任せて貰えないか?
凄い集中力だな。
周りの事など一切気にならない様だ。
開いた本のページを、一心に読み耽るアシュリーを前に、リアムは感心していた。
一通り邸内を案内した後で、図書室へと通されたアシュリーは、お目当ての本を数冊選び、すぐに本の中へ入り込んでしまった。
図書室には許可を得た数人の学者がおり、時々声を荒げて議論を交わしているが、アシュリーの耳には全く届いていない様子だ。
お陰で手持ち無沙汰になったリアムは、アシュリーを観察する外特にやる事が無い。
アシュリーの選んだ本はジャンルが全て違う。
土木工事に関する物や、交渉術、法令、そして今読んでいる本は食品加工についてというタイトルだ。
時折眉間に皺を寄せては頷いたり、感心したりを繰り返している。
クルクルと表情を変える様は、見ていても飽きない。
それにこれほど関心を持たれないのは初めての事で、女性と二人きりだというのに、とても居心地が良かった。
たが、こんな様子では当初の目的など達成出来ない。
さて、どうしたものかと頭を悩ませながら、きっかけを探ってみる。
陽の光に照らされた彼女の髪は、フワフワと今日も触り心地が良さそうだ。
髪に結ばれたリボンはこの前送った物で、我ながら彼女の髪にピッタリだと、自分のセンスに満足する。
ただ、結び方が今一つ気に入らない。
そんな風に考えていると、無意識に伸ばした手が彼女の髪に触れる。
ハッ!何をやっているんだ私は!
ん!?アシュリー嬢は本に夢中で、全く気付いていない様子だぞ。
それならもう少し‥
アシュリーの髪を一房掬い、クルクルと指に絡めてみる。
相変わらず本に夢中のアシュリーは、そんな事をされているとは気付かない。
これに調子に乗ったリアムは、本格的にヘアアレンジを始めた。
両サイドを二本ずつ丁寧に編み込み、それを後ろで一纏めにする。
纏めた所にリボンを結ぶと、満足のいく仕上がりになった。
ああ、やはりこの髪、なんて良い手触りなんだ!
出来ればずっと触っていたい。
誘惑なんて気の乗らない事をやらされてはいるが、この髪に出会えたのは唯一の利点だな。
「‥あのー‥‥小公爵様‥」
流石に気付いたアシュリーが、躊躇いがちに声を掛ける。
「あ、ああ、すまない。この方が貴女には合うのではないかと思って、勝手にアレンジさせて貰ったが‥。集中している所を邪魔したくなかったというか‥」
いや、これはアウトだろう!
言い訳にもなっていないぞ!
つい夢中になり過ぎて、後の事を考えていなかった。
アシュリー嬢もきっとドン引きして‥
「うわぁなんかすいませんっ!実は、私もメリーベルもあまりヘアアレンジが得意じゃなくて、折角頂いたリボンをイマイチ活かしきれなかったんですよね。いや〜ホントありがとうごさいます」
ない!ドン引いてないぞ!
むしろその神対応に、ありがとうと私が言いたい!
「いや、喜んで貰えて良かった。ところで"私もメリーベルも"と言ってたが、メリーベルというのは貴女の侍女なのか?」
「あ、従姉妹の名前です。家計を預かる身としては、出来るだけ質素倹約を心掛けているもので、使用人は必要最低限にして、身支度や身の回りの事は自分達でやってるんです」
なんと!貴族令嬢が自分で身支度を整えているのか!?
でも待てよ‥これでキノコ採りなんて型破りな行動も説明がつく。
彼女は本来使用人のやる仕事を、自分でやっているのだろう。
それなら‥ちょっと図々しい提案をしてもいけるんじゃないか?
ダメ元で言ってみるか。
「ヘアアレンジが苦手なら、次から私に任せて貰えないか?」
「えっ!?本当に!?いいんですか?」
いけた!
言ってみるものだな。
これで堂々とあの髪に触れられる。
まあ、本来の目的とは大分ズレてはいるが、これもスキンシップに入るだろう。
浮かれたリアムは極上の笑みを浮かべ、アシュリーの問いに深く頷く。
「貴女の髪はとても魅力的だ。これ以上無い程に。その綺麗な緑色の瞳も、活かせるアレンジを考えておくよ」
受け入れられた嬉しさから、思ったままを口にしたが、リアムは気付いていなかった。
今のセリフが充分口説き文句になる事に。
そしてアシュリーの頰が、赤く色付いている事にも気付かない程浮かれていた。
読んで頂いてありがとうごさいます。




