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キースが俺の側近となって数日が経った。そこで俺はかねてから考えていた提案を、キースにしてみた。
それは、二人の時は、友人として接してほしいという提案だ。俺は空間属性持ち故に対等な友人が少ないのだ。だからこそ、プライベートの時は言葉遣いや態度もラフなものにしてほしいとお願いしてみた。
キースからは渋々ながら、次のような返事を得た。
「……わかった。アースがそれを望むなら俺は構わないよ。」
「ありがとう!」
理解のある側近で助かる。四六時中主従関係なんて疲れるもんな。
俺がそうして悦に浸っていると、キースがまじめな顔で話しかけてきた。
「じゃあ、友人として一つだけアドバイスだ。美術の勉強時間が極端に少ないようだから、もう少し増やした方が良いぞ。」
「……やっぱり、さっきの発言、撤回するわ。」
「は? どっちだよ!」
ーー
「アース。私は宰相の仕事として、ダンカ―辺境伯領へと赴くことになっている。見聞を広めるために、一緒に行ってみるか? 辺境伯領は、魔物討伐の最前線だぞ。」
魔物討伐の最前線か……。ファンタジーっぽいから、ぜひ行ってみたい。今まではサンドール領と王都しか行ったことがなかったからな、別の領地に行くのもアリだ。
「兄上たちは、行かないのですか?」
「うむ。マクウェルは学園の入学準備で忙しく、ケルサスは第二王子殿下の遊び相手として王城に呼ばれているから、どちらも行くことができないであろう。」
「わかりました。私は、他の領地にも魔物討伐にも興味がありますので、ぜひお供させてください。」
俺がそういうと、父上は目に見えてご機嫌になった。
父上うれしそうだな。子離れは、まだ先のようだ。それに仕事で行くのであって、旅行ではないことを忘れないでよ?
ーー
俺たちはダンカ―辺境伯領へと向かう馬車の中にいる。キースと二人きりの馬車で、父上は前の馬車に乗っている。
「久しぶりの馬車移動はキツイな……。」
「アースは窓で移動しているからな。俺も窓の移動に慣れてしまって、馬車での移動は少々きつい。」
ダンカ―辺境伯領へは訪れたことがないので、窓を出すことができないのである。
「そういえばキースは、ダンカ―辺境伯領へは行ったことがあるのか?」
「あぁ。一度だけ父上に魔物討伐を見せてやると言われて、連れて行ってもらったことがある。」
「なるほど。ダンカ―辺境伯様はどのような人物だ? あと、家族構成は?」
それから、俺はキースの説明を聞いた。
キースによると、ダンカ―辺境伯領様はいかにも武人という感じの人らしい。魔物討伐の最前線の領地を任されているだけあって、かなり強いそうだ。
家族構成は長男、次男、そして長女という家族構成で、夫人はすでに亡くなられている。長男と次男は学園に通っており、長女のミラル様は俺たちと同い年らしい。
同い年の女子か……。一応、婚約だなんだとならないように気を付けなければ。
それにしても、キースは他の貴族のことについて詳しいな。少し、聞いてみるか。
「キースは、情報収集の才能があるのか?」
「いいや。俺はただ知っていることを話しただけだ。それに俺よりもっとすごい奴がいるぞ。」
「そうなのか。友人か?」
「あぁ。俺の幼馴染だ。今度紹介しようか?」
キースの幼馴染か、それは興味があるな! ぜひ紹介してもらいたい。
何しろ、俺の理想は、護衛騎士二人、文官・側仕えが二人だからな。
ーー
着いたようだな。あと少しで痔になるところだったぞ。
俺たちが着くと、いかにも武人という男性が迎えてくれた。そばには、女の子が一人いる。彼女が、ミラル様かな?
「我が辺境伯領へようこそ。サンドール公爵様、そしてご子息のアース様。」
「あぁ。此度は急な滞在の手配、誠に感謝する、ダンカ―辺境伯。アース、挨拶を。」
俺は父上の紹介を受けて、礼をした。
「はい、父上。空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。サンドール公爵家三男、アース・サンドールです。この度は、よろしくお願いいたします。」
俺の挨拶に対して、辺境伯は「こちらこそ、よろしく頼みます」といい、会話を切り上げてしまった。
あぁ、確かに。いかにも武人って感じの、平たく言えば不愛想で、厳しそうだ。
「長男、次男は現在魔物討伐に参加している故、席を外しています。こちらにおりますのが、長女のミラルです。挨拶を。」
次に、ミラル様が辺境伯の紹介を受けて礼をした。
「空間と時の女神の祝福を受け、類いまれなる出会いに感謝をすることをお許しください。お初にお目にかかります。ダンカ―辺境伯家長女、ミラル・ダンカ―です。」
……美人だな。ブロンドの髪に青い目をしている。なんというか、飄々としたさっぱり系美人だな。外見だけならば、年上に見える。
「では、我が屋敷を案内いたします。どうぞこちらへ。」
ーー
屋敷は非常に広いな。そして無駄なものがない感じだ、ミニマリストなのかな?
「アース、私は辺境伯様とともに魔物どもの視察を兼ねて外に出てくる。最近魔物が狂暴化しているという報告が上がっているからな。」
「はい、お気をつけて。」
なるほど、なぜわざわざ宰相が視察に行くのかと思っていたが、魔物が狂暴化しているのか。なんかのフラグか? まぁ、すぐに帰るしあまり関係ないであろう。
「ミラルお前は、この家の女主人としてアース様たちをしっかりおもてなししろ。」
ダンカ―辺境伯の言葉を受けて、ミラル様は俺たちを案内してくれた。
ーー
俺たちは応接室で、ミラル様と俺とキースの三人でお茶にしている。
「お茶は口に、お合いしましたか?」
「えぇ。おいしくいただいております。なぁ、キース?」
「はい、おいしくいただいています。」
「それならよかったです。」
……。
気まずい。こういう時って何を話せばいいんだ? 三人の共通の話題……。そうだ、剣の話でもしてみるか。
「ミラル様は剣術の稽古をなさっているのですか?」
「はい、子供のころは、お父様に習っていました。昔は兄上たちについて回って魔物討伐の真似事などをしていたのですが……。」
「なるほど。辺境伯のご令嬢らしいですね。昔はということは、今は参加していないのですか?」
俺がそう聞くと、ミラル様はうつむいてしまった。しまったな、何か訳アリだったかな?
少しすると、ミラル様が取り繕ったように、笑顔で理由を話し始めた。
「去年お母さまが戦死してから、お父様の様子が変わりました。お父様は、私を家に閉じ込めるようになったのです。」
夫人は戦死だったのか……。それでミラル様は、危険から遠ざけられたというわけだな。俺がそんなことを考えていると、キースが口を開いた。
「お悔やみ申し上げます。去年の戦死ということは、去年辺境伯領で起こった魔物の大量発生が原因ですか?」
「はい、それが原因です。」
そこからのミラルの説明によると、夫人は水魔法の使い手であり、ダンカ―辺境伯と共に戦場を駆け回っていたそうだ。
ミラルもそんな夫人に憧れてたが、残念ながら、魔力量に恵まれなかったらしい。そこで、魔導士であった夫人とは異なる戦い方ではあるが、騎士になるべく、剣の修行を始めたらしい。
しかし、そんな夫人は、去年の魔物の大量発生で命を落としてしまったそうだ。
「私は、この剣で我が家に貢献したいと思っているのですが……。お父様は、私を危険から遠ざけるようになりました。」
「そうだったのですね……。私はダンカ―辺境伯様の気持ちには少し同感いたします。ただ、ミラル様、あなたがどうしたいかということが、そして、あなたの気持ちが一番に優先されるべきだと考えます。」
「私の気持ち……。」
少し暗い空気になってしまったな。外の空気を吸うついでに、体を動かしたいな。
「少し体を動かしませんか? 剣をふるうこと自体は禁止されていないのですよね? 私たちも馬車移動で、体がなまってしまいました。な、キース?」
俺がそういうと、キースも空気をよんだらしく、仕方なさそうに頷いてくれた。
「剣をふるうことは……禁止されています。ただ、お父様がいない今だけなら、剣を振りたいです。お恥ずかしながらこうして、隙を見て訓練するしかないのですよ。では、訓練場にご案内いたします。」
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