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『試合終了、勝者アース・サンドール!』
俺は立会人のコールと同時に、倒れているジョンのもとへと駆け寄った。
「ジョン、大丈夫か?」
俺がそう聞くと、ジョンは少し悔しそうな表情をした後、ふっと笑って天を仰いだ。
「流石です、アース様。魔法の種類、そして威力、どれをとっても、まだあなたに追いつけそうもないですね……。俺の完敗です。」
「そんなことないよ。俺の大窓での防御に対しての、あの切り替えしは流石だったぞ。それに、今回の勝負はお互い、決勝を見据えた戦いをしていた。全力でぶつかり、木の上級魔法を放たれていたら、勝負はわからなかった。だから、次も俺と戦ってくれるか?」と、俺は言った。
実際にそうだ。木の上級魔法を放たれていれば、龍が破壊されていたかもしれないのだからな。
「もちろんですよ、アース様! これからも訓練につきあってください! 決勝、絶対勝ってくださいね!」
「ああ、任せておけよ!」
俺がジョンを抱えて控室に戻ろうとすると、観客席から惜しみない拍手が送られてきた。
こういうのはちょっと照れ臭いな……。
ジョンを控室に連れていくと、シリル殿下とクリスが待っていた。
「ジョン、体は大丈夫か? よく戦ったな。」
「はい、ありがとうございます、殿下!」
シリル殿下もいい主だよな。俺は気を使って、自分の控室に戻ろうとしたが、シリル殿下に呼び止められた。
「流石だ、アース。俺の側近を負かしたからには、優勝以外認めないからな?」
「必ずや、ご期待に応えて見せます。」
三人のエールを受け取って、俺は自分の控室に戻った。
ーー
~観客席side~
※ジルベルト視点
俺たちはアースを見送った後、席に着いた。俺と同じテーブルに座っているのはハルだ。少し後方に、父上たちを含めた王族が座っている。
ハルの登場によって、周りの貴族からの視線が集まっている。まあ、そうなるよな。大人世代は、アイバーン帝国との交流がほとんどない。それにも関わらず、俺やアースが帝国の第一皇子であるハルと親しげに話しているなんて、驚いて当然だよな。しかし、ハルはこんなにみられていて、気分が悪くならないだろうか?
「ハル、気分を害していないか? その、こんなにみられていて……」、俺がそう聞くと、ハルがふっと笑った。
「ジル、俺たちは王族だろ? こんな視線、俺は慣れているぞ? なんなら、手を振ろうか?」
確かに俺たちは見られることになれているが……、ハルは気にするなと言いたいんだな。
「……それはやめてくれ。」
「冗談だよ。さあ、始まるみたいだ。」
アースとジョンが何か言葉を交わした後、立会人が手を挙げた。人が多すぎるうえに、バトルフィールドとは距離があって、アースたちの声はこちらには届かないのだ。
アースたちが魔杖を構えたと同時に、ジョンから木片が飛んだのが見えた。あれは……、木属性か? 土の派生属性か、初めて見たな。
「ほー、木属性か。なかなか、珍しいな。」
「ハルも見たことがないのか?」
「ああ、ないな。それにしても、相手は木属性か……、アースとの相性は良くも悪くもないな。」
ハルの言うとおりだな、木は実体のある魔法だ。だから、水での防御や攻撃は難しいだろうな。しかし、アースには空間属性がある。アースならば、何か策があるはずだ。
俺がアースの策について思いをはせていると、アースがジョンを水球で包んだのが見えた。あれは、『水牢』だな。アースが小手調べや、時間稼ぎによく使う手だ。さらに、並大抵の魔導士ならば、そのまま気絶を狙えるというアースの十八番だ。さて、ジョンはどう出るかな?
俺がそう思っていると、ジョンから長い木片が伸びて、水牢を打ち破った。
なるほど、ジョンは並大抵の魔導士ではないみたいだな。あれは、伸縮自在の木を思うように操る、中級魔法だな。それにしても、対応が早かったな。
「ジョンの対応がやけに早いな、ジョンはアースの魔法を知っているのか?」、とハルが聞いてきた。
「一緒に訓練を行っているようだが、おそらく……。ジーマンとの戦いで見たことによって、あらかじめ対策していたのではないか?」
「なるほど、アースがあの時に使った魔法は、一学年のやつなら大抵があの時に見ている。そのアースが見せた魔法に対してのイメージトレーニングを行っていても、何ら不思議ではないな。」
ハル言う通りだな。だとすると、既存の魔法は対策されていることになっている。アースなら魔法の組み合わせで何とかしそうだが、まあ空間属性は今回が初出しだから、大丈夫か?
俺がそう思っていると、案の定アースは大窓を出したようだ。これをジョンの後方につなげれば……。
すると、会場中からどよめき声が聞こえてきた。まあそうだろうな、初めて見た連中は驚くだろう。これで、アースの空間属性が周知の事実となったから、アースの周りがうるさくなるかもしれない。主として、俺がしっかりアースを守らねば。
と、俺が考えていると、ジョンは後方からの木操を再び操り、アースの方へ攻撃を再開した。
ジョンは、不意に現れた木をあそこまで正確に操ることができるのか? だとすると、このまま平行線になるのではないか?
アースもそう思ったらしく、今度は出口をどこか別の所に開いたようだ。出口は……、どこだ? 俺が周囲を探していると、ハルから声がかかった。
「おい、ジル! 上を見てみろよ!」
は? 上だと? 俺は言われたとおりに上空を見てみたが、特に何も見当たらなかった。
「ハル、何があるんだよ? 俺には、何も見えないぞ?」
「は? はるか上空に、ジョンの木が見えるだろ? なあ、お前らも見えるだろ?」
ハルはそういうと、周りの側近たちに同意を求めた。結果は、ほとんどが首を振っていた。そうだよな、上空には何も……。俺がそう思っていると、二人ほど首を縦に振っている者がいた。
「オーサックとキースには見えているのか?」、と俺は二人に聞いてみた。
「はい、殿下。」と、オーサックが答えた。
「俺にも見えていますね、うっすらですけど」と、キースも答えた。
なるほど。本当にはるか上空に、たしかに窓が出ているようだな。
「だよな! あんなに上空に窓を出したということは……どういう狙いなんだ? 二人にも見えているか怪しいだろ?」
少なくともアースには見えているな、窓を出すには具体的なイメージが必要だ。アースはそれを一度行った場所ならすぐに想起できるし、見えているところならばもっと早い。あの速さで窓を出したということは、視認できる限界の上空に窓を出したのだろう。だとすると、ジョンには見えているかどうか怪しいが……、ジョンの視界から外すことが目的なのか?
「おそらく、ジョンの視界から木操を外したかったのではないか? あれだけ正確なコントロールだ、視認できなければまず無理だろう。」
「なるほど、それであんなに高いところに窓を出したのか。すぐにそんなことを考えられるあたり、アースは本当にすごいよな?」
「ああ、俺もそう思うよ。」
本当にあいつはすごい。俺も早くあいつに追いつかなけば……、あの大量の泡は!!
俺がアースのすごさを嚙みしめていると、アースは周囲に泡を展開していた。あれは、俺がも使われたことのある、【泡沫の誘い】だな。だが、あの能力は魔刀がなければ使えないはず……、いや、アースの使っている杖をよく見るとあれは、魔刀と同じ輝きを放っている。
なるほど、アースも考えたな。能力だけを使うなら、別に刀や剣である必要はない。魔導士コースの生徒には、杖の使用が許可されている。だから、魔刀を魔杖に変形させれば、能力は使えるわけだな。
「ジル、あの大量の泡は何だ? アースの魔法か?」
「ああ、ハルは見るのが初めてなのか。あれはアースの魔刀『泡沫』の能力だよ。目くらましや、幻影に使うんだ。アースは、魔刀を魔杖に変形させているというわけだな。」
「なるほどな。それは何というか……、最強だな。」
ま、まあそうだな。しかし、柔軟な発想だよな。
「アースの側近たちは知っていたか?」と、ハルがアースの側近たちに話を振ると、キースだけが首を縦に振った。
「俺がアースのこっそり訓練についていった時に、アースがやっていましたね。」
「こっそり訓練というのは、たまにアースが一人でいなくなる時のあれか?」
「そうです。一人で行くなと俺が少し強めに言ったら、アースは「一人だけならついてきてもいい」と、了承してくれました。」
「……優しくしてやれよ?」
まあアースの側近というのも、苦労が絶えないよな。俺が言えた義理では、ないけどな。
「……善処します。それよりも、面白い魔法が見れると思いますよ。その時は、アースだからと納得してください。」
は? 空間属性と魔刀の能力まで使ったうえに、さらに面白い能力だと? いったい何が……。
俺がそう思っていると、急に空を何かが、旋回し始めた。その瞬間、会場中から悲鳴が上がった。
『きゃあああああーーー!!』
『化け物だーーーーー!!』
『今すぐ避難を!!!』
あ、あれは……、伝説の生き物「龍」か? いや、それよりもこのパニックをどうにかした方が良いのでは……。
俺がそう思っていると、拡声器で学園長から「あれは魔法だから、心配ない。」という内容の注意があった。ここにいる者は貴族だ。安全だと、ここの最高責任者に言われれば、そうなのだとすぐに落ち着きを取り繕うだろう。
しかしアースは、なんて魔法を生みだんだ? そういえば、キースが言っていた魔法って、これのことか……。
「キース、説明を頼む」と、俺はキースに状況説明を頼んだ。
「はい。あれはアースの開発した新魔法の『登水龍』と『登氷龍』です。アースいわく、中級魔法だそうです。」
あのバカでかいのが、中級魔法だと? 確かに長い文言を詠唱したようには、見えなかったが……。
俺はキースに言われたとおり、アースだからと納得することにした。
「ジル、あいつはやばいな。規格外にもほどがある……」と、ハルが目を見開いて言った。
「ハルはそろそろ、慣れた方が良いぞ? アースを帝国に連れ出すんだ、覚悟しておいた方が良い。」
「今から中止には……。」
「できるわけがないだろ? あいつは暇さえあれば「ダンジョン、ダンジョン」と、口ずさんでいるのだぞ? 今更中止にしたら、帝国が滅ぶかもしれないな?」と、俺は冗談ぽく言ったのだが、よくよく考えてみると冗談では済まないかもしれない。
ハルもそう思ったらしく、無言でうなずいた。
「まあ、規格外と言っても悪さをする奴じゃない。何かとんでもない偉業を達成するとか、不可能を可能にするとか、そういう方向のものだと思うぞ?」
俺がそういうと、ハルは「偉業、不可能……」と、つぶやいていた。
俺たちがそんな会話をしている間に、試合は終盤に突入したらしく、互いが魔法を打ち合っているのが見えた。少しすると、二体の龍がジョンに向かっていくのが見えた。
あれは……、上級魔法レベルではないと対処できないな。しかし、今から詠唱しても間に合わないだろう。ジョンは、最大魔力でガードするしかない。だが、そうすると決勝が……。
俺が思ったとおり、ジョンは幾重もの木壁を展開したが、少しの膠着のあと、二体の龍が木壁を貫通した。
その後、ジョンは倒れており、立会人が手を上げ試合の修了が宣言された。終了と同時に、会場から大歓声に包まれた。まあ、それはそうだよな。こんな魔法戦、そうそうお目にかかることなんてできない。興奮冷めやらないのもわかる。
「アースは、しっかりと勝ったな。」
「そうだな、流石だ。しかし、それ以上の衝撃の方が強いけどな……。」
ハルは、無言でうなずいた。準決勝がこれだと、決勝戦はどうなるんだ? 相手は、あの前賢者の孫だ。会場が壊れなければいいが……。




