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誘惑しよう!どうしよう!?  作者: 栗須まり
8/17

アレンジしよう!

青くなったり赤くなったり、かと思うと目が泳いだりを繰り返すアシュリー嬢に、堪え切れなくなったリアムは、思わずプッと吹き出した。

「プッ!クククク‥ハハハハハ!」

突然声を上げて笑い出したリアムに、アシュリー嬢はキョトンとした顔を向ける。

「失礼、貴女は本当に私の事を知らなかったんだな」

「す、すみませんでした!公爵家の方に対して、数々の無礼をっ!」

「無礼?特にそれらしき事は無かったが?」

「あ、あの〜お見苦しい物をお見せしたり‥とか」

お見苦しいと聞いて、さっきの裾を捲り上げた姿を思い出す。

「ああ‥アレか。まあ、アレは私より寧ろ貴女の方が被害者というか‥」

少し頬を染めて話すリアムに、つられてアシュリー嬢の顔もみるみる赤く染まる。

今更ながら恥ずかしくなったのか、焦った様に捲し立てた。


「あ、あの、アレは‥どうか忘れて下さい!誰も来ないと思っていただけで、ホント、あの、お目汚しするつもりは無かったというか。ふ、不可抗力なんです!もうホント、まるっと記憶から私の存在ごと抹消しちゃって下さい!え〜と、そんな訳で、直ぐに目の前から消えますんで!」

アシュリー嬢は一息に言い放つと、ボンネットを抱えた姿勢で頭を下げ、小径の方へ足を向けた。

ここで逃げられるとは思わなかったリアムは、慌てて令嬢を呼び止める。

「ま、待つんだレイウッド伯爵令嬢!そんな格好で会場へ戻るつもりか!?」

咄嗟に呼び止めたにしては、中々的を射た理由を口にしたお陰で、令嬢の足はピタリと止まる。

「あ!‥」

令嬢の今の格好は、茂みに頭を突っ込んでいた所為で、髪は乱れ葉っぱが絡み、ドレスの裾はシワになっている。

そんな格好で会場へ戻れば、好奇の目に晒される事は、さすがに彼女も気付いた様だ。

困り顔の令嬢に、リアムはある提案をする。

「まずその乱れた髪型を何とかした方がいいだろう。‥良ければ私に直させてくれないか?」

「えっ!?」

「これでも姉に仕込まれ、一通りのヘアアレンジは出来るつもりだ。ドレスの皺は‥ピンでなんとか出来るかもしれないな」

意外な申し出に困惑した令嬢は、暫く考え込んだ。

けれど今の状況で他に頼める相手はいない。

「‥本当にお願いしてもよろしいのですか?」

「ああ、任せてくれ。では‥そこの切り株へ座ってくれないか?」

リアムはすぐ近くの真新しい切り株を指差し、そこへ胸ポケットのチーフを広げる。

令嬢は少し戸惑いながらも、素直にそれに従った。

ちょこんと腰を下ろす後ろへ立つと、令嬢の頭から丁寧に一本ずつピンを抜いて行く。

ハラハラと解けていく黒髪を掬い、手櫛で葉っぱを取り払うその指先から、リアムの脳裏に驚きが広がった。


なんだこの手触りは!

柔らかく滑らかで、まるでシルクの様じゃないか!

それに‥令嬢から香る爽やかな香り。香水の様なキツイ香りではなく、柑橘系のいつまでも嗅いでいたい香りだ‥ハッ!ちょっと待て、何を考えているんだ私は!?


「なんかすみません。その、葉っぱとか‥」

申し訳なさそうな令嬢の声に、意識が引き戻される。

「いや、貴女の髪は癖がなく絡みにくい様で、簡単に落とせたから気にしなくていい。普段から手入れが行き届いているのだな」

「そんな、手入れといっても自分で調合したハーブを練り込んで、手作りの石鹸で洗っているだけですが‥」

「何だって!?石鹸を手作りしているのか!?」

「あ、はい」

またもや驚きの発言を聞き、一瞬リアムの手が止まった。


キノコ採りの次は手作りの石鹸だと!?

伯爵令嬢がそんな事をするなんて、全くもって理解出来ない。

一体何なんだこの令嬢は!?

次から次へと、まるでびっくり箱の様じゃないか!

しかし‥‥面白い!!


「あの〜大丈夫でしょうか?」

手の止まったリアムに、令嬢は不安げに声を掛ける。

「あ、ああ、問題無い。どの様な髪型がいいか少し考えていたのだ。大体まとまったからアレンジを始めるが、その間‥他にどんな事をしているのか、聞かせてくれないか?」

「えっ!?私の話ですか?」

「ああ。貴女のやる事は、中々に興味を惹かれる。もっと貴女という人を知りたくなった」

無意識に発した言葉は、今日一番の口説き文句だ。

「聞いて面白いもんじゃないと思いますが。でも、私のやっている事が領地経営の役に立つかどうか、判断して頂けたら嬉しいです!」

軽く拳を握り締めて、興奮気味に意気込む令嬢の姿に、リアムはクスリと笑みをこぼす。

口説いた方も口説かれた方もお互い無自覚のまま、暫く令嬢の話に夢中になっていた。

読んで頂いてありがとうございます。

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