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しまった、冬休み明けで友人設定のことをすっかり忘れていた。
友人設定とは、俺が側近持ちであることを隠すためにしていた側近たちの設定である。人前では、キースたちとは側近ではなく、友人のふりをするという設定だ。
どうしよう……。もういっそ、先生には話そうかな。俺がそんなことを考えていると、ハルがあきれた声で話しかけてきた。
「はー、アース。お前はたまに残念だが、今回はセーフじゃないか? お前が空間属性持ちであることは、学園のみんなが知っているんだ。今更、側近持ちであることを隠す必要はないだろう。オーガスト先生も、アースのことは聞いていますよね?」
なるほど、そう言われるとそうだな。俺が空間属性持ちであることが広まっているのであれば、無理して友人設定を続ける必要はないだろう。
「ええ、それはもちろん。学園中で噂となっていますからね。ただ、私にとってのアース君は、工作を共にする友のようなイメージですので、空間属性持ちかどうかは関係ありませんね。」
理由はあれだけども、オーガスト先生が俺の空間属性に全く興味がなさそうで安心したな。変人だが、信用はできる先生みたいだな。
「ハルの言うとおりだな。では、側近たちを呼んできますね。」
ーー
俺は部屋の前で待機していた側近たちと、アイザックを部屋の中へ呼び、そしてお弁当を広げた。
「ところで、アース君。アース君たちが耳につけている、そのきれいな耳飾りは何ですか?」
やはり、工作好きな先生は気になるよな。俺は、魔導士クラスでした説明をそのままオーガスト先生にも行った。
ますいな、先生の目が輝いている。自分も作りたいと、そういう目をしているな。だが、これはエリックに専属的に作ってもらう約束をしているからな。先にくぎを刺しておくことにするか。
俺はこのピアスはすでに俺が特許を取得していること、そして、専属の職人につくってもらうことを約束していることを話した。
すると、
「私では、満足できないということですか?」
といって、きやがった。
やめろ、その言い方は気持ちが悪すぎる。美少女に言われるのならまだしも、お前のようないい年をしたおっさんに言われると吐き気がする。
だが、冬休み中に工作のアイデアを考えてくると言ったのは、俺だしな……。 ピアスを先生に任せてみるか。それならばいっそのこと、エリックを先生に紹介してみるか? 案外この二人は、話が合う気がするんだよな。
ローウェルに伝言石で、聞いてみるか。
(「ローウェル、先生にエリックを紹介してもいいと思うか?」)
(「まあ、いいんじゃないんですかね? 工作好きと職人で、話も合いそうですしね。」)
(「わかった。じゃあ、この後の同好会にエリックを招待してきてくれ。」)
「先生、この後の同好会で紹介したい人がいるのですが、よろしいでしょうか?」
俺がそういうと、先生は目を輝かせて頷いてくれた。
「では、紹介しますね。ローウェル、キース、連絡を頼む。」
俺が指示をすると、二人は席を立って、エリックのもとへ向かってくれた。
後はそうだな、入浴剤の件は先生に任せたいな。一応、紹介してみるか。俺はアイテムボックスから、入浴剤を一つ取り出した。先生の前でアイテムボックスを使うことは初めてだったが、先生は「それが空間属性の能力ですか……。」と、一言言っただけで、後は入浴剤に視線が釘付けだった。
俺は先生に入浴剤の作り方や効能の説明をした後に、俺の力では果汁の多いゆずからしか香りが取り出せないことを告げた。それを聞いた先生は、「では、私がやります!」と、思っていた通りの反応をしてくれたので、薔薇の花を渡して、バラの香りの入浴剤の作成を依頼した。先生にも入浴剤を試してほしかったので、数個渡しておいた。
それから俺たちは、娯楽同好会の部室へと移動した。部室前に着くと、ローウェルとキースの後ろに隠れたエリックがいた。まあ、それは緊張するよな。アイバーン帝国の第一皇子のハルと、オーガスト先生がいるわけだからな。
俺は、緊張しているエリックに代わってハルと先生にエリックが、俺の専属の職人であることを伝えた。最初は緊張していたエリックだったが、俺がオーガスト先生は工作の教師で、物作りが非常にお好きな方だと伝えると、すぐに打ち解けたようで、工作談議に花を咲かせていた。
二人の工作談議はしばらく終わりそうになかったので、俺たちはオセロをしながら待っていた。
ーー
ようやく二人の工作談議が一区切りついたようなので、俺は早速イヤリングの話を二人に持ち掛けた。
「エリック、ピアスは耳に穴を開けることで固定していたが、穴を開けることが困難な人のために、耳たぶにはさむような形で固定できるアクセサリーは作れそうか?」
俺の問いかけに、エリックと先生は少し会話をした後、「できそうです」と力強い返事をしてくれた。これは今後に期待ができそうだな。
俺たちがイヤリングの話をしていると、ハルが会話に混ざってきた。どうやら、ピアスにするための宝石が用意できたらしい。この話をしたのって三日前だよな? 行動が早くて、何よりである。渡された宝石を見ると、こちらも燃えるような赤い宝石、これは……。俺が宝石をじっくり見ていることに意気付いたのか、ハルが説明してくれた。
「これは紅石だ。俺の最も好きな宝石だから、これを選んだんだ。これで、ピアスをつくってもらえるか?」
「ああ、もちろんだよ。形は、何かイメージはあるか?」
俺は受け取った紅石をエリックに渡して、イメージをエリックに伝えるようにと、ハルに言った。どうやら、ハルも家紋にするようだ。アイバーン家の家紋は確か蘭だったな。
その後、ピアスの制作はもちろん学園ではできないから、放課後に俺が窓で、エリックを自宅の工房へ送ることになった。
ーー
金の日である。
俺が単独行動となる、魔法実技の授業があるため、王族・皇族ガードが使えない日である。しかし、俺はこの日に改めて、自己紹介をすると決めていたのだ。ジルやハルがいなくても、堂々としていよう。
側近たちに見送られて、朝のホームルームの時間のぎりぎりに教室へと入った。俺が教室へと入ると、ほとんどの人が俺に話しかけようと席を立ったが、すぐにモール先生が、教室へと入ってきた。実にいいタイミングです、モール先生。
そして、先生が朝のホームルームを始めると同時に、俺は手を挙げた。
「モール先生、改めて私の自己紹介をしたいと思うのですが、許可をいただけますか?」
俺がそう言うと、教室中から注目が集まった。モール先生も一瞬ためらったようだが、俺の事情を察して許可してくれた。
「では改めまして、アース・サンドールと申します。私の得意な属性は氷と水、そしてこの空間属性です。」
俺は同時に、大窓を開いた。大窓でつなげた場所は、いつも第一学年の魔法実技の授業で使っている、第五魔導士訓練場である。
俺が大窓を開くと、教室中から驚嘆の声が聞こえてきた。まあ、いきなりでかい空間が現れれば、誰もがそうなるよな。
「ではせっかくですので、このまま第五魔導士訓練所へ行きましょうか。よろしいでしょうか、モール先生?」
俺が苦笑いでそう言うと、モール先生は仕方なさそうな顔をして頷いてくれた。




