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ジルがまっすぐこちらに向かってくる。まずは、剣での打ち合いをご所望か。望むところだ!
キンッ! 互いの剣がぶつかり合う。
ジルのスキがなく流れるような攻撃、なるほど、かなり強いな。剣技だけなら、俺と互角だ。
「やるな、アース!」
「お前もな、ジル!」
このままじゃ埒が明かないな……。ここは泡を展開しよう。
『泡沫の誘い』
「な、なんだ!この大量の泡は!」
俺たちの周りに、大量のシャボン玉のような泡が出現した。これで姿をくらませながら、追い詰めよう。幻影を見せるのは……。まだとっておくか。
キンッ!
キンッ!
キンッ!
キンッ!
キンッ!
ジルめ。若干後れながらも、しっかりと付いてくるな。ここは幻影を展開するか……。
俺がそう思っていたが、ジルはそう甘い相手ではなかった。
『嵐怒』
チッ! 風の中級魔法で、泡沫がすべて吹き飛ばされたな……。
「やるな、ジル!」
「今度は、こっちの番だ!」
『聖槍』
くそっーーーー! 次は光の中級魔法か。俺が習得でいなかった光魔法で攻撃とは、いい度胸だ!
『水壁』
よし。俺の防御は水属性の水壁と、氷属性の氷壁である。基本的には、魔法攻撃には水壁を、物理攻撃には氷壁を展開するようにしている。
「チッ! 防がれたか、中級魔法では埒が明かないな。ここは上級魔法でケリをつけるか。」
ジルはそういうと、詠唱をし始めた。
『火の王に希う、
まずいな。ジルが上級魔法の詠唱を始めた。俺の水壁でガードできるか未知数だ。壁の耐久力は、使い手の魔力量に依存する。仮にジルの魔力が俺を上回っているならば、防御が破られてしまう。
さらに上級魔法が相手だ。安易に水壁を展開するのはよくないだろう。俺も水の上級魔法を放つべきか? いいや、ここで大幅に魔力を消費するのは得策じゃないな。
ここは、あの手で決めに行く。
『咲け 白薔薇姫』
白薔薇姫の能力【凍える世界】は、刀剣に咲いた花弁が時間とともに散っていき、最後の花弁が散った瞬間から、対象の身動きを三秒間停止させるという能力である。
散るのにかかる時間は自由に変更できるが、かかる時間を短くすればするほど多くの魔力を使う。ノータイムで使う場合は、現在の俺の全魔力の八割強ほどを使う。
たった三秒で何ができる、と思われるかもしれないが、俺には空間属性がある。魔刀の近くに小窓を開け、相手の近くにつなげれば三秒間の間に決着をつけることができる。この小窓は、魔刀や魔法での奇襲攻撃にも使うことができる。
我に御身の御力の一端を授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え給え、爆炎烈(覇)……』
よし、白薔薇が散ったな。
『凍える世界』
俺がそう詠唱すると、ジルの動きが止まり、それから詠唱も止まった。
(な、身体が動かない! しかし、口は動くようだ。最後まで詠唱した方が良いか、それとも詠唱せずにガードに備えて方がいいのか? ただ、あいつは水壁を持っている。このまま詠唱しても……。 それに、どれくらい動けない? そう長い時間ではないはずだ……)
『小窓』
(ドンっ! 首に鈍い痛みが走ったと同時に、俺の意識は遠ざかっていった……。)
ーー
「気が付いたか、ジル。痛いところはないか?」
「あ、あぁ……。少し体が重いくらいだ。俺は負けたんだな……。最後どうなったんだ?」
「あぁ、それは……」と俺が説明しようとすると、グートン先生によって制された。
「私が説明いたしましょう。立会人の視点から、お話しすることができます。」
確かに、客観的に話してもらった方がわかりやすいかな。
グートン先生の提案に、ジルも頷いた。
グートン先生が説明役を買って出てくれた。まずは、俺の【白薔薇姫】には、相手の身動きを三秒間封じるという能力があること。
そして、普通の人間ならば三秒なんてあってないようなものだが、俺が空間属性を持っており、ジルの身動きを封じた後、首元へとつながる小窓を開き、首元を刀でたたき意識を奪ったという流れを、簡潔に説明してくれた。
「……。なるほどな、空間属性を持っているアースと非常に相性のいい能力だな。それにしてもお前が使っていたあの剣、刀? というのか? あれはいったいなんだ?」
「そ、それは偶然できたものでして……。」
と、俺は依然考えたように、空間属性を言い訳にしてぼかしながら説明を行った。いつか、本当のことを話したいな。
「わかった。このことは、黙っておこう。他に知られれば、厄介なことになるからな。しかし、これからもその刀を使っていけば、大騒ぎになるぞ? なにせ、魔剣を使えるようなものだからな。」
「まあ、騒ぎにはなるだろうが、この魔刀は偶然できたもので、俺にも作り方がわからないから、大丈夫だろうと考えている。面倒ごとになりそうだけど。」
「あぁ、問題になったら協力するよ。しかし、負けたのは悔しいな……。」
と、ジルは悔しそうな顔を浮かべながら、こぶしを握り込んだ。
「ジルだってすごかったぞ! 剣術もさながら、中級魔法の発動スピードも速かったし、上級魔法も発動しようとしていたじゃないか! 空間属性がなかったら、どうなっていたかわからないよ。」
「上級魔法はまだ完璧ではないがな。やるしかないと思った。」
「俺もまだ上級魔法は完璧じゃないな(笑)」
「そうなのか? お互いしっかり上級魔法使えるように頑張ろうな。しかし、お前に褒められると悪い気はしないな。お前と訓練してれば俺ももっと強くなりそうだ。」
「俺もそんな気がする!」
俺たちがそんな会話をしていると、ヘンゲーナ先生がため息をついた。
「まったく、お二人とも学園入学前は初級魔法ができていれば、合格ラインなのに……。まだ七歳で上級魔法なんて……。魔法師団エースの名が泣くわ……。」
「これからもご指導よろしくお願いします、ヘンゲーナ先生!」
と、俺は何も聞いていないふりをして、笑顔でそう言った。
「も、もちろんよ……。」
ーー
俺たちの訓練の話がひと段落すると、ジルから質問があった。
「そういえばアース、公爵に聞いたのだが、側近をつけるのか?」
あ、そうだ! 俺に側近をつけるという話が上がっていたな。すっかり忘れていた。しかし、募集すると、接待集団が押し寄せてきそうだな。面接でも開催するか? いや面倒くさいな。だったら紹介制にしてもらうか? だけど、人柄を見てから判断したいしな……。
「あぁ、その話なら前から上がっていたんだ。空間属性持ちの俺は狙われる可能性があるからな。その対策として、同年代で俺と一緒に行動ができる側近をつけるのはどうかってな。」
「なるほどな。俺もそろそろ側近をつけるころだしな。俺も学園入学前には側近をつけて、その側近との交流を深めてから学園生活に臨みたいからな。」
そういう考え方もあるな。
学園入学前から行動を共にして、連携とか確認したいよな。入学すると、親の庇護から外れることになるし……。
すると、グートン先生から意外な提案があった。
「それなら、俺の息子はどうだ?」
第三章は予告通り、側近編をお送りしたいと思います。
是非、お楽しみに!




