バレてしまった!
ダニーと待ち合わせた馬車へ向かうと、腕を組んで待つダニーの姿が見えた。
遠目からもはっきりと分かるくらいに、落ち着き無くソワソワしている。
少し近付くとリアムに気付き、物凄い勢いで駆け寄って来た。
「遅かったじゃないか!一体何が‥っと、まあいい、取り敢えず馬車の中で聞かせて貰おうか」
会場から戻って来た人々が、次々に馬車停留所へやって来る。
こういう時は特に用もない輩に捕まり易いので、それを良く理解している彼は、機転を利かせた。
馬車に乗り込み合図を送ると、ゆっくりと走り出す。
毎回こういった行事の後に、道が混むのは避けようが無い。
帰り着くのにどれ位時間がかかるかは分からんな‥などと考えていると、唐突にダニーが切り出した。
「で、どうだったんだ?首尾は?」
「‥上々とは言えない。まあまあも何か違う気がする。強いて言うなら‥悪くはないが半分で、こんな物かが半分という感じだ」
「なんだそのハイブリッドな答えは!さっぱり分からん。もっと分かりやすく説明してくれ!収穫はあったのか?」
「‥これだな」
ダニーの問いに対して、何故かリアムは何かを包んだポケットチーフを渡す。
不思議に思いダニーがそれを開くと‥
「キノコじゃないか!?何だ?益々分からなくなったぞ!何故キノコが出てくる?」
「ん〜‥そうだな、そこにキノコがあるから‥といった所か」
大きく目を見開き、驚きの表情を浮かべるダニーは、慌ててリアムの額に手を当てる。
「心配するな、熱がある訳じゃない。君がどんな反応をするのか試してみただけだ。まあ、やっぱり普通はそういう反応だよな」
先程からリアムの言動が全く理解出来ないダニーは、困惑している。
そこでリアムは、ダニーと別れた後の出来事を話して聞かせた。
「いや、ちょっと、かなり頭が追い付かない。伯爵家の令嬢がキノコ採り!?にわかには信じられない。とはいえ君が嘘をつくとは思えんし‥て事は、あの髪型は君の仕業か!?」
「ああ。髪質が良かったもので、つい本気を出してしまった。我ながら良い出来だと思ったが」
「良い出来なんてもんじゃない!君より一足先に戻った令嬢を観察していたら、他の令嬢達の注目の的だったぞ。中には「髪を結った使用人を貸して欲しい」などと言い出す令嬢もいたんだからな。ボンネットの下に、こんな凝った髪型を隠していたのか!と感心したものだが‥君、髪結師としても充分やっていけるよ」
「手先が器用なだけだ。それにあの髪型は誰にでも出来る物じゃない。アシュリー嬢の髪質だから上手くいったというだけだ」
「へえ〜そう、ふ〜ん‥。アシュリー嬢の髪質は、そんなに素晴らしかったのか?」
「素晴らしいなんてもんじゃない!最高の手触りだった!」
と、言ってからダニーを見ると、ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべている。
ハッ!あの髪に触れた時の感覚を思い出し、つい興奮してしまった!
まさか‥バレてないよな!?
「うんうん、そうかそうか。なるほどね。これはアレだな、瓢箪から駒ってやつだ。て事で、今後はこまめに彼女と接触を図るべきだな」
「何でその諺を引用するんだ?」
「君にとって悪くない状況だからさ。とにかく、まだ当初の目的は果たしていない。まあ、彼女と何度も会う機会があれば、また"髪に触れる"機会もあるだろうさ」
やっぱりバレてた!
くそッ!今迄隠して来たというのに、私が"髪フェチ"だと知られてしまったじゃないか!
ニヤニヤ笑うダニーに、小さく舌打ちをするが、後の祭りだ。
「髪結の謝礼としてキノコねぇ。中々面白い令嬢じゃないか」
「‥そうだな」
「折角貰ったんだ、このキノコで次の約束を取り付けるぞ。食べてみてどうだったかを手紙に書くといい。他にオススメはあるのかさり気なく尋ねれば、きっと令嬢から誘いが来る筈さ。あの髪型の対価にしては安すぎるからね」
「そんなんで上手くいくのか?」
「こう見えて思考分析能力は高い方だ。まあ、ダメ元でやってみろ」
確かにダニーは人の思考を読むのが上手い。
側で見て来た経験から、特に否定はしなかった。
素直に頷きキノコを包み直すリアムを見ながら、ダニーは別の意味でもニヤニヤしていた。
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