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「お待ちください。」
俺がそういうと、全員の注目が集まった。
「どうしたんだ、アース?」と、ハルが続きを促してきた。
「はい、私が調べてもよろしいでしょうか? 私も早く、リヒト殿下のお話も聞きたいですしね。」
俺がそういうと、ハルは少し考えてから、
「わかった。」
と、言ってくれた。
俺がローウェルにアイコンタクトをとると、ローウェルは提げていた袋から、土人形とスプーンを三個ずつ取り出した。
寮に入ると、アイテムボックスが使えなくなる。そこで、転移する前にあらかじめアイテムボックスから出して、用意していたのだ。
ローウェルに、ハルたちの茶を調べさせるのは酷かな。それなら、俺がやろうか。
「ローウェル、スプーンを貸してくれ。俺がやるからさ。」
「……でも、」
「大丈夫だ、俺の役目だ」と、俺は笑顔でうなずいた。
「……かしこまりました。」
そういうと、土人形をテーブルの上に置き、スプーンを渡してくれた。
俺は三人のカップから茶をスプーンで掬いだし、それを各土人形へとかけた。
反応は……、ないな。毒は盛られていないようだな。
「終わりました、ラインハルト殿下、ジルベルト殿下、どうぞ。」
俺がそういうと、ジルは茶を飲み始めた。
「アース、それは……」と、ハルが戸惑っているようだ。
無理もない、初めて見る毒見方法だろうからな。この方法で本当に毒見ができているかが、心配なのだろう。
「俺たちなりの確認方法です。信じてください。」
「いや、信じてはいる。土人形で確認する方法なんて初めて見たからな、あとで教えてくれよ?」
「信じている」か……。口に出すのは簡単だが、本当に人を信じることは難しい。しかし、ハルは本当に俺を信じているということがわかる。俺の毒見を心配しているなんて考えてしまって、申し訳ないな……。
毒見の方法について知りたいか……。あの事件のことを、ハルに話してもいいのだろうか? まあ、ジルの回答次第では、判別できることだけ伝えればいいかな。
「はい、かしこまりました。」
俺がそういうと、ハルも茶を飲んだ。
俺も茶を飲もうとしたとき、リヒト殿下から声がかかった。
「それは、物質以外も確認できるのですか?」
は? こいつ今、物質以外といったか? つまり、俺が菌やウイルスなどの生物を、警戒していると思っているのか? それは自白しているのと同義ではないか?
いやでも、顕微鏡などがないから、菌やウイルスの説明をこの世界の住人にすることができない。
それに、毒虫なんかによる毒殺とか、そういうものもあるかもしれないからな。まだ、自白をしたと決めつけるのは早いだろう。
「おっしゃっている意味がよくわからないのですが、どういうことなのでしょうか?」
俺がそういうと、リヒト殿下は俺の方をじっと見つめてから、
「いえ、何でもありません。」
といった。
少しの沈黙の後、リヒト殿下が話を進めだした。
「では、そろそろ本題を話すとしましょうか。結論から申しますと、アース様、あなたにはナハト研究会に参加していただきたいのです。」
やはりそう来たか、俺を呼びつける理由なんてそれくらいしかないもんな。
「それは大変光栄なお話ですが、所属している部活動が忙しいので難しいですね。」
「薬草研究会は、それ程忙しくはないと思いますが?」
うん、やはり知っていたか。だが、娯楽同好会のことは、どうやら知らないようだな。知っているのは俺たちと、モール先生とオーガスト先生くらいだからな。
「いえ、私はもう一つ娯楽同好会という部活に所属しております。三つ目の部活となりますと、難しいですね。私は寮で家事も行なっていますからね。」
「家事をあなたが……? まあそれはいいとして、娯楽同好会という部活動は聞いたことがないのですが?」
「ええ、私たちがつくりましたので、知名度がないのは当然かと。」
「なるほど……どうしても、ナハト教研究科会には入っていただけないのですか?」
俺が申し訳ございませんと再び断ると、
「そうですか……。」
と言って、リヒト殿下は紅茶を飲んだ。
よし、正当な理由で断れたようだな。あとは、このまま引いてくれればいいが……。
「では、こうしましょう。私がその娯楽同好会に参加するというのはどうでしょうか? 部長は誰でしょうか? アース様がつくったということは、アース様でしょうか? それともあなたの主である、ジルベルト殿下でしょうか?」
くっ……そう来たか。部長は特に決めてはいないが、断れるのか? どういっても角が立つし、断る理由が……。
俺たちが答えに困っていると、ハルから助け舟が出た。
「リヒト殿下、部長はこの私です。」
「はい……?」
リヒト殿下もあっけに取られているが、俺たちも呆けてしまった。
「ですから、私が娯楽同好会の部長です。」
「ラインハルト殿下が、アース様のつくった同好会に所属しているのですか?」
「はい。友人がつくった同好会です、私が所属しても何ら不思議ではないでしょう?」と、ハルは挑発的な笑みを浮かべた。
「そ、そうですね……。では、私もその同好会に参加させていただいてもよろしいでしょうか?」
リヒト殿下がそういうと、ハルは貴族スマイルを深めた。
「それは、難しい話ですね。確かに娯楽同好会はアースがつくった部活ですが、今は私が決定権を持ち、それに私が部長ですので、実質娯楽同好会は私の所有物といっても過言ではありません。娯楽同好会に入る人間は、私に恭順し、服従を誓ってくれる「友人」しか入れないことにしています。リヒト殿下は、私の「友人」ということでよろしいでしょうか」と、ハルは圧をかけた。
今のハルはまさに、皇帝の風格を醸し出していた。これが、北の広い大陸を征服した、アイバーン帝国の血族か。
でも、これは本心ではいっていないだろうな。国の序列を盾に、リヒト殿下を拒もうとしてくれているのだ。
「……そういえば、私は放課後に、別の部活動へと参加する時間がなかったですね。真に残念ではありますが、先程のお話はなかったことにさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは残念ですね。リヒト殿下とご一緒する部活動も、楽しそうだとは思いましたがい方がないですね。承知しました。」
そういうと、二人は再びお茶を飲み始めた。
ハル、本当にありがとう。リヒト殿下が同好会に参加していたら、酷いことになっていたかもしれない。いつも、助けられてばかりだな。
話が一段落すると、
「お話というのは、以上でしょうか?」とジルが、案にもう帰ってもいいかと尋ねた。
「はい、以上ですね。では、お茶会を終了しましょうか。非常に有意義な会でした。」
「この度は招待していただき……。」
と、俺あいさつをしようとすると、ジーマン殿下が遮ってきた。
「アース、今年の剣闘演舞を楽しみにしていろよ。」
ジーマン殿下がそう、気色の悪い笑みを浮かべて言ってきた。
剣闘演舞。八月に行われる騎士コースの学年別のトーナメント戦だ。年で一番盛り上がる行事といっても過言ではない。
それに対して、魔導士コースの学年別のトーナメントは魔闘演舞という。こちらも同じく、八月に開催され、剣闘演舞同様に最も盛り上がる行事のうちの一つだ。
それにしても、剣闘演舞を楽しみにしてけよ、か。俺は魔導士コースだから、剣闘演舞には出ないんだけど、どういうことだろうか?
「……あの、私は剣闘演舞には出場しないのですが、どういうことでしょうか?」
すると、ジーマンは再び気味の悪い笑顔を浮かべた。
「安心しろ、侮辱はしないからな。実力で運び屋とそこの王子の側近を叩きのめしても、問題はないだろう?」
こいつは国主コースだから、剣闘演舞には出られないはずだ。しかし、何かを仕掛けてくるのか? いや、それよりも叩きのめすだと、俺たちの側近をか? まじでこいつ反省しないな……。
「アース、魔力を落ち着けろ。」
俺は無意識に、魔力を荒げてしまった。
「ジル、だが……。」
俺がそういうと、ジルは真剣な眼差しで俺を見てきた。
「アース、お前は確かにやさしい。だが、時には信じることも大切だ。俺たちの側近は、信用して任せられないほど、そんなに弱いのか?」
は!! 俺は側近たちの方を向く。
そうすると、側近たちは力強くうなずいてくれた。
そうだよな……。こいつらだって、ただ俺に守られるだけの存在じゃないよな、立派な騎士たちなんだ。
「……そうだな。ジル、ありがとう。ジーマン殿下、正々堂々と剣で勝負をしてくださるのならば、私たちの側近は負けません。」
そういうと、ジーマンは再び笑った。
「そうか、それは楽しみだな。せいぜい、足掻いて訓練をするんだな。」
「私たちは日々、足掻きながらも泥臭く力をつけているので、ご心配には及びません。」
「ふん! 弱小国にお似合いだな!」
俺たちの言い合いが済んだところで、ハルから声がかかった。
「アース、ジルそろそろ帰ろう。夕食が遅れてしまうからな。」
「ああ、そうだな。」
「そうですね、ラインハルト殿下。それでは、失礼いたします。」
ーー
そして俺たちは、特に会話もせずに俺の部屋まで帰ってきた。
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