ込めているわけだ。辺境伯はミラル様の実力を長い間、確認していないのではないだろうか。ミラル様は家に閉じ込められている間も、こっそり訓練を続けていたと言っていたな。動きからもわかる。ここでなにか、ミラル様の実力を示すきっかけがあれば……。
俺がそんなことを思っていると、一人の男性がこちらに駆け寄ってきた。
「た、大変です!お嬢様!早く、お逃げください!」
おそらく、ダンカ―家の執事だな。
「何があった、爺?」
と、ミラルがすぐさま事情を確認した。
執事によると、屋敷の前に急に大型の魔物が現れたらしい。現在主戦力は魔物討伐に向かっており、応戦できるものがいないということで、避難を伝えに来たようだ。
というか、急に大型の魔物だと? どういうことだ? 空を飛んできたのか? いや、それなら接近にもっと早く気付けるはずだ。まさか、転移か? いや、そんな訳はないはずだ。
「どうする、アース?」
と、側近のキースは俺の指示を待っている。ここは迅速に、行動を考えなければならない。
「魔物のもとへ行こう。俺とキースなら、大概の相手ならば問題ないはずだ。それに、無理そうなら俺の窓で逃げる。ミラル様は執事の方と、お逃げください。」
俺がそういうと、ミラル様は首を横に振った。
「いいえ、私も参ります。」
「お嬢様! 何をおっしゃっているのですか!」
執事は、血相を変えてミラルに詰め寄った。ダンカ―家の人間からしたら、大変な非常事態であろう。しかし、ミラルは引く気配がない。俺はミラルが理由を話すまで、待つことにした。
「……私はダンカ―辺境伯家の長女です。この地で起こったことを他の方にお任せして逃げるなんて、そんな恥ずかしい真似はできません! ですので、どうか私も連れて行ってください、アース様!」
……同い年の少女に、ここまで言われたんだ。一人の貴族として、ここは連れていくしかないだろう。
「その心意気、確かに受け取りました。執事の方、案内を!」
俺がそういうと、執事はためらいを見せながらも魔物の元へと案内してくれた。執事も、今のミラルの現状に思うとこがあるのだろう。
ーー
……あのでかいネコ科の魔獣は、なんだ?
「アース、あれはブラックパンサーだ。A級の魔物に分類される。」
A級なら、時間はかかるが俺達で対処可能だな。なんとか、ミラル様に自信をつけさせてあげたいけど……。
「キース、警戒を。ミラル様、一緒に戦いますか? それとも下がっていますか?」
俺の指示で、キースが前に出て、ブラックパンサ―の攻撃に備えた。
「わ、私がA級の魔物となんて……。足でまといになるかと……。」
確かに今のままではそうかもしれない。A級の魔物は、騎士十人と魔導士の援護ありで倒せるレベルの強さだ。しかし先ほどの打ち合いを見た限り、魔刀を使えば、ミラルもあの魔物と渡り合えるだけの実力は持っているはずだ。
「ミラル様、このまま屋敷に閉じ込められるだけの人生でいいのですか? あなたがやりたいこと、そして将来なりたい姿は……。」
俺がそう問いかけている最中に、キースが叫び声をあげた。
「アース、来るぞ! 早くしろ!」
くそっ、時間がない。俺が焦った声で再び問いかけると、意を決した表情でミラルが答えた。
「私はこの領地に貢献し、戦場で凛と立たずんでいた、お母様のような強い女性になりたいです!」
いい答えだ。彼女の願いに、俺も答えてあげたい。
「わかりました、一緒に戦いましょう。この刀を使ってください。」
「刀……。先ほどから気になっていたのですが、この透明な剣はいったい……。」
「説明は後で。この魔刀にあなたがどう戦いたいか、何を成したいのかを強くイメージしながら、魔力をまとわせてみてください。準備ができたら声をかけてください。」
俺がそういうと、ミラル様は刀を受け取り、そして集中し始めた。
俺はミラルが大丈夫そうだと判断すると、キースに合流した。魔刀がない状態でどこまでもたせられるかわからないが、俺は魔導士でもある。ここは、キースと連携して持たせてみせる!
「待たせたな、キース。お前が前衛、俺が後衛に回る。行くぞ!」
俺の言葉にキースは頷き、そして剣を構えなおした。
『雷よ、我が身を強化せよ』
キースが魔物に向かって、勢いよく飛び出す。
『氷弾』
俺はサポートに回ろう。ここは屋敷の近くだ。上級魔法なんか放ったら、被害が大きくなってしまう。
「キース、周りにあまり被害を出したくない。俺はサポートに回る。できるだけ、剣で仕留めろ!」
ブラックパンサー、見かけ通り素早いな。キースの速さについていっている。
キースの剣とブラックパンサ―の鋭い爪がぶつかり合う。ここはいったん、仕切り直しが必要だな。キースには、いったん下がってもらおうか。
「下がれ、キース!」
『氷柱雨』
無数の氷柱が相手に降り注ぐ。同時に小窓を展開し、ブラックパンサーの側面へとつなげ、上と側面からの攻撃を仕掛ける。
よし、ブラックパンサーは回避に専念しているな。
(私がなりたい姿……。水が流れるようにどんな攻撃を受け流し、戦場を美しく舞う。そして、カウンターによる一撃を与える。このイメージを刀に魔力として流し込んで……。よし、あと少しでできそうね。)
「行け、キース! 足を狙え!」
「わかった。 オラッ!」
キースが前足に一撃をたたき込んだ。これで機動力を奪えたな。
しかし、機動力は奪えたが決定的な一打が足りなかった。
俺たちのブラックパンサーとの戦闘が膠着していると、ミラル様から声がかかった。
「アース様、準備できました!」
いいタイミングだ。うん、うまく属性付与できている。ミラル様は、母君と同じ水属性なのか。
「私が合図したら、奴にとどめを!」
『拘束しろ 水牢』
大きな水の球が、ブラックパンサーを包み込む。これは俺のオリジナル魔法の『水牢』である。大きな水球で相手を包み込み、拘束する。息を奪うことで、相手のダウンを狙うことができる。俺の拘束兼、小手調べ魔法である。
「今です、ミラル様!」
「はい! はーーーーせいっ!」
俺が合図をすると、水属性の強烈な一撃がブラックパンサーの首を切断した。
「お見事です、ミラル様。」
「素晴らしい一撃でした。」
俺たちがそういうと、ミラルはうれしそうに笑った。
そうだ、ミラル。お前には、それほどの実力があるんだ。
「ありがとうございます、アース様、キース様。お二人のサポートのおかげです。」
俺たちが互いの健闘をたたえ合っていると、遠くの方から声が聞こえてきた。
どうやら、父上とダンカ―辺境伯が、急いで帰ってきたようだな。
「無事か、アース? そして、ミラル様も?」
「えぇ。父上、無事ですよ。出現した魔物は、三人で協力して討伐いたしました。」
俺は、ブラックパンサ―の死骸を見やりながら、父上に現状報告をした。
「そうか、流石は我が息子だ。屋敷に大型の魔物が現れたと聞いたときは、肝が冷えたぞ。」
俺と父上が話していると、ダンカ―辺境伯が少し怒気を含ませた声で、ミラル様に声をかけた。
「ミラルも戦闘に参加したのか……?」
「は、はい……。お父様、言いつけを破ってしまい申し訳ございませんでした。」
すると、辺境伯がミラルに詰め寄って。怒鳴り声をあげた。
「な、なぜこんな危険なことをしたんだ! あれほど戦ってはいけないと、言ったではないか!」
「お父様、私はお母様のように……。」
「うるさい! 女のお前は家でおとなしく、花嫁修業でもしていればいいのだ!」
今の発言はカチンと来たぞ。女性に対してあまりにも失礼だ。しかし、俺の考えが間違っていなければ、辺境伯はミラルの身を案じすぎているだけな気がするけどな……。
「ダンカ―辺境伯様、少し中で休憩にしませんか? 子供たちも疲れているでしょう。」
父上ナイスだ! 父上が空気を読んで、休憩を申し出た。さて、ダンカ―辺境伯の本音を聞きたいところだが……。




