マズいぞ
おいおい、これは現実か?
私は夢でも見ているのか!?
思わずゴシゴシと目を擦り、もう一度目の前の光景を目にしたダニーは、驚きのあまり口をあんぐりと開けていた。
わざわざアシュリー嬢を出迎えに来た事も驚いたが、馬車が停まるとリアム自らが扉を開け、顔を出した令嬢を抱き下ろすという信じられない光景が繰り広げられている。
リアムはと言えば嫌な顔一つせず、寧ろ嬉しそうに口角が上がっているのだから驚きだ。
目的の為のスキンシップと言っていたが、これは‥思った以上にリアムは令嬢を気に入っているのではないか?
いや、これは喜ばしいとは一概に言えない状況だ。
あまりの衝撃に呆けてしまったが、自分の役割を忘れてはいけない。
「あー‥コホン!リアム、紹介をしてくれないか?」
ダニーの存在に気付いた令嬢は、途端に顔を真っ赤に染め狼狽え始める。
「ああ、そうだな紹介するよ。アシュリー嬢、彼はダニー・ワトソン。ワトソン宰相の子息で、私の友人だ」
友人を紹介するリアムの微笑みは、並の女性なら黄色い声を上げるか、見惚れて溜息を漏らす程に魅力的だ。
ところがアシュリーはリアムの微笑みより、ワトソン宰相という名前に反応した。
「さ、宰相様のご子息!?あ、あの、私はアシュリー・レイウッドと申します!お会い出来てとても幸運に思います。あの〜‥宰相様が取り組んでいる政策について、少し質問してもよろしいですか?」
「ふむ、それは構いませんが‥話せる事と話せない事があるというのは、ご理解願いたいですね。しかしまあ、アシュリー嬢は女性でありながら、政治に興味があるのですか?」
「いえ、あの、政治というよりは、主に幹線道路の整備事業について、伺いたいなぁと思いまして」
「幹線道路?‥土木事業に興味があるのですか?」
「あ、そうですね。それについての理由は、ちょっとした領地の問題が関係していまして‥」
活き活きと話すアシュリーの姿は、先程恥ずかしそうにしていた姿とは全く違い、ダニーは少し別の印象を受けた。
と、そんな時‥
「あーコホン!二人共、こんな所で話してないで、一旦中へ入ったらどうだ?」
会話を遮り正論を述べるリアムは、少し不機嫌そうに見える。
それに対してアシュリーは、誤魔化す様に「テヘヘ」と笑った。
「さっきから私の存在を忘れていたのではないか?」
眉間に皺を寄せぶっきらぼうな話し方のリアム。
アシュリーは一気に血の気が引いて、とにかく謝罪をしなければと頭を下げた。
「えっ!?‥っと、あの、すみません。一つの事に夢中になると周りが見えなくなる、私の悪い癖が出ましたぁっ!」
手をパタパタと振りながら、焦った様子で謝罪するアシュリーに、リアムはフッと笑みを向ける。
それからポンポンとアシュリーの頭に手を乗せ、左腕を差し出しエスコートの姿勢をとった。
「えっ!?あの、あの‥」
「周りが見えなくなると、足元にも注意が行かなくなるだろう?この間も躓いて転びそうになっていたのだから。まあ、私は悪い癖とは思わないが、私の存在は忘れないでいて欲しい」
とびきり甘い微笑みでそう言うリアムに、アシュリーはコクンと頷き、差し出された腕におずおずと手を伸ばす。
そんな二人のやり取りを呆然としながら見ていたダニーは、心の中でこう叫んだ。
マズい!この状況はかなりマズいぞ!
これじゃあミイラ取りがミイラになってしまうではないか!!
しかも肝心のミイラがミイラのままっていう。
良く分からんが魔性のミイラなのか!?
読んで頂いてありがとうございます。




