いざ!どっちだよ!?
あれから一度だけダニーの元へ、フレッドから手紙が届いた。
そこには園遊会に令嬢が現れる筈だという事と、今回の行動についての反省や謝罪の言葉が綴られていた。
それを読んだリアムは複雑な気分にはなったが、こうして腹を決め園遊会へ参加したのである。
会場での表彰式もそろそろ終わりに近付き、集まった人々は例年通りなら社交に勤しむ。
動き出すとするならば、今が頃合いだろう。
ハァ‥と深い溜息を吐くリアムに、ダニーは近付き肩を叩く。
「嫌がってるのは分かるけど、本当は"仕方ないやってやるか"とも思ってるよね?フレッドに腹を立てながらも、君は彼の為に出来る事をしてやるつもりなんだ。違うかい?」
「まあ‥そうだな」
フッと笑ってもう一度ダニーはリアムの肩を叩く。
「何だかんだ言っても、友達思いだからねぇ君は。私の次に」
「そこは私を褒めるだけでいいんじゃないか?余計な一言で、やる気が半減したぞ」
「いやいや、2人の間でこんな面倒くさい事やってる私こそ褒めてくれ!ウチの者にレイウッド家のタウンハウスを張らせたり、この会場で令嬢がどの位置にいるかまで調べあげたんだからな!あー苦労した!あーしんどい!」
「分かった。ダニー君は偉い!以上!」
「氷結!言葉が氷結!君ねぇ、これから女性を口説くんだから、もっと甘く優しく話さなきゃいかんよ!?ほら、私が教えた甘い言葉、練習しただろ?今リハーサルしてみなよ?」
「今か!?いや、本番には強いタイプだから、今やらなくても‥」
「今出来ない事が本番で出来る筈ないだろ!ほら、私を令嬢だと思って、さあ!」
「‥‥どうやら私は‥貴女に出会う為に、‥生まれてきた様だ‥くっ!」
「ん?どうした?」
「歯が浮いて‥」
「我慢しろ。その顔でこのセリフを言われて、落ちない令嬢はいない!もっとサラッと言えばイチコロだ。さあ、もう一度!」
「いや、これ以上練習したら、噛み合わせが悪くなる気がする。それより令嬢は何処にいるんだ?今動かないとどうでもいい連中に捕まって、身動き取れなくなるぞ」
「それもそうだな。え〜っと、森への小径付近だと聞いたから、東の方‥あっ!あの二人組じゃないか!?」
「どこだ?」
「ほら、ヘイワード伯爵夫人の隣!従姉妹と二人での参加で、二人共黒髪にボンネットを被っていると聞いたから、あの二人に違いない!」
指差しはマナー違反なので、顎をクイっと右へ動かすダニーの示した方向へ、リアムは目線を向ける。
そこには世話好きで有名なヘイワード伯爵夫人がおり、その隣に二人の女性が立っていた。
「で、どっちがアシュリー嬢なんだ?」
「それがさぁ‥‥‥‥分からないんだよね」
「は?」
「だってさ、元々令嬢の容姿は知れ渡ってないし、2人共黒髪で背丈も同じくらいだし、張り込ませた者も、分からなかったって言うんだからしょうがないだろ?」
「今か!?いざ、出陣というこのタイミングで、よりによって今カミングアウトするのか!?」
「いや〜悪い悪い。でもまあ、リアムならなんとかなるかなぁってね。君の勘は当たるし、君の選んだ方がきっとアシュリー嬢だよ」
「その何の根拠もない信頼感は、どうかと思うぞ。それでも少し位は情報が無いのか?」
「無いんだなぁこれが。2人共髪色は同じだけど、瞳の色は違う様だね。君はどっちだと思う?」
悪びれもなく言うダニーには呆れたが、いずれにしろ今更やめる訳にはいかない。
リアムは仕方なく、辛うじて顔が確認出来る位置にいる、2人の令嬢を見比べた。
1人はあまり顔色が良くない様で、心なしか元気が無い。
もう1人は表彰式より小径の先の方が気になるらしく、森の方をジッと見ている。
しかし森を見つめるその緑の瞳に、何故だか妙に興味が湧いた。
「‥左だな」
「左?ふうん‥そう、左の令嬢ね。うん、いいんじゃないかな。多分左がアシュリー嬢だよ」
「テキトーだな。そんなんでいいのか!?」
「大丈夫さ。なんたって君は神の愛子だからね」
またそれか!と、心の中で悪態をつき、もう一度深く溜息を吐く。
「‥じゃあ、行って来る」
「おお!いよいよだね!それじゃあ私は、もう1人の令嬢を観察しているよ。後で馬車の前で落ち合おう」
「分かった」
ダニーとそう打ち合わせ、ターゲットとなる令嬢を再び見る。
しかし‥ほんの少し目を離しただけだというのに、いつの間にかさっきの場所に令嬢の姿がない。
いない!一体何処へ‥
焦りを感じて顔をしかめると、近付いて来たどこぞの令嬢がビクリと肩を震わせた。
フン!ちょうどいい。このまま不機嫌オーラ全開で行けば、鬱陶しい連中も寄って来ないだろう。
さて、ターゲットを探さなければな。
そう考えて浮かんだのは、さっき見た時の令嬢の視線の先だ。
やたらと森を気にしていたから、恐らく小径の先へ向かったのだろう。
ざっと会場を見渡して、緑の瞳が見当たらないのを確認すると、リアムは森への小径を進み始めた。
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