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は? 何が、「ということで」、だよ。こいつら本当に、どういう神経しているんだ? まったく、意味が分からないな。当然答えは、「ノー」だ。
「確かに、私にはもったいないくらいの側近たちですが、私は手放すつもりはありません。」
「そうか、であれば、側近たちがお前の側近をやめたいと言ったらどうする? それでも、手放すつもりはないと言い張るか?」と、イラつく笑みを浮かべてくる。
それは考えたこともなかったな……。もちろん引き留めるが、どうしても俺の側近が嫌だというなら、解放するべきだとは思う。
「……それは考えたこともなかったですが、側近たちがどうしても私の側近をやめたいというのであれば、引き留めはしません。」
「そうか、それはよかった。なら、俺が勧誘しても問題はないな?」
俺が仕方なくうなずくと、サーカスは不気味に笑った。
「よし、じゃあローウェルとミラル、俺のもとへ来ないか? ローウェルは、お前の兄よりも使えそうだし、ミラルは俺が可愛がってやる」というと、気持ちの悪い笑みを浮かべた。王族なだけあって、容姿はそれなりだが、下種さが前面に出ている。
それに対して、二人は貴族スマイルを浮かべた。
「大変魅力的なお話ですが、お断りさせていただきます。私は、アース様から離れるつもりはまったくありません」と、ローウェルがはっきりと言った。
「私も同じく、アース様から離れるつもりはございません」と、続いてミラルも、きっぱりと断った。
改めて言われると、やはりうれしいな。
だが、約一名が非常に、不本意だったらしい。
「……お前ら、王族の誘いを断るなんて不敬だぞ!! ならば、アースよりもいい褒美をくれてやる。金や地位、ローウェルにはいい女をミラルは、俺が満足させてやるぞ!」
はー、また金に地位に女か、こいつらは、それしか能がないのだろうな。もっと、頭を使ってほしいものだ。
「お断りします」という二人の答えが、きれいにハモった。
あー、バッサリ切ったな。そろそろ、適当な理由をつけて帰ろうか。不敬罪だ、なんだといわれる前にな。
「クソ、お前ら……。この俺に向かって……」と、サーカス殿下が怒りをあらわにしたが、ヴァイオレット様がそれを制した。
「まぁ……、サーカス落ち着きなさい。それでは、私からもよろしいかしら? キース、私の護衛騎士にならないかしら? 今も楽しめそうだけど、将来はもっと楽しめそうだわ」と、真っ赤な唇に弧を描きながら言った。
は? こいつ、何を言っているんだ? ……まさか、キースを食うつもりか? というか、最初から俺じゃなく、キース狙いだったんじゃないだろうか?
……部下の貞操を守ることも、主としての義務だ。俺がしっかりしなければ……。と、意気込んでいたが、キースは自分で対処してしまった。
「魅力的なお誘いですが、お断りさせていただきます。私が守るお方は、アース様ただお一人ですから。」
そういうと、キースは笑った。
キースは普段あまり笑わないが、不意に笑うときはたまにある。それに加えて、ガチギレしたときも、笑顔になることがあるのだ。これは、考えるまでもなく後者だな。
「まぁ……、残念ね。あなたほどの人物にはそう出会えないのだけど……。では、どうしようかしら、今回のお茶会では何も得るものがなくなってしまったわ」と、首をかしげた。
は? なんで俺たちから、何かを得るのが前提なんだ? お話がしたいと言ってきたのはお前等だろ? 自己中心的過ぎて、言葉も出なくなってきた……。
「そうだ、母上、いいことを思いつきました。」
「まぁ、何かしら?」と、ヴァイオレット様が嬉しそうに反応した。
またか……、今度は何を言うつもりだ?
「はい。アースの次の主の枠を予約しておくというのはどうでしょうか?アースの今の主は、あの何のとりえもないジルベルトですが、あいつも「不運な出来事」で命を落とすかもしれません。そうなっては、アースは仕えるべき主を失ってしまいます。そこで、アースの次の主の座を予約しておこうというわけです。ベルハット兄上にとられる前にですね」と、サーカス殿下が、下種な笑顔を浮かべていった。
「まぁ、それはいい考えだわ。そうしましょう、それなら問題ないはずだわ? そうですわよね、アース?」
……人は怒りの限界が超えるとどうなるのだろうか? 俺の場合は、頭が真っ白になるみたいだ。こいつらは、ジルを殺すと、案に言っているようだな。
……まったく、面白いことを言うな。
面白すぎて……、笑えない。
『咲け 白薔薇(姫)』
『アース様、お顔の色が悪いようですね。」
『そうみたいですね、まだ体調が万全ではなかったみたいです。」
『ヴァイオレット様、サーカス殿下、アース様はまだ体調が万全ではなかったようです。本日はこれにて、退席させていただいてもよろしいでしょうか?』
と、俺が詠唱した瞬間、側近たちが止めに入り、退席を申し出た。
「まぁ! そうでしたのね。キースに言われたら、仕方がないわ。まだ体調がお悪いのに、今日は来てくれて感謝いたしますわ。キース、いつでも待っているわ」と、不気味に笑った。
「アース、さっきの件、予約したからな」と、サーカス殿下も再び、下卑た笑顔を送ってきた。
「アース、早く窓を出せ。今は引こう(小声)」と、キースが耳打ちをしてきた。
……、俺は大きく深呼吸した。
「退席をお許しくださりありがとうございます。では、これにて失礼いたします。」
『大窓』
ーー
『おい、アース!』
『アース、ここは……。』
『なんでこんなところに窓を出したんですか、主!』
『アース様、魔女の森にいったい、何の用なのでしょうか!?』
と側近たちが、口々に現状の報告を要求してきた。
すまない……、今は余裕がないんだ。
『氷の女王に希う、我に御身の御力の一端を授け給え、願わくはその御力で我が願いを叶え給え、白銀世界』
俺は、最大魔力で魔法を放った。もちろん、帰り用の大窓の魔力は残してな。俺はきわめて冷静だからな。
しかし、この怒りを発散しないと精神衛生上よくないと思ったので、上級魔法を最大で放つことにした。やはり、ストレス発散は魔法ぶっぱに限るな。
その結果、魔女の森が一瞬にして氷づいた。のちに、調査団が派遣されるほどの異常事態として、話題となったが、このことは置いておこう……。
ーー
次の日、今日はエリックに依頼したアクセサリーの納品日である。
こんなに待ちに待った日は、他にないな。
「いやー、今日は本当に楽しみだな。なぁ、お前ら?」
……。俺の問いかけに対して、全員が微妙な顔をした。どうしたのだろうか、まさか楽しみじゃないとかではないだろうな……?
「いや、楽しみですけど……。主が元気そうで何よりです」と、ローウェルが力無さげに言った。
「うん? あー、昨日のお茶会か? あれほど気分の悪くなるものはほかにないよな。各自侮辱されたと思うが、気にしてないか?」
「自分は大丈夫です、孤児であったことは事実ですからね」と、開始早々に侮辱されたアスタが、笑顔で答えた。
「でも、今は違うだろ? まるで、今も孤児であるかのようなあの口ぶり……。今思い出しても、気分が悪くなるな」と、俺が少し怒気を孕めると、全員が慌てだした。
「自分は、アース様や皆がわかってくれていればそれで充分ですよ。ですから、魔力を荒げないでください!」
あ……、自分でも気づかないうちに、魔力が高まっていたようだ。しばらくは、あいつらのことを思いださないように気を付けなければな。
「すまん、気を付けるよ。ミラルも大丈夫か? お前に声をかけてくる奴には、碌な奴がいないよな」と、今度はミラルに話を振った。
「そうだね、人を外見だけで、判断しているんだろうね。でも、大丈夫だよ、まったく気にしていないし。」
「そうか、変な奴に絡まれたら俺に言えよ? 氷漬けにするからさ」と、俺が冗談っぽく言うと、ミラルが青ざめてしまった。どうしてそんなに、慌てるのだろうか?
「キースは、大丈夫か? どうやら、その……。」
体目的だとか、食われそうだとか、あまり言いたくはないな……。
「大丈夫だ、気にしていない」と、本当に気にしていなさそうな口調で言った。
「そうか、何かあったら言ってくれよな?」
「あぁ。それよりも、アース。昨日の後始末はどうするつもりだ? いくら人が来ないとはいえ、森全体が氷漬けになっているんだぞ? 誰かに見つかって、問題にでもなったらどうするつもりだ?」と、若干怒気を込めてキースが聞いてきた。
そうか、側近たちはこのことを気にしていたのか。たしかに、あれはやりすぎたとは思う。そしかし、ああでもしないと、俺の怒りが収まらなかったんだ。
「いや、それは溶けるのを待ってだな……」と、俺が言い訳をすると、ローウェルに一刀両断にされた。
「主、魔法で作った氷が溶けにくいことは、氷属性の主が一番よくわかっていますよね? それに、今はまだ冬です。下手したら、春先まで氷が溶けない可能性だってありますよ?」
うっ……。確かにそうだ。魔法で作った氷は、通常の氷よりも解けにくいのだ。だからといって、自然解凍を待つ以外に方法は無いしな……。




