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八月の第一週目は、期末テストが行われた。
期末テストは、特に語ることもなく無事に終わった。俺たちは勉強に関しては、特に困らないからな。約一名の脳筋以外は……。そのオーサックも、ぎりぎり赤点ラインをクリアしたようだ。
第一週目の土日、俺らは料理作りに奔走してた。事の発端は、陛下からの命令であった。
魔闘演舞や剣闘演舞では、各国の王や重役、そして保護者たちが来賓として招かれる。トーナメントは専用のとてつもなく大きな会場で行われる。会場の観客席は、国ごとに分けられていて、テーブルと椅子が完備されており、お茶や軽食がとれるようになっている。もちろん子供たちのトーナメントを見ることが目的だが、もう一つの大人たちの目的は、社交である。各国の貴族たちが一堂に会する機会なんて、めったにないからな。その社交の場では側仕えコースの生徒が給仕などを務めることになっており、そこでふるまわれるお茶や食事にも各国の威信がかかっているため、手を抜くことができない。そこで、陛下は俺に、お菓子や料理を作るように依頼してきたということである。
俺のアイテムボックスは、時間停止がついているため、出来立ての状態のまま持っておくことができる。以前側近たちに、朝食もそうすればいいのではないかと言われたが、やはり、作って食べるというルーティンは崩したくなかった。もちろん、時と場合によって柔軟に対応していく所存である。
今は、俺やジル、そして各側近が総出で準備をしている。そんな中でひときわ目立っているのが、ミントである。ミントはジルの側仕えであり、俺のところに結構な頻度で、料理を習いに来ていた。今では、俺がつくってきたものなら、たいていは作れるようになっている。俺の作業量が減って、とても助かっている。
お菓子として用意したのは、クッキーとケーキ、そしてふわふわパンである。どれも数がつくりやすいものだ。あとは、緑茶も結構な数を用意しようと思ったが、ジルに「初見だと、難しいのではないか?」と言われたため、紅茶にした。軽食として用意したのは、ハンバーガーとフライドポテト、そして、クリームシチューにした。いつものカレーを出そうと考えたが、社交を行う貴族の口臭をカレーまみれにするのはまずいと考えて、やめた。
日曜日の午前中にようやく用意を終えたと思ったら、午後には陛下や重役たちが、寮の客室へとやってくる。これから文化祭までは、客室で過ごすという流れだ。各王子たちが、陛下や重役たちを出迎えるために、転移陣の前まで来ている。各王子には側近がついているが、全員で来ると人が多すぎるということで、寮内ということもあり、各王子につき側近は一名までということになった。そして、ジルは俺を連れ出した。まあ、いいけどな。できれば第二王子やヴァイオレット様に鉢合わせしたくはなかったが、ジルの護衛が最優先である。
ーー
転移陣が光って最初に現れたのは、護衛に囲まれた陛下であった。
「皆、出迎えご苦労。ではベルハット、客室まで案内を頼むぞ。」
陛下がそういうと、第一王子のベルハット殿下が陛下を連れて、客室へと向かった。次に現れたのは、第一王妃のフローラ様である。
「ジル君、アース君、お出迎えありがとう。客室へ案内してくれるかしら?」
「もちろんです、母上。では、こちらへ。」
ジルはそういうと、フローラ様の案内を始めた。俺もジルの後ろをついていく。この流れで行くと、ヴァイオレット様を第二王子が案内するという形になるかな。まあ、当然か。重役たちはそれぞれで、客室に向かうことになるのか。父上も宰相だから、客室に来るらしい。母上も一緒に、来るのかな?
その夜俺たちは決起集会と称して、俺の部屋で食事会を開催することになった。当然ハルも来ることになっているが、その前にやることがあるらしい。俺とジルとハルは、陛下のいる客室までやってきた。
「ハル、陛下に挨拶をするのか? 俺の部屋によくくるから、一応挨拶をって感じか?」
俺がそういうと、ハルは頭を抱えた。
「一応って……。まあ、それもあるけど、夏休みにアースとジルを、俺たちの国に預けてくださったことへの感謝を述べに行くんだよ。」
なるほど、確かにその許可が下りるまでひと悶着あったもんな。ハルがそれだけ、自分の国へ俺たちを招待したいと思ってくれていることが、とてもうれしい。
そして、俺たちは、陛下の許しを受けて、客室へと入った。
ーー
「お初にお目にかかります、アイバーン帝国第一皇子のラインハルト・アイバーンと申します。お会いできて、誠に光栄です。この度ジルベルト殿下とアース様を、私共の国へと預ける御許可を賜ったこと、感謝の念に堪えません。心から感謝を申し上げます。」
「お初にお目にかかる、ラインハルト殿下。余の方こそ息子とアースの、見聞を広める機会をいただき、感謝している。貴殿と、貴国を信じよう。」
「もったいなきお言葉にございます。」
こういう王族同士のやり取りを見ていると、ハルは本当に皇族なんだと自覚させられるよな。ジルもそうだけど、王族や皇族の公私の切り替えって、本当にすごいよな。
俺はしばらく黙って背景と化していたが、ハルと陛下の話が一段落すると、陛下は俺に話題を振ってきた。
「時にアース、明日のトーナメントは優勝できそうか?」
そうだ、明日は魔闘演舞の第一学年トーナメントだ。つまり、俺が一番手というわけである。
対戦は一対一で行わる、トーナメント方式である。俺は、自分で言うのもなんだが、同学年の相手には負けないと考えている。なぜなら、空間属性も使えるし、先日魔力引出をマスターしたからな。それに魔刀を魔杖に変形させることで、能力も使えるし、新中級魔法も開発したから自信があるのだ。
しかし、それは準決勝までである。順調にいけば、準決勝の対戦相手はシリル殿下の側近のジョンで、決勝の相手は前賢者の孫のアイリーンである。この二人は、他の生徒とは格が違う。だから、必ず勝てるとは言い切れないのだ。
「準決勝までは固いと考えております。ただ、もちろん優勝をめざしております。」
「そうか。優勝期待しているぞ。それから、お前の菓子や料理にもな。」
そういうと、陛下はふっと笑った。
「腕によりをかけて準備いたしました。どうぞ、楽しみにお待ちください。」
俺がそういうと、陛下は「楽しみにしている」といい、俺たちに退室を許可した。俺たちは陛下の退室の許可を受け、俺の部屋へと戻ってきた。転移陣がしまるまであと二時間弱のため、急いで決起集会を開催した。ハルは自寮でやらなければならないことがあるらしい。
そういえば、ハルとアイリーンは同じアイバーン帝国の人間だよな。彼女は俺に興味がないようだし、ハルにどんな人物か聞いてみようか。
「ハル、アイリーン様ってどんな方なんだ?」
俺がそう聞くと、ハルは微妙な顔を浮かべた。
「アイリーン様は……、難しい方だよな。」
まあ、そうだよな。それにしても、アイリーンは自国の第一王子が難しいと表現せざるを得ない態度を、自国でも取っているのだろうか? 俺がそんなことを考えていると、アイザックから爆弾発言が飛び出した。
「アースは知らないのですか? アイリーン様は、ハルの婚約者候補ですよ?」
ブフフフッフーーーー! 俺は緑茶を噴き出した。




