2
それから俺たちは、最後の教養科目の授業を受けるため、大講義室に移動した。
座る席についてだが、なんとなく国別に座っている。別に、そういうルールはないんだけどな。
後ろから順に帝国、聖王国となっているため、俺たちアーキウェル王国の生徒は、一番前の席に座っている。ジルたちとは、教養科目の授業は一緒に受けている。
どこの世界でも、学生は後ろの席が好きなんだな……。
そして、授業後に事件は起こった。
俺たちが教室から出ようとすると、俺? を呼ぶ声が聞こえた。
はー、この展開前もあったぞ……。
「運び屋――――! 今すぐ、俺様のもとへ来い!」
ジーマン殿下である。
もっと、王族らしく、手紙をしたためたりとかできないのか? 大声で呼びつけるなんて、アホ丸出しじゃないか。
「アース、行くのか?」と、ジルが俺の意見を聞いてきた。
「ああ、ジル。行くしかないだろうな。周りの生徒の注目も集まっているし、あれでも王族だからな。」
「……わかった。なら、俺も行こう。」
「ああ、頼む。側近一同、魔刀に手をかけるなよ? まあ、俺自身も気を付けるけどな。」
俺は側近たちが頷いたのを確認すると、悠々とジーマンのもとへと向かった。
「遅いぞ、弱小国ども!」
開口一番、失礼な奴だな。
「これは失礼いたしました、ジーマン殿下。お久しぶりですね。」
「それは俺に対する嫌味か? それよりも、俺様の従弟の側近加入も断ったそうだな? 運び屋のくせに生意気だな。そんなに、そこの普通王子が……。」
「ジーマン殿下、約束は覚えてらっしゃいますか?」と、俺は約束を盾に、ジルへの侮辱発言を制した。
サーカス第二王子殿下への側近加入を断った件が、もう伝わっているのか。あの母子、やはり聖王国とつながっているな。
それにしても、俺の主を侮辱しないと決闘で取り決めたのに……。相変わらずアホだな、まったく。
「くっ……。まあ、いい。それより、俺様の兄上がお前に話があるそうだ。いますぐ、聖王国寮へ来い。」
は? いよいよ、第一王子が出張ってきたか。それよりも、招待状なしに今すぐ来いだと? 非常識集団だな。
「申し訳ございません、アースは私の側近なので私を通してから、アースを招待していただきたいのですが?」と、ジルが俺の前に出た。
「は? これは、アース個人に対する招待だ。プライベートな誘いに、主の許可が必要なのか? そんなに、部下を束縛するなんて、困った主だな?」
そういうと、ジーマンは気色の悪い笑みを浮かべた。
「……わかりました。であれば、私も参加させていただきますが、よろしいでしょうか?」
「は? だから、お前に用は……。」
すると、燃えるような赤い髪が俺たちの前に現れた。
「面白そうな話をしているな! 聖王国の殿下方との茶会か……。それならば、俺も参加してもいいだろうか、ジーマン殿下?」
この燃えるような赤い髪と瞳の持ち主は、ラインハルト・アイバーン殿下だ。俺たちが困っていると思い、助けに来てくれたのか。
「な! なぜ、アイバーン帝国が、こんな弱小国の連中を……。」
そうか、こいつは謹慎中だったから、俺たちが、友人になったことを知らないのか? 俺たちが話すのは、部活動だけだからな。聖王国の連中が知らなくても、無理はないか。
「うん? それは、俺がこいつらと友人だからだ。何やら、俺の大切な友人が困っているようだったからな。それに……、俺はこの後の部活動で久しぶりに、アースたちと会うことができるのを楽しみにしていたのに、この後招待状もなしに茶会だと? この俺から楽しみを奪ったんだ、俺も参加も許可していただけるよな?」と、ハルは笑った。
やはり、序列一位のアイバーン帝国からの圧は、すさまじいな。いくら失礼の塊のジーマン殿下でも、これは跳ね除けられないだろうな。これが、序列というものだ。
「くっ……。かしこまりました。」
「そうか、嬉しいぞ。では、行こうか。」
ハルが一番楽しそうだな。
と、俺たちが行こうとすると、周りの生徒から当然の疑問の声が聞こえてきた。
『なぜ、ジーマン様は、アース様にこだわっておられるのでしょうか?』
『私も前からそう思っておりましたわ。』
『そうですわね、国力も立場も違うでしょうに……。』
そう言ったささやき声がいたるところから聞こえた。
それはそうだよな、事情を知らない生徒からすると聖王国の王族が、なぜか弱小国の公爵家の人間を執拗に欲しがっている様にしか見えないからな。
すると、ジーマン殿下が、笑みを浮かべながらその問いに答えた。
「なんだ、お前ら知らないのか? アースは、空間属性を持っているのだぞ? 欲しがらない理由が、あるのか?」
そう言った瞬間、一斉にざわめきが大きくなった。
おい、このクソ王子。何バラしてんだよ! 確かに来週から少しずつ開示しようと思っていたけど、こんなに一気に広まったら……。もう、本当に厄介なことしかしないな……。
もういっそ、「開示する手間を省いてくありがとう!」とでも、言ってやろうかな。
「ジーマン殿下! 私は早く第一王子殿下と、お話がしてみたいので行きましょう。」
早くこの場から立ち去りたいからな。
「そうか、ようやくお前も理解したか。では、行こう。」
理解はしていないが、馬鹿で助かるよ。
ーー
俺たちは、聖王国寮へと続く転移陣へと向かった。
(「ハル、ありがとう。でも、よかったのか?(小声)」)
(「ああ、別にいいさ。それよりも、本当に俺はこの後の同好会を楽しみにしていたんだぞ? それなのに、あいつらときたら……。安心しろ、大抵のことならば、俺が庇ってやるから。(小声)」)
(「すまない、今度必ずお礼を……。(小声)」)
(「そうか、じゃあ、今日の夕食をお前の部屋で一緒に取る。それでこの件はチャラだ、いいな?(小声)」)
(「……わかった。腕によりをかけて用意するよ。(小声)」)
(「ああ、楽しみにしているよ。(小声)」)
ハルは、本当にやさしいな。おいしいものを、いっぱい作ろう。
「(全員に連絡。寮に入ると、伝達石が使えなくなる。十分に注意していこう。)」
俺がそう伝達石で伝えると、全員が頷いた。
寮を指定されたのは、厄介だな。他の場所だったら、伝達石を使い、意思疎通をできたんだけどな……。
「着いたぞ、では、聖王国寮へと向かう。」
ジーマン殿下がそういうと、俺たちは転移陣へと乗った。
ーー
応接室に案内された俺たちを待っていたのは、濃い紫の髪に黄色の瞳、そして眼鏡をかけている男子生徒だった。この人が、サンテリア聖王国の第一王子のリヒト・サンテリア殿下か。なんというか、知的そうな人だな。
「お待ちしておりました、アース・サンドール様ですね。それから……、招待していない方もおられるようですが?」
話し方は弟と違って、丁寧だな。
リヒト殿下の言葉を受けて、ハルとジルが前に出る。。
「お初にお目にかかります。ジルベルト・アーキウェル申します。この度は、私の側近のアースをお招きいただいたということで、ご挨拶に参りました。」
「……そうですか。あなたはアース様の主ですからね。こちらこそ、よろしくお願いします。」
案外あっさりと認めたな。ジーマンと違って、話の分かる人なのかもしれないな?
「リヒト殿下、お久しぶりですね。この度は、私の友人が面白そうなことに巻き込まれていたので、私もついてまいりました。それでも、よろしいでしょうか?」
なんというか、挑発的だな。まあ、序列一位のアイバーン帝国の第一皇子と序列第二位の聖王国の第一王子だもんな。仲がいいわけが、ないか。
「これは、ラインハルト殿下、お久しぶりですね。お越しいただき、光栄です。それにしても、アース様たちとご友人なのですね? ラインハルト殿下は相変わらず、お心が広くてうらやましいです」と、リヒト殿下はメガネを押し上げながら答えた。
「私は、人の中身を見て判断しているだけですよ。彼らといると、とても面白いのでね。」
「たしかに、能力は面白いですね。」
「そうですね、能力も面白いですね。」
と、二人は貴族スマイルで、言葉の応酬をしている。
こ、怖い。これが貴族の頂点同士の会話か……。なんで俺、ここにいるんだろう?
「それでは、挨拶もすみましたし、お茶にしましょうか。お茶は……、側近の方々の分もご用意いたしますか?」
「私の側近の分は、結構です。お心遣いありがとうございます。」
俺に続き、ジルとハルも、側近の分は断った。
「そうですか、では我々五人分のみ、準備いたしますね。」
そういうと、リヒト殿下の側近らしき女性がお茶の準備を始めた。
やはり、毒見は必要だよな。例の毒が入っているかもしれないし……。こういう時は、側近に先に飲んでもらうのだろうか? ハルの出方をうかがってみよう。
――お茶が入れ終わり、先に聖王国側が一口飲んだ。
「さあ、皆さんもどうぞ。」
「では、いただきます。アイザック頼む」と、ハルはアイザックに、先に飲むように促した。
アイザックは、ハルの側近だ。やはり、側近に飲ませるのか。だが、アイザックも大切な友人だ。あの毒を飲ませたくはない。ならば……。




