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俺たちは急いで、俺の部屋へと戻り俺とジルとハル、そしてアイザックとエリックが俺の寝室へと移動した。
「それじゃあ、ハル準備はいいか? エリック、針を頼むな。」
「ああ、いつでもいいぞ。」
俺はエリックが針で穴を開けると同時に、【清流の祝福】で、癒しをかけた。ハルは一瞬苦痛の表情を浮かべたが、すぐに何でもなさそうな顔に戻った。
「これがアースの水回復魔法か……。始めてみたが、回復力がすさまじいな。」
「ありがとう、ハル。じゃあ、反対側の耳も早く……。」
俺がそういうと、ハルに制されてしまった。
え? その片方のピアスはいったいどうするんだ? ハル以外のみんなが疑問に思っていると、ハルは片方のピアスをアイザックに差し出した。なるほど、腹心であり、子供のころからの付き合いのアイザックにつけてほしいのか。
「あ、主、それはとてもうれしいのですが……。主と同じものを身につけることは、俺の矜持に反します。ですので……。」
断るのか? 俺は自分の側近が俺と同じものを身につけているから、てっきりアイザックも喜んで受け取るものとばかり思っていた。忠誠を誓っているからこそ、主とは同じものを身につけられないか……。そういう忠義の示し方も、あるんだな。
「わかている、お前ならそういうと思っていた。だから、ただ持ってくれさえすればいいんだ。」
ハルはそう言って、再びピアスもアイザックに差し出した。アイザックは、一瞬迷ったようだが、これ以上は断れないと判断したのか、観念して受け取ったようだ。
「主がなくしたときのために、スペアとして持っておきますね。」
「あはははははは! それでいい!」
この主従も、なかなかに面白い関係だよな。アイザックもアイザックで、素直にありがとうと受け取らないところが彼らしいな。それを喜ぶハルも、ハルらしいけどな。
紅い蘭のピアスはハルによく似合っていた。一見赤すぎて主張が激しいが、ハルの皇族としての気品や風格がそれを下品に見せていない。とてもよく似合っていて、よかった。そしてエリックも、ホッとしているようだ。
その後俺たちは、夕食を一緒に取った。エリックは初めて食べる俺の料理に、舌鼓を打っているようだった。エリックの口に合ってよかった。今後も一緒に、食事をとりたいな。
ーー
月の日である。
美術の時間の終了後に俺とハルとオーガスト先生は、いつものように昼食を取り始めた。何やら、オーガスト先生がそわそわしているようだが、何かあったのかな?
「アース君、遂に完成しましたよ! バラの香りの入浴剤です!」
お! 頼んでいた入浴剤が遂にできたらしい。オーガスト先生は香りの抽出に苦労していると言っていたから、もう少し時間がかかるかと思っていたが、やはり先生は優秀らしい。
先生は、十個ほどバラの香りの入浴剤をつくったらしく、今後もたくさん作るらしい。俺達には、その全部を渡してくれた。曰く、「作ることだけが目的ですからね。ですが、私も楽しみたいので、自分の分は自分で作ります」、だそうだ。言っていることは残念だが、本当に先生にはお世話になっているな。
「ありがとうございます! それで先生、この入浴剤を俺たちの合作として、本当に展示してよろしいのですか?」
「ええ、構いませんよ。私は、香り付けしただけですしね。」
この学園では、一人一作品は文化祭で展示することになっているが、実際につくっていなくても、名前を載せて展示することができる。ずるくないかと思って、先生に聞くとどうやら学園側にもメリットがあるらしい。
そもそも作品を見るのは、その生徒の親や知人だけであり、本人がつくったか作っていないかはそれほど重視していないらしい。それよりも、俺のように商品化できる商品のアイデアを吸い上げ、どんどん商品化することで学園の知名度を上げることが、真の目的らしい。そして、アイデアを出した生徒には結構なお金が与えられ、そして特許も与えられるらしい。まさに、ウィンウィンの関係だ。
まあ、そこは大人の話というわけだ。なぜ子供の俺に、そんなことを話したのかと聞くと、「大人の考えができる子供に話しても、問題はないからです」と、言われてしまった。
もしかしてオーガスト先生は、俺の正体に気付いている……なわけはないか。
俺たちはその夜、早速バラの香りの入浴剤を試してみた。これが、もう本当に最高だった。薔薇の芳醇な香りで浴室内が満たされ、翌日まで香りが体に残っていた。一日のご褒美としては、文句なしの逸品である。
ーー
七月最後の金の日である。
俺たちは娯楽同好会の部室で、トランプを楽しんでいた。俺はトランプの遊び方も増そうと思い、この世界にはなかった大富豪という遊び方をみんなに提案した。これがもう、本当にウケが良かったのだ。トランプというと、ポーカーやブラックジャックといった、ギャンブルに用いられることの多い遊び方ばかりで、純粋にトランプで遊ぶというような遊び方が乏しかったのだ。
「アース、昨日国の会議が終わったらしく、俺たちが夏休みに、アイバーン帝国へ行ってもいいという許可が下りたそうだ。」
やったーーーーーーーー!!
最高にうれしい気分だ! 早く夏休みに、なってほしいものだ。ダンジョンが俺を待っている!!
俺が鼻歌交じりにダンジョンの妄想をしていると、二人の王子からため息が聞こえてきた。何だ、お前らは楽しみじゃないのか? 俺がそう聞こうと思っていると、ジルが先に話し始めた。
「アース、俺さっき言ったことが気にならなかったのか?」
「え? ダンジョンだろ?」
「違うわ! 国の会議で、許可が下りたといったことだ!」
国の会議で……?
はーーー? 俺たちがアイバーン帝国に行くことが、国の会議にかけられていたのか? 俺はてっきり、陛下と父上の二人の保護者に許可を取ればいいものだと考えていたが、なぜそんな大事に……。俺が頭を抱えると、ハルがあきれながら説明してくれた。
「アースはもっと、自分の立場を理解した方が良い。アーキウェル王国としては、空間属性やら商品開発を行うお前を、帝国へ行かせたら、そのまま返してもらえなくなるということを危惧しているんだよ。」
……なるほど、そういうことか。序列一位の国から、俺を引き渡せと言われたら、断れないからな。それだとなぜ、許可が下りたのだろうか?
ジルに聞くと、ハルがアーキウェル王国あてに書簡を送ってくれたらしい。「夏休み中に、必ず俺を帰国に返す」、という内容の書簡をな。アイバーン帝国の第一皇子からの書簡だ、これにはアーキウェル王国の重役たちも、首を縦に振らざるを得なかったらしい。ハルにも、アーキウェル王国の重役たちにも、心労をかけてしまって申し訳ないな。俺がそう思って、ハルに謝ると、「俺がアースたちに、帝国に来てほしいから、別に構わないよ」、と言われた。
本当にやさしい、皇子だな。
俺はアイバーン帝国の訪問のための準備を始めた。簡単言うと、皇帝と皇后さまへの献上品である。でも、俺からしたら友人の家に遊びに行くので、その保護者にお礼の品を渡すくらいの軽い気持ちで準備するつもりだ。子供がそんなたいそうなものをもっていっても、下品に見えるかもしれないからな。何を渡すかは、実際に渡すまで秘密だとみんなには伝えてある。
これで、七月中にやるべきことは済んだかな。あれも、確かめ終わったしな。あとは、八月のビッグイベントを待つのみとなったな




