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誘惑しよう!どうしよう!?  作者: 栗須まり
12/17

任せて貰えないか?

凄い集中力だな。

周りの事など一切気にならない様だ。


開いた本のページを、一心に読み耽るアシュリーを前に、リアムは感心していた。

一通り邸内を案内した後で、図書室へと通されたアシュリーは、お目当ての本を数冊選び、すぐに本の中へ入り込んでしまった。

図書室には許可を得た数人の学者がおり、時々声を荒げて議論を交わしているが、アシュリーの耳には全く届いていない様子だ。

お陰で手持ち無沙汰になったリアムは、アシュリーを観察する外特にやる事が無い。


アシュリーの選んだ本はジャンルが全て違う。

土木工事に関する物や、交渉術、法令、そして今読んでいる本は食品加工についてというタイトルだ。

時折眉間に皺を寄せては頷いたり、感心したりを繰り返している。

クルクルと表情を変える様は、見ていても飽きない。

それにこれほど関心を持たれないのは初めての事で、女性と二人きりだというのに、とても居心地が良かった。

たが、こんな様子では当初の目的など達成出来ない。

さて、どうしたものかと頭を悩ませながら、きっかけを探ってみる。

陽の光に照らされた彼女の髪は、フワフワと今日も触り心地が良さそうだ。

髪に結ばれたリボンはこの前送った物で、我ながら彼女の髪にピッタリだと、自分のセンスに満足する。

ただ、結び方が今一つ気に入らない。

そんな風に考えていると、無意識に伸ばした手が彼女の髪に触れる。


ハッ!何をやっているんだ私は!

ん!?アシュリー嬢は本に夢中で、全く気付いていない様子だぞ。

それならもう少し‥


アシュリーの髪を一房掬い、クルクルと指に絡めてみる。

相変わらず本に夢中のアシュリーは、そんな事をされているとは気付かない。

これに調子に乗ったリアムは、本格的にヘアアレンジを始めた。

両サイドを二本ずつ丁寧に編み込み、それを後ろで一纏めにする。

纏めた所にリボンを結ぶと、満足のいく仕上がりになった。


ああ、やはりこの髪、なんて良い手触りなんだ!

出来ればずっと触っていたい。

誘惑なんて気の乗らない事をやらされてはいるが、この髪に出会えたのは唯一の利点だな。


「‥あのー‥‥小公爵様‥」

流石に気付いたアシュリーが、躊躇いがちに声を掛ける。

「あ、ああ、すまない。この方が貴女には合うのではないかと思って、勝手にアレンジさせて貰ったが‥。集中している所を邪魔したくなかったというか‥」


いや、これはアウトだろう!

言い訳にもなっていないぞ!

つい夢中になり過ぎて、後の事を考えていなかった。

アシュリー嬢もきっとドン引きして‥


「うわぁなんかすいませんっ!実は、私もメリーベルもあまりヘアアレンジが得意じゃなくて、折角頂いたリボンをイマイチ活かしきれなかったんですよね。いや〜ホントありがとうごさいます」


ない!ドン引いてないぞ!

むしろその神対応に、ありがとうと私が言いたい!


「いや、喜んで貰えて良かった。ところで"私もメリーベルも"と言ってたが、メリーベルというのは貴女の侍女なのか?」

「あ、従姉妹の名前です。家計を預かる身としては、出来るだけ質素倹約を心掛けているもので、使用人は必要最低限にして、身支度や身の回りの事は自分達でやってるんです」


なんと!貴族令嬢が自分で身支度を整えているのか!?

でも待てよ‥これでキノコ採りなんて型破りな行動も説明がつく。

彼女は本来使用人のやる仕事を、自分でやっているのだろう。

それなら‥ちょっと図々しい提案をしてもいけるんじゃないか?

ダメ元で言ってみるか。


「ヘアアレンジが苦手なら、次から私に任せて貰えないか?」

「えっ!?本当に!?いいんですか?」


いけた!

言ってみるものだな。

これで堂々とあの髪に触れられる。

まあ、本来の目的とは大分ズレてはいるが、これもスキンシップに入るだろう。


浮かれたリアムは極上の笑みを浮かべ、アシュリーの問いに深く頷く。

「貴女の髪はとても魅力的だ。これ以上無い程に。その綺麗な緑色の瞳も、活かせるアレンジを考えておくよ」

受け入れられた嬉しさから、思ったままを口にしたが、リアムは気付いていなかった。

今のセリフが充分口説き文句になる事に。

そしてアシュリーの頰が、赤く色付いている事にも気付かない程浮かれていた。

読んで頂いてありがとうごさいます。

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